こんにちは、ピッコです。
今回は33話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
33話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 好きなものと嫌いなもの
「怒らないでください・・・、ル、ルースが・・・、あ、安全だって言うじゃないですか」
「私は怒っているのではない。心配しているんだ」と話したリフタン、すぐに気が抜けたように長いため息をつく。
「分かった。あなたが本当に助けたいなら、あいつを助けなさい。しかし、やりすぎはだめだ。そしてルース、あなたは絶対に私の妻を危険な実験に引き入れることを考えるな」
「いったい私のことをどう思っているんですか?」
「どんな事故を起こすか分からない奴だと思っている」
リプタンは陰気にマックの腕を引っ張った。
こんなに大柄な男が怒って自分の体を引っ張っているのに、怖い気がしないというのが不思議だ。
前は彼がしかめっ面をしただけでもあんなに怖かったのに。
自分にどのような心境の変化が起きたのだろうか。
「とにかく、今日はこれくらいで十分だ。彼女は私が連れて行くから一人で熱心にしていろ」
リプタンは彼女をドアの方へ導きながら言った。
ルースは急いで席を立つ。
「武装もしないで、どこに行くつもりですか?」
「今日は休むよ。私も気分転換をする時があるべきじゃないか」
意外な言葉にマックは目を見開き、ルースも驚いた様子だ。
その反応で、リプタン・カリプスが休息を取ると宣言するのは非常に珍しいようだった。
「侵入者の処分問題はどうするのですか?」
「すでにリバドンに伝令を送った。賠償金が到着し次第釈放するよ。それまでは地下牢で死なないようにさせておく」
「リバドンから賠償金を送らないと言ったら?」
「その時は首を打って・・・」
何気なく凶暴な言葉を吐き出していたリプタンがマックの顔を見て言葉を濁す。
そうするうちに、「どうでもいい」という風にルースに向かって手を振った。
「その時になって解決する」
「分かりました。しばらくお疲れ様でしたので、今日はゆっくりお過ごしください」
「それはありがたいね」
皮肉を言うように吐き出したリプタンが彼女を率いて入口に向かって足を運んだ。
マックはルースに肩越しに目礼をした後、彼について図書館を出る。
廊下には明るい日差しが窓からまぶしく降り注いでいた。
リフタンは新しい窓ガラスから外を見て,目を輝かせながら彼女の方を振り返る。
「外に出るためには、服をしっかり着なければならない。天気は晴れているが、風はかなり冷たいからね」
「ど、どこへ行く、行くの?」
「あなた専用の馬ができたんじゃないか。もっと寒くなる前に一度乗ってみよう。乗馬するのにいい場所を教えてあげる」
マックはぼんやりと口を開いた。
彼が寝室の外でも自分と時間を過ごそうとしていることに驚くべきこともあり、嬉しくもあったのだ。
「つ、疲れていませんか?へ、部屋で休んで、休んだほうが・・・」
「私は年寄りじゃないよ、マキシ。ベッドに横になって休む年じゃない。敢えて寝室で時間を過ごさなければならないなら・・・」
彼はふと口を固く閉ざす。
真っ黒な瞳の上に揺れる熱気にマックは息を殺した。
その強烈な視線が意味することを難なく知ることができた。
彼女は顔を赤らめて彼の視線を避ける。
その姿を見たリプタンが軽く笑いを流した。
「とても誘惑的だが、今日は野原へ出るよ。あなたを連れて私の土地を歩きたい」
彼女は乗馬しやすい服に着替えた後、リプタンと一緒に馬小屋に向かう。
昨日から自分のものになった美しい白馬が、馬房の中でおとなしく水を飲んでいた。
彼女は馬小屋番の手伝いを借りて馬を外に誘導する。
