こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

111話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 勝利の女神
しばらく沈黙が流れた後、ルーンが静かに尋ねた。
「体の具合はどうだ?」
「体……ですか?」
そのときになってようやく、自分の体の様子を改めて確認した。
どこかにぽっかりと穴が空いた感じはしたが、それを除けば身体の状態はとても良好で、むしろ軽やかにさえ感じられる。
もしかしてルーン様が治療してくださったのか?
いや、もしかしたら……
「……私が目覚めるまで、ずっと看病していてくださったんですか?」
そう尋ねると、ルーン様は静かにうなずいた。
「そうだ。」
「……っ!!」
私は口をふさぐことができなかった。
「……嫌だったか?」
彼がカップを少し傾けた。
「ずっとそばにいて気を使わせてしまったのなら、申し訳ない。」
私は目をぱちぱちと瞬かせた。
「いえ、違います。」
嫌ではなかった。
むしろ彼が私のことを気にかけてくれて、嬉しくてよかった。
心の奥がじんわりと温まっていくような気持ちだった。
『本当に私、ルーン様と契約したんだな。』
笑みがこぼれる。
これから彼と一緒にいられるということが、とてもとても嬉しかった。
「ルーン様がいてくださって、本当に嬉しいです。」
我慢できずにそう言ってしまった。
すると彼は再び微笑みを浮かべた。
戻ってきた彼が、もう一度優しく笑ってくれることが嬉しくて、胸が高鳴った。
そうして、私たちが見つめ合いながら笑い合っていたとき——
幕のカーテンがバサッと開いた。
私は何の気配も感じなかった。
私は無言で彼を見つめていた。
まるで最初に天幕をめくって入ってきた人が誰か、一目ではわからなかった。
しかし次の瞬間、私は彼がイシス兄様であることをすぐに理解した。
彼は、私が目を覚ましているとは思っていなかったようだ。
私の視線に気づくと、彼は大きく目を見開いた。
けれども驚いたのは私も同じだ。
彼がルーン様と一緒にいる姿を見たのだから。
「……あ、お兄様。」
私は彼にどう説明すべきかと、必死に頭を働かせた。
失踪した皇宮の使者が、なぜここに、しかも私のそばにいるのか。
説明しようとするが、まだ眠気の残る頭では思うように整理できなかった。
しかし、彼に説明する必要はなかった。
すぐにわかったからだ。
彼はルーン様に先に挨拶した。
「精霊王様にお目にかかります。」
『精霊王様だって?』
私は驚いてルーン様とイシスお兄様の顔を交互に見つめた。
「え、どういうこと?」
「……君が気絶していた間に、精霊王様が説明してくださったそうだ。」
イシスお兄様が私を見つめながら言った。
ルーン様を見ていたときは冷ややかに引き締まっていた表情が、私を見ると柔らかく緩んだ。
「体の具合はどう?」
彼が私に近づいてきて、自然に私の手を取った。
伝わってくる温もりがとても温かかった。
「君が倒れてしまって、とても心配したんだ。」
私は目をぱちぱちと瞬かせた。
そして、そういえば彼には一言の断りもなく精霊王を召喚して倒れたのだったと思い出した。
彼が心配するのも無理はなかった。
「……ごめんなさい、お兄様。」
私の言葉に、彼は優しく微笑んでくれた。
「大丈夫だよ、アイシャ。それより、おめでとう。精霊王様を召喚するなんて、本当にすごいじゃないか。」
「お兄様……」
「すごく大変だったんだろう?君は本当に立派だよ。」
そう言って、彼は私に笑顔を向けた。
お兄様のあたたかな笑みに、私も思わず笑顔になった。
「私も、とっても嬉しいです。」
胸がじんわりと熱くなった。
お兄様に祝ってもらえたことで、ようやく自分が本当に精霊王を召喚したのだという実感がわいてきた。
そう伝えると、お兄様は肩をすくめて言った。
「もっとすごいものを見せてあげようか? 一緒に来る?」
私は戸惑って視線をそらした。お兄様が視線を向け、ルーン様に尋ねた。
「ご一緒にいらっしゃいますか?」
その丁重な問いかけに、ルーン様はただ私をじっと見つめるだけだった。
まるで私の意思を確認しているかのように。
私は戸惑いながらも、視線を上げた。
するとお兄様は私の手を取って導いた。
幕屋から出る前に、自分の外套を私の肩にかけるのも忘れずに言った。
「さあ、行こう。」
彼が幕屋のカーテンを開いた。少しまぶしかった。
私は何も考えずにそのまま外に数歩踏み出したとき、巨大な歓声が聞こえてきた。
「……シャ様!」
「アイシャ様!」
その無数の歓声は、私に向かって注がれていた。
まるで私をずっと待っていたかのようだった。
私は戸惑いながらも、周囲を見回した。
私の天幕の前にいた人たちは、みんなエルミール軍の兵士だった。
「精霊王の契約者にして──!」
「勝利の女神!!!」
