こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

81話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 外伝
食品管理室。
ある夜、ひとり倉庫の物品を確認していたシアナは、ウサギのように敏感な耳で音を聞きつけた。
シアナは勢いよく振り返った。
予想通り、そこにはこの場所とは全く不釣り合いな男が立っていた。
ラシードだった。
シアナは眉をひそめた。
また来たの、また!
少し前、食品管理室に入ってきたラシードは、その後も何かと理由をつけてここに現れるようになった。
話はこうして始まった。
「倉庫に美味しそうに吊り下げられているドライフルーツが食べたくて。」
「新しい食材が何なのか気になって。」
「小動物たちのおやつを手に入れるために。」
まるで特に急ぐ理由もない人間が、近所の商店を冷やかしに訪れるような言い訳だ。
しかしラシードは、たった一つを目当てに来るわけではなかった。
それは明らかだった。
宮中のすべての人々が注目している中で――。
ラシードが一度や二度ではなく頻繁にここに出入りしていることが知られたら、どんな噂が広まるかわからない。
それに加えて、一緒にいたシアナまで巻き込まれることになる。
「本当にそんな疑惑に巻き込まれるなんて、ありえませんよ!」
シアナは眉をひそめながらラシードを見つめた。
困惑した表情を浮かべるシアナの顔に、ラシードは親しみを込めた笑みを浮かべた。
ラシードは小動物を慰めるような優しい口調で言った。
「心配しないで、シアナ。僕はこの宮殿の皇太子だよ。宮殿で起きていることは何でも知ることができるし、逆に何でも隠すこともできる。」
その言葉が終わるや否や、ラシードの後ろにいた護衛騎士のソルが顔を覗かせながら言った。
「その通りです。誰にも知れ渡らないように、きちんと対処しましたから心配無用です。」
晴れやかな笑みを浮かべる美しい皇太子と、髪先まで鍛えられたかのような屈強な護衛騎士。
信じられない二人ではあるが、その言葉に嘘はなかった。
『宮殿でこんなに頻繁に食品管理室に来ているのに、全く噂が出ないなんて。侍女たちも何も気づかないなんて不思議だ。』
一体どんな手を使ったのかは分からないが、ここに来たことが徹底的に秘密にされたようだった。
『幸いね。帝政ではないけれど、それを隠す必要がある理由はあるから。』
シアナは小さく息を吐きながら肩の力を抜いた。
しばらくして護衛騎士のソルは、周囲を警戒する必要があると言いながら倉庫を出て行き、ラシードだけがぽつんと残った。
「今日はまたどんな用件でいらっしゃったのですか?」
シアナの問いに、ラシードは瞳を細めて微笑みながら答えた。
「歩いているうちに喉が渇いたから来たんだ。」
まるでいつものように簡単な理由だった。
しかし、どうしようもない。
相手は皇太子、こちらは侍女だ。
喉が渇いているのなら迅速に水を差し出すのが侍女の務めだ。
シアナは控えめな笑みを浮かべながら言った。
「どのような飲み物をお持ちすればよろしいでしょうか?」
ラシードの顔が明るくなった。
まるで入場を許された特別な客のような表情だ。
どんなお茶を淹れればいいのか考えていると、ラシードの口から突然くしゃみの音が漏れた。
「ハクション!」
「……。」
シアナは目を丸くしてラシードを見つめた。
ラシード自身も自分のくしゃみが予想外だったのか、目を瞬かせていた。
食品管理室には数多くの食材があるため、粉が舞うことがよくあった。
だからここで働いているときにくしゃみが出ることも時々あった。
だが……。
「ハクション!」
再び大きなくしゃみの音が響いた瞬間、シアナは眉をひそめた。
『まさか……。』
シアナは素早く状況を察知した。
まるで草食動物が生き延びるために小さな音さえも逃さず敏感に反応するように。
わずかな異変を感じ取ったシアナは尋ねた。
「もしかして単に喉が渇いているだけではなく、喉の奥がひりひり痛んだりしていませんか?」
ラシードは喉を軽く触った。
「唇も乾いていません。」
今回もラシードは喉を軽く触った。
シアナは確信した表情で手を伸ばし、ラシードの額に触れた。
手のひらに伝わるラシードの熱が、はっきりと熱を帯びていた。
「風邪の兆候があるじゃないですか!」
「……?」
シアナの指摘に、ラシードは落ち着いた表情で応じた。
まるでそれが何の問題でもないかのように。
シアナは呆れるしかなかった。
「今、私の話を聞きましたよね?」
「うん。」
「風邪なんですよ。暇な人みたいにここでぶらぶらしている場合じゃなくて、ベッドでしっかり休むべきです。」
しかし、真剣なシアナの言葉とは裏腹に、ラシードは淡々とした表情で答えた。
「俺は13歳のときから戦場で生きてきたんだ。敵の剣で皮膚が裂けることもあったし、馬車から転げ落ちて骨が折れる日もあった。毒矢を受けて内臓がひっくり返りそうになって死にかけたこともあるんだ。」
美しい顔から放たれた衝撃的な言葉に、シアナの顔が引きつった。
「それで?」
「それに比べれば、こんなのは何でもないさ。ただ通り過ぎた微風みたいなものだよ。」
要するに、命の危険が常にあった戦場に比べれば、風邪くらい気にする必要はないということだ。
シアナはその言葉に呆れる代わりに、冷静に見つめるだけだった。
シアナは言葉を詰まらせた。
「どこからそんな無茶苦茶な理屈を……。」
「……。」
「もし道端の木の下に毒があって、それを口にしたらどうしますか?それだって命を奪う毒物なんですよ。」
「……。」
