こんにちは、ピッコです。
「ジャンル、変えさせて頂きます!」を紹介させていただきます。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

160話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶喪失⑭
その日、リューディガーは私を抱きしめ、ベッドへと体を横たえた。
彼の腕の中で感じる体温は、私の心を溶かすようだった。
頭が熱に浮かされるようにぼんやりとしていたが、このままではいけないと冷静さを取り戻すために必死に努めた。
なんとかして彼を制止しようと、私は毅然と彼を引き離した。
「ちょっと待ってください、リューディガーさん。」
「おっしゃってください、ユディットさん。」
彼は言葉を促しつつ、私の喉元に顔を近づけてきた。
その動きは一切ためらいがなく、まるでブルドーザーのような勢いだ。
「それでも今日は安静にしたほうがいいんじゃないですか。記憶を取り戻したのは今日なのに……もし間違ってまた記憶を失ったりしたら。」
彼が記憶を取り戻した理由が明確でない以上、いつまた記憶を失うかもしれないという不安が私を包んでいた。
しかし、それは私だけの不安だった。
私の上に覆いかぶさるリューディガーは、荒い呼吸を繰り返しながらも、それを気にも留めていない様子だった。
「これ以上は我慢できません。」
彼の青い瞳は、透明で冷ややかな光を宿して私を見つめていた。
リューディガーは私の胸元に顔を埋め、目を閉じたまま何も言わずに動きを止めた。
その静かな仕草が、私の心に静かな波紋を広げた。
記憶を失っていたリューディガーは、私が自分に圧倒されているとは考えもしない様子だった。
ただ不安げに、私が拒絶しないことを期待しているかのようにじっと待っていた。
しかし、今のリューディガーの態度は、確かに自分が圧倒していると確信しているものだった。
あたかも巨大な捕食者が小動物を見つめるような目で、彼は私を見つめていた。
その視線は、鋭利な刃物のように冷たく透明でありながら、どこか熱を帯びているようだった。
リューディガーが微笑みながら私にしがみつくようにして、その美しい顔を目の前にした瞬間、何かの衝撃が私を揺るがせた。
私は自分でも気づかないうちに口を開いた。
「やっぱり、私はあなたを外見だけで好きになったわけじゃないと思います。」
私の言葉が落ちると同時に、リューディガーが驚いたようにビクリと跳ねた。
私の胸元に顔を埋めていた彼がわずかに動き、その驚いた瞳で私を見つめる。
その動作は、まるで信じがたい言葉を聞いたかのようだった。
リューディガーは震える声で問いかけた。
「……もしかして、私の外見に飽きたのですか?」
「いいえ、そんなことはありません。」
私は彼から手を引いた。
同時に浮かんだ考えと共に出た言葉が、自分でも少し恐ろしく感じた。
どうすればリューディガーを傷つけずに、自分の真意を伝えることができるのか。
冷静に考える時間が必要だった。
私は暗闇の中で床を探るようにして、慎重に、そして小さく息をついた。
「もしあなたが外見だけが理由で好きだったら、記憶を取り戻してほしいなんて思わなかったはずです。私は……私と共有した思い出を積み重ねてきたあなたを好きになったんです。」
思い出は時間と時間をつなぎ合わせて作られる接着剤のようなものだ。
思い出が多ければ多いほど、その結びつきはより強固になる。
リューディガーと共に過ごしてきた数多くの思い出。
それは、彼が贈ってくれたどんな宝石よりも大切な、人生で一番貴重な宝物だった。
私はリューディガーの顔に手を添えた。
少し痩せた頬と深い瞳は、むしろ落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
「だからこそ、あなたの外見だけを好きになったわけじゃないの。リューディガーさん、私はあなた自身が好きなんです。だから、もう少しだけ安心してください。」
リューディガーは、自分の顔が私にとってどれほど魅力的であるかを知っていたが、それにも関わらず、私の関心が冷めることを恐れるように慎重に尋ねた。
それは無駄な心配だ。
私は、彼の頬をそっとなでながら、静かに慰めた。
これで私が彼をどれだけ好きなのか分かってくれたらいいのに。
けれども、言葉だけではその不安を払拭するには足りないようだった。
リューディガーの不安は、想像をはるかに超えていた。
「それでは、記憶を失った私は取るに足らない存在だったのでしょうか?」
私は静かに笑った。
また新たな心配事を引っ張り出してきたリューディガーの瞳がゆっくりと揺らぎ、私の顔を見つめていた。
「もちろん、記憶を失ったあなたも結局はあなたですから、私は好きでした。他のどんな男性と比べても、それは比べるまでもないことです。たとえあなたが記憶を取り戻さなかったとしても、結局私たちの間にはまた思い出が積み重なり、私はもう一度あなたを愛していたと思います。」
これ以上ないほどの確信をもって私ははっきりと答える。
私の答えにリューディガーの顔が微妙に動揺を見せた。
記憶を失った自分自身を嫌うことはできないが、だからといって記憶を失った自分自身を愛することにもためらいがあるようだった。
「嬉しいのに、嬉しくないような気がします。」
「私、生きてきて、自分自身に嫉妬する人を初めて見ました。」
「自分自身とはいえ、記憶を失った自分はまるで他人のようだということです。」
リューディガーは口元をそっと引き締めた。
そうだ。
記憶を失った自分が特別だったのかどうかなんて、よくわからない感情だ。
どちらでもいいと思う。
いや?むしろ、私は自分が失った記憶を嫌い、ルカを恨み、苦しんでいた頃に戻り、リューディガーがそんな自分を好きになるという想像をしてみた。
「うーん……」
そんなことを考えているうちに、軽くため息をついてしまった。
嫌な気持ちではないけれど、微妙に不快な感じがする。
ただし、それを真剣に受け止めたいとも思わない。
リューディガーに感情移入してしまった私は、さっきよりも少し落ち着いた声で彼に言った。
「まあ、嫌ならこれからは記憶を失わなければいいのよ。」
「ええ。これからは、こんなふうに記憶を失うことはないでしょう。」
リューディガーは真摯な態度でその言葉に応じた。
それが彼自身を奮い立たせる宣言であるかどうかはわからなかったが、少なくともこの場でその点を指摘して、わざわざ空気を壊したいとは思わなかった。
私は微笑みながら、リューディガーの首に手を添えた。
「いいですよ……。それでは、私たち、途中だったことを続けましょうか?」
「聞いた中で最も嬉しい言葉ですね。」
リューディガーもまた微笑む。
彼の体が私の上に重なる。
私たち二人の影がゆっくりと一つに溶け合っていった。







