こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

72話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 誕生日パーティー④
こうして、皇宮の楽団による演奏が終わった後、フィローメルと招待客たちは舟遊びをするため湖へ向かった。
フィローメルの遊覧船は、子どもたちの間で特に人気があった。
「私が乗ります!」
「私も!」
「私が先に席を取ったんです!」
「じゃあ、私は譲ります。もう一人乗せてください。」
「ダメです、フィローメル様!」
「行かないでください!」
皆が一緒に乗りたがって混乱していたため、フィローメルは自分だけ別の船に乗ると言ったのだが、誰もそれを許さなかった。
舟遊びを終え、一行が南宮へ戻った頃には、すでに夕暮れ時で空が薄暗くなっていた。
こうして準備された宴の予定はすべて終了した。
フィローメルの誕生日宴は、無事成功裏に終わった。
『途中で予想外の出来事もあったけれど……。終わりよければすべてよし、という言葉もあるし。』
フィローメルは前向きに考えることにした。
帰る時間になると、メリンダは名残惜しそうに帰りたくないと駄々をこねた。
「残念です。もっといたかったのに。」
「それなら、夕食を食べてから帰りませんか?」
フィローメルの提案に、彼女の顔がぱっと明るくなった。
「本当ですか?でも、ご迷惑じゃないですか?」
「もちろんです。」
「わぁ、嬉しい! 食べて帰ります!」
数人の子どもたちも夕食に参加した。
半数は帰宅し、残りの半数は南宮で食事をした。
ナサールは当然のように残った。
食事の後、みんなで宙遊び(空中遊び)を楽しんだ。
侍女が退屈しのぎにと持ってきた遊び道具が、思いのほか活躍した。
酒宴の遊びまで終えた頃には、すでに夕暮れになっていた。
フィローメルは、帰っていく人々を見送るために外へ出た。
「今日は本当に楽しかった。こんなに楽しく過ごしたのは、生まれて初めてかもしれない。」
『不思議ね。少し前までは、自分の人生はただ不幸なものだと思っていたのに……。』
彼女の不幸は、一度は逃げ出したものの再び捕らえられ、この場所に戻ってきたときに、決定的になった。
フィローメルは、闇に包まれた宮殿の風景を見つめた。
美しい監獄。
その間、皇宮は彼女にとって監獄と変わりなかった。
いつかは脱出しなければならない場所だと思い込んでいたため、愛着を持つことができなかった。
しかし、皮肉にも彼女が最も幸福感に浸った場所もまた、皇宮だった。
その時だった。
誰かが叫んだ。
「流星群だ!」
南宮の入宮道を歩いていた人々が空を見上げた。
「わぁ!」
「きれい。」
感嘆の声がこぼれた。
夜空には何十、何百という星が降り注いでいた。
フィローメルは立ち止まり、ぼんやりとその光景を見上げた。
星が一つ一つ軌跡を描きながら、地平線の向こうへと消えていく。
『美しい。』
胸の奥から、純粋な感動が込み上げてきた。
まるで星々が、自分の人生で最も幸せな日を祝福してくれているようだった。
まさに運命的な偶然としか言いようがない……。
うん?偶然?
『まさか、そんなはずない。ありえないよね?』
フィローメルは、なぜか背筋に冷たいものを感じ、振り返った。
「にゃあ。」
猫が、いつものように誇らしげな姿で立っていた。
涙がこぼれた。
まさかの奇跡が起こったのだ。
後になって分かったことだが、流星雨もルグィーン幻影魔法だったという。
フィローメルは、王宮の子どもたちや他の人々の記憶と食い違いが生じて混乱が起きるのではないかと心配したが、ルグィーンはあっけらかんと答えた。
「首都全域に流星雨を見せるための広域幻影魔法だから、問題ないよ。」
これ以上、深く追求するのも無駄かもしれない。
フィローメルは気にしないことにした。
もし誰かが異変に気づいたとしても、まさか魔法使いがたった一人の誕生日を祝うために仕掛けたものだとは思わないだろう。
フィローメルはルグィーンの奇行を、ほんの少しだけ許すことにした。
どうにかやり過ごす術を覚えた。
まあ、それはまた後の話として——。
今、この瞬間、フィローメルは美しい流星群を見つめていた。
幻だとわかっていても、美しかった。
むしろ、自分だけのために降る流星群だと思うと、なおさら美しく感じられた。
「フィローメル様。」
声に気づいて振り返ると、ナサールがすぐそばにいた。
流星群に見入っていたせいで、彼が近づいていたことにも気づかなかった。
ナサールは静かに言った。
「本当に美しいですね。」
夜の静寂の中、心地よい低い声が響いた。
そして夜空を見つめていた
