こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

107話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 勇者キリオン
南宮に戻ったフィローメルは、隣にいたルグィーンに尋ねた。
「うーん、ちょっとやりすぎだったでしょうか?」
険悪に歪んだエレンシアの顔が目の前に立ちはだかった。
その女性の怒りを最大限引き出すのが元々の目的だったが、先ほどは少しやり過ぎたかもしれないと不安がよぎった。
猫のように身をひそめ、その場にいたルグィーンは首をすくめた。
「ちょうどよかった。おびえている目つきを見ると、まるで私の娘みたいだ。」
「……褒め言葉として受け取っておきます。」
「ところで、治療薬の件はいつ手をつけたの?」
「逃げる前ですよ。それくらいはしておきたかったので。」
エリタでは、マサン病が集団発症し始めていた。
気まずそうにしていたフィローメルは、宮医に頼んで医院を紹介してもらった。
『まあ、私がやったことといえば、治療に山参草を使ってみるよう勧めただけだし。』
宮医の知り合いというエリタの医者は、最初は異国の皇女の介入に戸惑った。
だが、試しにという気持ちで患者に山参草を服用させたところ、実際に効果があったのだ。
その後、彼とその仲間たちは長い研究の末、治療薬の開発に成功した。
〈皇女エレンシア〉に治療薬の製造方法が詳しく書かれているわけではなかったので、残りは現地の医療陣が自ら解明するしかなかった。
通信席を通じて、彼は深い感謝の意を表した。
「全ては黄女殿下の御恩です!私がこの事実を王様にご報告し、国家に尽くしたいと願っております。」
心の中では感謝の気持ちはあったが、フィローメルは彼を制止した。
当時はまもなく逃走する計画だったため、他の事に時間を費やしたくなかった。
『何よりも、彼らがどうやってサンサル草のことを知ったのかと聞かれた時に、答える言葉が気になった。』
良いことをしても、余計な疑いを生むのは避けたかった。
こうしてフィローメルがこの件に関与したことが示された。
このことは、ほんの少数の人しか知らない秘話として残った。
とてもくすぐったい体験だった。
本の内容通りだったなら犠牲になっていた多くの命が、自分のささやかな行動によって救われたのだ。
メリンダの母であるルース伯爵夫人も、そのうちの一人だった。
彼女はエリタにいる親戚の家を訪問した際に病にかかってしまったのだ。
メリンダはその時、あの医師を紹介してくれたことに今でもフィローメルに感謝していた。
皇帝も、彼女とティータイムを共にしたある日、短く言った。
「お前は立派だな。」
フィローメルは、それを隠したいと思ったのか、それ以外の理由かは分からないが──。
ユースティスを思い出すと、なんだか胸が詰まる気がした。
『次に会った時はどう対応したらいいのか分からないな。』
どれくらい前から彼が思ったより自分を気にかけていたのかは気づいていたけど、まさかエレンシアよりも近い存在として思われていたとは思わなかった。
今のエレンシアは偽物だけど。
正直、複雑な心境だった。
『今さら知ったところで何だっていうの?』という気持ちと、『それでも……』という気持ちが半々だった。
フィローメルは気持ちを振り切って、状況を整理した。
「一言で言えば、エレンシアはすでに存在する治療薬を作ると言い張っていたってことよ。」
さらに、この機会にハウンズ商団の資金も十分になった。
エスカル家の財産のおかげだ。
そのとき、外に出ていたジェレミアが部屋に戻ってきた。
魔塔から連絡が入ったと言い、一時席を外していたのだ。
「皇女の塔を使ったあの人間も、忍耐強いようだな。」
「どうしてですか?」
「魔塔を通じて『ジェレミア』という名前の魔法使いを探しているらしい。」
「……好感度を上げたいから焦っているんですね。」
エレンシアがジェレミアを探す理由はそれしかなかった。
「以前は匿名で私を探していたから、それが彼女なのかは知らなかったけど、今は自分の正体を明かして探しているみたいだね。」
「ジェレミアを探していた人は以前もいましたか?」
「ああ。ここに来てそんなに経っていない頃、誰かが大金を出して私を雇いたいと言ってきたことがあった。」
「そんなことがあったんですか?でも、どうして行かなかったんですか?」
「お金で私を買おうとするのは少し気に障ったのと……“ビンゲルの何か”を探しているって言ってた。」
『ビンゲルの何か』を口にするジェレミアの目が燃えるようだった。
フィローメルにとって、後者が頼まれた理由だった。
エレンシアにとっては不運なことに、彼女が辛うじて求めていたジェレミアは、実はすぐ近くにいたのだった。
だが、変身の首飾りの影響で目の前にあってもわからなかった。
ジェレミアがため息をつきながら前髪をかき上げた。
「まったく、好感度だなんて。俺にそんな面倒なものがくっついてるなんて思わなかったよ。」
フィローメルは無心に彼の頭の上に浮かぶ好感度を確認した。
『89%』
いつの間にか商店で確認した数値より1%上がっていた。
視線に気づいたジェレミアが鋭い目つきで睨んだ。
「また見えてるのか?」
「はい。しばらく見えなかったのに、急に見えるようになりました。」
