伯爵家の暴れん坊になった【８４話】ネタバレ

会話の始まりは、当然、最も好奇⼼旺盛な⼈から始まる。

オデウスが最初に会話を始めた。

「お⼆⼈がお互いを知っているとは知りませんでした」

「興味がありますか？」

「いいえ」

その答えが明⽩な答えであるかのように、ケイルもその言葉を受け入れる。

オデウスのような人物は、個⼈的に調査するだろう。

「オデウスさん、ベニオンはいつこの場所を訪れますか？」

オデウスは過去５年間裏社会で活動していたが、裏社会全体を⽀配するのに障害となる⼈物がいることに気づいていた。

しかし、彼はそれが誰であるかを把握することまでは出来ずにいた。

ケイルの口からベニオンという言葉が出るまでは。

ステン家の領⼟の裏社会は「裏通り」と呼ばれている。

ギャンブル、アルコール、売春、違法な品物の闇市場、奴隷制、暴⼒。

これらの汚いことはすべて、路地裏で毎⽇起きていた。

オデウスだけが奴隷や暴⼒を使わない。

彼は常に、クライアントと彼自身の両⽅がどんな取引でもお互いに保護されることができるように条件を設定していたのだ。

それが、ケイルが彼と協力関係を結ぶ理由でもある。

さらに、テイラー・ステンも、おそらくはオデウスと同じ考えを持っているだろう。

まあ、少し違うかもしれないが。

ケージが口を開く。

「テイラー公子は、ステン家の領⼟と北⻄部のすべての側⾯を知りたいと思っています」

彼女はオデウスと目を合わせる。

テイラーとケージは、ケイルからの情報を聞くとすぐに、自分たちをオデウスと繋ぐように頼んだのだ。

「この地域を⽀配する貴族であり家族の⼀員であるテイラー・ステン公子は、裏社会を憎んでいます」

「同意します。私も裏社会は嫌いですね」

ケイルが⼤声で嫌っていると話すと、オデウスはうなずいた。

「ええ、平民を⼤切にする貴族はそのように感じるべきです。ヘニトゥス家の領⼟には裏社会がありませんよね？」

彼の言葉は正しかった。

ヘニトゥス家の領⼟には反逆者やギャングはいたが、裏社会や闇市場は存在しない。

デルース伯爵は⾮常に平凡的に見えたが、彼は⾼貴な⽣き⽅を信条としてしている。

彼には責任感があり、そのようなことが起こることを決して許さないほどの⼗分なお⾦があったから。

「では、テイラー公子は裏社会を取り除きたいのでしょうか？」

「はい」

オデウスはケージの短い反応に微笑む。

「テイラー公子は真の貴族のようですね」

ケイルは、彼らの会話に明確な結末を置く。

「お二人は後で戦うことができます。まずは、共通の敵を取り除く必要があります」

オデウスとケージは両方とも、その言葉に混乱した。

ケイル・ヘニトゥスがベニオンを憎む理由は？

「すみませんが、ベニオンに何をするつもりですか？」

オデウスの質問に、ケイルは簡単に答える。

「彼を殺したいと思っています」

「無理よ！」

ケージはショックを受けた表情を浮かべる。

「殺しはしませんが、死よりも残酷なことがあると知りませんか？」

ケイルの質問に、ケージは何も答えることが出来ない。

死ぬよりも残酷なこと？

彼女は悪寒を感じた。

「ハハハ」

オデウスは笑顔を浮かべて、頭をうなずく。

「もちろん、死よりも残酷なことはたくさんあります。私はケイル公子のお世話をさせていただきましょう」

オデウスは喜んで、ベニオンを始末するためにケイルに仕えることを選んだ。

それは、ケイルがオデウスに対して、ベニオンに個⼈的に何もする必要はないと⾔っていたから。

（まあ、処理するのはドラゴンなのだが）

ケイルがしなければならなかったのは、状況を設定することだけ。

すべての⾯倒を⾒るのはラオンだった。

「やれやれ、久しぶりに忙しくなりそうだ」

そう話すオデウスの表情は明るい。

彼はソファから立ち上がりドアに向かった。

そして、彼は後ろからケイルの声を聞く。

「オデウスさん、家を⾒つけてください」

「家ですか？」

「はい。私に仕えるための良い仕事をしてください。私は贅沢なものだけが好きですので」

「私は６０年間、このような要求を受けたことはありませんが、それを私の名誉と考えましょう」

「あなたは⼗分な報酬を得るはずです。私はあなたのために、あなたの障害を取り除くのだから」

「それで⼗分です」

オデウスはドアを開けた。

チェハンは彼に優しく微笑む。

オデウスは、チェハンがドアを守っていた理由を理解した。

このような議論には、誰かが監視する必要があったのだ。

「またね、チェハン」

「もちろんです、商人さん」

オデウスが去った後、チェハンは再びドアを閉めた。

部屋の中はケイルとケージだけ。

「ケージ」

「はい、公子様」

「なぜ私はベニオンを殺せないのですか？」

ケージは、質問を予期しているかのようにすぐに答えた。

「テイラーが２⽇以内にベニオンに宣戦布告するからです」

「・・・彼は誰も殺すつもりはないんだな？」

