こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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3話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ③
『どうしよう……どうすればいいんだろう?』
フィローメルは茫然と頭を回転させた。
そして、数歩離れた場所でこちらをじっと見つめる赤い瞳と視線が交わった。
「……殿下。」
フィローメルより一年早く生まれた婚約者、ナサール・エイブリデンだった。
「ナサール、今は時期が良くない。一旦戻ろう。」
その瞬間、彼の父であるエイブリデン公爵がナサールを掴んで引き戻した。
「父上、しかし……。」
「急げ。」
短く鋭い公爵の声にためらっていた少年は、仕方なく足を動かした。
婚約者とは反対方向に一歩も向かず、見送る少年はそうして離れていった。
フィローメルもまた侍女たちの手に引かれ、その場を去ることとなった。
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温かい水で満たされた浴槽に入り、体をほぐしても、心はまだざわついていた。
ただユースティスの後ろ姿ばかりが浮かんでくる。
「何?皇女殿下がそんなことをしている間、あなたたちは何をしていたの?」
腰痛を理由に会場には同行しなかった侍女が、話を聞くや否や騒ぎ立て、愚痴をこぼす様子が目に浮かんだ。
浴室から出ると、侍女が回廊で掃除をしていた。
「今回のことは絶対にそのままにはできません。私だってここまでやりたくはなかったけど、少しは気を引き締めてもらわないと。」
パチン!パチン!パチン!
柔らかな掃除用の布が白い紙くずを叩いていた。
痛い。とても痛い。
フィローメルは紙切れをつまむような痛みを堪えていた。
涙を静かに流したが、具体的にどこが痛むというわけではなかった。
それでも誰に助けを求めることもできなかった。
罰が終わると、侍女は「しっかりしなさい。しっかり。よくやったなんて言葉は一言も出ないわよ。」と言いながら冷たい声で言い放った。
「見たところ、お身体が少し弱いようなので、これから特別管理体制に入ることにします。そのほうがいいでしょう。」
「……うん。」
「お分かりですか?私がいつでも皇女様をお守りすると言ったでしょう!」
侍女は同じ言葉を数回繰り返してから去っていった。
「皇女様も、まったくどうしてそんなことをなさったのですか?」
「侍女様に無条件で悪かったと謝ってください。それで皇女様も、私たちも叱られるのが減りますから。」
「……」
フィローメルは薬を塗ってくれる侍女たちの手の感触を感じながら、ただ床をじっと見つめていた。
フィローメルが反応しないことに戸惑ったのか、侍女たちはお互いに視線を交わし、上の侍女がこう言った。
「あまり心配なさらないでください。乳母様も機嫌が直ればすぐにお怒りは収まるでしょう。」
「それから、さっき執事様から聞いたのですが、延期された建国祭の行事が一週間後に行われることに決まったそうです。そのときになれば、乳母様も皇女様が祝祭を見学されることを許してくださるのではありませんか?」
「……一週間後?遅すぎない?」
「それが……、大神官様が帰還の途中で倒れてしまわれたそうです。」
侍女の一人が心配そうな表情を浮かべた。
「今までこんなことはなかったのに、ご自身が大神官職を引き受けたとき、雨のために神聖な行事が中断されたことに衝撃を受けられたのでしょう。その驚きは想像以上だと思います。」
別の侍女が口を開いた。
「人々も、帝国を守護する神の加護が失われたのではないかと噂しているそうです。」
「ベルレロフ皇家の正統性は神の力に基づいています。神の加護が疑われるようなことは、皇家の正統性を否定する行為として受け取られる恐れがあります。」
「ねえ、安全だと言えないなんて、どういう意味?」
同行していた侍女が視線を向けると、その言葉を発した侍女が慌てたように弁明した。
「……いや、大した意味はないんです!ただ、何も分かっていない人たちがそうやって騒いでいるだけで……。」
フィローメルは力なく手を振った。
「もういい。下がって。」
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全員が下がった後、フィローメルはふらふらと書棚に向かった。
棚には、茶色の表紙に「皇女エレンシア」というタイトルの本が収められていた。
建国以来、一度も延期されたことのない歴史がそこにあった。
今年、建国祭が本当に延期される可能性はどれほどあるのだろう?
