こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

151話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑤
私はリューディガーの記憶を呼び起こすため、過去の出来事を思い出させる工夫を凝らした。
家の中では一緒に過ごす時間が多くなり、どんな些細な手がかりでも見逃さないよう努めた。
イサベラやヘザー夫人でさえも、リューディガーの記憶を取り戻そうと手伝ってくれた結果、私はほぼ毎日、彼と一緒にいる時間が増えた。
「その時、リューディガーさんが指輪を外した時、みんな驚いていましたよね。」
「そうでしたか?もしかして、今もその指輪をつけていますか?」
そう言いながらリューディガーは私の手に手を伸ばした。
彼の親しみある手の感触に、私の指先は自然と微かに震えた。
なんとなく居心地が悪かった。
「ええ、そうです。当時の婚約発表は新聞にも載りました。覚えていますか?」
私はリューディガーにその時の新聞の一面を見せた。
セピア調の当時の状況を振り返ってみても、まるで宮廷の連絡会のような信じがたい大混乱だった。
ルカがなぜそんな情報を集めたのか不思議だったが、非難されるのを恐れることもなく、記憶を丹念に積み上げていく姿勢には驚かされた。
まさかこれほどの意義があるとは思わなかった。
私はためていた別の新聞を取り出して、昔の話を続けた。
「それとこれも……これはリューディガーさんが私に求婚するために他の人々を圧倒しようと掲載した全面広告です。もっと正確には、王様を出し抜くためだったみたいですが。」
「私が雑誌に広告を出したとおっしゃるんですか?」
リューディガーがまるで信じられないと言いたげに問い返した。
そんな彼に思い返すと、初めのころの彼は雑誌に非常に興味を持っていた記憶がよみがえった。
多少、過去に執着することなく、必要ならば雑誌を活用する姿勢を見せていた。
「必要であれば何でも使うというのに、少しの迷いも感じさせなかった。あの時のあなたの姿勢を思い出すと、驚かされます。」
私はそう感じつつも、彼の記憶を呼び戻すためには、関連する断片的な情報をすべて掘り起こした。
ただ、リューディガーの頭の中には新しいデータベースが加わるだけで、まだ記憶そのものが完全に戻る気配はなかった。
思い出がぎっしり詰まっているものの、過去の記憶が甦ることはなかった。
記憶が戻らないと不安になるのが普通だと思われるが、リューディガーは特に取り乱すことなく、落ち着いた態度を見せていた。
むしろ彼は必要以上に冷静で、記憶喪失そのものを信じていないようにさえ見えた。
そして彼は、そんな私の努力を控えるよう諭してきた。
「私の記憶を取り戻すために、そこまでしなくてもいいですよ、ユディットさん。」
「でも、全部私のせいですから……。本当にごめんなさい。」
「謝らないでください。私は本当に大丈夫です。」
「それでも……。」
「急いで記憶を取り戻す必要もありません。仕事に関しては私が記録に残してきましたし、家庭に関しても引き継げば済む話です。あなたとの思い出を忘れたのは確かに残念ですが……。その埋め合わせをするために、この瞬間を無駄にしたくないのです。」
リューディガー本人がそう言うのだから、私としてもそれを受け入れるしかなかった。
記憶喪失に対しても動揺せず、生まれつき落ち着いているリューディガーであっても、全く表情を見せないわけではなかった。
「ユディットさんは、私の外見が気に入って結婚を決めたとおっしゃいましたよね?」
「え? ええ、そうです。」
「今はどうですか? もう歳を取って、少しは変わったんじゃないですか?」
「今でも美しいですよ。」
記憶を失う前とまったく同じ質問をしてくるリューディガーを見て、ああ、この人は簡単に変わらないのだと気づかされた。
その瞬間、私はふと、リューディガーの記憶が戻らなくても、このままでいいのではないかと思った。
