こんにちは、ピッコです。
「愛され末っ子は初めてで」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

89話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 婚約者?②
「私の槍を持ってきなさい。」
父が口を開いた瞬間、母は鋭い顔つきで立ち上がり、武装の準備を始めた。
「奥さま、お願いですから落ち着いてください。」
「今の私って、そんなに真面目な顔してます?まさかあのお兄様のくだらない――」
「子どもたちの前ですよ。」
父のその言葉に、母は今にもきつい言葉を吐きそうな様子で言葉を飲み込み、ばたりと座り込んで額を押さえた。
「それで、勝手にそんな話をしたってことですか?」
「はい。」
「私の娘を、あの第17皇子と婚約させたいってことですか?」
母が再度確認すると、いつも穏やかな顔をしていた父の顔に、ついに険しさが浮かんだ。
「やっぱりテクラ、君が正しかったようだね。」
「そうでしょう? もうこの際、反逆しないと。そんな時が来た気がします。」
ちょっと、今なんて恐ろしいことを言い出すんですか。
お父さんも止めるかと思いきや、そのまま…。
もちろん私も、お二人の意見には実際のところ同意していた。
『お兄ちゃん、本当に人生の役に立たないわ。』
帝国で機嫌を取るために、どうしても同盟を結ぼうって話なのよ。
『それに、誰が婚約してくれるって?』
私の同意もなしに勝手に進めようなんて、五歳の子どもにも「意見」というものはあるんだよ?
私は王宮で「姫」として名を残す覚悟で、命を賭ける決心をした。
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幸いなことに、翌日には国王ルクシオスの意見が完全に否定された。
「いや、政略結婚ほど良いものがどこにあるって言うんだ?」
「政略結婚でも、ある程度は身分が釣り合ってないといけません。」
父のこの言葉に、ルクシオスはバツが悪そうにしながらも、仕方ないといった様子で話を終えた。
「まあ、帝国の皇子に比べたら王国の公爵家の娘は少し格が劣るのは事実だが、それはそれでむしろ好都合じゃないか?」
「何をおっしゃるのですか、アナスタシャ公女の方がはるかにふさわしいです。」
国王のとんでもない発言に、レベンティス大公は鋭い眼差しできっぱりと答えた。
「大公のおっしゃる通りです。我が娘にはふさわしくありません。」
父もまた、国王を今にも殺しそうな勢いで同意した。
二人だけではなかった。
その日の会議に出席していた貴族のほとんどが、国王とは違い、発言の意味を正しく理解して反対の意思を示した。
「帝国でも側室として十分だというのは、それだけ公女様の格が高いということです。」
「かつて存在した聖女シャルロットよりも、はるかに偉大な存在になるだろうと、教皇陛下が断言されました。」
「そんな方を、ただの公爵家の娘と帝国の第17皇子との婚約相手にですって!?あり得ない話です、陛下!」
「パルン山の頂に立つ鯨を、なぜわざわざ引きずり下ろそうとなさるのですか?」
もちろんその激しい反論にも、国王は最後まで「でも」とか「しかし」とか言いたげだったが、父のひと言でピシャリと話は終わった。
「陛下、妃殿下が昨日、ウサギを見つけられましたよ。」
「うむ、私が間違っていた。」
やはり兄上という人間は、自分が生き残る最後のチャンスだけは決して逃さないタイプだった。
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聖国まで巻き込んで協議した末に、帝国の第17皇子を「聖女の従者」という名目で迎えることが決まった。
帝国の首都からパルサン王国まではゲートを使ってもかなりの距離があった。
あれこれ調整して準備するうちに、私の誕生日をすっかり過ぎた8月のある日。
帝国第17皇子ラミエル・アクシオンをタウンハウスで迎えた。
『……あれが本当に帝国皇子の馬車?』
馬車が入ってくるのを見て、私も、そして迎えの準備をしていた皆も、疑わしそうな目でそれを見つめていた。
見つめたのは、華やかさからではない。
大きな馬車にもかかわらず、まったく飾り気のない質素さのためだった。
帝国の紋章が描かれてはいたが、どれほど古いものなのか、塗装もはげて、馬車の塗料もあちこち剥がれていた。
『騎士たちの様子を見ると、帝国から来たのは間違いなさそうね。』
それも間違いなく、皇室近衛騎士団の姿だった。
きらきらと輝く制服を身に着けていたのだから。
何かを予感したように両親が目つきを鋭くしたとき、馬車は公爵邸の前で止まった。
先頭に立っていた騎士は、無礼にも扉を2回ノックすると少し緊張した様子で口を開いた。
「お降りください。」
魔法がかけられ、ぴったり閉ざされた馬車の扉について説明する騎士の言葉に、私は驚いてしまった。
あんな無礼な閉じ方ってある?
いや、普通はせめてドアくらいは開けるでしょう。
いったいどういうこと?
『だから王宮で迎えろって言ったのね?』
そんな態度を公式の場で見せたら、国の信用問題だろうに。
だからこそ、ますます理解できなかった。
いくら国同士の関係といえども、あの帝国が聖女に縁組を持ちかけてくるって話なんだから、相手は皇子でしょう?
それなのに……。
「……あ、ありがとう……」
私と両親が衝撃を受けたのは、皇子が自ら馬車の扉を開けて出てきた瞬間、さらに強くなった。
明らかに私と同い年だと聞いていたのに・・・。
馬車からよろよろと降りてきたラミエル皇子は、私よりもずっと小さくて痩せた体をしていた。
しっかり食べてちゃんと眠っていれば、輝きが出ていただろう銀髪は、まるで埃をかぶったようにくすんでいた。
『どうして皇子が……』
いや、私が口にすべき言葉ではなかった。
皇族だからといって、みんなが豊かで気品のある生活をしているとは限らないのだ。
手が、いや、全身が震えた。
今まであまりにも幸せで、安心しきって忘れていた。
ラミエル皇子は服装だけはきちんと清潔に整えていた。
子どもは不安定な足取りで、周囲の景色に興味津々といった様子でその目の輝きを隠せずにいた。
「挨拶くらい、言わなきゃいけないのか?」
なんと、後ろにいた騎士がラミエルに対して口にした内容は、聞くに堪えないようなものだった。
ナナ家の人たちに聞こえなければ、あんな態度でいいってこと?
でも、少し寂しそうではあったけど、皇子はとても慣れた表情で私と家族に向かって礼儀正しく挨拶をした。
「は、はじめまして、お会いできて光栄です。せ、聖女様……あ、これから聖女様にお仕えすることになったラミエル・アクシオンです。」
明らかに礼儀はきちんとしていたけれど、話す本人はとても緊張しているようで、怖がるように体を震わせていた。
まるで、何か話すたびにひどく叱られていたかのように。
それでも不器用ながら、黄金色の瞳には温かな光が宿っていて、私は思わず胸がじんとした。
『自分を……見ている気がする。』
今回の人生ではなく、幾度となく繰り返された過去の歳月の記憶。
そのすべてを忘れないでと、私の前に現れて警告しているようだった。








