こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

105話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 対立
国賓館 応接室
フィローメルはおとなしくエレンシアに会いに行った。
『あの護衛騎士、目つきがまた鋭くなったな。』
エレンシアはなぜか懐かしさを感じながら、フィローメルの護衛騎士を見つめた。
「ニャー。」
フィローメルが飼っている猫が、椅子の肘掛けの上で石のように丸くなっていた。
気まぐれなその猫は、じっとエレンシアを見つめているようだった。
やはり、あの主人にあの猫だと思いながら、彼女は口を開いた。
「あなたなの?」
どうせ正体が他の人だとバレたので、もう本性を隠す必要はなかった。
フィローメルは余裕たっぷりに肩をすくめた。
「私が何ですか?」
「あなたが私のアイテムを全部持って行ったんでしょ!」
「アイテムって……何のことか私にはさっぱり……」
本当に何も知らないような表情に、思わず騙されそうになった。
だが、自分はそれほど愚かではなかった。
『このクソ女め!』
エレンシアはぎりっと歯を食いしばった。
心の中では、この女をすぐにでも排除したかった。
しかし、フィローメルはロザンヌとは違う。
暗殺しようとしても簡単にはいかないし、もし成功したとしても皇帝が黙っているはずがない。
『できるものなら、もっと徹底的にやっただろうに。』
最初から気に食わなかった。消してしまいたかった。まるで当然のように私の席を奪おうとするあの女を!
エレンシアは心の奥底で沸き上がる嫉妬心を必死に抑えた。
『もしフィローメルが本当に「氷の者」で、私より高い好感度を持っているなら、注意しなければ。』
まずはフィローメルを自分の手中に収めるのが先決だ。
そして、隙を見て処理すればいい。
エレンシアは喉をなでて声を絞り出した。
「ごめん。」
フィローメルの右の眉尻がぴくっと上がった。
「何ですか?」
「私が今まであなたに突っかかったことで気分を害したなら謝る。ごめんね。」
「……」
「なんだかあなただけを見ると競争心が湧いて、嫉妬してたの。お父さんが私よりあなたの方を好きなんじゃないかって。」
嘘ではなかった。
正確には、傷ついたというよりは腹が立ったけれど。
「あなたがいなくなったとき、お父さんはあなただけを探してた。最初に会った私は眼中にもなかったわ。」
実際にはそうではなかったが、そんなものと大して変わりなかった。
なぜなら、彼女がそう感じたからだ。
エレンシアは言葉を続けた。
「先生たちはあなただけ褒めて、ナサールはあなたのことが好きなようだし、お父さんも……。」
「すみません。」
感情が乗った声が途切れた。
エレンシアは苛立ちながら「なに?」と尋ねた。
「お父さんなら、皇帝の廃位の話ですよね?」
「ええ、それくらい当然のことを……。」
「あなたの父親じゃないでしょう。」
「じゃああんたのお父さんだ!」
堪えきれず大声をあげたエレンシアに向かって、フィローメルはくすっと笑った。
「私は自分のお父さんだなんて言ったことありませんよ?エレンシアのお父さんです。」
険しい表情のエレンシアを見つめながら、フィローメルは言った。
「あなた、自分がさっきからおかしなことを言ってるって分かってます?」
彼女はティースプーンでお茶をかき混ぜた。
優雅な動作だった。
「どうして自分が本物のエレンシアだって当然のように話すんです?」
「……だって今は私がエレンシアだから。」
「その子の体を乗っ取ったからって、エレンシアじゃないわ。」
何気なく言ったつもりが、意外にも鋭い声が返ってきた。
「なら、なぜあの時、私を助けようとしたんですか?」
「それは……。」
言葉に詰まり、フィローメルは唇を噛んだ。
「私の立場では、あの時助けるべきだと考えたからです。」
そう言いながらも、心の奥底にある理由を自分でも探しきれずにいた。
エレンシアは落ち着いて説明した。
「皇帝と初めて会った時から、この体の中には私がいたの。この体は、彼と彼が愛した妻の間に生まれた体よ。この顔は奥さんそっくりで。」
「……それがどうしたんですか?」
「大事なのはアルメンギじゃない、ってこと。」
