こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

94話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 世界樹
翌朝、午前。
宮廷魔法使いカーディンが国賓館の窓を越えて入ってきた。
「フィル!遊びに来たよ!今日は休みだから一日中君と一緒にいられる……あれ?どこ行くの?」
彼の目に、荷物を詰めていた妹の姿が飛び込んできた。
「やあ、カーディン。ようこそ。でもちょっと出かけるところなんです。」
「どこに?」
「中央庭園ですよ。」
「そんな遠くへ?いつ戻るの?」
「さあ……正確にどれくらいかかるかは分かりません。」
フィローメルのそばにいたルグィーンが、次男を見た。
「こいつがぴったりだな。」
ジェレミアは顔をしかめた。
「やだ。俺にこのガキとずっと一緒にいろって?」
「じゃあどうしろって?こいつ以外に手があるのか?」
「……ちっ。」
二人のやりとりを聞いていたカーディンは、不思議そうに眉をひそめた。
「何の話?」
フィローメルは苦笑いを浮かべて謝った。
「ごめんなさい。ちょっと頑張ってください。」
しばらくして、フィローメルの姿に変身したカーディンが鏡を見つめた。
「私が……フィル?」
彼に魔法をかけた当事者のルグィーンが説明した。
「見た目は幻で、実際には君の体だ。僕たちが旅に出ている間、君がここで人形役をしてくれ。」
「やだ!私もフィルと一緒に行く!せっかくの休みなのに!」
「ダメだ。フィルは僕と二人きりで行くんだ。」
「横暴だ!」
「君は家を守ってろ。魔塔主の命令だ。」
「普段はろくに働かないくせに、こういう時だけ魔塔主を連れ出そうとするなんて!」
「嫌ならお前が魔塔主をやれよ。」
フィローメルは口げんかする兄弟たちをじっと見つめた。
『……幼稚だな……』
ルグィーンが彼女に“世界樹がある中央平原へ旅行に行こう”と提案してきたのは、まさにこの時だった。
宿を押さえ、今朝出発することに決めたまでは良かったが、一つ問題がある。
二日以上ここを空けることになるのに、口を利けない人形だけを残していくのは少し不安だった。
ジェレミアが隣で見張ってくれるとはいえ、何かしらの不安が残るのだ。
『それに正式に周囲に知らせて外出しようとすると、色々と面倒になる。』
中央平原は異種族の土地であり、人間の手が届きにくい場所。
そんな所に行こうものなら、護衛をしっかりつけて行けと騒ぎになるだろう。
悩んだ末に出たアイディアが、魔法で他の人をフィローメルに変身させる方法だった。
そして、誰を人形の代わりに変身させるか議論していた時、カーディンが現れた。
「私も遊びに行きたいんだってば!」
フィローメルは自分の姿で騒ぎ立てるカーディンを見て、できる限りの真剣な表情を浮かべた。
「お願いします。カーディン以外にこの役を務められる人はいません。」
「……本当に?」
彼の瞳が揺れた。
「そうですよ。カーディンが信頼できる人だからお願いしてるんです。」
「……俺が信頼できる人?」
「もちろんです。」
彼女が首を三回コクコクと縦に振ると、カーディンの表情がパッと明るくなった。
「そう言われたの、初めてだよ。誰かが俺に力仕事以外を任せてくれるなんて!」
すっかり気分がよくなった彼は、ニコニコと笑いながら拳をギュッと握った。
「任せて!君の代理は俺が完璧にやってやるからな!」
「信じてます。」
「フィルは安心して行ってきてください。ここは私とジェレミアが守りますから。」
「……私はそういう話し方、しませんけど。」
「え?他の人にもそんな話し方しないの?」
「誰に対しても使いません。」
どうやら彼の妄想の中での貴族令嬢というのは、外見だけでなく言葉遣いまであんな感じだったらしい。
すっかり不安になったフィローメルは、カーディンにしっかり注意を促したあと、小さなバッグを持たせた。
ルグィーンが手を差し出す。
その手を握ると光が広がった。
・
・
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「わあ!」
広大な平野の前に立ったフィローメルは感嘆の声を漏らした。
胸がスッと晴れるような雄大な風景。
そして、その平野よりもさらに圧巻だったのは一本の大木だった。
空に届きそうなほど高くそびえ立つ木が、地を突き刺すように伸びていた。
――世界樹。
この大陸の中心にそびえる巨大な木。
噂では聞いていたが、実際に目にするのは今回が初めてだった。
ルグィーンは手綱を握りながら周囲を見渡して言った。
「世界樹のやつ、どこにいる?」
「この木が世界樹じゃないんですか?」
「本体とは別に、会話可能な分身がいるんだ。」
「そうなんですね。知りませんでした。」
「人目を避けるやつだからな。」
彼の手から火が灯った。
「これで呼び出すしかないな。」
「……な、何をするつもりですか?」
「枝に火をつければすぐに飛び出してくるらしい。」
慌てたフィローメルが彼の手首をつかんだ。
「だめです!」
「大丈夫。火が広がる前にちゃんと消すから。」
「そんな問題じゃないです!神聖な木に火をつけるなんて、とんでもない不敬ですよ!」
「大丈夫、大丈夫。何回かやったけど、何の問題もなかったよ。」
あまりにも平然とした態度に、フィローメルは言葉を失った。
『この人、普段は一体どんなことをしてるの……?』
いずれにせよ、世界樹は重要な存在。
これから彼らは世界樹から、異世界に関する情報を得なければならないのだ。
『そんな相手に火をつけるなんて、絶対にダメでしょ。』
――伝えてもらえる情報も、これじゃ全部お流れになりかねない。
「仕方ないな!」
フィローメルの説得にルグィーンは納得していなかったが、結局、火をつけるのを諦め、器用に木を登りはじめた。
枝を伝って登った彼は、フィローメルに言った。
「俺が世界樹を探してる間、お前は退屈しないように、あそこ行って花でも眺めてこい。」
彼が指差した方向には広い花畑が広がっていた。
ルグィーンが姿を消した後、彼の言葉通りに足を運んでみると、名も知らぬ黄色い花々がフィローメルを迎えてくれた。
「……きれい。」
花といえば南宮の庭園でもいくらでも見られたが、やはり中央平原だからなのか、その規模が違っていた。
彼女は地平線の向こうまで果てしなく広がる花畑を見渡しながら、しばし歩みを止めた。
今まで見たこともない新しい世界に、心臓が高鳴った。
だがその瞬間――
黄色かった風景が桃色に染まり、記憶の中にあるあの荘厳な音楽がまた耳元で鳴り響いた。
「……っ!」
驚いたフィローメルが目をこすると、その桃色と音楽はまるで蜃気楼のように消えていった。
『まただ。』
以前、星降る岩山の上で体験した幻覚が、再び再現されたのだ。
「やっぱり、何かおかしい。」
最初に体験した時は、ただ夢でも見たのかと思っていたが――しかし今は完全に冷静だ。
「……あの岩、調べる必要がありそう。」
世界樹だけ見て、エレンシアが暮らしていた村へ向かおう。
自分が見たときはただの普通の岩にしか見えなかったが、魔塔主のルグィーンが見れば、何か怪しい点を発見するかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていたフィローメルの足に何かが引っかかった。
「うわっ!」
地面に寝転んでいた誰かが叫んだ。
彼女の腰ほどしかない小柄な体、ぱっちりとした目、そしてとても長いまつげ。
『ドワーフじゃない!』
花の中に潜んでいた難民を見つけたフィローメルは、思わず驚いた。
よく考えてみれば、世界樹の近くはドワーフ族の居住地域だった。








