こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

92話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 謎の美女③
『災いのもとだわ。』
そうラシードはシアナを見て思った。
そして彼女に尋ねた。
「どうした?何かあったのか?」
「いいえ、特に何もありませんよ。」
「そうか?それにしては口が尖っているようだが。」
「私の口はもともとこういう形なんです。」
シアナの軽妙な返答にラシードは小さく笑みを浮かべた。
その様子にシアナは一瞬だけ彼の顔に視線を向けた。
『そうか。ああやって人に笑いかけて回っているから、王太子の隣に立てると思い込んで列を作る女性が100人も出てくるんだな。』
なんだか今日は、彼の美しい顔での微笑みを見るのが妙に嫌だった。
そこでシアナはぷいっと顔を背けた。
彼女の視線の先にいたのは、ラシードの隣で控えていた副官の騎士ソルだった。
「ねえ、ソルさん。お渡ししたいものがあります。」
「えっ?私にですか?」
予想外の言葉に、ソルは目を大きく見開いた。
彼女の目線にあったのは、シアナが差し出したキラキラ輝くブローチだった。
これは一体どういう意味だ、とでも言いたげに、ソルの瞳が揺れ動いた。
「い、これを私に……?」
「特別な意味を込めてお渡しするわけではないので、気負わず受け取ってください。ソルさんが用意してくださった資金が余ったので、それで買ったものですから。」
「そ、そうですが……。」
ソルの困惑した顔を見て、シアナは手を差し伸べた。
「本当ですよ。ソルさんの分だけじゃなくて、私を大切にしてくれる人たちや親しい仲間たちの分も一つずつ選んだんです。だから、気軽に受け取ってください。」
「いいえ!絶対に気軽には受け取れません!」
『だって、殿下が今、私を殺しそうな目で睨んでいらっしゃるじゃないですか!』
ソルは怯えた顔でラシードを見た。
ラシードは冷静で穏やかな表情を保ちながらも、ソルとシアナをじっと見つめていた。
だが、一生を共に過ごしてきたラシードを知るソルには分かった。
ラシードがとてつもなく不機嫌であることを。
ソルは泣きたくなった。
『シアナ様、なぜこんなタイミングで私にこんな試練をお与えになるんですか!』
もしかして、自分が知らない間にシアナ様に何か失礼なことをしてしまったのだろうか。
それで自分を殺そうとしているのだろうか。
もしそういう意図があるとしたら、これは非常に効果的な手段と言えるだろう。
それほどまでに、今背後から感じるラシドの威圧感はとてつもなかった。
シアナは全く気づいていない様子だったが。
どうにかして生き延びなければ、と決意しつつソルはシアナを見つめた。
『シアナ様、当然殿下の贈り物もありますよね?』
『この小さなブローチよりも、もっと素晴らしくて大きな贈り物です!』
だが、ソルはその言葉を口にすることはできなかった。
シアナがラシードを見ながら言葉を発したからだった。
「殿下、私が思っていたよりも、バラの宴に対する人々の関心がとても高いという話を聞きました。」
「そのようですね。」
「人々が大いに期待を寄せて見守る中で、不十分なダンスを披露するわけにはいきません。最高の踊りをお見せします。」
シアナがラシードに手を差し出した。
「さあ、早速練習を始めましょう。」
「……」
どこか不満そうな表情を見せるシアナを見つめながら、ラシードは微笑みを浮かべてシアナの手を取った。
二人のやり取りを見ていたソルは、場の雰囲気に耐えられなくなり、そっとその場を離れ、宴会場の端へ逃げ込んだ。
ラシードが踊りの練習中は周囲に気を使わないように、と指示したことはあったが、こんなにありがたいと感じたのは初めてのことだった。
広々とした宴会場には、奇妙な沈黙が漂っていた。
それは普段とは異なり、ラシードとシアナの間に妙な緊張感が生じていたからだ。
先にその静寂を破ったのは、ラシードだった。
「私に何か怒っているの?」
ラシードの質問に、シアナは冷静に答えようとしたが、言葉を飲み込んだ。
それが事実ではなかったからだ。
シアナは目を細めて尋ねた。
「怒っているのではありません。ただ、驚いただけです。」
「何に?」
シアナはしばらく考えた後、口を開いた。
「殿下が100人もの貴族女性からパートナーの提案を受けたというのは本当ですか?」
ラシードは予想外の質問に目を丸くした。
そして、笑みを浮かべながらシアナを見つめた。
シアナは驚愕の表情でラシードをじっと見た。
ラシードの異名は「血の皇太子」。
そのため、彼がどんなに美しい容姿と強大な力を持っていても、それについて深く追及することは避けられてきた。
少なくとも皇宮の侍女たちはそうだ。
だからシアナは、貴族女性たちの状況もそれほど変わらないだろうと考えた。
どんなにラシードが魅力的な男性であっても、命の方が大切だからだ。
それなのに、大胆にもパートナー申請をした貴族女性が百人もいるとは!
