こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

105話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 精霊王
ハイネン様は私に魔法陣の描き方を教え、去っていった。
私は彼が去った後、ぼんやりと寝台に横たわっていた。
明け方になったら、私は精霊王を召喚するつもりだ。
それができれば、私は正式に”精霊王の召喚士”になれるだろう。
胸の奥が痛むような気がしたが、私は耐えた。
ただ、時間が過ぎるのを待っていた私の元に、再びビオンが訪れた。
「皇女殿下。」
ビオンの声に反応し、私はベッドの上でそっと身を起こした。
「……何かあったのですか?」
かすれた声で尋ねると、ビオンは一瞬、ためらうような素振りを見せた。
「お入りいただいてもよろしいでしょうか?」
「……はい。」
私は幕を少し開き、彼を迎え入れた。
ビオンが静かに中へ入ると、いつの間にか外は薄暗くなっていた。
冬だから日が短いとはいえ、朝に到着してからかなりの時間が経っていたことに気づく。
時の流れを忘れるほど、私は考え事に没頭していたのかもしれない。
ビオンの表情には、どこか困惑の色が浮かんでいた。
その顔から、私は彼が伝えたい言葉をすぐに読み取ることができた。
「……お兄様は、今度は何とおっしゃいましたか?」
「・・・」
彼は何も答えなかった。
私は彼の視線を避けた。
「帰らないつもりだと言ってください。」
「ですが、皇女殿下。何度も申し上げていますが、ここにいれば殿下も危険になります。」
彼は冷静に私を説得しようとした。
「ここに残って治療をするおつもりですか? もちろん、殿下の治療技術が優れていることは存じていますが……それでも、ここには殿下よりも優先すべき神官や治療師がたくさんいます。」
「……。」
「それでも戦場に向かわれるおつもりでしたら、私だけでなく、総司令官閣下も殿下を止めるでしょう。」
私は彼の言葉を静かに聞いていた。
“精霊王を召喚するつもりだ”と言おうか迷ったが、やめた。
代わりに、こう答えた——。
「……では、たった3日、3日だけいさせてください。」
「……皇女殿下。」
「せっかくここまで来たのに、お兄様を置いてそのまま帰るなんてできません。」
私はビオンの目をまっすぐ見つめながら言った。
「少しでも、もう少しいさせてください。」
ビオンは私の意志を読み取ろうとするようにしばらくじっと私を見つめていた。
「……本当に3日だけですか?」
「はい。」
私は心の中でビオンに謝った。
“3日” という言葉は、時間を稼ぐための嘘にすぎない。
私は今夜、夜明けとともに精霊王を召喚するつもりだった。
私が精霊王を召喚できれば、彼らも簡単には私を送り返せないはず。
それは戦力的にも甚大な損失になるのだから——。
彼は私の気持ちを知らないまま、長い時間考えた後、やっとため息をつきながら言った。
「皇女殿下がそこまでおっしゃるのなら、総司令官閣下にもよくお伝えしておきます。」
「……ありがとうございます、ビオン公子。」
私は彼に微笑みかけた。
私が頑固さを押し通したせいなのか、さっきよりも幕舎の空気が柔らかくなった気がした。
ビオン公子は少し警戒するような目で幕舎のあちこちを見回した。
そして、ふと視線を下げた先にあったのは、書棚の上だった。
以前ここにいた誰かが置いていったのか、書棚の上には何冊かの本が積まれていた。
彼はその場所に歩み寄った。
どうやら、それらが私のものだと思い込んでいるようだった。
「ここでも勉強なさっているのですか?」
「……あ、それは私のものじゃなくて……」
その瞬間、私は心臓がどさりと落ちるような感覚を覚えた。
机の上には、私が置いた紙が一枚あったのだ。
ただの紙なら全く問題にはならなかっただろう。
しかし、その紙は……。
『……ハイネン様から受け取った、魔法陣。』
それは生命力を代価に魔力を得る魔法陣。
誰かが来るとは思わず、隠すのを忘れてしまったのだ。
心臓の痛みのせいで意識がはっきりしなかったのもあるだろう。
いや、そもそも隠す理由はなかった。ハイネン様によれば、この魔法陣はすでにほぼ失われたものだという。
だから、普通の人が見ても全く読めないはず。
もし読めるとしたら、その人が卓越した魔法使いである場合のみ——。
しかし今、その紙を手に取り掲げているのは、”魔剣士” として名高い、あのビオン公子だ。
私は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「……そ、それは……。」
私が彼を止める前に、彼はその紙を拾い上げ、じっと見つめていた。
彼はこの魔法陣を読めるのか、読めないのか。
私はただ、彼がそれを読めないことを願った。
『これは古い魔法陣だって言ってた。絶対に読めるはずがない、読めるわけがない……。』
そう自分に言い聞かせても、胸がざわついた。
息苦しい沈黙が続いた。
私は声をかけることすらできなかった。
そのとき、ビオンが口を開いた。
「……皇女殿下。」
彼の低い声に、私はびくりと震えた。
「……なぜ、そのように?」
隠そうとしたが、声がわずかに震えていた。
ビオンはその紙を持ち上げた。
「これはどんな魔法陣なのですか?」
私は口をぎゅっと結んだ。
ビオンの表情を読み取ることができなかった。
彼はこの魔法陣を読めるのだろうか?
