こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

34話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 弱点
疑念が湧き上がったが、リンは怪しまれる表情を浮かべないよう、顔の筋肉に力を込めた。
キャロンは、もうリンを純真無垢な人形とは見なさないだろう。
そんなキャロンが、事件が起きてわずか一日しか経っていないこのタイミングで、本当に意味のない手紙を送りつけるだろうか?
『誰だ?キャロンを通じてヤナに手紙を送れるような人物が、他に誰かいる?』
そして、あたかも当然のように手紙を渡してきた理由とは?
「ビルヘルムは君のことをとても心配しているよ。」
錯覚でなければ、妙な余裕を感じさせる声だった。
……あ!
リンはぎゅっと両目を閉じた。
『弱点。』
疑いようもなく確信した。
ヤナは、今まさにキャロンによって弱みを握られていた。
彼女の反応を細かく観察しているキャロンの視線が、そのまた別の証拠だった。
「ビルヘルムはいつも君を心から心配している。あの子ほど弟妹を大切に思う兄はいないだろう。今月到着した手紙からも、君を思う気持ちが溢れていたよ。」
「………」
「君の頼みなら、伝染病にかかっても毎回──」
何も問題ないという手紙を送ってきたおかげで、ビルヘルムは学術院でとても元気に過ごしているらしかった。
しかしヤナにとって、今回は違った。
キャロンの考え方も、以前とは変わらざるを得なかった。
「それもそうだ、お前の体調は普通じゃないだろう?」
「………」
「真実を知ってしまうと、何かと心が落ち着かないな。ふう……お前も分かるだろう。ビルヘルムは弟が病気なら、学業も何も投げ出して飛んで帰ってくるようなやつだ。」
細かく分析するまでもない。
ほんの数言の会話で、キャロンがどんな「武器」でプレッシャーをかけてきているのかが手に取るように分かった。
『ヤナの弱点は、ただ一人の家族、ビルヘルムだ。』
正確に言うなら、ビルヘルムの学業を邪魔しないこと。
『良くないな。ハピル家が絡んでいるとは。』
手紙を握りしめたリンは、憂鬱な眼差しでキャロンを見上げた。
しばらく手紙を握ったまま固まっていたが、やがて耐えきれないように、か細い声で応えた。
「すみません、叔母様。これからはこんなふうに荒れることはありません。私は、兄様が学院でうまくやっていればそれでいいです。」
「構わないわ。誰だって一度くらいは過ちを犯すものよ。この叔母も、そのことをよく知っているわ。」
「……」
「でもね、二度目からは過ちではないわ。しっかり心に刻みなさい。」
立ち上がったキャロンは、寝室を出る際に、まるで何事もなかったかのような顔でリンを一瞥した。
キャロンはこう言い残して席を立った。
「ビルヘルムへの返事は、クッキー箱を探し出してから書きなさい。あんたも知ってるだろうけど、今回の卒業はビルヘルムにとって最後のチャンスだ。たかがガラクタ一つのせいで、そのチャンスを台無しにするわけにはいかないんだから。」
そんな遠回しな脅しを最後に、キャロンは部屋を出て行った。
リンは強く握りしめた拳をじっと見つめた。
まだ十代半ばにも満たない少女に、こんな圧力をかけるなんて。
これがまともな大人だと言えるのか?
『……ふん。』
ベッドの上に無造作に置かれたティーポットを見つめたリンは、小さく息を吐き、大きくベッドを蹴って立ち上がった。
「ちょっと待って!」
誰が見ても焦っている様子だった。
それに引きずられるように、足ももつれそうになった。
「おわっ?」
短い叫び声とともに、リンがキャロンの服を引っ張った。
そのおかげで、今まさに歩き出そうとしていたキャロンは、服の裾を踏みつけてしまい、床に額を打ち付ける形で転倒してしまった。
ドン。
「ううっ……!」
「す、叔母様! 大丈夫ですか? ごめんなさい、私がうっかり服を……」
謝りながら助け起こそうとした瞬間、慌てた手が横に置かれていたティーポットを倒し、キャロンの上にお茶がこぼれた。
「きゃあっ!」
幸いにも、キャロンは一瞬でびしょ濡れになったものの、火傷するような熱湯ではなかったため、大事には至らなかった。
リンはほっと胸を撫で下ろしながら、慌ててティーポットを拾い上げた。
粗雑な動きだった。
息を呑んだキャロンは、自分の顔を拭こうとしたリンの手を払いのけ、声を高めた。
「ヤナ・トゥスレナ!」
キャロンの澄んだ高い声が、初めて破られた瞬間だった。
「お前、今これは一体……!」
「間違えました。」
あっさりと否定する。
キャロンの表情を冷たく引き締めた姿は、十分な威圧感を持っていた。
「本当に間違えました。ごめんなさい。」
ああ、今回の言い訳はなかなか良い感じだな。
かすかな音が聞こえた。
『大人ぶって脅しているけど、子どもらしく応じてやっただけなのに。』
本気で怒ったら、あまりにもみっともなく見えるんじゃないか?
キャロンは大げさにリンを押しのけ、自分の席に戻った。
いや、立ち上がろうとした。
『……短剣?』
「なんであれが床に落ちてるの?」という疑問が頭をよぎったその瞬間、キャロンがその短剣を掴んだ!
ドン!
膝を強く打ちつけたのか、床にぶつかる音が部屋中に響き渡った。
しかも今回キャロンが倒れた床はカーペットも敷かれていない硬い床だった。
わあ、あれは……。
『あれ……絶対すごく痛いよね?』
「ううっ!」
両目をぎゅっと閉じたキャロンは、両膝を押さえたまま床を転げ回った。
「叔母様、大丈夫ですか?」
様子を伺いながらリンは短剣を拾い上げた。
『これって、まさか。』
リンの視線はベッドの下をぐるりと見渡した。
『チェフが投げたの?』
いや、この対の丸い形のボタンは明らかに女性用だった。
それは……?
『フレンヒルディ?』
そのとき、背中を丸めていたキャロンがゆっくりとボタンを拾い上げた。
リンはそんな彼女に向かってボタンを投げた。
「これ、拭いて落としたんだよ。 自分で考えてもおかしいでしょ?」
「これは……うーん、私のミスじゃなくて、奥様のミスですね。」
小さな鼻の穴がぴくぴく動くのを見たリンは、キャロンの怒りを何とか抑えようとしているのを感じ取った。
それでもロマンよりはまだマシだな。
「あっ! 念のため、一歩一歩慎重に歩いたほうがいいですよ。こんなものに引っかかって転んだら、本当に大変なことになりますから!」
キャロンは明らかに驚き、口を引き結びながらも周囲を警戒するように見渡した。
そしてそのまま無言で、足を引きずるようにして寝室を出ていく。
なんとも間抜けな結末だった。











