こんにちは、ピッコです。
今回は9話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
9話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 幻想の少女②
「私の近くに立ってください。できるだけ魔力を節約するためには、防御壁をできるだけ小さくしなければなりませんから」
リプタンが後ろにつくと、ルースは洞窟の壁に向かって手を伸ばした。
すると青みがかった光が彼らを取り囲み、岩の山がゆっくりと溶け始めていく。
ルースは意気揚々とした表情で彼に向かって少しずつ道を作った。
リプタンは慎重にそれに従う。
洞窟全体が崩れ落ちたのか、移動速度は思ったより遅かった。
「前を走っていた人たちは無事なのか分かりませんね」
ふと、ルースが沈んだ声で呟く。
リプタンは何の返事もしなかった。
出口への道のほとんどが塞がっていることから、土の山に覆われた可能性が高いという言葉で、わけもなく元気を出したくなかった。
二人は重い沈黙の中、少しずつ洞窟を抜け出していく。
しかし、すぐに疲れ果てたのか、ルースが地面の上に座り込んだ。
「ダメです。大変なのでこれ以上はできません。少し休まなければなりません」
リプタンはうなずいた。
おそらく今頃は日が完全に暮れただろう。
一日中山を漁るだけでは足りず、遭難までしたので、疲れるのも無理はなかった。
リプタンは肩に担いでいたかばんを外し,ジャーキーを彼に渡す。
「さあ、食べて力を蓄えておけ」
「ありがとうございます。食料カバンを、さっきゴブリンたちに奪われてしまったんですよ」
魔法使いが手探りで手を伸ばしてジャーキーを受け取る。
彼らは狭い洞窟の中で向かい合って座り、ジャーキーと水を何口か飲んだ。
ちょうどモグラになった気分だった。
リプタンは壁に頭をもたげて、できるだけ楽な姿勢を取ろうと寝返りを打つ。
すると、黙っていたルースが突然口を開いた。-
「ちょっと目だけでも閉じておいてください。ここ数日間まともに休んだこともないじゃないですか。サモンさんから聞いたのですが、10日以上歩哨に立ったそうですね?」
「途中で目が覚めてしまう」
「一日三時間は寝ましたか?」
「・・・」
リプタンは沈黙で返事をすると、ルースはため息をついた。
「ここでは敵に攻撃される危険もないじゃないですか。少しでも寝ておいてください。何かあったら起こしますから」
「私に構わずに、あなたでも寝ておいて」
「カリプスさんはまだ16歳じゃないですか。たまには大人をちょっと頼ってみてください」
リプタンは聞いた言葉が信じられず、ぼんやりと目を瞬かせる。
今このドジが自分を子供扱いしたのか?
「誰が大人だというの?」
「私の先祖の中にエルフがいるとお話したじゃですか。見た目は可憐で清純な美少年のように見えますが、実は私がちょっと年上です」
リプタンは眉をひそめた。
「80歳になるの?」
「どうしてそんな失礼なことを!」
魔法使いが席から飛び上がり、天井に頭をぶつける。
リプタンは舌打ちをした。
ルースは弱音を出しながらも熱弁をふるう。
「カリプスさんに比べれば、私の年はちょっと上ですが、だからといって老けたわけではありません!私は若いです!青々としていますよ!」
あんなにまで熱を上げると、かえって疑わしかった。
しかし、魔法使いが何歳でもあまり関心がなかったので、彼はこれ以上深く掘り下げることはない。
「うるさくしないで寝なさい。体力を回復した後にはまた地面を掘って行かなければならないじゃないか」
「休めと言う時は、ちょっと休んではいけませんか?」
ルースは息苦しそうにため息をついた。
「本当に体が鋼鉄でできたわけでもないじゃないですか。たまには人の話にも耳を傾けるんですよ」
リプタンは眉をひそめる。
何の関係があるのかと反論しようとしたが、限界まで積み上げた疲労が重く全身を押さえつけてきた。
彼は真っ暗な洞窟の天井を見上げ、静かにつぶやいた。
「魔力はどのくらい残っているの?」
「まだ十分です。肉体的に疲れただけです。何があっても私の魔法で解決しますので、心配しないで寝てください。」
口から自然と空気が抜けるような音がする。
このように信用がいかない言葉は初めてだった。
しかし、どうせこいつが救った命ではないか。
