こんにちは、ピッコです。
今回は99話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
99話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 行軍④
「必ず・・・磨石を持って行かないといけないんですか?もったいないですが・・・い、急がなければならないのでは・・・」
「もったいないという理由だけで磨石を採取するわけではありません。魔物の死体をそのまま放置すると、魔石が周囲の魔力をかき集めてアンデッドにしてしまいます。実際、旧交の教義通りにすると、魔物の遺体は跡形もなく焼き、浄化する必要があります。しかし、現実的に魔法を使わないと、あれだけの体を持つ魔物を焼却することは不可能なので、魔石だけでも除去しておくのです」
「死体はあいつらが処理してくれるよ」
リプタンは水をぽたぽたと落として近づいてきた。
彼が濡れた髪の毛を後ろに掃きながらマックをしばらく眺めて絶壁の上に視線を移す。
「ハーピーは盤龍の死体を期待して私たちを追いかけてきたんだ。私たちが去れば、こいつらを平らげるのに忙しいだろう」
「そうすると、これ以上追ってくるのではないでしょうか?」
「次の食事を期待しながら、ずっと追いかけてくる可能性が高い」
彼は邪魔をするハエでも見るような目で絶壁の上に座っている魔物たちをにらみつけた。
「しかし、ついてくる前に遠くへ行ってしまえばいい。あんな厄介なハイエナたちをつけて歩くつもりはない」
彼は冷静に話し、タロンの手綱を引っ張る。
マックはその場を離れようとしているリプタンの後を急いで追った。
彼がなぜ自分を横柄に振る舞うのか分からない。
「リ、リプタンは・・・どこか怪我したところはありませんか?」
「大丈夫だよ」
彼はぶっきらぽうに返事をして、脱いでおいたガントレットを再び指にかぶせた。
マックは無理にでも自分を見させようと彼を追い抜く。
「リプタン・・・ま、まだ私に怒っていますか?」
「・・・」
リプタンの口元が固くなった。
彼の鋭い視線が彼女の汗でぐちゃぐちゃになった顔と乱れた髪の毛、昨日と今日相次いで着てほこりとしわだらけになった服を一つ一つ開けてみるのが感じられる。
マックは顔を赤らめ、防御的に腕を組んだ。
「結果的に・・・私がついてきたのは、よくやったことじゃないですか。出発してから・・・ニ日で怪我をした人が・・・で、でてきたのですから・・・」
「すぐに出発するよ」
彼はかたくなに話を切った。
「ぐずぐずしている時間はないから、すぐに入りなさい」
「ちょ、ちょっと話すことぐらいは・・・」
「妻より魔法使いとしてもてなしてくれることを望んでいなかったのか?私の意思に反発してまで遠征隊に入ると言ったのはあなただ。指揮官の命令には文句なしに従うように」
マックは陰に包まれた彼の鋭い顔を睨みつけ、さっと体を回して騎士からレムの手綱を取った。
彼らを見守っていたガベルが、困った笑みを浮かべながらリプタンの肩を持つ。
「戦闘直後なので、気が立っているからです。団長は周りに魔物がいる時は普段の何倍も凄まじくなるんですよ。少しの油断も死につながる可能性があるので、野生動物のように神経を尖らせるのです」
「私は・・・き、気にしていません。リプタンの・・・いいえ、カリプス卿の言う通りです。あの方は・・・指揮官であり、私はあの方のま、魔法使いですから、命令に絶対服従しなければなりません」
マックはできるだけリプタンの耳に聞こえるようにはっきりと話した。
しかし、彼は肩越しに彼女をちらりと見ただけで、何の反応も示さない。
マックは意気消沈し、隊列のある騎士たちの後ろに立った。
盤龍の死体に気を取られていたガロウとユリシオンがあたふたと彼女のそばに走ってきた。
だらりと垂れ下がった魔物の足から鎖を解きほぐし、回収していた騎士が大きく舌打ちした。
「しっかりしろよ?魔物たちがあの上で目を白黒させているが、護衛とつけて放した奴らが他のところで気を取られては・・・」
