こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

74話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 生まれ変わるために
チュチュとグレイス皇女の運動が始まった。
チュチュは手で持つのにぴったりな形をした石を持ってきた。
グレイスは眉をひそめた。
「それは何?」
「私が作った専用の運動器具です!」
チュチュはまずデモを見せた。
「この子を両手に持って、こうやって上げて下げてを繰り返すんですよ。素手でやるより、この運動器具を使った方がずっと効果的なんです!」
そう言いながらチュチュはグレイスを見つめた。
グレイスは快適な室内服を着ており、白く細い腕が伸びていた。
その腕はまるで子どものように華奢だ。
『一番軽いものを持ってきたけれど、持ち上げられるかしら。』
チュチュは心配そうな表情でグレイスに石を渡した。
しかし、しばらくして驚くべきことが起こった。
グレイスが自然な表情で石を持ち上げたのだ。
チュチュは目を丸くして言った。
「よく持ち上がりますね?」
「軽いから。」
グレイスはあっさりとした顔で答えながら、石を握った腕を動かした。
その瞬間、華奢な腕がブルっと震えたのをチュチュは見逃さなかった。
チュチュはグレイスの腕を見つめ、目を輝かせた。
「今見ると、細い腕なのにたるみが全然なくて、とても引き締まっていますね。千人に一人の黄金比の骨格ですよ!」
驚いたようなチュチュの反応に、グレイスの顔が赤くなった。
「それが何?良いことなの?」
「もちろん!最高の筋肉を作れる体という意味ですよ!」
「……!」
その言葉にグレイスは眉をひそめ、手に持っていた石を置いた。
「ちょっと、姫様。一気に置いたら危ないですよ。手首を痛めるかもしれませんし、置くときはそっと下ろさなきゃ……。」
延々と続くチュチュの話に、グレイスは声を張り上げて言った。
「私、運動しない!」
グレイスはただ普通に食事をしたいだけで、筋肉質な体になりたいわけではなかった。
『ぽっちゃりになるのが嫌で、痩せ細ることになってしまったのに……。』
「次は筋肉ムキムキになるって?そんなの絶対嫌だ!」
しかし、グレイスの決心は長続きしなかった。
チュチュが急いで食べ物を持ってきたからだ。
「シアナの言った通り、野菜中心の食事を持ってきましたよ。」
巨大な皿にはサラダが山盛りに盛られていた。
まるで象が食べるかのような驚くべき量だ。
しかし、そのサラダはただの野菜の山ではなかった。
新鮮で多彩なサラダには香ばしいアーモンドや、丁寧に焼かれた鶏肉、甘酸っぱい干しぶどう、イチゴが入っていた。
グレイスはそれを理解しつつも、一つ残らず平らげてしまった。
少し体を動かしたせいで、空腹感を抑えきれなかったのだ。
食器をすべて空にした後、グレイスはようやく冷静さを取り戻し、声を張り上げた。
「ぎゃあああ!全部食べてしまった!」
抑えきれない感情が全身を駆け巡り、一瞬も我慢できなかった。
「早く全部吐き出してしまおう。」
しかし、それは不可能だった。
チュチュが部屋を出ずに自分を見守っていたからだ。
「出て行って」と言おうとしたその瞬間、チュチュが口を開いた。
「シアナが公主様が食事を終えた後、この言葉を必ず伝えてほしいと言ったんです。公主様、一度吐くと髪の毛が10本抜け、100回吐くと歯が一本抜け、1000回吐くと爪まで抜けることになります。どんなに美しい公主様でも、そんな姿になったらみんな驚いてしまいますよね?」
その執拗な言葉に、グレイスは目を瞑った。
しかし、幸いなことに、チュチュに対して怒りをぶつけることはなかった。
チュチュがあのような言葉を発したのは、彼女を脅したり侮辱したりするためではないとグレイスは知っていたから。
「耐えてみよう。」
グレイスは喉元まで込み上げてきた吐き気を抑えた。
しかし、それは一時的なものだった。
さっき食べたものがすぐに脂肪となって自分の体についてしまうことを想像するだけで、恐怖が押し寄せてきた。
グレイスは歪んだ表情でやっとのことで言葉を発した。
「さっきやっていた運動、もう一度やろう。」
「……。」
「それでもやらないと、耐えられない気がする。」
「はい!」
