こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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144話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- キャッチボール
その後、イザベラとダビが到着した数日後、予定されていたヘザーもまたリラニベルに到着した。
以前の訪問時よりも今回の訪問は特別なものだった。
近くの駅まで車を送迎し迎えに行ったが、初めての長旅のせいか、クロイの顔には疲れが見えていた。
「ようこそ、クロイ!」
「ご招待ありがとうございます、奥様。でも…司令官はお見えになっていませんね?」
ヘザー夫人は周囲をきょろきょろ見回しながら、何かおかしいと感じている様子だった。
リューディガーが私のそばにいないことも彼女には気になっているようだった。
「皆が到着するなり、まずリューディガーを探しているわ。イザベラもそうだった。」
「彼はそばにいるべきなのよ。」
「それほどまでに彼はくっついていたのかしら。」
「そう、ずっと一緒だった。」
ルカの言葉にはどこか妙な力が込められていた。
ヘザー夫人は微妙な緊張感を含むルカと私の様子を見つめていた。
私たちが争っていると誤解したのか、彼女は控えめな声で口を開いた。
「奥様をお見かけするたびに、司令官がいつもご一緒だったのに…」
「そういう意味ではありません。特に深い意図があったわけではないのです。」
「分かってるよ。ルカっていつもこうなんだから。最近は本当にいたずら好きだ。」
「ふん。」
私はルカの腕を軽くつねり、ルカもまた反論することなく笑いながら目をそらした。
そんな軽いやりとりが終わると、ヘザー夫人と一緒に邸宅へ戻り、私はイザベラとヘザー夫人を互いに紹介した。
何かしらの予定が狂ってしまったのか、私はヘザー夫人にイザベラがここにいることを事前に伝えられていなかった。
それが原因で慎重なヘザー夫人が驚いてしまうのではないかと少し心配していたが、それは私の杞憂に過ぎなかった。
二人には共通点があったからだ。
「クラベットの27番地に住んでいたのですって?」
「ええ……。何か問題でも?」
「私はシュトラスエが12番地でした。」
「シュトラスエ? クラベットのすぐ隣の通りじゃないですか!」
そうだった。
エムデンという田舎出身の私と違い、この二人はどちらも都会出身だ。
ルーエンの難民出身だったことだ。
昔の思い出を振り返り、二人は堰を切ったように会話を始めた。
そのやり取りはどこか活気に満ちていて、私はまるで外野に押しやられたように感じた。
しかし、それを嫌だと思うどころか、むしろその状況が微笑ましく思えた。
二人とも夫もいない独身であり、同じ境遇に属していることが共通点となっていたのだ。
こうした形で昔の思い出を分かち合える相手がいるのは良いことだった。
それに、彼女たちが難民時代の出来事を思い出として語れるのも、現在の生活が以前よりも遥かに安定しているからだろう。
その話題が積もり積もって尽きることはなさそうだったが、私は二人が楽しく語り合えるように、その場をそっと離れることにした。
「私は子どもたちが何をしているか少し見てくるわ。その間、気兼ねなくお話ししていて。」
「まあ、私たちが少し騒ぎすぎたかしら。ご招待いただいたのに、奥様はあちらで……。」
「違うわ。子どもたちが静かすぎるのが気になるの。何か悪いことでも企んでいないか、見てくるから、気にせずにいて。」
二人は私を気遣いながらも、席に座り直し、再び話を続ける準備をしているようだった。
そんな必要はないと思いつつ、軽く手を振り部屋を出た。
自分のためだけにそうしたのかもしれないが、あの場での幸福感を少しでも作り上げたのは自分の役割もあったのではないか、という考えが胸の中に小さな誇りを呼び起こした。
そんな思いを抱きながら、コートを羽織って階段を登る足取りが軽くなる。
・
・
・
2階のルカの部屋に向かい、腰に手を当て、大きく息を吐いた。
確かに何か問題が起きているわけではなさそうだ。
ただし、健康な子どもたちが穏やかな昼の時間を過ごしていると信じられない光景が広がっているだけだった。
「まさかと思ったけど、見に来て正解だったわね……天気もいいのに、みんなここで何をしているの?」
声を少し張り上げた。
部屋の中では、元気に跳ね回っているはずの子どもたちが、それぞれ本を手に静かに読んでいる。
おそらく、本がよほど面白いからだろう。
普通なら、この年頃の子たちは本に夢中になるより、遊びに駆け回る方が自然だろうと思ったが、ルカを除いた二人の子どもたちの表情を見て、どうやらそうでもないらしいと感じた。
我が家には、ルカが手に取りそうな本は一冊もなかったのだ!