「ステン家の⽣き⽅に反しているように⾒えますが、後継者は他の兄弟がその地位を奪おうとできないようにするだけでいいので、完全に反対しているわけではありません」

「死の誓いを使うのですね」

「・・・その通りです。ケイル公子様、あなたには何も説明する必要はなさそうですね」

「死の神はあなたを追いやっていないのですね、ケージ夫人」

死の神の神殿は彼⼥を破⾨したが、死の神はそうしなかったのだろう。

ケージは微笑んだ。

「そうですね・・・、彼が私を煩わせるのを止めてくれたら本当に嬉しいのですが」

オデウスが去ると会話は軽くなり、ケージは⾔いたいことを⾔った。

他の巫⼥たちが彼⼥の⾔葉を聞いていたら、ショックで気絶するかもしれない。

「私たちは、いつも欲しいものを⼿に⼊れることができるとは限りませんよね？」

ケイルは、ケージの質問に返答しなかった。

「それでは、次回も話しましょう。今⽇は疲れました」

彼は議論の終わりを発表する。

テイラーの宣戦布告を待つ必要はない。

ケイルは屋根の上に⽴って周りを⾒回す。

「天気は完璧だな」

霧が出て暑い⽇だったので、とても湿度が⾼かい。

「時間も完璧だ」

太陽が昇る前の早朝。

「周りにも⼈はあまりいない」

霧が多く、湿度が⾼く、朝も早かったので、外出を妨げるのに最適な条件だ。

再び地⾯を⾒下ろす。

「ベニオンが今⽇このルートを使⽤する可能性は７０％以上だったはず」

ケイルはオデウスの報告を思い出し、横を向いた。

ラオンが静かにそこに座って⾒下ろしている。

そんな彼の頭を撫でてあげた。

「⼈間、そんなことをするな！」

⾔葉に反して、ラオンは座ったまま、ケイルが自分を撫でることを許していた。

「弱い⼈間、今⽇は何もするなよ」

「⼤丈夫、⼤丈夫。私はただ⾒ているだけだ」

「⾒るときは注目してください！」

「ええ」

ラオンが空中に浮かぶと、⿊い翼が動き始める。

「オン、任せたぞ」

「これは私にとって最⾼の環境です！」

彼⼥は霧の中に姿を消した。

ホンはケイルに⽬を向ける。

「毒の時間？」

「はい」

ホンは下に浮かんでいるラオンに近づく。

彼はラオンの体を軽くたたいた後、微笑んで霧の中に消えた。

チェハンも、静かにもう⼀⽅の屋上に移動した。

「ラオン」

「何だ？」

「やりたいことは何でもしてください」

ラオンは微笑んだ。

「分かりきった事を言わないでください」

そして、ラオンは霧の中に姿を消す。

７０％の確率は正しかった。

ローブの下に⾝を隠している３⼈が路地に⼊る。

その中の一人はベニオン。

昨⽇、彼の兄は、馬鹿げた話を持ちかけてきた。

『私は兄弟を殺しません。私は彼らを⽀配することだけを計画している』

テイラーの⾔葉は⼤きな反響を呼び、家族内はかなり混沌としている。

そのおかげで、ベニオンは早朝にこの場所に来ることができた。

テイラーは今、あまりにも多くの⼒を得ている。

彼を抑圧する必要があった。

通常、彼は⾃分で行動する必要などなかったのだが、最も影響⼒のある闇市場の商⼈が最近邪魔をし続け、⾏動を起こすのを難しくしていた。

「少なくとも天気は私を助けているな」

ベニオンは霧が濃くなってきたことを喜んでいた。

この裏通りには、役に⽴たない人間や野良動物がたくさんいる。

猫の鳴き声が聞こえて、ベニオンはすべての原因となった存在を思い出した。

「奴を殺すべきだった」

眉をひそめる。

あの忌々しいブラックドラゴンを殺すべきだった。

そうしていたら、こんな事は起きなかっただろう。

飼い慣らそうとした結果、自分は没落への道を辿ることになったのだから。

その瞬間、彼はもう⼀度猫の鳴き声を聞く。

「煩わしいな」

それは、ベニオンが欲求不満で呟いた瞬間だった。

何かが地⾯に倒れる音を聞く。

「こ、公子様・・・」

ベニオンはすぐに向きを変えた。

「何！？」

使用人の⼀⼈が⾸を抱えて地⾯に倒れている。

「い、息が出来ない！」

使用人に顔は真っ青だった。

この突然の出来事の変化により、ベニオンは眉をひそめ、混乱し始める。

猫の鳴き声がゆっくりと近づいている。

「上だ！」

頭を上げて何かを見る。

「え？」

⽩い霧とは異なり、頭上の霧は⿊と⾚に染められていた。

無意識のうちに⼀歩後退する。

その瞬間だった。

何かがベニオンの背中に触れる。

⼀瞬⽴ち⽌まり、剣の柄を掴んで素早く振り返った。

しかし、彼が⾒ることができたのは霧だけ。

「な、何が？」

反射神経に逃げようとした瞬間。

「こんにちは？」

誰かの声が聞こえる。

振り返るが何も見えない。

いいえ。

ベニオンの前に⿊い⼈物がゆっくりと現れた。

そして、その⿊い存在は完全に彼⾃⾝を明らかにする。

ベニオンに対して激しい憎しみを⽰した両目。

「またお会いしましたね？」

ブラックドラゴンが彼の前に現れた。

ラオンは笑顔を浮かべている。