こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

78話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 妖精の羽根布②
南宮を出たウィリアムは、苛立ちを露わにした。
「この忌々しいやつめ!」
ウィリアムは拳で机を強く叩いた。
「全く、カトリーヌのやつは昔から俺の人生に役立ったことが一度もない!」
彼は妹のことを思い出していた。
幼い頃から少しばかり賢かったせいで、父の商談に口を挟んでくる小賢しい義妹。
父もまたカトリーヌを溺愛していたため、ウィリアムは常に焦燥感を抱えていた。
このままでは、一族の財産を相続するべき長男の権利すら奪われかねない。
そうした不安から解放されたのは、妹が皇后の侍女として宮廷に入った時だった。
「お前が我が家を輝かせるのだな!」
彼らの父は喜んだ。
ウィリアムも喜んだ。
カトリーヌが皇后の紹介で立派な貴族と結婚するなら、ハウンズ家は上流社会に進出するための足場を得ることになるからだ。
貴婦人となったカトリーヌは、夫の家を守るのに忙しくなるだろうし、商会も当然彼のものになるはずだった。
それなら自分は、貴婦人になった妹の支援を受けながら、商会を発展させるだけでよかった!
しかし、ウィリアムの希望は一瞬にして打ち砕かれた。
「お父様!お兄様!……私、もうあの場所にはいられません。」
カトリーヌは突然、宮廷を離れて故郷へと戻ってきた。
なぜなら、父がいくら問い詰めてもカトリーヌは貝のように口を閉ざしたままだった。
さらには、誰か分からない男の子を身ごもったという噂まで立っていた。
すでに老いていた父は、娘を隠すために人目につかない田舎へと移住した。
実際、カトリーヌが宮廷に入った時点で、商売を大きくする計画のために父はすでに首都に居を構えていたのだった。
その日以降、ハウンズ家でカトリーヌは存在しない人間になった。
後になって消息が気になり、父が人を送ったところ、皇后が崩御した直後にカトリーヌも自害したという報告があった。
その後の消息は不明。
ウィリアムは妹のことをすっかり忘れていた。
フィローメル皇女が実はカトリーヌの娘であるという事実を知るまでは。
カトリーヌが自分の娘と皇后の娘をすり替えたというニュースを聞き、ウィリアムは驚愕した。
「それが結局、俺たちを滅ぼすための策略だったのか!」
それほどの大罪なら、家族も無事では済まないだろう。
カトリーヌと一緒に死ぬわけにはいかなかった。
「俺がどれほど苦労して商会を育てたと思っているんだ!」
彼は素早く蓄えた資金を持ち、国外へ逃亡する準備を整えた。
扉を開ける瞬間、壁の向こう側を見ることなく、彼と家族はすでに海を越えているはずだった。
「カトリーヌの娘が宮廷で貴族としてもてなされているだと?」
彼は欲望に満ちた笑みを浮かべた。
これはチャンスだった。
ハウンツ商会をさらに大きくするチャンス!