依然としてフィローメルは理解できない表情だった。
「以前この体にいた魂が誰だろうと何だっていうの?皇帝が知っているエレンシアは私なんだから。」
「私はあなたが何を言っているのか全くわかりません。」
「考えてみて。皇帝がエレンシアを愛している理由は、彼女が娘だからよ。外見的な理由。結局、性格や魂といった内面的な部分にまでは踏み込んでいないの。」
「じゃあ、中身がまったく違う人間でも問題ないってこと?」
「そうよ。途中で魂が入れ替わって、知っていた娘が消えたわけじゃないし、何の問題があるの?」
フィローメルは息を呑み、疑わしげに観察を続けた。
「なるほど。廃するってのはそういうことか。他の人はどうなんです?カトリーヌとか村の人たちは、本当のエレンシアについて知っているみたいですけど。」
「そんな人たちが重要?カトリーヌは罪人だし、村の人たちは二度と会うことのない連中よ。」
「本当のエレンシアには大切な人たちがいます。」
エレンシアは鼻をほじった。
「ああ、そう?残念だったね。でもどうしようもないじゃない。もうそのエレンシアは消えてしまったんだから。」
「……あなた、本当に本当のエレンシアに対して申し訳ない気持ちは一ミリもないんですね。」
「気にするわよ。でも、私がなんで謝らなきゃいけないの?私が他人の体を無理やり奪ったわけでもないでしょう?君も私の記憶を見たから知ってるでしょ。」
彼女は不運な事故で死んだ。
そして目を覚ました時、エレンシアの体の中だった。
「それでも今のその態度はあまりにも薄情です。少なくとも、あの子が大切にしていた人たちを敬うくらいは……」
「やめて! 私たちはこんな問題で揉めている場合じゃないの。」
「……ああ、そうだね。言いたいことがあるなら、言ってみて。」
フィローメルの荒れた様子はかなりひどかったが、エレンシアはむしろ穏やかな声で話した。
「私たちはお互いに敵対する理由がない。」
「私に敵意を向けたのはあなたでしょう?」
「……それはごめん。さっきは謝ったじゃない。『皇女エレンシア』を盗むように仕向けたのも、少し行き過ぎだった。」
「わかったわ。続けて話して。」
「私はただ、あなたが羨ましかっただけで、これ以上の悪意はなかったわ。」
「本当ですか?」
「当然さ。私が君に大きな間違いをしたことはないだろう。盗みを指示したのも、ただ私の本を取り戻したかっただけだ。」
「ふーん。」
「フィローメル、だから私の本とアイテムを返して。」
「さて、どうしようか。」
フィローメルがのらりくらりした態度を見せると、エレンシアは同情心に訴えることにした。
「私ってかわいそうじゃない?残酷にも死んで、こんな見知らぬ場所に一人きりで落とされて……。」
目を閉じていたフィローメルがそっとまぶたを開けた。
「これだけ教えてくれたら、前向きに考えてみるよ。」
「……そうか。何?」
「『皇女エレンシア』って何?あなたがゲームをベースにして書いた小説なの?」
フィローメルも自分の記憶を見たから、この事実を隠せない真実だった。
「……そうよ。」
「なんでそんな小説を書いたの?」
エレンシアは純粋に、その問いの意図を知りたかった。
『その小説が生まれた背景をよく知らないの?それなら、ゲームを軽い気持ちでプレイしたユーザーだったの?』
『帰ってきた皇女様のドキドキな宮廷生活』のようなファンでなければ分からないような内容だった。
『いや、最初からキャラクターじゃなくて本当に憑依者だったの?』
頭が破裂しそうなほど複雑だった。
フィローメルについて何も分かっていないまま迷路の中をさまよっている気分だった。
エレンシアはどうにか適切な返答を選んだ。
「それが私の仕事だったの。ゲームの公式小説を書くこと。」
フィローメルは彼女の真意をはかるような眼差しを向けた。
心の中で警戒心が湧き上がった。
「ねえ?お願い。私の本とアイテムだけ返してくれない?」
「それだけでいいんですか? 私にこれ以上のことは求めないんですか?」
「もちろん!」
「本当ですか?返してくれるなら、私が皇宮であの者のように卑屈に仕えることはしないんですか?」
エレンシアは一瞬、言葉を失った。
『この子、ずうずうしくない?偽物の立場で、そんなことを言うなんて。まさか…皇帝の入閣の申し出を受け入れるつもりなの?』
絶対に嫌だ!