ここで終わるというので、残念なことはないだろうという気がする。
疲れたように肩を垂らしていたリプタンは静かに口を開いた。
「・・・前に私にかけてくれた魔法のことだが」
魔法使いが目に見えてびくびくする。
「禁止魔法ですか?」
「いや、それじゃなくて・・・。あの時、私にかけてくれた幻覚魔法」
リプタンは手袋を脱いで口元をこすりつけ、もじもじと後口をつないだ。
「それ、もう一度かけることはできる?」
ぎごちない沈黙が舞い降りた。
まるで恥部をさらけ出したかのように耳たぶが赤くなる。
リプタンはわけもなく床を蹴ってぶっきらぼうに吐き出した。
「いいよ、忘れろ」
「そんなことないですよ!いくらでもおかけします。そんなに難しい魔法でもありませんから」
魔法使いは慌てて叫んだ。
ふと彼の声にかすかな笑みが浮かんだ。
「確かに、このような洞窟ではくつろぐのは難しいですね。こちらに横になってください。すばらしい幻想をお見せします」
子供をなだめるような言葉遣いに瞬間的にイライラしたが、それよりは休息を取りたい欲求がさらに大きかった。
リプタンは静かに床の上に身を横たえる。
小さな砂利が背中の筋肉をむやみに刺し、息を吸う度に洞窟特有の匂いが首をくすぐった。
しかし、疲れすぎて不便を感じる余力もない。
彼はかばんを枕にして横になってローブに身を置いてしまった。
ルースは彼の横にかがんで片手を目の周りに寄せた。
「一番楽しかった時の風景を頭の中に描いてみてください」
しばらくして、魔法使いの青白い指先に白い火光が幼かったが、洞窟の中の風景が次第に薄れていく。
リプタンは花の香りが漂う柔らかいそよ風が髪の毛を揺らして通り過ぎるのを感じた。
まもなく、のどかな夏の日の風景が目の前に広がる。
エメラルドのようにきらめく木の葉とその間に降り注ぐ細い光の流れ、その下を歩いていると、花が満開した庭園が目の前に広がる。
妙な安堵感と懐かしさのようなものが骨の髄まで広がっていくのを感じながら、リプタンは木陰に座った小さな少女を眺めた。
彼女は黒い犬をしっかりと抱き締め、ふわふわとした毛に全身をうずめている。
その切ない光景に胸の片隅が締まった。
一時は彼もそういう風に誰かに抱かれたかった。
温かく柔らかい腕に、包まれることをどれほど切望していただろうか。
(・・・幻想であるだけだよ)
リプタンは心の中でつぶやいた。
ただ魔法で作り出した虚像に過ぎない。
しかし、その愛らしい光景は彼の心をとらえて離さなかった。
彼女を見つめている間は、すべての苦しみを忘れることができたから。
それは今も同じ。
しかし、その平和な一時はあっという間に霧のように散ってしまい、彼は再び冷たい現実に戻った。
光一本もない寒くて真っ暗な洞窟の中で、リプタンは虚しいため息をつく。
「もう起きたんですか?」
彼のそばにしゃがんででうとうとしていた魔法使いが、長いあくびをしながら尋ねた。
リプタンは黙々と体を起こす。
結局、幻想は幻想に過ぎない。
一瞬の慰めにならないのだ。
彼は寂しい気持ちを振り払い、魔法使いを督促して洞窟を出る。
ついに外に出ることに成功すると、朝の黎明が激しく目を刺した。
リプタンは疲れたようにぐったりした魔法使いを助け、山を下りていく。
討伐隊に合流して昨夜にあった事故を報告すると、直ちに洞窟の中に閉じ込められた人々を救助するための捜索隊が構成された。
彼らは半日かけて土の山を掘り起こした。
奇跡的に8人が生存しており、残りは遺体で発見される。
このようなことをしていると、一度や二度ではない事故だったので、大きな衝撃はなかった。
リプタンは兵舎が遺体を収容している間に負傷者を兵舎に運ぶ。
そうして、やっとまともな休息を取ることができた。
その後も魔物討伐は約2週間続く。
ついに契約が終わると、黒い角の傭兵団はすぐ北に向かう。
傭兵団は紛争と魔物を追いかけ、絶えず各国を歩き回っている。
リバドンから仕事がなくなると、彼らは躊躇わずに抜土に移り、そこで本格的に活動を始めた。
リプタンにとっては不満なことだった。
バルトはリバドンやウェデンより旧教の影響力が強い国。
北方の人々の間には異邦民族に対する嫌悪感が根強く残っていたため、リプタンが受けることができる個人依頼とは、皆が忌避する険しいことばかりだ。
たまに商団や貴族を護衛する仕事を引き受けもしたが、野蛮人を眺めるような目つきや侮蔑感が幼い態度に飽きて、後には自ら避けるようになった。