「大したことがなさそうに見えても、慎重にならないといけません。病気がどう広がるか分からないんですから。」
「だから早くお帰りください。」そう言おうとしたが、シアナは考え直した。
目の前の男がにこにこ笑いながら、話を聞いているふりをしていても、実際にはおかしな状況では頑なに従わないことを彼女はよく知っていたからだ。
「宮殿までお送りします。」
「……!」
やはり予想通りだった。
ラシードは嫌だと言う代わりに、穏やかに笑いながら喉を軽く触った。
彼はシアナの後ろをちょこちょこついてきた。
まるで主人に従う子犬のように。
そして、そんなラシードの後ろを護衛騎士ソルがついてきた。
シアナはこの奇妙な光景を誰にも見られないことを願った。どうか、頼むから。
シアナはラシードを連れて、無事に皇太子の私室に到着した。
「では、早く部屋に入ってたっぷり休んでください。私はこれで失礼します。」
礼儀正しくお辞儀をして身を翻そうとしたところ、ラシードがシアナの服の裾を掴んだ。
「シアナ、さっきよりも喉が痛い気がする。体も熱くなったみたいだ。」
それをなぜ私に言うんですか。
前の宮殿にも侍女がいるじゃないですか。
その人たちにお願いすればいいでしょう。
そう言いたかった。
だが、その言葉を口にするにはラシードの瞳があまりにも純粋だった。
まるで主人に見捨てられたくない病気の犬のように、しがみつくラシード。
『はあ、あんな目で見られたら、どうしても断れないじゃない。』
結局、シアナは腕に余裕のない皇太子の看病を引き受けることになった。
シアナはラシードとともに寝室に入る。
木々や花が茂る応接室には何度も行ったことがあったが、ラシードの寝室に入るのは初めてだった。
シアナは目を大きく見開いた。
その部屋は、さすが皇太子の寝室だけあって、とても広々としていた。
しかし……。
『こんなにもがらんとしているなんて。』
広々とした部屋には、大きなベッドと上品なカーペット、そしていくつかの家具しかなかった。
まるで、皇宮に一時的に滞在している他国の王子の部屋のようだった。
シアナは複雑な表情を浮かべながら、広い部屋を見渡した。
「どうしたの?」
ラシードの声にシアナは我に返り、答えた。
「何でもありません。一旦ベッドに横になってください。」
「ベッド」という言葉に、ラシードは目を細めた。
なぜか不満げな表情を見せたラシードに対して、シアナは真剣な顔で言った。
「さっきから何度も言いましたよね。風邪を引いているのですから、しっかり休まないといけません。」
「……。」
「体調が悪くないのなら、私はこれで帰ります……。」
「ハクション。」
タイミングよくくしゃみをしたラシードは、素早くベッドの中に潜り込んだ。
『僕は患者です。とても具合の悪い患者です。』と言わんばかりの目で。
ラシードがきちんと横になったことを確認したシアナは、せわしなく動き始めた。
彼女が持ってきたのは、湯気が立ち上る温かい飲み物だった。
「蜂蜜と生姜を加えたホットミルクです。一杯飲めば喉が楽になると思います。」
「……。」
ラシードはシアナをじっと見つめた後、ゆっくりとカップを受け取った。
一口飲んだラシードは、目を閉じて満足げに息を吐いた。
少し熱が上がって赤らんだ顔で言った。
「やっぱり君が用意してくれるものは、どれも美味しいね。」
「……。」
シアナは一瞬、何も言葉が出てこなかった。
『どうしてこんなことが……?』
13歳の頃から戦場を駆け巡ったという男が。
数えきれない命を奪ってきたという殺戮者が。
皇位を巡る権力闘争の渦中にいるというその男が。
皇太子が。
『どうしてあんな子供のような笑みを浮かべることができるのだろう。』
公主として生まれ、侍女となった今まで、シアナは数多くの人々を見てきた。
しかし、ラシードのような人物は初めてだった。
シアナは眉をひそめながら言った。
「本当に奇妙な方ですね。」
侍女がうっかり皇太子に無礼なことを言っても、ラシードは怒らなかった。
まるで何もなかったかのように、柔らかな笑みを浮かべていた。
そして、優しく瞳を細めながら喉を軽く撫でた。
「なるほど。僕は奇妙な男なんだな。」
「……。」
「奇妙な男はどうだい?」
「……?」
「君の好みかな?」
「……?」
「それならいいんだけど。」
「……!」
ラシードの言葉の意味を悟ったシアナの顔が一気に真っ赤になった。
純粋な侍女にこんなに挑発的なことを言うなんて。
明らかにからかっているのだった!
しかし、シアナは簡単にその意図を口に出せなかった。
なぜなら、その意図を悟るには、少しカールした銀髪と、その間から覗く鮮やかな紫色の瞳が、どうしようもないほど美しいからだった。
『この顔が問題なんだわ!』
シアナは「くっ」と小さく声を漏らしながら目をぎゅっと閉じ、再び開いてから言った。
「奇妙な言葉を次々と並べておっしゃるところを見ると、思った以上に体調が悪いみたいですね。早く横になったほうがいいですよ。」
ラシードがさらに変なことを言い出す前に、シアナは毛布を胸元まで引き上げてかけ直した。
余計なことは考えず、早く寝るべきだと言わんばかり。
毛布の中に顔を埋めたラシードは、顔だけを少し覗かせて微笑みながら言った。
「風邪を引いてラッキーだよ。そのおかげで君にこんな看病をしてもらえるんだから。」
心から嬉しそうな声に、シアナは眉をひそめた。
月が照らすほど美しい皇太子のその笑顔は、どうにも理解できないものだった。
そしてシアナは知らなかった。
それが、ただ一人の小さな侍女が目の前にいるからこその笑顔だということを。