そして、小説が偶然にもそれを予言している可能性は?
その後に起きた出来事はすべて同じだった。
大神官が倒れたこと、そのせいで祭りが1週間延期されたことまで。
冷たい戦慄が走った。
その展開は、どこかの通俗ロマンス小説とは異なるはずだったが、これは小説ではなかった。
「予言書。」
手に持った本を握る手が震えた。
皇帝はフィローメルの父親ではなかった。
自分は偽物だった。
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翌朝。
前夜の雨のせいか、フィローメルはついに酷い風邪を引いてしまった。
「殿下、お目覚めの時間でございます。」
乳母がフィローメルを揺さぶり起こした。
「……乳母。私は起きられないよ。痛い。風邪をひいたみたい。」
フィローメルは声を絞り出し、小さな声で言った。
頭はぐるぐる回り、喉は唾を飲み込むのも痛いほど熱く感じた。
しかし、フィローメルの訴えにも乳母は少しも動じなかった。
「また仮病ですか?今日はどれだけ具合が悪いふりをしても済まされませんよ。昨日の件で陛下にご迷惑をおかけしましたね。あの検閲室で一体なぜあんな大事を起こしたんですか?」
以前にも彼女は日々の過酷な授業に疲れ果て、「具合が悪い」と言い訳をして休んだことが何度かあった。
「……仮病じゃない。本当に具合が悪いの。」
フィローメルは弱々しい声で答えた。
明らかに自分の過ちであるにもかかわらず、本当に具合が悪いと疑われることに胸を痛めた。
「起きてくださいよ……あら、本当に熱があるじゃないですか。」
フィローメルの腕に手を当てた乳母は目を丸くした。
少し間を置いて、乳母の指示でフィローメルは診察を受けることになった。
診察を受けた宮廷医は単なる風邪だと診断し、薬を飲んで十分に休めば治るだろうと言った。
フィローメルは口数少なく、喉が詰まっているため何かを飲み込むのにも苦労し、やっとの思いで薄いスープを口にしただけだった。
薬を飲み、再び横になったフィローメルに乳母が言った。
「陛下には風邪を召されたとお伝えしました。ただ、具合が悪いからといってお許しをいただけるお方ではありませんよね?」
「……」
「昨日、あの多くの人々が皇女様をどれほど無責任だと見なしたか、お分かりですか?私が代わりに顔を出す羽目になりましたよ。あのくだらない祭典が何だっていうんですか。」
人々はフィローメルの突飛な行動を、子供じみた気まぐれだと思っているようだ。
『本当にそうなら、どんなにいいだろうか。』
フィローメルはぼんやりと考えた。
「ひとまず休んでください。何か必要なことがあれば、隣で待機している侍女たちを呼んでください。」
そう言って乳母は出て行った。
フィローメルは薬の効き目か、すぐに眠りについた。
どれくらい時間が経っただろうか。薄目を開けると、冷たい汗がフィローメルの全身を濡らしていた。
怖い夢を見た。
自分が処刑され、ユースティスが本当の娘とともに死んでいく偽りの娘を冷たく見捨てる内容だった。
小さな体がガタガタと震えた。
生きたい。
死ぬのは怖い。
絶対に死にたくなかった。
「本当にお父さんが私を殺すの?」
すでに答えを知っているのに、狂ったように否定したくなった。
もしフィローメルがこれからは従順に生きたら?
お父さんが望む娘になったら?
