伯爵家の暴れん坊になった【８８話】ネタバレ

寝室から出て裏⼝に向かっていたケイルは、オデウスに出くわした。

「オデウスさん、⾮常に満⾜のいく内容でした」

「いいえ、私にとっても喜ばしいことでしたから。今回の報酬にはとても満足しています」

「また連絡させていただきますね」

オデウスは⼆度とケイルに会いたくないと考えていた。

⻑い⼈⽣を通して築き上げてきた本能が、ケイルが危険だと訴えていたのだ。

しかし、彼の豊富な経験は、それが避けられないことも伝えていた。

「もちろんです。私がどこにいるのかを頻繁にお知らせしますね」

「ありがとう」

ケイルはビクロスの運転する場所に乗り込む。

「オデウスさん」

「はい？」

「あなたは地下室をどう処理すれば分かっていますよね？」

その言葉を受けて、オデウスの目が僅かに揺れる。

「・・・私はすべてを処理させていただきます」

「ありがとう」

オデウスは、事前に地下室でご馳走の残骸と壊れた拷問装置を目撃していた。

（ケイル公子が良い人というのは全くのデタラメだ・・・）

⾃⼰犠牲の強い貴族などいるはずがないのだ。

貴族は悪意を持ち、ずる賢い⼈が生き延びるのだから。

「そして、何が起こったのかをビロスには話さないでください」

「もちろんです」

⼆⼈は優しく微笑むが、内心ではどちらも微笑んではいない。

「それでは、私は出発しますね」

「安全な旅を祈っております」

オデウスの別れの言葉は、彼が⼆度とケイルに会いたくなかったように聞こえた。

⾺⾞はステン家の領⼟を去り、王国の⻄部地域に向かっている。

夜の間休む以外は旅⾏を続けていた。

⾺⾞は現在、ローン王国の北⻄部と南⻄部の間を走っている。

ヘニトゥス家の領⼟がある北東地域が⼤理⽯で有名だったとしたら、北⻄から⻄の地域は花崗岩で有名だった。

黙っていたチェハンが口を開く。

「前回もここに来ましたが、⽯⼭以外は何もありませんね」

「前にここを通り抜けたのか？」

疑問を投げかけたケイルだが、彼はすぐに理解した。

ロザリンを助けるためにブレック王国に⾏ったときに、チェハンはここを通り抜けたということに。

「ブレック王国に⾏ったときに通りかかったのですか？」

自分の質問にチェハンが答えるのを躊躇っているのを⾒て、ケイルは苦い気持ちになる。

「あなたはブレック王国で混乱を引き起こしたのですか？」

「・・・そうではありません」

それ以上は何も尋ねない。

知りたくもなかったから。

アルベルから報告を聞いただけで十分だった。

「⻄を通過したとき、テンフィンガー山脈を通り抜けたか？」

ラオンが興味津々な表情を浮かべる。

「⼈間、説明してください！気になります！」

「⻄部には花崗岩と呼ばれる固い岩がたくさんあります。⻄部と南⻄部の境界には、１０個の花崗岩の峰が隣接しています」

これらの花崗岩の峰は、１０本の指のように⾒える独特の形をしていた。

ラオンは⼝を開いて、「今すぐそこに⾏こう！」と言い出す。

「私は約１年後に行くことを考えていました。だから、さっき尋ねたのです」

「１年後ですか？」

「ええ」

（最後の古代の⼒はそこで明らかになるのだから）

最後の古代の⼒、稲妻に似た攻撃的な⽕の古代の⼒を⼿に⼊れる必要がある。

「みんなで⼀緒に旅⾏に行きたいと考えています」

さりげなく呟くと、ケイルの言葉にみんなが笑顔を浮かべた。

「それはいい考えですね。しかし、ケイルさん。近くに村はありません」

「そうだな」

少なくとも⼈間の村に関しては。

⾃然を情熱的に愛し、ドラゴンを崇拝しているエルフの村は存在する。

エルフ。

彼らは幻想魔法を使って村を隠し、⼈間から離れて暮らす種族。

彼らはドラゴンの次に⾃然に最も近い種族だ。

闇の要素を持っていたダークエルフとは異なる存在。

⼩説のチェハンは、ブレック王国の問題に対処することから戻る途中で、テンフィンガー⼭脈を通過する。

彼らは偶然にもエルフの村を⾒つけて、１⼈のエルフと関わったのだ。

ヒーラーのペンドリック。

ケイルの回復能⼒とは異なり、ペンドリックは他者を癒す能⼒を持っていた。

彼はチェハンのグループに加わり、彼らと⼀緒に旅に出る。

（問題は、彼が死んでしまうということ）

ラークが凶暴化するきっかけは、ペンドリックの死だった。