しかし、なんということか。
現在、彼はカトリーヌの娘によって捕らえられ、処罰されようとしていた。
それもまた皮肉なことだった。
「ちくしょう!厄介な鶏小屋め!」
ウィリアムは勢いのまま道端の石を蹴ったが、ここが皇宮だという事実に気付き、周囲を見回した。
冷静になった彼の顔には余裕が戻った。
「そうだ。あんなふうに騒ぐのも一瞬のこと。奴がこっちに来なければ、それで済む話だろう?」
少し考えれば、フィローメルも彼の手を取ることが長期的に自分の利益になるとわかるはずだ。
今や、王都の秩序を握る貴族派閥の一つが、ハウンズ家の支援という強固な後ろ盾を得たのだから。
そして、その厄介なものが口を開けば……
「利用価値があるうちは好き勝手に使って、用が済んだら捨てるつもりだ、フィローメル。」
ウィリアムは平然と本音を口にした。
そうだ。
彼は初めから嫌っていた妹の娘に対して、最後まで責任を持つ気など毛頭なかった。
そのときだった。
ガサガサッ。
「だ、誰だ!」
背後で聞こえた音に驚き、彼は叫んだ。
今の言葉を誰かに聞かれたのではないかと焦った。
「にゃーん。」
しかし、すぐにその音の正体がわかり、彼は安心した。
「なんだ、ただの猫じゃないか。」
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ウィリアムが去った後、応接室に留まっていたフィローメルのそばにルグィーンが近づいた。
「フィル、フィル、フィル。」
落ち着いた様子でお茶を飲んでいたフィローメルが応えた。
「はい、フィルはここにいますから、一度だけ呼んでください。」
「あそこの前で、誰かがお前の悪口を言ってたぞ。」
ウィリアム、あの人は本当に…。
ルグィーンはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ジェレミアに関する話は聞いた。お前もあんなやつは嫌いだろ?」
「まあ、好きではないですね。」
「じゃあ、俺が殺してやろうか?あんなやつ死んだほうがいいと思わない?」
「……ルグィーンは時々怖いことを言いますね。嫌いだからって殺さなきゃならないなら、この世に生き残る人はいなくなりますよ。」
「え?そうなの?」
「ルグィーンも言ってるだけですよね。ちょっと気に入らないからって、すぐに人を殺したりしないですよね?そうですよね?」
「……あ、うん。そうだよ……殺さない。もちろん。ただ言ってみただけだよ!」
どうにか返事が出るまでの間の沈黙が、神経を逆なでしていた。
それでもフィローメルは特に疑わなかった。
なぜなら、彼女の常識では、簡単に起こるはずのない出来事だったからだ。
ルグィーンは様子を伺いながら言った。
「……じゃあ、お前を罵ったやつをそのままにしておくつもりか?」
「うーん、必ずしも私を罵ったからという理由ではないですが、その人を放っておくわけにはいきません。」
「どうするつもりだ? 殴るのか?」
「……殴りません。」
顔に疑いを浮かべた親族に、フィローメルは微笑みながら言った。
「合法的に対処します。」
「どうやって?」
この質問をしたのはジェレミアだった。
フィローメルは微笑んだ。
「さっき自分で認めましたよね。違法行為をしているって。」
さらに、妖精の羽根の布という証拠まで見つかった。
彼女の頭の中に、ウィリアムが残した言葉が浮かび上がった。
『妖精たちの協力で羽根を供給されている?笑わせるな。』
そうするには、すでに死んだ妖精の羽根を使うか、妖精たちに新しい羽根が生えてくるたびに、強引に古い羽根を奪うしかない。
そんな羽根がどれほどあるというのか。
その羽根だけで相談役が妖精の羽根布の需要を満たすことはできないはずだった。
ウィリアムには明らかに裏がある仕組みが多いはずだ。
フィローメルは席を立った。
「どこへ行く?」
ルグィーンの問いに、彼女は堂々と答えた。
「善良な国民として、不法行為を告発しに行きます。」
法律の鉄槌を下すのだ。
妖精の羽根布の製造と流通は、最大で死刑まで科せられる重罪だった。
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首都、中央治安署。
商工業犯罪担当部には特別な来客がいた。
フィローメルは机をドンと叩いた。
「私、ちゃんと見ました!ウィリアム・ハウンツが妖精の羽根の布を持っているのを。」
違法商品を取り扱う調査官は冷静に答えた。
「ですが、申し訳ありませんが、その程度の情報だけではハウンツ商会を捜査することはできません。」
「どうしてですか? 妖精の羽根の布の製造と流通は犯罪ですよ。」
「その者が持っていた布が必ずしも妖精の羽根布だと断言することはできません。レディ・フィローメルが誤って受け取った可能性も……。」
「私をすぐに逮捕するおつもりですか。」
調査官は口ひげを撫でていたが、ぎくりと手を止めた。
「そ、それは違います……。妖精の羽根布を持っていたというだけでは犯罪の証拠にはなりません。」
「それで?」
「妖精の羽根布の製造と流通だけが違法であり、単なる所持は違法ではありません。」
「ですが、その人物は流通の意思を私の前で直接明言しました。製造にも関与していた可能性が高いですよ。」
「流通の意思を明かしたからといって、必ずしも流通しているとは限りません。製造者が誰なのかも不明です。こんなことでは無実の人まで捕まえてしまう可能性もありますよ。」
明らかな詭弁だ。
現在も妖精の羽根の布は闇市場で取引されていた。
犯罪者専用のルートがあるのか、帝国の管理が行き届いていないのかも分からなかった。
そんな中、有名な商会の主が自ら流通の意思を表明し、法律を変えるよう皇帝の側近に要請する?