それとも私を試すために質問しているのか、それとも本当に分からずに聞いているのか?
判断しなければならなかった。
「……それは……」
これは賭けだ。
しかし、同時に失うもののない賭けでもあった。
どうせビオンがこれを知っているなら、隠すことは無意味だ。
「……それは。」
私は声が震えないように全神経を集中させた。
そして、穏やかに微笑んでみせた。
彼が言葉の違和感に気づかないよう、何事もないふりをしなければならなかった。
「精霊召喚に関する魔法陣です。」
「そうですか?魔法使いたちが使うものとも似ていますね。」
「そうなんですか?私は魔法について全く知らないので……。」
私がそう言うと、彼はじっと私を見つめた。
口の中が乾き、喉が張り付くようだった。
彼は異常なくらい何も言わなかった。
胸が強く締め付けられ、今にも心臓を吐き出してしまいそうだった。
イシスお兄様はもちろん、家族にも決して知られたくなかった。
私が命を犠牲にするつもりだということを。
だから彼も知らなくていい。知らないままでいい。
だが、彼の沈黙はただ事ではなかった。
もしかして、もしも彼がこの魔法陣を理解してしまったら?
『……ハイネン様に頼るしかないのか。』
彼は最善の歓迎の使者だと言われていた。
しかし、今になってハイネン様が私を助けてくれるとは到底思えない。
しばらくの間、幕舎の中はぴんと張り詰めた緊張感が漂っていた。
いや、もしかしたら、そんなふうに考えること自体がよくないことなのかもしれない。
私は何も言わないビオンを注意深く見つめた。
『お願いだから、彼が何も気づきませんように。』
そして、どれほどの時間が経ったのか。
このまま沈黙に耐えきれず、口を開いてしまうのではないかと思ったそのとき。
ぱらん。
軽い音とともに、一枚の紙が机の上に落ちた。
「……!」
まるで喉を締めつけられたようだった。
私は信じられずに何度も瞬きをした。
ビオンはあくまでも冷静に言った。
「そうですか。」
彼の表情からは、何も読み取ることができなかった。
『知らないの?』
もし彼が魔法陣の術式を読んでいたなら、今のように静かにしていられるはずがない、そう思えた。
『知らないんだ。』
そう思うと、わずかな希望が胸に差し込んだ。
私は密かに安堵した。
ビオンが私に言った。
「私が皇女殿下をあまりにも妨げてしまったようですね。」
「いいえ、そんなことはありません。」
だが、ビオンの言葉が、胸の奥をかすかに締め付けたのは事実だった。
「では、私はこれで失礼します。どうか、ごゆっくりお休みください。」
私は立ち去る彼を、意識的に引き止めようとはしなかった。
緊張の糸が、彼が幕舎を去ることでようやくほぐれた。
私はその瞬間まで手を放すことができなかった。
そして、彼が完全に去ったことを確認したとき、私は再び素早く机へと向かった。
そして紙を掴み、胸の中に押し込んだ。
運が悪かった。
いや、よかったのか?
ビオン公爵に見つかることなく無事に済んだから。
『私があまりにも軽率だった。誰も見ないと思って魔法陣を置いておくなんて。』
私は自分を責めながら再びベッドへ倒れ込んだ。
もうどうすることもできなかった。
『……夜明けが早く来ればいいのに。』
私は体を丸めて座り込んだ。
嘘をつくことも、生命力を削ることも、あまりにも辛いことだった。
早く夜明けが来て、このすべてから解放されたい。