たった一冊も!
帰宅してから、ルカをどれだけ子ども扱いしようとも、全てを理解している彼に童話を読ませるのは無駄だと気づいた。
それでも、童話がルカの失われた純粋さを取り戻してくれるのではという期待を込めて、何冊かの本を本棚に忍ばせておいた。
しかし、かつて私が何も知らなかった頃、童話を読みながら感じた感動や涙ぐんだ経験を思い出すと、それが無駄だったとは断言できない。
とはいえ、ルカは童話を見つけるたびに、ため息交じりで不満を漏らすのだった。
『正直に言えば、魔女が白雪姫を殺そうとしたのは、その容姿だけが理由ではなく、血統や政治的正当性のためだったのだろう。女性が外見にばかり気を取られるという固定観念に基づく解釈ではないだろうか?』
『……。』
『シンデレラ……。貴族の遺産分配がこんなに簡単に行われるとは信じられない。どうしてそうなったのか理解できないよ。』
「ルカ、私、子どもたちをちゃんとお願いしたんだけど……」
「だから、ちゃんと見てるじゃないか。」
一体この状況のどこが「ちゃんと見てる」なんだろう?
私は目を細めてルカを鋭く睨みつけた。
しかし、これくらいでは少しも罪悪感を感じることのない図々しいルカは、むしろ自然体で肩をすくめて答えた。
「読書中だよ。読書は心の栄養じゃないか。」
「心の栄養って何よ! そもそも本の選び方からして間違ってるわ、ルカ。子どもたちに経済学や科学の本なんて、どこが良いの?」
「みんな楽しそうに読んでたよ。」
「そう。それでダビが今、あの本を逆さに持っているわけね。」
「本当?」
私が言うと、ダビが驚いて手にしていた本を慌てて持ち直した。
ルカはそんなダビをじっと睨みつけた。
肩をすくめるダビの様子に少し苛立ちながらも、私は何とか落ち着きを取り戻した。
私がしつこく問い詰める様子を察したのか、ルカは思ったより素直に折れた。
読んでいた2冊の本を机に置き、ため息をつくと、少し投げやりな態度で言った。
「それで、どうしろっていうんだ? 子どもたちを連れて行っておままごとでもしろって? それともかくれんぼでもする?」
だめだ。
子どもたちが遊んでいるところに大人が無理に介入するつもりはなかったが、彼らを放置しておけないルカの行動はあまりにも無頓着だった。
決心を固めた私は、毅然とした態度でルカに言い放った。
「グローブとボールを持ってきて、ルカ。一緒にキャッチボールでもしよう。」
「ええっ。」
「ええっ、じゃないわよ! 早く動かないの?」
私の鋭い視線に負けたのか、ルカは仕方なく重い足取りで動き出した。
その姿は、どこか不承不承ながらも少しコミカルだった。
誰に似たのか、あんなに動くのを嫌がるなんて。
不思議なことに、剣術や乗馬ならすぐに飛びつくのだが、どうも私が考える限り無駄なことにばかり情熱を燃やしているように思えてならなかった。
『成績に反映されない科目は、ただ投げ出すだけなんて。』
キャッチボールというものを知らないクロエとダビが目をぱちくりさせながら私を見つめていた。
私は子どもたちの背中を軽く押し、少し強引に外へと連れ出す。
走り去る小さな背中を見つめながら、私はそっとため息をついた。
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