まともな調査官なら、こんな無責任な態度を放っておくはずがなかった。
フィローメルは直感した。
こいつ、賄賂を受け取っているな。
よく考えてみると、違法行為に関与している者たちに賄賂を渡さないほうがむしろ奇妙ではないか。
自分があまりにも楽観的に考えていたことに気づいた。
むしろ、調査官は彼女をなだめ始めた。
「あまりそうしないでください。ウィリアム・ハウンズラはレディ・フィローメルと血縁関係ではありませんか?家族同士で顔を赤らめる必要はないでしょう?」
フィローメルは低い声で答えた。
「調査だけでもしてみる気はありませんか?」
「申し訳ありません。我々は人手不足のため、難しいかと思われます。」
そう言いながらも、その調査官はフィローメルが来る前、同僚たちとカードゲームをしていたのだった。
「わかりました。また後ほど伺います。」
彼女は商工業犯罪担当の部署を後にした。
その背中を見送った調査官は胸をなでおろした。
そして小さくため息をついた。
「後でまた来るって?だから何だっていうんだ。」
そう独り言を言いながらも、調査官の表情は晴れなかった。
平民に過ぎないが、あの女は皇室の貴族待遇を受けている。
「慎重に動いて損はない。」
すぐにウィリアムの元へ行き、この状況を報告しなければならなかった。
もしものために、証拠を処分し、隠してある妖精の羽根の布の在庫も別の場所へ移すよう手配しなければ。
そして、その見返りにまた金品を手に入れてカジノへ向かうのだ。
調査官が事務室を去ろうとしたときだった。
ドアが開き、フィローメルが再び姿を現した。
「ああ、またお会いすることに……。」
困惑する調査官の前で、彼女はにっこりと微笑んだ。
「また来るって言ったじゃないですか。」
すると、その背後から中央治安隊の最高隊長が現れた。
青ざめた顔で。
「レディ・フィロ^メルの発言、すべて聞きましたよ。さて……一体何をして回っているのですか?」
「え? 私が何をしたっていうんですか……?」
「有力な容疑者に関する情報を無視したのですか? それに賄賂を受け取ったという情報まで!」
「そ、それは誤解です!」
震えながら最高隊長に弁明する調査官の姿を見て、フィローメルは楽しさを感じた。
『まさか私が最前線に立つことになるとは思わなかったわ。』
彼女が中央治安隊の最高隊長を動かしたのは、ポルラン伯爵の功績が大きかった。
当初、彼ですらフィローメルの意見には懐疑的だった。
「私が知る限り、その友人はそんな人ではないのですが……」
典型的な私腹を肥やす役人だった。
しかし、フィローメルが彼の通信石を借りて皇帝の秘書官に連絡すると、態度は180度変わった。
やはり人脈は大事だ。
たとえ人脈が公的業務に影響を及ぼすのは好ましくないとしても……。
フィローメルは、自分自身に言い聞かせるように小さく呟いた。
「私は絶対に正しくしようとしたの。でも仕方なかったの。」
結局、その調査官は強い尋問の末に、ウィリアムから賄賂を受け取っていたこと、そして妖精の羽根の布の流通を見逃していたことを自白した。
その瞬間、首都のあちこちにあるハウンズ商会の小規模な建物に治安部隊が突入した。
すべての出来事は、フィローメルがウィリアムと出会ったその日に起こった。