「申し訳ありません。盤龍をこんなに近くで見たのは初めてなので・・・」
ユリシオンは恥ずかしそうに後ろ髪をかきながら彼女に申し訳ない視線を送る。
マックは大丈夫だという意味で笑った。
周囲にこのように騎士が多いのに、まさか何が起こるだろうかと思っていた。
そのような彼女の心を読んだかのように、騎士が厳しい表情を浮かべる。
「いつどこで何が起こるかわかりません。一瞬の油断が命を奪うこともあります」
マックは固くうなずいた。
随行騎士たちの顔も悲壮になった。
「これからは絶対に奥さんから目を離しません」
騎士は満足そうな顔で別の武器を回収しに行った。
マックは彼らが魔物の体から一糸乱れぬように武器を回収して血を拭き取り、盤龍の心臓の中で魔石を採取するのを見守る。
すべての作業を終えた騎士たちは、谷の水で鎧に飛んだ血をざっと洗い流した後、一斉に馬の上に乗った。
彼らは息をつく暇もなくすぐに旅立つ。
絶壁からある程度遠ざかると、背後にパタパタというけたたましい羽ばたきの音が響き渡った。
肩越しに首を回したマックは、ハーピーの群れが盤龍の死体に飛びかかり、肉をかじって食べる姿を見て身震いする。
青白い顔に赤黒い血をべたべたとつけて生肉を食べる怪鳥の姿は、悪夢に出てきそうなゾッとするばかりだった。
「近くに盤龍がもっと隠れているかもしれない。警戒しろ!」
リプタンの大きな声にマックは急いで再び正面を向く。
しばらく岩が不規則に積もった荒れた地形が続いた。
谷間を力強く流れる水の流れに沿って移動し、彼らはしきりに四方を警戒する。
いつどこから魔物が飛び出すか分からないという危機感で、背中が冷や汗でびしよびしょになった。
どれだけ神経を尖らせていたのか、馬に水と餌をやるためにしばらく休憩を取る頃には、ほとんど脱力状態に置かれてしまった。
「奥様、水と塩です。水分を十分に補給しておかないと、気力が尽きてしまいますよ」
岩の上にぐったりしたまま座っている彼女に、ガロウが水筒と小さな布袋を渡した。
マックはポケットから苦々しい塩を少し取り出して口の中に入れて慌てて水を飲んだ。
ユリシオンがその姿を気の毒そうに凝視した。
「もう少し頑張ってください。この谷を過ぎると、しっかりと休息を取ることができるでしょう」
マックはやっとのことで微笑んだ。
大丈夫だという言葉は到底口に出なかった。
彼らはさらに半日移動した。
心配していたのとは違って、谷間を通るまで、これ以上ハーピーや盤龍が現れることはなかった。
彼らは平らな平地に到着してようやくキャンプ用のテントを張り始める。
マックはよろめきながら鞍から降りて、彼らを助けるために焚き物を拾う。
騎士たちがその姿を見て慌てて引き止めた。
「奥さんはできるだけ体力を蓄えておいてください。その方が私たちにはもっと役に立ちます」
しばらくためらったマックは、すぐ木の枝を下ろした。
確かに寝込んで彼らの足を引っ張るよりは、一日も早く体力を回復した方が良いだろう。
彼女は騎士たちが食事の準備をしている間、小川のほとりに座り、汗でねっとりした顔と首筋を洗った。
熱い手のひらと前腕を冷たい水に浸して冷ましてから、タオルを水に濡らして服の中に入れ、わきや背中も拭く。
本当は入浴をして新しい服に着替えたくて死にそうだったが、騎士たちがふくれっ面で裸になることもできない。
マックはべたべたした服をひらひらと振りながらできるだけ汗を乾かそうとした
「テントが準備できた。中に入って休んでいて」
少なくとも靴下だけでも履き替えるつもりでブーツを脱いで足を洗っていると、頭の上からリプタンの無愛想な声が聞こえてきた。
マックは靴を持って席から立ち上がる。
しかし、濡れた足で再び履くのは気持ち悪かった。
彼女は足から水気を取って困った表情を醸した。
すると、突然体が宙に浮いた。
マックは悲鳴を上げた。
「リ、リプタン・・・!」
「カリプス卿じゃなくて?」
リプタンは皮肉たっぷりにつぶやきながら彼女を抱きかかえて大股で歩いた。
マックは口を固く閉ざした。
彼は彼女をそのままテントに押し込んだ。