こうしてグレイスは最初の運動を行った。
その後、時間は淡々と流れていった。
運動をすればお腹が空き、お腹が空けば食事をし、食事をすればまた運動をする。
それ以外に選択肢はなかった。
『思ったよりも公主様が運動をする時間が長くなっているけど、順調に進んでいるみたいね。』
チュチュから中間報告を受けたシアナは、ほっとして微笑んだ。
シアナは今、1人で食材管理室にいた。
日が暮れると、他の下級侍女たちは全員宿舎へ戻っていった。
シアナが1人残った理由は、翌日に使うために整理された食材を最終的に確認するためだ。
かつて食材が散らかるという悪戯が起きた日以来、毎日欠かさず行っている作業だった。
食材を点検していたシアナは、目を丸くした。
「あら、小麦粉の袋を集めておくべき場所にボロボロの袋が混じっているじゃない。」
その袋は見た目が似ていたため、誰かが誤って混ぜたのだろう。
『やっぱり確認してよかったわ。怠けていたら小麦粉が台無しになるところだった。』
小麦粉を送るべき場所にボロ布が混ざっていた。
朝の忙しい時間には気づかずに見逃していたので、今のうちに片付けておこう。
シアナは腰を曲げてボロ布の袋を持ち上げた。
……いや、持ち上げようとした。
「重い!」
シアナは本来、力がそれほど強いほうではなかった。
侍女としての仕事を始めて、多少は筋力がついたが、限界はあった。
これ以上はどうしても無理だった。
「はぁ、このひ弱な体……。」
ただ命令に従うだけの公主ならともかく、体を使う仕事が多い侍女にとっては本当に不便で仕方がない。
「私もチュチュから特訓を受けたら、少しは力がつくのかな……。」
真剣に悩んでいると、重く感じていたボロ布の袋が突然軽くなった。
シアナは驚いて大きく目を開け、その方向を見た。
ニンジン、ジャガイモ、卵、ソーセージ、その他多くの食材が並んでいるこの場所に、世界で最も場違いな人物が立っていた。
ラシードだった。
「え、殿下?」
片手で軽々とボロ布の袋を持ったラシードが、にっこりと笑った。
「こんにちは、シアナ。」
「いいえ、とても『こんにちは』なんて言えません!」
その状況もその人物も、平然と挨拶するにはあまりに場違いだった。
シアナは挨拶を考え直し、質問した。
「殿下がこんな時間に、こんな場所で……。」
ラシードは真剣な表情で答えた。
「私は皇太子だ。宮殿を見回るのも務めの一つさ。宮殿で最も重要な場所の一つであるこの食材管理室が、きちんと運営されているかどうか確認しに来た。」
『ああ、そういうことですか。』
「そんなの納得できるわけがないじゃない!」
『いつから食材管理室がそんなに大層な場所だったというの?いや、それにしても、皇太子がそんなことを気にするなんて、一体どういうことなの……?』
シアナは、世界で最もくだらない音を聞いたような目つきでラシードを見つめた。
ラシードはやはり嘘をつくのが苦手なのか、すぐに目をそらし、答えを変えた。
「実は、君に会いに来たんだ。」
「……!」
ラシードは長いため息をつくように目を伏せ、こう続けた。
「僕の両頬をチーズのようにぎゅっと引き伸ばして、僕の鼻先にキスしてくれた。その後、『二度と顔を見せないで』と言われたっきり、もう会いに来なかった。」
シアナはラシードに対して、一度放った言葉を引きずったことなどなかったが、少なくとも彼を探しに行くことはなかった。
しかし、それだけが理由ではなかった。
チュチュやグレイス皇女の件で心が忙殺され、精神を保つことも精一杯だったのだ。
だが、それでもラシードに会いに行く理由はまったくなかった。
しかしラシードは、どうしても納得できないような顔で静かに言った。
「先に僕を拒絶したのは君だろう。ひどいな。」
「……!」
息を飲むほど美しい男が目を伏せ、唇をつり上げる表情とは。
まるで気高い猫が牙を見せるような、誘惑されているかのような雰囲気だった。
『ああああ、なんで私にこんなことをするんですか!』
シアナは、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして目をそらした。
ラシードはその様子を見てクスクス笑った。
『かわいいな。』
心の中で彼女を抱きしめてそのまま胸にしまい込みたくなる。