その後を継いでリプタンの巨大な軍馬が姿を現した。
アナトールに帰還する途中、リプタンが乗ってきたその馬だった。
「こいつは、あなたも乗ったことあるだろう?タロンだよ。性質が汚いもの以外は完璧なやつだ」
リプタンは愛情のこもった手で馬の首筋を撫でながら言った。
マックは好奇心のこもった目で彼を見上げる。
「う、馬がお、お好きですか?」
「好きだよ。10歳の時から私の馬を持つのが夢だった。そして、私が持っていた馬の中でも、こいつが最高だよ」
彼がタロンの鼻筋に顔をこすると、突然鋭い嫉妬心が沸き起こる。
マックはそのような自分に戸惑い、振り向いた。
教団の教えによれば、嫉妬心は罪悪だ。
ところが今、彼女は他の女でもなく、ただの獣を妬んでいた。
「こいつ、名前はつけてくれたの?」
努めて感情を落ち着かせていると、彼が背後に近づいてきた。
彼女は急いで表情を整え、首を横に振る。
「ま、まだです」
「急いで。頻繁に名前を呼んでこそ、よく従うから」
「ど、どんな名前がい、いいですかね?」
「君の馬なのだから君が作ってくれないと」
彼はきっばりと言った。
マックは長い間悩んだ末、一つの単語を吐いた。
「じゃあ・・・、レ、レムって呼びます」
リプタンの口元に楽しそうな笑みが浮かぶ。
「私の妻は想像力が足りないね。白だからレム?」
「レ、レムという語感が・・・、き、気に入ったので」
彼女は彼が率いる騎士団の名前から取ったとはあえて言及しなかった。
しばらくして、騎手が馬の背中に鞍を置くと、彼女はリプタンの助けを借りてレムの背中に座る。
まだ乗馬に慣れていないので、体がこわばっていた。
彼女は緊張して手綱をしっかりと掴む。
一方、彼は馬と一体であるかのように自然だった。
「馬によく乗るんじゃないよね?」
彼は彼女の中腰をちらりと見ながらきっぱりと言った。
恥ずかしかったけど、マックは素直にうなずく。
「馬にの、乗ることが、あ、あまりありませんでした。わ、私はいつもク、クロイソ城でだけす、過ごしていましたから」
「私も知っている。なかなか有名な話だよ。クロイソ公爵家の長女は体も弱く、極度に繊細な性格をしているので、人前に姿を現すのを嫌がるという」
マックは彼の声の妙な気配に不安そうな顔をした。
「わ、私のことを、そ、そんなう、噂が広まっているなんて、知りませんでした」
「クロイソ公爵は西大陸でも10本の指に入る有力者だ。人々がその娘に興味を持つのは極めて自然なことだろう。しかもあなたは妹の方とは違って外部に全然姿を現さなかったじゃないか? 好奇心が膨らむのも当然のことだ。私が知っている記事の中には、あなたに対する好奇心に耐えられず、クロイソ城に密かに忍び込んだやつもいたと」
初めて聞く話だった。
マックは彼の視線を避ける。
その噂を間いてリプタンは自分についてどう思ったのだろうか。
宝石のように繊細な淑女を想像したのだろうか。
マックは自分が清楚な態度とは程遠いことをよく知っていた。
気弱で臆病な方ではあったが、だからといって普通の無邪気なお嬢さんたちのように愛らしい性格を持ったわけでもない。
彼女は劣等感を隠すためにわざと明るい口調で話した。
「そ、その方は、失望が並大抵ではなかったでしょうね」
「どうして?」
裏門の方に向かってゆっくり馬を走らせていたリプタンが彼女の方を振り返り、眉をひそめる。
マックは手綱をぎゅっと握ったまま、努めて平気な顔で答えた。
「く、苦労してか、確認したのに・・・、ふ、普通のお、女だったじゃないですか」
彼女は自分の外見が平凡なものより下だと思っていたが、あえて夫の前でそこまで自分の外見を卑下したくはなかった。
しかし、平凡だということさえ厚かましい言葉のようで、耳たぶが熱くなってしまう。