『現実に順応するというよりは、諦めに近い気もするけど……リューディガー本人の性格はそのままだったから、結局のところ関係ないのでは?』
だが、それは私の思い違いだった。
現実の壁に阻まれた私が一時的に立ち止まり、戸惑っている間に、そのまま静かに彼の記憶喪失を受け入れていたに過ぎなかった。
それをしてはならないと決意せざるを得ない出来事が起こった。
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「奥様!」
幼い少女がすすり泣きながら私のところへ駆け寄ってきた。
今日の予定を確認していたローラは、泣いている少女に厳しい顔つきで近づいた。
「ベス、泣きながら急いで奥様を探しに来るなんてどういうこと?奥様がどんなに優しくしてくれる人でも、そんなことをしてはいけないよ……。」
「そんなに怒らないで、ローラ。さあ、どうしたの、ベス?何があったの?」
私が優しい声でなだめると、ベスは泣きじゃくり始めた。
最初は小さな癇癪のように思われたが、次第に本当に大きな何かが起きたような様子に変わっていった。
「じゅ、准将が……。」
「リューディガーさんがどうしたの?」
一瞬の静寂の後、突然思いがけないタイミングでリューディガーが姿を現した。
予想だにしなかった彼の登場に私は驚きつつも、厳しい表情を崩さず、ベスが続きを話すのを待った。
ローラがベスにハンカチを差し出した。
すすり泣いていたベスがそれを受け取り、鼻をかんだ。
まだ鼻声のベスがすすり泣きながら話し始めた。
「准将が私に辞めろって言ったんです……。」
「辞めろって?どうして?」
「私にもわかりません。何も悪いことをしたわけでもないし、ただ部屋を掃除していて准将が入ってきたので、天気が良いですねって挨拶しただけなのに……。」
ベスは途切れ途切れに話し、声には戸惑いと涙が混じっていた。
言葉にならない動揺が伝わってくるようだった。
話を聞いていたローラが驚きの声を上げた。
「昔の准将だ……。」
そうだ。
忘れていたリューディガーの冷徹さが垣間見えた瞬間だった。
だが、今は何よりも泣いているベスを慰めることが先決だ。
私は柔らかい声でベスを安心させた。
「……大丈夫よ、ベス。私がリューディガーさんに話してくるわ。辞めろという話は取り消しよ。今日はゆっくり休んで。ローラ、厨房の方に伝えて、ベスに温かいスープを持ってきてもらえる?」
「はい、わかりました。はあ、本当に一体何が起きたんでしょう。」
ローラはため息をつきながらベスを連れて部屋を出ていった。
ベスを気遣うローラの声が閉じる扉越しにかすかに聞こえてきた。
「奥様がきっと全部解決してくださるわ。君も知ってるでしょう。准将がどんなに頑固でも、奥様が一言いえば収まるって。」
「それはそうだけど……准将があんな態度を見せるのは初めて見ました。私、もしかしたら気づかないうちにとんでもない失態をやらかしてしまったんじゃないかしら?」
「ああ、それとね、君がここに来てまだそんなに経ってないでしょう。心配しなくて大丈夫よ。断言できるけど、君は何も悪くないわ。准将は元々短気なところがあった……いや、むしろ頑固と言うべきかしら。」
か細かった声がだんだんと遠のいていった。
私はその場に一人残され、安堵の息を深くついた。
『そうか。記憶を失ったというのは……あの間に変わったことすら、すべて元に戻ってしまったということか。』
ここまで築き上げてきたものが、すべて消え去ってしまったという事実が胸に重くのしかかった。
思った以上に頭が混乱していた。
一体どこから手を付けるべきなのか、途方に暮れるような気分だった。
『とにかく……リューディガーに一言言わなきゃいけない。あの人が何かしら言えば、他の使用人たちも落ち着くはずだ。』
しかし、そう思い立った瞬間にはもう遅かった。
リューディガーに何かを伝えようと立ち上がろうとした矢先、突然私の部屋に使用人たちが慌ただしく駆け込んできたのだ。
「奥様!」
「奥様、准将が……!」
次々と押し寄せてくる使用人たちの姿を目の当たりにし、私は深い息をついた。