柔らかそうな頬に触れるのも、また良い気分だろうと感じながら。
『しかし、そんなことをしたらシアナが私を軽蔑するだろう。』
ラシードはそれを望まなかった。
だからこそラシードは、自分の欲望を抑えながら手に持った袋を軽く振った。
「まだ仕事が残っているのか。手伝わないとな。」
皇太子が侍女の仕事を手伝うなんて。
常識ではあり得ない話だった。
普段のシアナなら決してそれを許さなかっただろう。
しかし今のシアナは何も言わないことにした。
『さっきのことで困らせることがなかっただけでも感謝するべきだ。』
シアナは小さくため息をついて答えた。
「ご厚意に感謝いたします。」
ラシードはにっこりと微笑んだ。
シアナがひと袋持ち上げるのも難しそうにしていたものを、軽々と持ち上げ運ぶラシードを見て、シアナは目を見開いた。
『上品な顔立ちと優雅な態度、それに見合わないこの力……。』
ラシードが長い間戦場を駆け巡り、大陸中を震え上がらせた剣士であることは知っていた。
だから彼の力が凄まじいのは当然だ。
それでも、シアナはラシードにこんな力があることを忘れていた。
『普段はあまりに穏やかで優しいのだから。』
さらに、彼は柔らかい服を身につけ、たくましい体つきが全く目立たないようになっていた。
その服は有名な芸術家が作った彫刻のように美しく洗練されて見えた。
しばらくして、シアナの頭上から透き通った声が聞こえた。
「何をしているのか聞いてもいいかな、シアナ?」
その瞬間、シアナは自分の手がラシードの腕を指で軽く突いていることに気付いた。
『わあ、これって一体何なの!?』
自分でも気づかないうちにしてしまった行動だった。
「す、すみません。私も気づかず……」
シアナは目をきつく閉じ、正直に言った。
「こんなに力が強いのを見ると、服に隠れた腕の筋肉がどれだけしっかりしているのか気になってしまったんです。申し訳ありません。」
その驚きの発言にラシードは目を丸くした。
そして、彼はクスッと笑いながら優しい目でシアナを見つめた。
「僕の腕がどれだけしっかりしているのか知りたいのか?」
「そ、それは……」
「知りたいなら見せてあげるよ。」
シアナが何かを言おうとするより早く、ラシードは袖をまくり上げた。
その瞬間、白い服の中に隠されていた逞しい腕が現れた。
シアナは目を大きく見開いた。
ラシードの腕の筋肉は予想以上にしっかりしていた。
盛り上がった筋肉が無駄なく固く整った形をしていた。
呆然とラシードの腕を見上げていたシアナは思わずつぶやいた。
「わあ、羨ましい。」
「……。」
一瞬、ラシードの口元が微かに動いた。
その変化に気づかないまま、シアナは無邪気な表情で続けた。
「私の腕には筋肉が全然つかないんですよ。陛下の半分でも筋肉がついていれば、もっといろんな仕事が楽にできるのに、と思うんです。」
自身の細い腕とラシードの逞しい腕を交互に見比べるシアナの表情は、とても寂しげだった。
「ふっ。」
結局、ラシードは笑いをこらえきれず、思わず吹き出した。
クスクスと笑うラシードを見て、シアナは不思議そうにその顔を見つめた。
「私の言ったことがそんなにおかしいですか?」
「まさか、そんなはずが。」
ラシードはシアナが本気であることを理解している。
しかし、彼女の丸みを帯びた可愛らしい顔の下に筋肉質な体が付いているところを想像すると、自然と笑みがこぼれた。
『丸顔にクマの体が付いている感じだろうか。それもそれで可愛いけど……。』
ラシードは柔らかい表情で言った。
「今のままがいいよ。」
「……。」
「小さくて、ふわふわしてるから。抱きしめるのにちょうどいい。」
シアナの顔が少し赤く染まった。
「それって、聞きようによっては誤解を招くようなことをおっしゃってますね。私を一度も抱きしめたこともないのに、どうしてそんなにわかったような口ぶりなんですか?」
シアナの言葉に、ラシードは両手を横に広げて軽くすくめた。
「それでは、今手伝っていただけますか?」
シアナは口を開き、ラシードを見つめながら一歩近づく。
そして、彼の両手に無造作に重たい袋を載せた。
「純粋な侍女をからかわずに、仕事を手伝ってくださいませんか。」
「……。」
からかっているわけではない。
本気なのだけど。
ラシードは困惑した表情を浮かべながら口を引き結んだ。








