こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

77話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 妖精の羽根布
フィローメルとナサールの婚約破棄のニュースが広まった。
実際、多くの人々が予想していた結末だったため、それほど大きな話題にはならなかった。
皇帝と公爵ができるだけ静かに事を進めたことも影響していた。
国賓館の寝室、ベッドに横たわっていたフィローメルは突然跳ね起きた。
「このままでいられるわけがない!」
彼女は自分の両頬を軽く叩いた。
ナサールはナサールであり、彼女には彼女がすべきことがあった。
本の真実を解明すること。
そして、これはエレンシアの秘密を暴くことと深く関連しているようだった。
「うーん、そもそもエレンシアはどうやってその薬を手に入れたのだろう?」
カーディンによると、レモネードの味がする知能向上の霊薬。
市場で売られている商品だというルグィーンの推測とは異なり、そんな霊薬を取り扱う場所はまだ見つかっていないという。
闇の取引ルートまで徹底的に洗ったのに、だ。
では、魔法使いが個人的に調合した薬だろうか?
しかし、それも正解とは言い難いようだ。
宮廷にいるエレンシアが接触できる魔法使いといえば、せいぜい宮廷魔法使い程度だった。
『だけど、レクシオンがこっそりと他の宮廷魔法使いたちの研究室を調べた結果、そんな薬を作った形跡はなかったと言っていたから……』
エミリーから聞いた情報も特に目新しいものはなかった。
最近、エレンシアはこれまで学べなかった知識を身につけるため、学業に没頭しているという。
学業の成果はまちまちで、時には天才のように抜きん出ることもあれば、ただの凡才で終わることもあった。
「まあ、原因は薬の持続時間のせいだろう。」
最初の薬を完全に飲み干したのに、エレンシアは次々と別の霊薬を飲んでいた。
最初からいくつかを持っていたのか、あるいは継続的に供給を受けているのかは分からなかった。
しかし、奇妙なことにエレンシアのそばに常に付き添っているエミリーの言葉によると、どちらもありえなそうに見えた。
大量の霊薬を密かに保管する場所もないし、他の誰かから定期的に受け取れるような素振りもまったく見られなかったのだ。
考えれば考えるほど混乱するばかりのフィローメルは、困惑した表情で呟いた。
「……いや、霊薬が空からぽんっと降ってくるわけでもあるまいし?」
その霊薬については、本当に疑問しか残らなかった。
「心配しないでください。私が必ずもう一度、徹底的に調べてみます!」
エミリーはそれとなく探りを入れたが、一度毒を盛られたせいか、エレンシアの警戒心が強くなり、隙を見せることはなかった。
正直なところ、権力者の助けを借りてエレンシアの部屋に監視や盗聴の魔法具を設置したい気持ちだったが、発覚すれば国家的な問題になりかねなかった。
髪をくしゃくしゃにかき乱したフィロメールが叫んだ。
「そうだ!まずは薬に関する記録を集めよう!」
今は別の角度から情報を探るしかない。
エレンシア本人から情報が得られないなら、彼女をよく知る人物に話を聞けばいい。
当然、エレンシアを最もよく知る人物といえば、彼女を十数年間育ててきたカトリーヌだった。
「エレンは変わった。」
そして、フィローメルにエレンシアへの疑念を抱かせたのもカトリーヌだった。
皇宮の監獄にいたカトリーヌは、現在別の場所に移送されたらしい。
ポルラン伯爵によると、まもなく正式な面会も可能になるという。
フィローメルはカトリーヌに会い、エレンシアが具体的にどのように、いつ、何の理由で変わったのかを尋ねるつもりだった。
ところが、カトリーヌの名前は全く予想外の場所から聞こえてきたのだった。
フィローメルがカトリーヌとの面会がいつ可能になるのかを伯爵に尋ねに行こうとしたとき、侍女が訪問者の到着を知らせた。
「ウィリアム・ハウンズという方が、フィローメル様にお会いしたいそうです。」
ウィリアム・ハウンズ?
ハウンズといえば、カトリーヌの姓だった。
カトリーヌの家族なのか。
「中にお通ししましょうか?」
フィローメルはしばらく考えた後、顎に手を当てた。
カトリーヌの家族がなぜここに来たのか気になる。
カトリーヌは牢獄から出され、より良い環境へと移されたとはいえ、彼女は依然として大逆罪人だった。
「結局、生きていても自由は得られないだろう。」
『カトリーヌの行方を探しに来たと言えばいいのか……。』
エレンシアを連れて故郷を離れたときから、カトリーヌはずっと行方不明の状態だった。
家族であれば、当然その行方が気になり、フィローメルを探しに来ただろう。
行方不明の状態が続けば、彼らはカトリーヌがいつか戻ってくるという希望を一生捨てられないかもしれない。
『……見つかることはないが、死んだと嘘をつくほうがまだマシか。』
しかし、ウィリアム・ハウンツという男がフィローメルを訪ねてきた理由は、彼女の幼稚な迷いとはまったく異なっていた。
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国賓館 応接室。
フィローメルの向かい側に座り、足を組んだ男が言った。
「おお、お前がカトリーヌの娘か。俺はカトリーヌの兄、ウィリアムだ。商団を運営してるんだ。」
馴れ馴れしい口調?