こんな偽物と姉妹になるなんて、想像するだけで体が震える。
愛されるお姫様は、ただ一人でなければならないのに。
エレンシアは震える拳を隠しながら、慎重に口を開いた。
「それってちょっとお互い気まずくならない?私はこの体で第二の人生を幸せに生きていきたいの。」
「それで、私は出て行けって?」
「必ずしもそういうわけじゃないけど、その方が君の人生を探すのにいいじゃない。ここにいても仕方ないでしょ。」
「それは、そうですね。」
エレンシアの顔に血の気が戻った。
「じゃあ、出て行くんでしょ?アイテムと本は返してくれる?」
フィローメルの口元にさっと微笑みが浮かんだ。
「お断りします。」
エレンシアの表情が崩れた。
「なんですって!」
フィローメルはゆっくりとした態度でお茶を一口飲んだ。
「あなたの言うことには全く信憑性がありません。私に悪意がなかったのなら、なぜあのとき私に向かってあのような冷たい言葉を投げかけたのですか?」
「そ、それは……」
返す言葉がなかった。
まさかこの女性がそこまで理解しているとは。
「当時、私は自分の意思でこの場を離れました。あなたが気にする理由はなかったはずです。」
「言ったじゃないか!みんなが君だけを探して嫉妬したって。」
「だからといって、国中の人々を私の敵に仕立て上げるのですか? あのときもし、私を嫌っていた民衆が私を捕らえていたら、私は今この場にいなかったかもしれませんよ。」
「卑怯なことしないで……!」
エレンシアは焦りから髪をぐしゃぐしゃにかきむしった。
「ちょっと私を理解してくれない?あなたが私の父のそばでのんびり過ごしていた間、私はあなたのお母さんに虐げられて生きてきたの。」
胸の奥に押し込めていた悔しさがあふれ出た。
「だからって過剰に嫉妬することもあるでしょ?いっそあなたの存在を消し去りたかったかもしれないじゃない?」
「それは本物のエレンシアの事情です。」
「エレンシアは私じゃない!」
「主張がめちゃくちゃですね。さっきまでは本物のエレンシアなんて関係ないように言ってたのに、今になって──」
また、考えてあげているふりをしている。
まるで自分自身がエレンシアと同じ存在であるかのように。
フィローメルの顔に、露骨な軽蔑の色が浮かんだ。
「あなたに都合のいいときだけ、あの子の事情を持ち出すな。」
エレンシア、いや、エレンシアの体を借りた存在は目を細め、しばらく黙り込んだ。
そして淡々とした声で言った。
「いいわ。好きにしなさい。あなたは何をしても私が嫌いなのね……。」
「そう。あなたが私を嫌うように、私もあなたが嫌い。」
フィローメルはあえなく言葉を置き、口を閉じたようだった。
皇女はぎりっと歯を食いしばった。
「外に出て誰か捕まえて聞いてみなさい。皇女の体に別の魂が乗り移ったなんて、誰が真剣に信じてくれると思う?」
「それはわからないわ。」
「間違いなく、みんなあなたが本当の皇女の座を奪いたくて私を陥れようとしているって思うでしょうね。」
「……」
「今ここで私の手を取らなかったことを後悔しないでね。」
そう言い残して彼女はその場を蹴って出て行った。
「もう私がエレンシアなの、私がエレンシアよ。」
強気にふるまいながら執務室に戻っていった彼女だった。
濡れた顔に恐ろしい表情を浮かべた少女の顔が映った。
「……エレンシアの顔。」
やはり自分はエレンシアだった。
「ふっ、ふ……ふふははは!」
笑い声が漏れた。
自分がエレンシアでないなら、一体何だというのか。
また、自分がエレンシアである方が自然だと感じた。
『お人好しでだまされやすい昔のエレンシアだったなら、あの偽物にまともに対応すらできなかっただろう。』
はっきりとした表情で手を放し、フィローメルがすべてを奪い去ろうとする様子をただ眺めるだけだった。
エレンシアは鏡に映る少女を見ながら声をかけた。
「心配しないで。私があなたのお父さんと婚約者、両方探してあげる。」
そう言って、彼女はくすっと笑った。
「……」
その奇妙な光景を乳母が見守っていた。
コンコン、そのとき侍女がドアをノックして入ってきた。
エミリーだった。
「勇者キリオン様とエスカル伯爵様がお越しになりました。」
「今行くわ。その前に……」
エレンシアはエミリーに他の侍女を呼んでくるよう命じた。
その少女には別途指示された事項があったが、そろそろ任務を終えた頃だった。
エミリーが他の場所にいた少女を見つけ、エレンシアが尋ねた。
「調べてこいと言った件はどうだった?」
「はい。仰せの通り、サンデラ地域には正体不明の病気にかかった者たちが何人かいました。」
「症状は?」
「全身が青白く変色し、体温が下がり、特異な点としては幻覚が見えるとのことです。」
やはりだ。
エレンシアは満足げにほほ笑んだ。
「よくやった。褒美を与えよう。」
宝石箱からエメラルドの片方のイヤリングを取り出して侍女に渡した。
「ありがとうございます!あの、周辺地域の状況も調べてみましょうか?」
エレンシアは「欲張りだな」と心の中で思いながら、顎を軽くしゃくった。
侍女は名残惜しそうな顔で下がった。
近頃エレンシアは宮廷の人々の好感を得るために財宝をばらまいていた。
確実な方法がない以上、こういう手段でも評判を上げるしかなかった。
だが、費用対効果は正直いまひとつだった。
特に侍女たちは集まっているときはケルトン伯爵の儀礼をけなすフィローメルを褒めそやしていた。
「ちっ、あんな見え見えのポーズが何だっていうの。」
ミカンを握りしめていたエレンシアは、気分を切り替えようと決意した。
『もう少しよ。私があの子よりもっと褒められることになるから。』
そう思って、今日の会話の場を提案し、調査を進めるよう指示した。
昨日のほんの一瞬だったが、<皇女エレンシア>が手に入ったとき、彼女ははっきりと気づいた。
自分が本来持っているべき名声を取り戻す方法を。
エレンシアは自分の勝利を確信し、応接室へと歩みを進めた。