それさえも、これまでドラゴン亜種の魔物ハンターとして名を馳せてきたため、魔物討伐の依頼は絶えなかったが。
一様に死を覚悟しなければならないほど危険千万なことだったが、価格帯さえ合えばリフタンはためらわずに受け入れた。
おかげで黄金と名声を山のように築くことができた。
しかし、明日すぐ死んでもおかしくない一日一日を過ごす間に、それくらいのことが一体何の意味があるのかという気がした。
傭兵たちの大半が、彼が生きて帰ってこないことを密かに期待していたし、さらにはあれほど親しいふりをしていたサモンさえも、これまで集めておいた黄金をどこに隠しておいたのかと露骨に探ってきたりもする。
リプタンは目も当てず無視を貫いたが、心の中ではだんだん疲れていった。
蔑視に満ちた視線と一瞬も安心できない厳しい環境に精神的に限界に追い込まれていく。
疲れ果てたリプタンは時々ルースを訪ねて幻覚魔法を頼んだ。
魔法から目覚める時には間違いなく空虚感が押し寄せてきたが、少なくとも幻想に陥っている時だけは緊張を解くことができたから。
そして彼の記憶の中で、彼女はますます愛らしく切ない存在として美化されていった。
雲のように柔らかく曲がりくねった髪の毛、白くて小さな顔、冬の日の湖のようにキラキラしていた透明な瞳。
彼女を思い出す時には小さくて可愛いい動物を眺めている時のように心が暖かくなり、索漠とした日常をしばらくでも忘れることができた。
時には彼女がどうしているのか我慢できないほど気になることも。
背はどれくらい伸びたのだろうか。
また、一人で森の中を歩き回って怪我をするのではないか。
今も寂しそうな顔で庭を歩いているのだろうか。
そんな思いをすると、自分がおかしくてたまらなかった。
自分が誰を心配するというのか。
他の誰かが彼の内心を覗き込んだら、腹を抱えて笑うだろう。
しかし、馬鹿だと思いながらも、彼女のことを考えるのをどうしても止めることができなかった。
「幻覚に依存しすぎるのはよくありません」
最初は快く魔法をかけてくれたルースも、次第に頼む回数が多くなると、慎重に忠告してきた。
「もともとこの魔法は敵を混乱させるために考案された魔法です。こんなに頻繁に使用していいことはありません」
「・・・代価が必要なものならいくらでも払う」
リプタンはぶっきらぼうに吐き出した。
すると魔法使いは気分を害したようにしかめっ面をする。
「今、お金の話をしているのではないでしょう。私は今、心からカリプスさんのことを心配しているのです」
「余計な心配はやめろ!1、2時間くらい幻覚を見たからといって問題になることは何があるんだ?」
「幻覚が美しい分、現実が嫌になるじゃないですか!」
「・・・」
リプタンは口を固く閉ざした。
実際、彼は現実がますます嫌になり、いつまでも幻想から目覚めたくない衝動を感じている。
ルースはその本音を見抜くように小さなため息をついた。
「私があまりにも軽率に魔法をかけてあげたようです。カリプスさんのように意志力の強い人は、幻想なんかにこだわらないと思っていました」
「ちっ、現実がもっと嫌になったからといって、何がどうだというんだ。どうせここからもっと乞食のようにもなれないんだから!」
「幻想と比較されるから、なおさらそう感じるのです」
魔法使いはきっばりとあごを上げた。
「とにかく、これからは魔法をかけません。幻覚のようなものにしがみつくのではなく、現実に慰めを求めてください。カリプスさんは社交性を養う必要があります」
それから彼の面前で部屋の戸を閉め切る。
リプタンは扉を乱暴に蹴った。
木目が割れてへこんだが、部屋の中では鼻で笑う声だけが聞こえてくる。
結局、リプタンはとぼとぼと部屋に戻り、冷たいベッドの上に身を横たえた。
しかし、頭の中に浮かぶのは幻覚の中で見た風景だけ。
彼は顔を荒々しくこすった。
魔法使いの言う通り、頼り過ぎになったのかもしれない。
あんな幼い日の思い出なんかに恋々とする自分に幻滅感があった。
しかし、その他の何で疲れた心を癒さなけれはならないのか全く分からない。
窓からかすかに光る三日月を見上げたリプタンは力なく目を閉じた。
異邦民族は想像以上に迫害されているようですね。
リフタンの心の安らぎはマックだけ・・・。
ここからどう立ち直っていくのでしょうか?