こんにちは、ピッコです。
「愛され末っ子は初めてで」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

91話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 第17皇子ラミエル②
しかし、ラミエルにとって良い時間を与えることは、思ったよりも簡単ではなかった。
「い、いえっ、せ、聖女様……!」
「アナスタシャよ。」
「はっ、アナスタシャ様……ありがとうございます、わ、私なんかと一緒に、おやつを食べてくださるなんて。そ、そんなに嬉しいこと……。」
公爵家では、望めばいくらでも厨房長が作ってくれるごく普通のマドレーヌだ。
レモンクリームチーズのアイシングがかかっていて、さっぱりと甘酸っぱくておいしくて、最近のように暑い時期でも食が進むので私はとても気に入っていた。
「そんなにおいしいの? そうそう、これおいしいよ。だからラミエルも食べようよ。」
「い、いえ、聖女様。これは、その、聖女様のために作ったもので、い、いえ、違います。」
私が何度勧めても、その子は本当に自分の分として与えられた三度の食事以外には一切手をつけなかった。
いや、一日三食ということ自体が最初は戸惑っていたようで、その姿に私はなおさら胸が痛んだ。
『こ、これ、一日かけて少しずつ食べてもいいですか?』
それはひとつしかなかった。
『帝国では一度にドサッと投げておいて、次の時には与えてもらえなかったってことだよね。』
量もすごく少なかったはず。
もちろん公爵家の料理長が食事量を少なく出したことはない。
いや、正直に言って多いほうだ。
両親ともに武人で食事量は多く、騎士たちも一緒にたくさん食べるから。
もちろん公爵自身も例外ではなかった。
だから私はラミエルを姉や兄と一緒に食事する時間にこっそりこっそり招待した。
そうして何度か過ごしてからようやく、子どもはやっとこれが「普通」というものだと分かってきた。
それでもまだ遠慮がちにしているラミエルは、私と自分は違うから同じようにしてはいけないと考えているのか、おやつの時間や遊びの時間になるたびに、小さな罪悪感を抱いているようだった。
私はただ、マドレーヌをラミエルの口にぐいっと押し込んだ。
「食べるの嫌い?」
「い、いえっ。その、そんなことありません。」
「じゃあ一緒に食べよ。ひとりで食べるより誰かと一緒に食べるほうがもっとおいしいんだよ。」
私はそう言って、にっこりと笑った。
「そ、そしたら……ありがたく、い、いただきます。」
子どもはそう言ったあとでようやくひと口かじったが、すぐに目をまん丸く見開いて驚いた表情を見せた。
そしておずおずと、金色のマドレーヌを口に入れた。
『なんで人が食べてるのを見るだけでお腹がいっぱいになるって言うのか、わかった気がする。』
食べたことのあるものの種類が少ないのか、こういうときには顔に素直な幸福感が浮かぶのだった。
「もうひとつ、あげようか?」
「は、はいっ?」
「うん、もうひとつ食べて。」
驚いて後ずさりするかもしれないと知りつつ、さりげなくラミエルの手のひらにマドレーヌをもう一つそっとのせた。
子どもは深く感動した様子だった。
「で、でも、それじゃあ……(聖女様が召し上がる分が減ってしまうのでは……)」
「また頼めばいいよ。」
公爵家の厨房なら、マドレーヌくらい確実に山ほど焼いてあるだろうし、どうせ食べきれないほどの量がある屋敷なのだ。
「おいしい?」
「は……はい……と、ても、おいしい、です。わ、私がこんなものを……食べても、いいんでしょうか?」
ラミエルは少しおそるおそるといった表情で尋ねた。
私はその言葉に、ほんのり青みがかったその髪を見つめながら、黙って頷いた。
「うん。」
たくさん食べて、まんまるにならなきゃね。
私はまた、おずおずとマドレーヌを食べるラミエルの様子を見て、ふと家族たちの気持ちをほんの少しだけ理解した。
いつも私を見ると、何か一つでももっとしてあげようとしていた、あの気持ちを。
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ラミエルがパルサンに来てから、いつのまにか2週間が過ぎた。
最初はよく食べもせず、ひどく眠ることもできなかった子が、今では少し普通の子どもに見えてきた。
相変わらず、一言一言が慎重ではあるけれど。
それでも、しゃべる内容は一文で一回ほどとだいぶ減った。
ふわふわした髪の毛も銀色の光を帯びるようになり、痩せこけていた体も今ではちゃんと肉がついてきた。
そして、一番大きな変化は。
「今日は…どんなメニューが出るんでしょうか?」
ラミエルの口から、食事の時間を楽しみにしているという言葉がついに出てきたということ。
最初はこの子はまるで感情がない子かと思っていたけれど、今ではその日のメニューに応じて喜ぶ様子まで見せて、面白いと思った。
欲を言えば、厨房のスタッフたちも食事時間にはちらっと見に来るくらいだったから。
『これが、子どもを育てるってやつなのか。面白いな。』
私と同級生(?)の子とは思わなかったけど、少しずつ少しずつ環境に慣れていく姿を見るのは気持ちよかった。
他の家族たちもラミエルを普通の子どもとして接していた。
少なくとも公爵家の中では、帝国の皇子とかそんなことは忘れて暮らせるように、というわけだ。
「早く公爵領に行けたらいいな。」
「アナスタシャ様の、ふ、故郷ですよね?」
「うん。」
そして、首都のタウンハウスよりももっと「家」って感じがする場所だ。
不思議なほどみんな温かくて、噂話にもあまり気を取られないところだった。
首都ではあんなに注目を集めていたミハイルも、そこではただの普通の子どもだった。
「ラミエルも好きになってくれたらいいな。」
「アナスタシャ様が望まれるなら、私、努力してみます。」
どこか決意に満ちた言葉に、私は小さく笑みをこぼした。
「努力なんてしなくていいよ。ただ、うん。好きならそれでいいんだよ!」
「でも、それだとアナスタシャ様が気分を害されるかもしれません。」
「ラミエルの気持ちはラミエルのものだよ?」
誰かの気持ちをコントロールしようなんて思ったことはなかった。
無理やり好きになっても、それって本当の「好き」なの?
私はそうは思えなかった。
『家族だって、私に自分たちを好きになれなんて一度も言ったことなかったし。』
ただ私を可愛がってくれただけ。
ああ、たった一人だけいた。自分を可愛がって好きになってほしいとアピールする人。
『ミハイルも口ではああ言ってるけど、ただ私に優しくしたいだけじゃない。』
見返りを求めて与える好意ではないことは、よく分かっていた。
私がラミエルに何かを望んで——もちろん元気になってほしいとは思ったけれど——ただ優しくするだけだったように。
「嫌なら嫌って言ってもいいよ。どれだけでも。無理して言わないで。」
私の言葉にラミエルは驚いた目をした。
そしてまるで決心したかのように、頷いた。
「そ、そうします。」
規則を教えたわけでもないのに。
それでも今は、これで十分だと思えた。