「食事ができ次第持ってくるから、一息ついていて」
マックは指揮官の世話をする魔法使いが世の中のどこにいるのかと言い聞かせようとしてやめた。
リプタンがテントの外に出ると、マックは荷物カバンから新しい下着とチュニックを取り出して着替える。
実はズボンも着替えたかったが、服を洗って乾かす気力が残っていなかった。
だからといって、騎士たちに洗濯物まで押し付けたくなかった。
マックはズボンに鼻を当ててくんくんの匂いを嗅いでみると、傲慢にしかめっ面をして、再び汗をかいたズボンを履く。
いつでも着替える新しい服があり、毎日きれいな水で入浴する日常がどれほど贅沢なことだったのか、骨に染みるように悟らせた。
馬の匂いが染み込んだ湿ったズボンが、それほど不快に感じられなかったのだ。
遠征中にはどうしようもないことなの彼女は目をぎゅっと閉じて毛布の上に横になった。
昨日より生きがいがあるせいか、床のごつごつさが必要以上に鮮明に感じられた。
マックは寝返りを打ちながらできるだけ楽な場所を探してみようと努力する。
「寝心地が悪いの?」
ざわざわしている最中、リプタンが突然テントの中に頭を突っ込んだ。
マックは慌てて首を横に振った。
そうでなくても、自分をきれいに育った貴族のお嬢さんと思う夫に気難しい姿を見せたくなかった。
「た、ただ・・・背中が痒いだけで。それは・・・夕食ですか?」
「ジャーキーを入れて煮込んだスープとパンだよ」
彼は中に潜り込み、底にトレーを置いた。
彼の長くて立派な体格で、あっという間にテントがぎっしり詰まった感じだった。
マックはスープの器を手に取り、リプタンの長い脚を片方に伸ばし、鎧を一つ一つ脱ぐのをぼんやりと見守った。
彼が早く食べろと言うように眉をつり上げる。
「つまらない食べ物だが、旅行をしている間は仕方がない。口に合わなくても食べるようにしてみて」
「・・・文句を言うつもりは、あ、ありません」
マックはいらいらして返事をし、黙々と食事を取る。
パンはさらさらしてスープは薄かったが、夜明けから今までリンゴ一つとジャーキー何切れか食べたのが全部だったので、ごちそうのように感じられた。
マックは自分の分の食べ物をあっという間にすっかり平らげた。
気持ちとしてはお盆まで噛んで食べられそうだ。
「ずいぶんお腹が空いていたようだね」
彼女を見ていたリプタンの目は暗くなった。
マックはあまりがつがつ食べたのかと思い、顔を赤らめる。
「ちょ、ちょっとだけ」
「これからこういう日程が続くと思う。本当に耐えられる?」
マックは頑なにうなずいた。
彼女をじっと見下ろしていたリプタンが黙々と自分の分け前を食べ始めた。
食事が終わるやいなや、彼らはテントの中に並んで横になる。
気絶するほど疲れた状態だったにもかかわらず、不思議と眠れなかった。
マックはため息をつきながら不快な姿勢を変えるために寝返りを打った。
そうするうちに、思わず彼の足に触れたようだ。
腕を枕にして横になっていたリプタンが火に触れたかのように身を後ろに引いた。
マックは顔を引き締めた。
彼が自分と触れ合うのを嫌がったことがあったのか?
彼はいつも両腕で彼女を抱きかかえて、しっかりと一緒に眠りについたものだった。
しかし今、彼は彼女に触れることさえ我慢できないかのように、できるだけ遠く離れて寝ているふりをしている。
急に怖くなった。
リプタンは単に怒っているのではなく、完全に幻滅しているのかもしれない。
マックは彼の暗い顔を不安そうな目で見上げ、彼の腕の上に手を置いた。
リプタンの体はこわばっていた。
彼は激しく息を吸い込み,次の瞬間に飛び起きて鞘をつかむ。
「私は外にいるから、先に寝なさい」
それから彼女が捕まえる間もなくテントの外に出てしまった。
マックはあっけなく目をばちばちさせ、毛布を頭のてっぺんまでかぶった。
遠くから動物の泣き声と水が流れる音が公然と悲しく聞こえてくる。
過酷な旅にマックは最後まで耐えられるのでしょうか?
リフタンが避けている理由は、おそらくマックが考えている理由とは違うはず。