フィローメルは一瞬戸惑ったが、特に理解できないわけでもなかった。
カトリーヌの兄なら彼女にとっては叔父にあたる。
叔父が姪に対してくだけた口調で話すこともあるだろうが……。
『でも、ちょっと無礼すぎる!』
ウィリアムは気楽そうに応接室の内部をぐるりと見渡し、ため息をついた。
「いやあ、フィローメル。お前、ずいぶんと豪勢な暮らしをしてるんだな。」
「………」
フィローメルは無言で茶碗を口に運んだ。
ウィリアムは彼女の反応を気にせず、ひたすら言葉を続けた。
「皇室の貴賓とは。はは、我が家門からこんなに出世する者が出るとは思わなかったよ!カトリーヌの件で皇后の侍女の座を失ったとき、皇室との縁は終わったものだとばかり思っていたのに。」
フィローメルは、その皮肉めいた口調を聞きながら、激しい失望感を覚えた。
『この人……妹のことなんて、これっぽっちも気にかけていないんだ。』
とはいえ、男が話したハウンツ商団は現在、首都近くに拠点を構えているらしい。
『つまり、私に会おうと思えばもっと早く来れたということか。』
フィローメルがカトリーヌの娘であり、ここに滞在しているという情報が世間に知られてから数日が経っていた。
それなのに、ウィリアムがこのタイミングで急に宮殿を訪れた理由は、考えるまでもなかった。
自分の姪を利用するかどうか、様子を見に来たのだろう。
案の定、ウィリアムは少し間をおいてから、本題に入った。
「……それでね、叔父さんが姪に頼みたいことがあるんだ。」
「何ですか?」
「まずは、これを見てくれ。」
ウィリアムは、高級な革のカバンから何かを取り出し、フィローメルに手渡した。
柔らかい質感の心地よい感触が彼女の手に伝わる。
太陽の光を受けて美しく輝く、半透明の繊細な生地だった。
「……妖精の羽根布?」
ウィリアムは指を鳴らして「パチン!」と音を立てた。
「やはり!こういう物を見慣れているからすぐにわかるな!そうだ、これはあの有名な妖精の羽根布だよ。妖精族の羽を織り込んだ、極上の生地だ。」
彼はまるで営業員のような口ぶりで続けた。
「これでドレスを作れば、最高に素晴らしいものになるぞ。市場に出すだけでいいんだ。貴族たちが飛びつくこと間違いなしさ。」
でもそれは違法だ。
フィローメルは冷たい視線をウィリアムに向けた。
「私の知る限り、妖精の羽根を使った布の製造や取引は、帝国法で禁止されているはずですが。」
ウィリアムの表情が一瞬硬くなった。
「そ、それは!妖精たちの羽を無理やりむしり取る悪党どものせいで制定された法律だ! 俺たちの商会は、妖精たちの自主的な協力を得ているんだ!」
本当にそうなのだろうか?
フィローメルは、彼を問い詰めるのではなく、まずその理由を探ることにした。
「まあ、それはさておき。私を訪ねてきた理由は、それですか?」
「いや、頼み事はついでだ。お前が私の親戚だから会いに来たんだよ……」
「そんなことはどうでもいいです。肝心の妹については聞かないんですね。用件をどうぞ。」
彼は不機嫌になったのか、口元を歪ませて言った。
「話が早くていいな。単刀直入に言おう。妖精の羽根布の製造と流通が合法化されるよう、お前が助けてくれ。」
やはり。
「私に何の力があって法律を変えられるんです?」
「皇帝陛下に可愛がられているじゃないか。陛下によく取り入ってみろ。その法律は陛下が決めるのだから。皇帝が直接制定した法律だから、まずは彼の考えを変えないといけない。」
フィローメルはそれがよく分かっていた。
なぜなら、その法律を皇帝に提案したのは彼女自身だったからだ。
彼女は《皇女エレンシア》を通じて、すでにその布について知っていた。
物語の中で、その布を使ったドレスは大流行した。
しかし、同時に妖精族との衝突を引き起こす原因ともなった。
金に目がくらんだ人間たちが、無差別に妖精を狩るようになったのだ。
そして、その問題を解決したのが、物語の主人公エレンシアだった。
『エレンシアが未来で解決するとしても、その時にはすでに多くの妖精が犠牲になった後の話。』
だからこそ、フィローメルは事前にこの問題に関する法律を作ったのだ。
悲劇が起こらないように措置した。
その法律のせいで、ウィリアムは苛立っているようだが。
フィローメルは手に持っていた妖精の羽根布をテーブルの上に置いた。
「それならお手伝いすることはできませんね。お引き取りください。」
「な、何?なぜ!」
「私がなぜそんなことをしなければならないのですか?」
「お前も我が家門の一員ではないか!ハウンツ商団が繁盛しなければ、お前も得をするんだぞ!」
「ナンシー、お客様をお送りして。」
ウィリアムは手を振り払い、部屋の中を指しながら怒鳴った。
「お前はいつまでこんな虚勢を張るつもりだ!今は陛下も情けをかけてくれているからいいが考えてくれるだろう?」
「……」
「でも、血縁の娘が現れたとなると、どれだけありがたいことか分かるか? もうすぐ、お前は血のつながりのない奴らに捨てられる運命なんだぞ!」
「……」
「だから今のうちに、家門のために役に立て!この件がうまくいけば、俺も将来お前を見捨てたりはしない!」
フィローメルの沈黙を誤解したウィリアムは、自信ありげに続けた。
「これはお前にとっても、俺にとっても得になる話だ。お前はまだ若くて世間を知らないようだが、この世には妖精なんてものがいるんだ。」
ついに、フィローメルは口を開いた。
「ジェレミア。」
少し前から後ろで待機していたジェレミアが前に出た。
「ひぃっ…!」
彼の剣を見たウィリアムは、テーブルの上にあった布を掴み、バタバタと扉へと駆け出した。
最後に言葉を残しながら。
「お前が考える時間をやろう!また来るぞ!」