もしかすると未来が変わるかもしれない。
自分が偽物だと言われても何だっていい。
彼は9年間、自分を娘として扱っていたじゃないか。
わずかでも情があるかもしれない。
今すぐ確認したい。聞いてみたい。
「行かなくちゃ……」
まだ体は重く、頭も痛んだが、動けないほどではなかった。
フィローメルはよろめきながら部屋を出た。
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すでに正午に近い時間だった。
たっぷり寝るために、今日は普段より二時間遅れて昼食を準備すると乳母が言っていた。
少しの間席を外しても、誰一人としてフィローメルがいなくなったことには気づかないだろう。
音を立てないようにそっと歩きながら廊下を進んでいると、隣の部屋から会話が漏れ聞こえてきた。
そこは侍女たちがいる場所だった。
「皇女様のせいで、これが何の苦労よ?」
苛立ちの混じった声に、フィローメルは思わず足を止め、扉に耳を当てた。
五、六人の人々が集まって話しているようだった。
「シッ、誰か聞いてるかもしれない。」
「私たち以外いないでしょ。皇女様はまた機嫌を損ねて、部屋でふてくされてるんだから。」
「彼の言うことも間違ってはいないな。あの方が毎日買い物ばかりせずにいれば、私たちの給料が削減されることもなかったのに。」
そう言った男は、フィローメルを担当する護衛騎士のマルテンだった。
仕事はせずに侍女たちとふざけてばかり、まるで怠け者そのものだ。
侍女の一人が相槌を打った。
「それはそうですね。」
「乳母は無駄に私たちばかり叱るし!」
「悪いのは皇女様なのに、いつも怒られるのは私たちよ。」
マルテンが嫌味たっぷりに言った。
「哀れなものだな。まあ、不満なら次の人生では陛下の娘にでも生まれ変わるんだな。」
その時、ひときわ大きな声で侍女の一人が叫んだ。
「うわ! 本当にそうしたいわ。もし私が皇女だったら、きれいに着飾って陛下にたっぷり愛されていたはずなのに!」
「なにそれ。夢が大きいわね。」
部屋の中は大笑いに包まれ、みんな楽しそうだった。
「はぁ、フィローメル本当に嫌い。」
誰かがぽつりと放った一言が、フィローメルの胸に突き刺さった。
「正気? そんなこと言っていいの……?」
「なんで? 皇女だから?皇帝陛下に娘として認められもしない皇女が、本当に皇女なの?」
「それでも……」
「しかもフィローメルは、皇族の象徴である神聖力すらまったく持っていないんでしょう?こっそり言うけど、直系皇族の中で神聖力を持たずに生まれたのは、あの子が初めてなんだって。」
「見た目だけ皇族ってことね。」
フィローメルの小さな肩がピクリと震えた。
「それでも羨ましいわ。誰かさんは写本をうまく読めなかっただけで、乳母にビンタされたのに、本人はベッドでぐっすり眠ってるんだから。」
「お祭りを見たいって、大勢の貴族たちの前で倒れ込んだんだからね。」
「こんなことしてたら、エイブリテン公爵家から婚約破棄されるんじゃない?」
「もともと特別だって噂のある公子様に、あの子みたいなのは釣り合わないわよ。」
「ああ、この前、皇女様が公子様にケーキを切ってあげたときのあの表情見た?うんざりして嫌がっていたのに、鈍感な皇女様はそれに気づきもしないんだから。」
「それくらいの気配りができるなら、陛下に嫌われたりしないでしょ?」
「それはそうね。まあ、この前の話も……。」
もう十分だった。
これ以上聞きたくなくて、フィローメルは扉から離れた。
さっきまで優しくフィローメルの体調を心配していた彼らの顔が頭に浮かび、涙がこみ上げてきた。
この場所には、彼女の味方は一人もいなかった。
「……今はこんなことしてる場合じゃない。お父様のところへ行かないと。」
フィローメルは涙を拭い、足を踏み出した。
自分の命を脅かすのはユースティスであって、彼らではない。
『だから、傷つかない。』
フィローメルは周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩いた。
まだ年が若いため、専用の宮殿を与えられず、皇帝宮に滞在しているのはこういうときには幸いだった。
それに、理由は分からないが、いつの間にか宮殿には人が少なくなっていた。
少数の宮人たちを避けながら、フィローメルは皇帝の執務室の前にたどり着いた。
宮殿内で個別の護衛を置かないユースティスの性格上、執務室の近くには誰もいなかった。
フィローメルは慎重に扉をそっと開けた。
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