こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

93話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- フィローメルの推測
フィローメルの推測。
フィローメルは紙にこれまでに知り得たことをまとめた。
一つ目、エレンシアはある時点を境に人物が変わった。
二つ目、エレンシアの魂を反映するミドルネームも『皇女エレンシア』に出てくるものとは異なっていた。
三つ目、エレンシアは出所不明の魔法薬を使っている。
四つ目、エレンシアの日記は、まるで彼女が変わったある時点から意味不明な文字で書かれていた。
五つ目、『皇女エレンシア』とエレンシアの魔法薬の瓶は、異なる世界のものである可能性が高い。
六つ目の記述、神の書に書かれていた「異世界からの侵入者は特殊な呪文を唱え、他人の体を奪う」。
まずは重要と思われる単語だけを集めてみると、こうなる。
まとめると、エレンシアには別の魂が宿っていて、それは異世界から来た侵入者。
そして侵入者が唱える特殊な呪文は魔法薬のようなもの……?
だとすれば、日記に書かれていた文字は異世界の言葉であり、<皇女エレンシア>もその世界に関係しているということになる。
フィローメルは幼いころの数々の記憶を思い返しながら、深く考え込んだ。
『……ただの想像力豊かすぎる思い込み?まさか異世界なんて……』
しかしなぜか、荒唐無稽に思えるわりには、もっともらしい仮説だった。
紙には大きな文字で書かれた6つほどの文の他にも、細かいメモがいくつもあった。
フィローメルはそれらも丁寧に拾い集めた。
『『皇女エレンシア』の著者もエレンシアのように辛い食べ物が好きなようだ』という文。
フィローメルはこのような推測を最初に思いついたとき、その本の著者は辛い味が人気の南部地域の人ではないかと思った。
しかし『皇女エレンシア』が別の世界の物ならば、著者もまたその世界の住人ということになる。
エレンシアも辛い味を好むようだ。
どうやらその世界では、辛い味が一般的に好まれていたようだ。
『もしくは、どちらも辛い料理が好まれる特定の地域に住んでいたのかも。』
フィローメルは小さくメモを取りながら、次の文に目を移した。
エレンシアはまだ有名ではないマーガリットのことを信頼し、自分のドレスを任せていた。
マーガリットが作った彼女のデビュタント・ドレスは、本で見たものと非常によく似ていた。
かつてはこうした偶然の一致を「運命」だと思っていた。
フィローメルが時を1年早めたとしても、起こるべきことは結局起きるというように。
『……でも、それだけじゃない気がする。』
ドレスを新しく仕立てるということでピンケロ・マーガレットの更衣室を訪ねたフィローメルに、マーガレットが言った。
「お嬢様、私がぼんやりと想像していたドレスと皇女様が望んでいたドレスの丈が、まさにそっくりではありませんか? 本当に私の頭の中に入って出てきたのかと思ったくらいですよ!」
エレンシアのデビュタント・ドレスを褒めていたマーガレットは、エレンシアと一緒にいた出来事をうっかり口にしてしまった。
それは運命というより、エレンシアが作り上げた演出に近かった。
まるで1年後に起こるべき出来事をあらかじめ知って、現実をそれにぴったり合わせているかのようだった。
そう考えると、これまで感じていた疑問点が解けていった。
『ナサールとの不自然な最初の出会い。』
西宮殿にいるはずのエレンシアが、なぜ南宮の庭で木の上に登っていたのか?
『それは、ナサールがそこにいたから。』
当時、エレンシアのそばにいた侍女はエミリーだった。
後に本人から聞いた話によれば、ナサールが入宮した際、その居場所を突き止めてエレンシアに伝えるのが、エミリーの任務だった。
エレンシアが木の上でのんびりしていた猫を助けようとした理由にも、引っかかる点があった。
『それは、1年後に起こる出来事と似た状況を演出するためだった。』
猫は彼女が木に登るために設けた装置に夢中になっていた。
それではエレンシアは未来が見えるのか?