「意外ですね。殿下が貴族女性たちにこれほど親切に接しておられるとは思いませんでした。それなら彼女たちも恐れることなく、そんな手紙を送れたのでしょうね。」
心の中では反論してほしいと願いつつ投げかけた言葉だったが、ラシードは微笑みながら手元の扇を軽く振った。
「そうだな。貴族女性たちは私の両親とは違って、私を恐れていないようだ。それどころか、私を称賛する集まりまであると聞いたよ。知らないうちに、私の肖像画を持ち歩いたり、私に関する歌まで作って歌ったりしているらしい。」
「はっ!」
シアナは呆れたように目を大きく見開いた。
そんなシアナを見て、ラシードが言葉を続けた。
「でも、さっきの話は全然事実じゃないよ。俺は貴族の女性たちに親切に接したことなんてない。いや、最初に会ったときに挨拶程度にお茶を一緒にしたくらいだ。」
「……」
「言っただろう?俺は11歳の時から戦場にいたんだ。貴族の女性たちと親しくなる余裕なんて全くなかった。」
口を閉じたままのシアナに向かい、ラシードがそっと身を寄せた。
シアナの耳元に口を近づけたラシードが静かに囁いた。
「だから、シアナ。俺が親切に接した女性はお前だけだ。」
「……!」
最後の言葉に、シアナの顔が熟れたトマトのように赤く染まった。
シアナは震える耳を手で覆いながら、ラシードを見つめた。
シアナと目が合ったラシードが、優しく微笑んでいた。
少し前に言った言葉が本心であるかのように、穏やかで優しい表情。
その顔を見て、シアナは新たな恥ずかしさに包まれた。
『私ったらどうしちゃったの? 王子様が貴族女性たちに人気があるなんて、私には全然関係ないのに。』
ああ、恥ずかしい。
シアナは目をぎゅっと閉じた。
扇を手に持ったままうつむくシアナを見下ろしながら、ラシードは抑えきれない驚きを感じた。
『可愛いな。』
だが、可愛いものは可愛いとして、確認すべきことは確認しなければならない。
ラシードが口を開いた。
「シアナ、気は済んだ?」
「最初から怒ってたわけじゃないんです。ただちょっと驚いて動揺しただけですって言ったじゃないですか。」
「まあ、君がそう言うならそういうことにしとこう。」
ラシードはシアナの曖昧な弁解を特に気に留めることなく続けた。
「それじゃあ、僕も一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「おっしゃってください。」
「どうして僕にだけ贈り物をくれないの?」
「……っ!?」
まったく予想外の質問に、シアナは扇を思わず落としそうになった。
シアナを見下ろすラシードの表情は、真剣そのものだった。
「ソルにはあげたじゃないか。他の人たちにもあげたって言ってたよね。」
「……。」
「それなのに僕だけあげないのは……僕が嫌いだから?」
シアナは何かを言おうとしても、どう言えばいいかわからず、口ごもるばかりだった。
「違います!」
「じゃあ、どうして……。」
ラシードの目に、小さな失望が浮かんでいた。
まるで一人だけ妖精から贈り物をもらえなかった子供のようだった。
「そんなことで気にするとは思わなかったのに。」
シアナはそんなラシードの様子に驚き、答えた。
「殿下への贈り物は、あえて買わなかったんです。ブローチよりも他にもっとお好きなものがあるのではないかと思ったので。」
「僕が好きなものって何?」
「それは……。」
シアナは答えようとして、ふとラシードの顔を見上げた。
つい先ほどまで満足していたはずの表情は、一転して期待に満ちた顔つきに変わっていた。
なぜだろう。
「そんな顔をされると、素直に答えたくなくなる。」
シアナはそう思いながら、そっと口元に手を当てた。
「時が来たらお教えします。それまでは秘密です。」
ラシードの口元が不機嫌そうに突き出された。
それはまるで、今日皇太子宮に到着した時のシアナのようだった。