赤い瞳が、フィローメルへと向けられた。
「貴方を崇拝しています。」
その瞳の奥にも、星が流れているかのような錯覚を覚えた。
美しい夜だった。
・
・
・
夜の闇の中で、ポルラン伯爵が問いかけた。
「陛下、久しくお会いになられておりませんが、気にはなりませんか?」
南宮を見下ろしていた皇帝が、一言だけ返した。
「必要ない。」
馬車に乗るために正門へ向かう人々の列が、遠くに見えた。
「今のあの子には、私の贈り物は必要なさそうだな。」
彼は伯爵が持っていた箱を受け取り、蓋を開けた。
真珠がちりばめられたティアラが、気品のある姿を現した。
中央に飾られた青い宝石が、威厳を放ちながら輝いていた。
「もしあの子なら、きっとすでに別の贈り物をもらっていて、こんなもの受け取れないと言うだろうな。」
ポルラン伯爵は慎重に言葉を選びながら、ため息をついた。
「とはいえ、陛下はお見えになりませんでしたね。贈り物を渡せなくとも、せめてフィローメル様のお顔だけでも見ていかれてはいかがでしょうか。」
「時間が随分と遅くなったな。」
政務会議が長引いたようだった。
「そして……」
皇帝の口元に、自嘲気味の笑みが浮かんだ。
「こんな良い日に、私の顔を見たのだから、それだけで気分が悪くなることはないだろう?」
・
・
・
『貴方を崇拝しています。』
窓から差し込む陽光に目覚めたフィローメルは、まばたきをした。
『夢じゃなかったんだ。』
彼女は眠気に包まれたぼんやりとした頭で、昨夜のことを思い出した。
昨夜、フィローメルはナサールに告白された。
『すぐに答えを求めているわけではありません。ただ……今、この瞬間に言葉にしなければ、もう耐えられない気がして……。』
彼は告白した後、それ以上何も言わず、馬車に乗って家へ帰っていった。
普段はどこか落ち着きのない表情をしているのに、その時の彼は驚くほど静かで穏やかだった。
妙に現実味のない気がした。
『彼がしきりに顔を赤らめていたのは、やはり顔面紅潮症ではなかったのか。』
やはりナサールは私のことを好きだったのね。
実は、気づいていた。
ある瞬間から『もしかして?』と考えるようになったのだ。
気づいたのは、〈皇女エレンシア〉とは違い、ナサールがエレンシアを好いていないと感じた時から。
それまでは、ナサールの見せる好意が婚約者としての義務感や、友人としての友情から来るものだと思っていた。
時には、単なる義務感や友情にしては、行き過ぎているとも思ったけれど……。
フィローメルの人生の真理だった〈皇女エレンシア〉が、まさか違うとは思わなかった。
気づいた後は知らないふりをした。
いつナサールがエレンシアに惹かれたのか分からないと思ったこともあったし、たとえそうでなくても、フィローメルにとってナサールは「エレンシアの男」という認識が強すぎた。
それに、自分にはそれ以外にも気にしなければならないことが多かった。
本の真実、エレンシア、ユースティス、ルキン、エレミヤ、その他いろいろ……。
さらには、ロザンヌでさえもナサールよりフィローメルの頭の中で大きな割合を占めていた。
フィローメルを緊張させる彼らの中で、ナサールは……何と呼べばいいのだろう?
一緒にいるとあまり複雑なことを考えなくてもよくなる、気楽な存在だった。
「今はそんなナサールが一番気に障るけれど。」
フィローメルは、机の上に置かれた花束を見つめた。
新しいフィローメルの花。
「いずれはっきりと気持ちを表すんじゃないかとは思っていたけれど。」
彼女のぼんやりとした疑念が確信に変わったのは、昨日、誕生日プレゼントとして彼からこの花を受け取った瞬間だった。
ユティナでは夜の間しか咲かない花の品種改良をするなんて。
並々ならぬ忍耐力がなければできることではない。
人に頼んだとしても、かかる費用は途方もないものだった。
『そんなものを誕生日プレゼントにするのに、どうして気づかないなんてことがあるの?』
フィローメルが知らなかったのは、彼がその日に告白しようとしていたことだった。
「好きです。」や「愛しています。」でもなく、「敬っています。」という、やけに重い告白。
彼女は両腕で自分の頭を抱え込んだ。
「どうにかしないと。」
フィローメルは彼の想いを受け入れることができなかった。
ナサールはすぐに返事をしなくてもいいと言ったが、彼に無意味な希望を抱かせ続けるわけにはいかなかった。
「よし、断ろう。できるだけ傷つけないように。」
しかし、その前に片付けなければならないことがあった。
フィローメルは食事を終え、会話を締めくくった後、南宮を出た。
目的地は皇帝宮。
すぐにユースティスに会いに行かなければならなかった。









