メイドとして生き残ります【９０話】ネタバレ

「それではカペラ伯爵様は、私がその万年筆を持っているのを見て、私がカジック伯爵様を慕っているとお思いになったのですか？」

もしそうだとしたら、クラインの想像力は驚きに値する。

しかし、彼の表情は真剣だった。

どうやらセサール・カジックはアスがクライン・カペラに片想いしていると思い、クラインはアスがセサール・カジックを好きだと考えているようだ。

勝手にアス・トケインが好きな人を確信されている。

クラインとセサールは、お互いを猛烈に嫌っていて、お互いを世の中で最も致命的な魅力の持ち主だと考えているみたい。

「恋に落ちた人の目を勘違いしていません。鏡の中で毎日見ていましたから」

「伯爵様は、関心法を身につけたみたいですね」

「彼に関心があるのですか？」

「カジック伯爵様に関心がないから胸がときめかないのですよ」

クラインが知っているように、私も愛を知っている。

セサール・カジックを初めて見た時、緊張で胸が震えたけど、ただ、笑みが溢れるような動悸はなかった。

実際、この世界の誰を見てもそうだ。

私には皆初めて出会った人なので、いつ私の正体がバレるのではないかという心配を除けば穏やかだった。

だから、アス・トケインが彼に何らかの感情があったとすれば、おそらく拾って育ててくれた恩に対するものではないだろうか？

「しかし、以前のあなたは＿＿＿」

「まあ・・・、たとえそうだったとしても、今はないことに違いないですから」

アス・トケインは彼が好きだったかもしれないが、私は絶対にそうではない。

セサール・カジック？

私が頭に被弾したり、サディスティックな愛に対する特別な愛好が生まれなければ、あんな風にゴルフのフルスイングをするように私の頭を殴りつけた人を好きになるはずがない。

シエルはどうしようもなかったし、後になってから心から謝られたのでやり過ごすことができた。

しかし、セサール・カジックは違う。

彼が私をあんな風に殴ったのは事故でも病気でもない。

彼が下位階級を嫌悪するからだ。

まともな精神の時のシエルは私の首を締め付けない。

しかし、セサール・カジックは、何がなくても私を殴ることができる人だ。

そして決定的に彼は既婚者だ。

「とにかく誤解です。それとカペラ伯爵様が私に事実を言わなかったことの関係は分からないです。誤解されていたことですが、私が以前カジック伯爵様が好きだったことを隠す理由があるのですか？」

おそらくクラインがセサール・カジックを嫌っていたからだと思うが。

アス・トケインがセサール・カジックのスパイであることをクラインが知っていたら、問題が複雑になる。

どうして魔法陣を見つけなければならないのかも知っているのかな？

クラインは両手で顔を覆い、これ見よがしに大きくため息をつく。

まるで小動物が家の中に適応して近づこうとしているかのようだ。

待たなければならない。

忍耐は甘く、結果は温かく、柔らかい。

それで、私はクラインの両手を掴みたい衝動をなんとか抑えつけた。

「私があなたを愛しているからです」

その言葉が、しばらくぶりに出たクラインの返事。

クラインの言葉が、私の心の奥深くにかなり深く入ってきた。

ここに今日何か他の言葉を打たれたら回復不能になりそうだ。

「アス、私が感じている事が何なのか私にもはっきり分からないのです。しかし、私はあなたが彼と一緒にいることを想像すると耐えられそうにないと思います」

「ただ、カジック伯爵様が嫌いなだけなのでは？」

「あなたがその者ではなく、別の人と一緒でも耐えられそうにありません」

「しかし伯爵様。時期が来れば伯爵様も結婚するでしょうし、私もそうでしょう」

果たしてそうだろうか？

この世界に定着して根付く自分の姿が容易に想像がつかない。

私がこの世界に根付くことができるだろうか？

世界は私をずっと拒絶しているようにも思える。

クラインは突然私の前で片膝をつき、手を差し出した。

思わずびっくりして、一歩後ろに下がってしまう。

「それでは、私と結婚してくださいませんか。アス？」

今、私のロマンが一つ壊された。

綺麗なカフェを借りて、床には薔薇の花びらが敷かれているようなプロポーズをして欲しかった訳ではない。

しかし、それでもこれほど誠意もなく、愛情もないプロポーズをされることを望んだわけでもなかった。

本当に酷い。

私が何かたくさん望んでいたわけではないのに。

ただ、素朴に私を本当に愛する人の、誠意のあるプロポーズを願っただけだ。

私が今、クラインをハイヒールで蹴っても無罪だろう。

殺しても仕方がないはず。