『それは違う。』
未来を知っているにはいくつかの矛盾が見られた。
未来が分かるなら、船に乗って水に落ちたりしないし、ロザンヌが最初の茶会を台無しにするのを見過ごすこともなかっただろう。
『そう、未来というより……<皇女エレンシア>の内容を知っているのかも。』
フィローメルは慎重に考えを巡らせた。
その本も異なる世界のものだとすれば、そちらの方がより妥当な推論だった。
その世界に別の<皇女エレンシア>があるか、あるいはフィローメルが持っている<皇女エレンシア>を以前、彼女が読んでいたとか――。
フィローメルはルグィーンから渡されたその本を本棚から取り出して開いた。
彼の話によると、現在調査できることはすべて終えたとのことだった。
エレンシア、いや、エレンシアの体に入った侵入者が、どうやってその世界で『皇女エレンシア』を読んだのか?
『そもそも、この世界の未来がなぜ別の世界の本に書かれているのか?別の世界の本なのに、なぜこの場所の言語で書かれているんだ?』
依然として分からないことばかり。
どれだけ考えても、それらしい仮説ひとつすら思いつかなかった。
なによりも――その「別の世界」というものがどんな場所なのか、まったく想像もつかなかった。
伝説に登場する神界や魔界?
『それともまた別の世界?』
フィローメルは思索にふけりながら、机を指先でトントンと叩いた。
神の書に記された「別の世界」に関する内容はあまりに漠然としていた。
『誰かがすっきりと説明してくれたらいいのに。』
しかしその本に記録を残した人々は皆、遠い昔の人物たちだった。
神の書について尋ねられそうな人は一人もいなかった。
「ふぅ、難しいわ。」
フィローメルが深くため息をついたその時――
「フィル!」
ルグィーンがフィロメルの部屋に飛び込んできた。
彼はいつになく興奮した様子で、目を輝かせていた。
「何かあったんですか?」
フィローメルが立ち上がって尋ねた。
「旅行に行こう!」
「……え?急にですか?」
「今までずっとこんな閉ざされた場所にいたから、旅行なんてできなかったでしょ?」
「確かに“旅行”と言えるような外出は、ほとんどしたことありませんね。」
唯一無二の皇位継承者が、自由に旅に出られるはずもなかった。
安全面の問題もあるし、時間の余裕もなかった。
ナサールと生前に訪れたときが、一番“旅行”に近かったかもしれない。
『ナサール……』
再び思い浮かんだその顔に、フィローメルの心は重くなった。
ナサールは現在、エイブリデン公爵邸にこもっているという。
エレンシアの誕生日の宴会を含め、すべての外部活動を控えているままだ。
『私のことを友達のように感じてくださったのであれば、友達としてそばにいたいのです。』
最後に会ったとき、彼は無理に明るい顔をしてそう言っていたが、やはり辛くないはずがなかった。
フィローメルの表情が暗くなると、ルグィーンが慎重に尋ねた。
「旅行、行きたくない?」
彼女は言葉を選んだ。
「そう聞かれたら……正直、行ってみたい気持ちはあります。」
どちらかと言えば、行ってみたいと思っていた。
フィローメルが書いた「いつかやりたいことリスト」の方にも「旅行」は載っていた。
それでも……。
「すみません、でも今はちょっと、そういう気分じゃなくて。」
フィローメルはそっけなく頭を横に振った。
「どうして?」
ルグィーンは少し傷ついたような表情で尋ねた。
「他のことで頭がいっぱいなんです。」
「何のこと?」
フィローメルは彼に、神の書と異世界に関する話を簡潔に説明した。
荒唐無稽な話に思えるだろうに、彼は一切の疑いもなくフィローメルの話に耳を傾けた。
すべて聞いた後、ルグィーンが言った。
「じゃあ、ますます君と一緒に旅に行かないとね!」
「……どうしてそうなるんですか?」
「その古い本について詳しく知っている存在に会いに行くからさ。」
「そんな昔の記録なのに、そんな人がまだ生きているでしょうか?」
「人間なら死んでるだろうね。」
「“人間”」という単語を強調したあと、ルグィーンは薄く笑う。
「人じゃない存在なら、何百年も生きてるかもしれないじゃないか。」
「人じゃない存在……?」
「この世に存在するすべての生命体の中で、最も古い存在。ドラゴンよりも年上だ。」
フィローメルは、彼が何を言おうとしているのかを悟った。
自分もその存在を知っていた。
「……世界樹。」
ルグィーンがそっと手を差し伸べた。
「そうだ。今から世界樹に会いに行こう。」