その言葉に、私はようやく状況を理解することができた。
彼らのうち数人は、私が契約を交わす場面を見ていたのだ。
その契約相手が精霊王だったということも。
事情を確認すると、お兄様はすでに私の信託を受け、この場所に来ると宣言していたようだった。
軍の士気を高めるためには、これ以上ない適切な手段だった。
実際、人々の士気は空を突き抜けるほどだったのだから。
人々は、私にひと目でも会おうと、熱心に声をかけてきた。
あまりの熱意に、少しプレッシャーを感じるほどだった。
彼らの視線は私とルーン様に向けられていた。
恥ずかしかったが、同時に少し気分もよかった。
いずれにしても、私たちの軍の士気が上がるのは良いことだった。
呆然としていた私は彼らに向かって手を振る。
すると彼らの歓声はますます大きくなった。
もしかしてルーン様はこうして注目されるのが嫌いかもしれないと思い、そっと目線をやったが、彼は何も気にしないようにただ無表情なだけだった。
だが、私と目が合うと、彼はやさしく微笑んでくれた。
その姿はまるで真昼の太陽のように眩しくて、胸がドキンと跳ねるのを感じた。
彼の天幕に向かう途中も、歓声は止まらなかった。
そして天幕に到着したとき、イシスお兄様は赤い幕を自らの手で開けた。
中にはエルミール軍の司令部と言える、最も重要な人物たちが座っていた。
ベルトモア公爵とビオン公子、そして数人の将軍たち。
彼らは私たちを見てすぐに席を立ち、挨拶をした。
「精霊王陛下と総司令官殿、そして皇女殿下に敬礼いたします。」
イシスお兄様は軽く頷いた。
気の利いた兵士がいくつか椅子を用意してくれた。
そのことで私は驚かされた。
明らかに会議のための席だった。
そこに私の席があるということは……。
「お兄様?」
私がそう呼ぶと、彼は私を見て──
「アイシャ。」
彼の声は低くて落ち着いていた。
「……本音としては、今すぐにでも君を皇宮に戻したい。」
彼の目は寂しさをたたえていた。
「だが、ここに残ると言って精霊王と契約まで結んだ君を、もう止める術も、正当な理由もない。このまま君を送り返して羽をもがせるよりは、むしろ君を一番近くに置いて見守る方がいい。」
「お兄様……」
「たくさん悩んだけれど、この方法しかないと気づいた。」
イシスお兄様の言葉を理解した。
これ以上私を無理に止めることはできないからこそ、すべての情報を共有し、共に動くことを選んだのだ。
私はその言葉に、顔がぱっと明るくなるのを感じた。
戦場に出ることが良いこととは言えないが、それでも彼らの一員として受け入れられたことが嬉しかった。
「はい。」
私が椅子に腰掛けると、兄も私に椅子に座るよう促した。
ルーン様にも同様に勧めたが、彼は座らなかった。
代わりに、私を守るように私の背後に立っていた。
そうして私が初めて参加する会議が始まった。
書士の一人がテーブルに広げられた地図の一部を幕で覆った。
「情報によれば、バウンド城を攻撃する際、イデンベル軍がこの山の近くに集結しているそうです。例のように城門にだけ兵を集中させると、むしろ背後のイデンベル軍に攻撃されることになります。前方に集中しても後方にやられてしまう状態ですね。なので、我が軍は二手に分かれて──」
「……後ろから各部隊に分かれて包囲する方法なんだけど……。」
人々は彼の言葉に集中していた。
こちら側とイデンベル軍の兵力は似ている。
ならば、両軍を二手に分けてそれぞれを攻めたとしても、大きな支障はないだろう。
作戦を聞いていた人々の間で、さまざまな意見が出てきた。
バウンド城を攻略するために必要な攻城兵器ではないかとか、イデンベル軍の防衛線を突破するための戦略ではないかとか。
人々は活発に議論を交わした。
最初はルーン様がいるというだけでどこか半信半疑だった彼らも、話が深まるにつれて徐々に惹き込まれていった。
そのときだった。
「わざわざ軍を二つに分ける必要があるか?」
後ろにいたルーン様が人々に向かって質問を投げかけた。
その言葉に人々は一斉に静まりかえる。
ルーン様が初めて口を開いたからか、それとも彼の隠しきれない存在感のせいなのか──
私はその理由を断定できなかった。
その中で、比較的肝が据わっていたベルトモア公爵が慎重に尋ねた。
「……おっしゃった意味は……?」
「強大な力があるなら、軍の弱点を突く必要はない。」
ルーン様はあっさりと言った。
その言葉はもっともだ。
もし、前後から攻めてくるイデンベル軍を圧倒できるほどの力があるなら、軍を二手に分けてイデンベルをかく乱する必要はない。
むしろ、集結している軍勢を一網打尽にする好機になるかもしれない。
しかし、その軍勢を一体誰が撃破するのか?
いくら剣の天才と呼ばれるイシス兄さんでも、一人で全ての兵士を相手にするのは当然無理がある。
軍勢を相手にするには、やはり総司令官が指揮を執らねばならないからこそ、なおさら。









