こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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71話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 苦い過去③
「アイザック、この野郎!」
シアナとチュチュが同時に言い放った。
二人はハッとした表情で口を押さえた。
シアナは腰を低く折りながら言った。
「お許しください、公女様!あまりにも失礼な振る舞いを目にして、つい過ちを犯してしまいました。」
「じ、私もつい失言してしまいまして……。」
「……。」
グレイスは驚いた表情で二人を見つめた。
侍女が公女の婚約者に向かって罵詈雑言を吐くとは。
即座に鞭打ちの刑に処されるか、牢獄に入れられるほどの重罪だ。
しかし、奇妙なことに、グレイスはまったく怒りを感じなかった。
シアナとチュチュが完全にグレイスの味方であることを知っていたからだ。
グレイスは二人に向かって言った。
「許してあげる。」
「ありがとうございます!」
グレイスはしっかりと応じるシアナとチュチュに続けて言葉を紡いだ。
「……私の味方になってくれたのは嬉しい。でもアイザック様を悪く言わないで。アイザック様は何も悪くないから。私がぽっちゃりしているのがいけないんだもの。」
「絶対そんなことありません!」
「その通りです!」
シアナとチュチュは力強く否定したが、グレイスは目を伏せて寂しげな表情を浮かべた。
十四歳の頃、ぽっちゃりしていることに恥ずかしさを覚える前にこの言葉を聞いていたなら、「やっぱりそうなの?」とため息をついていたかもしれない。
しかし、今は違った。
今やグレイスは、人々が本音を心の奥底に隠し、口では聞こえのいい言葉を述べるものだということを理解していた。
言葉を徐々に紡ぐという事実を彼女は知っていた。
侍女であればその仕事にさらに熟達するということも。
グレイスは再び過去の物語に思いを馳せた。
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婚約発表の宴が終わった後、グレイスは部屋の中で呆然としながら声を上げて泣いた。
グレイスは涙を流しながら思った。
「実は、私も時々自分があまりにもぽっちゃりしているんじゃないかって思ったことがあった。」
しかし、その悩みは長くは続かなかった。
人々はグレイスに向けて次々と称賛を送ったからだ。
お美しいです、公主様!
グレイスはその言葉に微笑みながら笑った。
馬鹿みたいに。
その言葉がまるで夢を一気に冷めさせたようだった。
『みんながそう言いながら、心の中では私を豚みたいだと笑っていたんだわ。』
今までそれに気付けなかった自分が恥ずかしくて情けなかった。
どれくらい泣いただろう。
グレイスはベッドの上で体を起こした。ゆっくりと歩いて鏡を見つめた。
そこには乱れた黒髪にリボンが垂れたピンクのドレスを着た、目が腫れた……一匹の豚が立っていた。
グレイスは呆然とその姿を見つめ、凍り付いていた。
「不細工。」
そう呟いたグレイスはもう一言続けた。
「醜い。」
自分の体にしがみつく脂肪が嫌でたまらなかった。
まるでそれをナイフで削ぎ落とせるものなら、そうしたい気分だった。
それでも、残された理性がそれを押し止めた。
グレイスは、より現実的な方法を選択することにしたのだ。
食事をとらないことに決めたのだった。
グレイスが食事に手をつけないと、初めて場が騒然となった。
「姫様、もしかしてどこか具合が悪いのですか?」
慌てふためく侍女たちに、グレイスは無表情のままで答えた。
「そうじゃないわ。ただ、私も少し試してみようと思って。」
「試す……何をですか?」
「ダイエット。」
「……っ!」
今までグレイスが一度も口にしたことのない言葉に、侍女たちは目を見開いた。
しばらくして、侍女たちはにっこりと微笑み拍手を送った。
「本当に素晴らしいお考えです。」
グレイスはもう一度悟った。
やはり今まで私に『綺麗だ』と褒めてくれた言葉はすべて嘘だったんだ。
その言葉が本気だったなら、痩せるという話にこんなにも喜ばないはずだ。
グレイスは皮肉な笑みを浮かべる。
数か月後。
ヘイスティングス伯爵家の邸宅には人々が集まっていた。
伯爵家の三男アイザックの誕生日パーティーに出席するためだった。
パーティーの主役らしく、新しい正装に蝶ネクタイを締めたアイザックに、客たちは次々と挨拶をした。
「アイザック様、お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「プレゼントもお持ちしましたよ。ラティアの職人が作った時計ですが、お気に召すかどうか。」
ラティアの時計は最高級品として有名だった。
その時計は有名であるだけでなく、価格も非常に高価だ。
時計1つの値段が高級な馬車に匹敵するほどだった。
アイザックは驚いた表情を浮かべた。
「ご出席いただけるだけでも嬉しいことなのに、こんな貴重な贈り物を持ってきていただけるとは。」
「ふふ、これくらいは当然です。将来、王女様の夫になる方なのですから。」
「ありがとうございます。」
アイザックは優雅に頭を下げてお礼を述べた。
客が去った後、煌びやかなドレスを身にまとった少女たちがアイザックのそばにやってきた。
ジュリアと彼女の友人たちだった。
「わあ、王女様の婚約者の地位はやっぱりすごいですね。なんて立派なんでしょう。噂になっているマリアンス伯爵夫人がこんな贈り物を持ってくるなんて。」
少女たちの率直な言葉に、アイザックは困惑したように眉をひそめる。
その表情を見たジュリアが、スカートの裾を持ち上げて挨拶をした。
「21歳のお誕生日おめでとうございます、お兄様。」
