こんにちは、ピッコです。
今回は88話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
88話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 冷戦②
そのように3日間、徹底的に無視されたリプタンの忍耐心がついに切れてしまった。
いつものように医務室に座っている騎士たちの掻かれた傷や痣を治療していると、リプタンが突然中に入ってきた。
面白いものを見逃さないように,ヘバロンと数人の騎士がこっそりついてきて。
マックは彼らの方へ目を向け、素早く頭を下げ、羊皮紙に忙しく何かを書くふりをした。
リプタンは机のそばに近づき、うつろな目で見下ろす。
「マキシ、話をしてくれ」
「・・・」
彼女は頭も上げずにペンを動かす。
彼の燃えるような視線が頭頂部を突くのが感じられた。
リプタンは一字一字かみしめて吐き出すように言った。
「マクシミリアン・カリプス、私の話が聞こえないの?」
「ニルタ卿」
彼女は壁に背を向けているヘバロンの方を向いた。
いきなり名前を呼ばれた騎士が戸惑った表情を浮かべる。
彼女は横から執拗に睨みつけるリプタンをバッと無視したままヘバロンに話した。
「私のそばに立っていらっしゃる方へ・・・私は特に言うことがないと・・・あの、伝えてもらえますか?」
冷ややかな静寂が流れる。
ぼんやりと目をばちばちさせていたヘバロンがちらりとリフタンを見て、彼女の言葉をそのまま真似した。
「団長、奥様は何も言うことがありません」
「私も聞いたよ」
リプタンがきりきりと歯ぎしりをする音が鳴るほど激しく机の上に片手を置いた。
「私は言いたいことがある」
「ニルタ卿」
ヘバロンは、なぜ私を引き付けるのかというように、困った視線を送った。
マックは知らんぷりをしてつっけんどんに話し続ける。
「私の横にいらっしゃる方へ・・・私は何も言いたくないと・・・伝えてもらえますか?」
「団長、奥様は何も・・・」
「私も耳に穴が開いている!」
リプタンは大声で叫び,頭を下げて彼女の顔にを向けた。
マックは頑固に首を回して彼を避ける。
リプタンは気が抜けていらいらして途方に暮れた。
「私がここにいないように振舞わないで、私の顔を見て話せ!」
「い、嫌です」
リプタンは彼女の冷たい返事に深く息を吸い込んだ。
彼の口調は下火になっていた。
「マキシ、この前は私が失言をしたよ。絶対にあなたを無視したり、卑下しようとしたのではない」
それでも彼女は頭を上げなかったので、彼は必死に訴え始めた。
「私はただあなたのことを心配していたんだ。あなたに負担をかけたくなかったんだって!一旦あなたがセラピストの役割を引き受け始めたら、人々は問題が発生するたびにあなたを探すだろう。いつかはこの前のように無理をしなければならない状況が来るかもしれない。私はあなたがそんなことに悩まされる道を望まない!」
「リプタンは・・・私が・・・そんなことをして、手に負えないと思うんですよね?」
彼女は机の上に視線を固定し、抑えきれない声で吐き出した。
「私はア、アグネス王女のようにはなれないと・・・考えてるんです。だから・・・そ、そんなに心配してるんじゃないですか」
「その名前はどうして何度も飛び出すの?アグネス王女はどうでもいいんだって!」
リプタンは頭をかきむしった。
「私の顔を見て、マキシ。お願いだ、私を見て話してよ」
彼の切なる哀願に耐えられずに気をもむと言いながら顔を上げる。
リプタンが彼女の目に水を溜めているのを見て低いうめき声を上げた。
「本当に、君の心を傷つけるつもりはなかったんだ」
彼は当惑して彼女の顔を抱きしめる。
「私はただあなたを楽にしてあげたかっただけなんだ」
「わ、私が・・・それを望まないと言っても?」
彼女は声がかすんでつぶやいた。
リプタンは不意を突かれたように言葉を失った。
マックは彼を見上げながら震える声で話し続ける。
「リプタン・・・私はリラックスしたくあ、ありません。私は・・・私ができることをしたいです。新しいことを学ぶことも・・・やりがいがあって・・・ま、魔法を使うのも不思議で楽しいです。リプタンがしきりに・・・な、何もするなって言った方が・・・私の心を痛めます」
リプタンは頭を殴られたようだった。
彼は唇をはたつかせ、力なくうなだれる。
彼の顔は落胆でどんよりと曇っていた。
「どういうことか分かった」
リプタンは弱々しく呟く。
「本当にセラピストになりたいのなら、そうしなさい。だからお願いだからそんな顔しないで。私を避けるな」
その不機嫌な姿にマックはわがままを言う子供になった気分だった。
ひどい言葉を聞いて心の傷んだのは自分なのに、なぜ彼が何日何日も気苦労した人のようにやつれて見えるのか。
無情な目をしていたマックは、彼が自分の返事を待っていることに気づき、ゆっくりとうなずく。
すると、リプタンの固い肩からするすると緊張が抜けた。