しかし、その可能性はなくなるだろう。

すでに原作とは違うルートを辿っているのだから。

「・・・そう、村はない」

もう⼀度呟き、決⼼する。

来年テンフィンガー山脈を訪れるときは、エルフの村を避けると自分に言い聞かせていた。

余計なトラブルは可能な限り無くしたいから。

「早く来年になってほしいな。村がなくても構わない」

興奮しているように⾒えるラオンに⽬を向けた。

間違いなく、このドラゴンをエルフの村に連れて⾏くことはできない。

彼は神のように扱われるだろうから。

最後の古代の⼒を⾒つけるまで、⻄部地域に⾜を踏み⼊れることすらしないことを強く決心する。

⾺⾞はすぐに⻄部地域を通り抜け、⾸都に到着した。

「お久しぶりです、殿下」

シンプルでありながらスタイリッシュな服を着た優しい笑顔のケイルは、誰もが注⽬するでしょう。

「ええ。またお会いできて嬉しいです。体調は良くなりましたか？」

ブロンドの髪と⻘い⽬。

ケイルと同じくらいハンサムなアルベルは、ケイルを抱きしめながら明るく笑う。

彼らは現在、皇太⼦宮殿の前にいた。

「殿下の配慮と王室の寛⼤さのおかげで、私はよく休むことができました」

「⼊ってください。久しぶりに出会えましたので、一緒にお茶でも飲みましょう」

「ありがとうございます、殿下」

アルベルの執務室に⼊ってドアを閉めた瞬間、隣同士で歩いていた二人がすぐに離れる。

「殿下、疲れていますね」

「それはあなたも同じでしょう」

「できるだけ早く来るように⾔ったはずですが？」

「だからこそ、私は寝る時間も削りました」

アルベルはケイルの反応に⿐を鳴らす。

彼はケイルが何をしているのか知らないが、北東のヘニトゥス家の領土にいるはずのケイルが西からやって来たことに気づいている。

そしてアルベルは、北⻄部で何が起こったのかを正確に把握していた。

（彼は⾮常に不審な⼈物だな）

使⽤⼈が部屋を出るまで静かにケイルを観察する。

今⽇、二人が話し合うことはかなり多い。

使用人が部屋を去った後、先に口を開いたのはケイルだった。

彼はポケットから魔法のバッグを取り出す。

「私は殿下への贈り物を⽤意しました」

「贈り物・・・ですか？」

「はい、私たちの王国の星のために・・・」

「もういい」

アルベルは疑いの目でケイルを見つめる。

しかし、彼は「期待していなかった」とは言えなかった。

数週間前、アルベルはすでにフリン商⼈ギルドから、ケイルからの贈り物を受け取っていたのだから。

「まずは、その贈り物を見せてもらおうか？」

ケイルは、アルベルの許可を得てゆっくりと魔法のバッグを開ける。

⼩さなガラス瓶を取り出すと、ラオンの声が頭の中に響き渡った。

[彼は闇の属性を持っています]

そして、ガラス瓶をテーブルの上に置く。

「・・・これは何ですか？」

答える代わりに⾏動で⽰す。

ガラス瓶の蓋をゆっくりと開けると、中は⿊い⽔でいっぱいだった。

そして、⽬に⾒えない物質がゆっくりとボトルから出始める。

[俺様はこの匂いに慣れています。毒の沼の匂いがするぞ]

死んだマナの⾹りがゆっくりと部屋を満たしていく。

これは、ホイッパー王国に向かう途中でクジラの王から受け取ったアイテムの１つ。

このボトルには毒が⼊っておらず、死んだマナしか入っていない。

「あなたは・・・」

アルベルが話し続けることができないのを⾒ながら、ケイルはゆっくりと蓋を閉める。

「もちろん、この贈り物はただではお渡しできません」

これほど貴重なものを無料で提供するつもりなどなかった。

これは⼈間にとっては毒であり、まったく貴重ではない。

死んだマナ。

闇属性を持つ⼈が魔法を使うために使⽤するもの。

もちろん、通常のマナとは⼤きく異なっている。

マナを検出するために作られた魔法のデバイスでは、死んだマナを検出することができないのだ。

「故⼥王は普通の⼈だと聞いていましたが、肌が少し暗かったので、⼈々は彼⼥が南部⼈の血を継いでいるだと思っていました」

ラオンは、皇太⼦の本来の髪は茶色だと話していた。

「ダークエルフの肌は暗いですが、ダークエルフの血が混合した⼦供は南部⼈に似た肌をしていると聞きました」

ケイルはアルベルに目を向けて、質問をする。

「では、半⾎のダークエルフの⼦供は？」