「私はそうは思わない。あなたは十分愛らしい」
リフタンは馬を運転する速度を落とし、彼女に近づいた。
マックはただの挨拶だと思って、ぎこちない笑みを浮かべる。
「そ、そう、言ってくれて、ありがとう」
すると、彼の方が気に入らないような印象を受けた。
「私はお世辞なんか言えない奴だ。もしあなたががっかりした外見をしていたら、私が寝室であんなに熱烈に反応したはずがないだろう。まさか昨日一晩ぐっすり眠らせておいて忘れてしまったの?」
マックは頭のてっぺんからつま先まで真っ赤になる。
何と答えたらいいのか分からず唇だけガタガタするが、彼が馬の上で体を長く伸ばして彼女のあごを握りしめ、心臓が震えるほど熱い視線を送ってきた。
「どうしても乗馬をしようと頼んだのが愚かなことだったようだね。今からでも寝室に行く?」
彼女はきしむように首を横に振る。
彼が笑うのか、しかめているのか見分けがつかない曖昧な表情をして、体をまっすぐにした。
「じゃあ、急ごう。このままだと城を出る前に夜が明けそう」
マックは心臓の鼓動を和らげ、辛うじて彼の後を追う。
彼らは門の裏側にある狭い林道を黙って歩いた。
世の中が深い眠りに落ちたように静かだった。
聞こえてくるのは、裸の木の枝が風に揺れる音、落ち葉がかさかさする音、遠い空から聞こえてくる鳥の嗚き声だけ。
マックは平和な沈黙の中でリプタンの姿をちらちらとのぞいた。
彼はまるで馬と一体であるかのように自然で優雅に動いている。
一方、自分はレムの背中から落ちないように中腰を曲げて手綱を命綱のように握りしめているのが全てだった。
彼女がついてきているか確認しようと首をかしげたリプタンがその姿を見て小さく笑う。
「私の妻がこんなにひどい騎手だとは知らなかったよ」
正面からのブーイングに頬が熱くなる。
「う、馬にの、乗ることがなかったと、い、言ったじゃないですか」
「肩から力を抜いてみて。君が緊張すると馬も一緒に緊張する」
マックは息を長く吐きながら肩から力を抜こうとした。
しかし、馬が足を運ぶたびに、しきりにお尻が浮き上がり、姿勢が乱れてしまう。
その姿を注意深く見守るリプタンが真剣な顔で助言した。
「上半身の力を抜いて、馬の動作に合わせて太ももで締めたり緩めたりしてバランスを取るんだ。私の膝の上に座った時のように・・・」
「リ、リプタン・・・!」
彼女は悲鳴に近い声で彼の言葉を遮る。
「そ、そんなあ、あの、下品なこと、い、言っちゃだめよ!」
「誰もいないのに何がダメなの?」
「で、でも・・・、ダ、ダメです!て、適切ではありません!」
真っ赤になった顔で叫ぶと、リプタンはくすくす笑い出した。
「まったく、何をそんなに恥ずかしがっているのか分からない。ベッドではあんなにも・・・」
「リ、リプタン・・・!」
マックは口をふさぐためにさっと腕を上げる。
そうするうちにバランスを崩して馬の上で転げ落ちそうにふらふらしながらもがいた。
リプタンは彼女の体を予想したかのように素早く支える。
「わかった、わかったから落ち着いて」
マックは悪童のような表情をしている彼に向かって、わざと鋭い視線を向けた。
リプタンはにっこり笑って彼女の額に唇を押し込んだ。
マックは再び馬の上で転げ落ちそうになった。
「馬の上にじっと座っている方法から学ばないとね」
「ほ、放っておいたら・・・、も、もっとうまく乗ることができます」
ぶっきらほうに吐き出す言葉に彼の笑顔がもっと濃くなる。
マックは威厳のある態度を維持しようとしたが、いたずらな魅力を発散している彼を相手に怒った顔を維持することはなかなか難しいことではなかった。
実際、リプタンがそのように笑う度に心臓がドキドキし、顔が熱くなって息もできないほとだったから。