彼は彼女の頭を胸に引き寄せてぎゅっと抱きしめる。
その瞬間、黙って彼らの口論を見守っていた騎士たちが一斉に手を叩いた。
マックは後になって、人前で幼稚な口げんかをしたのが恥ずかしくて顔を赤くする。
リプタンは興味深い視線を送る騎士に殺伐とうなり声を上げた。
「見物を終えたなら、すぐに消えろ」
「ええ・・・、いい見物はこれからだと思うけど?」
ヘバロンがぐずぐずするとすぐそばに立っていた騎士がひじで彼のわき腹をぶすっと剌した。
リプタンの目つきがどれほど冷たかったのか、ニヤニヤしていた騎士たちの顔から一瞬にして表情が消える。
「そういえば、工事現場に出た団員たちと交代する時間だね・・・」
「ははは、もうそんな時間になりましたか?そろそろ出ましょうよ、ニルタ卿」
騎士たちが立ちはだかったヘバロンを押しのけながらどっと外へ出ていく。
マックは部下たちが見る前で夫の体面を傷つけたのではないかとこっそりと彼の顔色をうかがう。
リプタンは無表情な顔で遠くなる騎士たちの後ろ姿を見て、彼女の顔を包み込み、頭を下げた。
温かい唇が柔らかに触れてから離れる。
すず毛のようなキスにマックは鼻筋まで赤くなった。
「キ、キスしないでください。私・・・まだ怒りが収まってません」
「あなたは、男をやきもきさせることができるんだね」
彼は苦笑いを浮かべながら彼女の髪を片手に巻きつける。
低いため息が頭の上にさらさらとこぼれた。
「でも、もう本当にやめて。3日間、私を十分に苦しめたのだから」
彼女はかすかな目で彼を見上げた。
たった3日間、自分が目を向けなかったとしても、すごい拷問でも受けたように振る舞うのが滑稽でもあり、内心では自惚れることもあった。
マックは何気なくすましてみた。
「虐めようとしたのではありません。私は・・・腹が立ったんですよ」
「本当に恐ろしいね」
いたずらっぽく吐き出していたリプタンの目つきが急に真剣になった。
「マキシ、ここでセラピストとして働いてもいいと言ったが、できるだけ早く別のセラピストをもう1人見つける」
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彼女は失望で顔を曇らせた。
「私が・・・頼りなくて、そうするのですか?」
「君に才能があるということは私も知っている」
リフタンはその事実があまり好ましくないかのように片目をしかめた。
「みんな口をそろえてあなたがうまくやっていると褒めていたよ。私の目にもそう見える。しかし、あなたは魔法を学んでから数ヶ月しか経っていない。新米の魔法使い一人では数百人余りの兵士たちに耐えられない。君には手伝ってくれる人が必要だ」
「・・・してみないとわからないじゃないですか」
彼女がむっつりした顔で反論すると、リプタンの顔が固くなる。
「意地を張るな。あなたが一日中セラピストの仕事ばかりしているわけにもいかないじゃないか」
マックは不満そうな目で彼を見た。
しかし、リプタンの言葉通り、前回のような大きな事故が起きれば、彼女一人では到底耐えられないだろう。
そこに治療術師がもう一人できることに反対する理由もなかった。
マックはしぶしぶうなずく。
リプタンはなだめるように彼女の頬をなでた。
「助っ人が一人できると思う。一度にたくさんの荷物を背負おうとするな」
マックは諦めのため息をついた。
普段の彼の大げさな態度を考えると、実はこれくらいでもたくさん譲歩したのだ。
リプタンは、私の肩に荷物を運ぶどころか、ほこり一つ舞い降りることも、じっと見ていられない人ではないか。
彼女はまず正式に許可を得たことに満足することにした。
彼は彼女の気分が良くないのではないかとしばらく見て、今日は絶対に先に寝るなという要請を残して医務室を離れていく。
こうしてマックはカリプス城のセラピストとして正式に認められた。
リプタンの顔色を見ながらオドオドしていた騎士たちも、許可が下りたという便りに列をなして訪ねてくる。
彼らは訓練中にできた青痣やひび割れた足の裏、破れた手のひらの治療を受けるために、敷居がすり減るまで医務室を訪れ始め、時々技術工や使用人が訪ねてくることもあった。
マックは医務室に魔法書を積んで勉強しながら、時々病人の世話をした。
彼女が一日に見てくれた負傷者の数が徐々に2、3倍に増え、薬は用意しておくと、次々と品切れになっていく。
ますますやるべきことが増えると、後には彼女の方で早く助けてくれる人を探してほしいと懇願したくなるほどだった。
しかし、思ったほど治療術師を雇うのは容易ではなかった。
魔導具の材料を求めてアナトールに入ってきた魔法使いたちは皆リバドンに去ってしまって久しいし、傭兵に所属する少数の自由魔法使いたちも他の領地に雇用されたり、依頼を受けて西北部に移動してしまったのだ。
真剣な夫婦喧嘩のはずなのですが、マックがへバロンをメッセンジャーとして利用したのが面白かったです。
アナトールに新しい魔法使いは現れるのでしょうか?