それに続いて他の少女たちも同じようにスカートの裾を持ち上げて挨拶をした。
「ありがとうございます。」
アイザックは優しく目を細めた。
ハンサムな貴族のお兄様の微笑みに、少女たちの頬がわずかに赤く染まった。
一人の少女が扇子で顔の熱を冷ましながら尋ねた。
「それにしても、グレイス王女が見当たりませんね?」
「本当ですね。直接来られてアイザック様をお祝いされるかと思っていたのですが。まさかいらっしゃらないなんてことはないですよね?」
アイザックは微笑みながら答えた。
「そんなことはありません。時間に合わせて来られるとおっしゃっていたので、きっと間もなくお見えになるはずです。」
「それなら良かったですけど……。」
少女の安心した様子に、アイザックは小さく笑みを浮かべた。
「王女様に何かあったのですか?」
「実は最近、グレイス王女様をお見かけしていないのです。」
アイザックの目が大きく見開かれた。
それもそのはず、アイザック自身も同じ状況だったからだ。
婚約を発表した日以来、アイザックはグレイスの姿を一度も見ていなかった。
ただ手紙で挨拶を受け取っただけだった。
「大丈夫だとおっしゃっていましたが、まさか王女様がどこかご気分を悪くされているのでは……。」
アイザックの真剣な表情に、少女たちはその可能性は全くないかのように手を振った。
「幼い頃から王女様を知っていますが、王女様が体調を崩されているなんて一度も聞いたことがありません。」
「そうです。本当に丈夫な方なんですよ。力もすごく強いので、繊細な侍女たちでも持ち上げるのが難しいものを軽々と運ばれるんです。」
「食事もとてもよく召し上がられます。ティーパーティーではデザートを10皿召し上がるのが普通ですから!」
少女たちは声をそろえて笑い合った。
一見すると王女を持ち上げるような言葉だった。
だが、心の中では全くそうではなかった。
少女たちはグレイス王女をからかっていたのだ。
優雅さや美しさとはかけ離れた王女様。
もちろんそれは口に出してはならない言葉だった。
なぜなら、グレイス王女の背後には皇帝や皇后、皇太子まで控えているからだ。
幸運(?)にも少女たちは上品に残り物を処理する術を心得ていた。
「グレイス王女様が遅れているのはおそらく服装に手間取っているからでしょうね。初めての婚約者の誕生日パーティーですもの。」
「そうよ。華やかに装ったグレイス王女様がどれほど美しいかしら。」
この場面で少女たちはくすくすと笑い合った。
そして笑いながら、一人の少女が言った。
「ジュリアさんほど美しい姿で現れるかしら。」
「ええ、何をおっしゃるんですか。私がどうして王女様と比べられるというんですか。」
突然自分の名前が出て、ジュリアは慌てたように手を振った。
もちろん本心ではなかった。
ジュリアは幼い頃から際立って美しい容姿を持っていたからだ。
それを知らない者はいなかった。
アイザックも、少女たちも。
くすくすと笑う幼い少女たちの中で、ジュリアはアイザックをそっと見つめた。
アイザックは平然としていた。
まるで婚約者に対する皮肉に気づいていないかのように。
『ふん。まさかお兄様が幼い女の子たちが放つ幼稚な言葉の意味を理解できないとでも?』
彼が静かにしている理由は単純だ。
アイザックがグレイス王女に対して特別な愛情を抱いているのは明らかだった。
『当然のことよ。お兄様は繊細で華奢な女性が好きだから。』
ぽっちゃりしていて、声も大きく、気配りが足りない自分のことなど……王女でなければ決して婚約者に選ばれなかったはず。
ジュリアは怒りがこみ上げ、口を一瞬閉ざした。
しかし、ジュリアは何か違和感を覚えた。
「……お兄様?」
アイザックは茫然とした様子で、どこかを見つめていた。
それはアイザックだけではなかった。
ジュリアの隣で笑っていた少女たちも、全く同じ方向を見つめていた。
『みんな、何を見てそんなに驚いているの?』
ジュリアはゆっくりと視線を向けた。
コトン。
ジュリアの手に持っていた扇が落ちた。
そこには天使のように美しい少女が立っていた。
雪のように白い肌、夜空のように長く伸びた黒髪。
風にそよぐ薄紅色のドレス、その下から覗く腕は壊れそうなほど細かった。
「……」
会場にいる全員が言葉を失い、その少女を見つめていた。
人々の視線を浴びながら、少女はゆっくりと歩みを進めた。
ついに少女はアイザックの前に立った。
それまで目を離せなかったアイザックは、信じられないという表情で尋ねた。
「……グレイス王女?」
グレイス王女は微笑みながら答えた。
「はい、アイザック様。」
「えっ、どうしてこんな……」
アイザックは驚きを隠せなかった。
それほどグレイスの姿は衝撃的だった。
グレイスを最後に見てから約3ヶ月。
その間、彼女に何が起きたのだろう。
グレイスはくすくすと笑う。
「驚きましたか?」
「正直に言うと、そうです。」
「アイザック様のお誕生日ですから。婚約者として努力してみたんです。」
「……そうですか。」
アイザックはグレイスをじっと見つめた。
陽の光の下の彼女は、まるで別人のようだった。
アイザックは独り言のように言った。
「本当に美しい。」
「……!」
誰も言わなくても、グレイスには分かっていた。
今のアイザックの言葉が、真心であることを。
『本心から感嘆するときは、こんな顔をなさるのね。』
以前、彼が自分を「美しい」と言ったときとはまるで違っていた。
瞳はきらめき、耳の先はほのかに赤く染まっていた。
グレイスは涙がこぼれそうだった。
この3か月間、グレイスは食事の量を半分以下に減らしていた。
城内を何度も歩き回り、お腹が空いて耐えられなくなったときには水を飲んで我慢していた。
苦しみの結晶は甘かった。
グレイスは満面の笑みを浮かべた。
「幸せ。」
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