「……それで?」
「73です。」
彼は『そうか』とだけ言って、納得したような表情を浮かべた。
最初にフィローメルが正直に数字を伝えたとき、ジェレミアはそんなはずがないと怒った。
その反応に、彼女は冗談だったと取り繕い、数字を低く言い直さざるを得なかった。
『恥ずかしいけど、これからも当分はずっと嘘をつかなきゃいけないんだな。』
フィローメルはひそかに決意した。
その後、3人は果物を食べながら、和やかな時間を過ごした。
「ルグィーン、寝転がってお菓子食べないで。床にこぼれるでしょ。」
「後で魔法で全部片付けるから、気にするな。」
「つまり、俺が片付けないといけないってことか。」
「だったらそっちも目をそらせ。」
「お二人とも、どうしたんですか。」
フィローメルは言い争う二人を慣れた様子でなだめた後、ルグィーンを見て尋ねた。
話題を変えるためだった。
「そういえば、最近外出が多いですね。」
「うん。用事があって。」
その用事が何なのか少し気になったが、彼女は尋ねなかった。
『私生活もあるだろうな。』
しかし、家族の穏やかな一時は、ナンシーの声で破られた。
「エイブリトン少公爵様がいらっしゃいました。」
ナサールが訪問したのだった。
フィローメルの顔には晴れやかな笑顔が浮かんだが、他の二人は渋い顔をしていた。
フィローメルは嫌そうな顔をしたルグィーンに、にこやかに応じた後、応接室ではなく別の部屋で客を迎えた。
彼らの関係はそんな些細なことで変わったのだった。
ナサールは緊張感あふれる顔でフィロメルの部屋に入った。
「ナサール、いらっしゃい。ところで、どうしてそんなに頭が……?」
数日ぶりに会ったナサールは髪がぐちゃぐちゃになっていた。
「道を歩いていたら鳥が現れて私の頭をつついていきました。」
「そんなことがあるんですね。」
「実は……」
彼はしばらく黙ってから話し始めた。
「前回の訪問以降、原因不明の出来事が私の周りで頻発しています。」
「どんなことですか?」
「道の途中で馬車の車輪が外れたり、扉と窓が同時に故障して風で部屋に閉じ込められたりしたこともありました。」
「……」
「何よりもフィローメル様に連絡を取ろうとしたところ、通信手段が使えず困りました。」
「……そうなんですか。」
証拠はなかったが、フィローメルは事件の原因として疑われた。
だが、事情を知るはずのないナサールは、思いつめた表情で言った。
「やはりこれは、過ぎた幸運の代償ではないか……。」
「どういう幸運ですか?」
「あなたが私を友人以上に思ってくださるなら、それ以上の幸運が人生にあるでしょうか。」
「……もしかして私の機嫌を取ろうと思って、わざわざこういう小芝居を用意してきたんですか?」
「え? 全然違います。」
彼は時々、特に理由もなくチクリとした言葉を放つことがあった。
「とにかくそんなことじゃないから心配しないでください。」
フィローメルはそう言いながら猫を撫でた。
猫は不満そうな気配をぷんぷん漂わせながら彼らのそばへやってきた。
ナサールは猫に挨拶しながら手を差し出した。
「こんにちは、クォンクォン。ふふっ……」
鋭い前足の爪によって、彼の手には引っかき傷ができた。
「ちょっと!ナサールは大丈夫?」
「大丈夫です。大したことありません。」
「血が出てるじゃないですか。ごめんなさい。私が代わりに謝ります。」
「本当に大丈夫です。」
ナサールは猫を撫でているフィローメルを見つめ、彼を宥めた。
「叱らないでください。叩いたのは私の不注意です。騎士の立場から見れば当然不快だったでしょう。」
「ナサール……」
なんて優しいんだろう。
最近よく会う男性がルグィーンとジェレミアだから、彼女の目にはナサールの善良さがより一層際立って見えた。
フィローメルは薬と絆創膏を持ってきて、直接彼の手を治療した。
ナサールは、その程度の怪我なら大したことないと戸惑っていたが、治療を断ることはしなかった。
薬を塗って絆創膏を貼る過程で、自然と二人の手がしばらくの間触れ合った。
「………」
「………」
二人はお互いの顔が少し赤くなったまま、沈黙した。
じじじじっ。
そんな二人をよそに、猫は前足を立てて勢いよくカーペットを引っかいていた。
ナサールは口を開き、水がにじみ出るような気まずさを隠せずに言った。
「私のことをとても嫌っているみたいですね。私が知らずに何か嫌われるようなことをしたのでしょうか?」
「私がナサールと付き合っていると嫉妬してるんじゃないですか?」
彼の赤い瞳が大きく開かれた。
「……私たちが付き合ってるんですか?」
「そうじゃないんですか?私はそうだと思っていましたが……。」
「違います!違います!その……私はそんな考えは全くしていなくて。」
ナサールは立ち上がり、二つの拳をぎゅっと握りしめた。
「そうですか。フィローメル様と私は付き合っている関係です。付き合っている関係、付き合っている関係、付き合っている関係……。」
彼はため息をつきながら呟き、また「世の中に……」と続けた。
彼は世界で一番幸せな男のように満面の笑みを浮かべた。
彼があまりに喜んでいるので、フィローメルは次の言葉を切り出すのが少し怖かった。
「もしよければ、ナサールにお願いを一つしてもいいですか?」
「はい!何なりとおっしゃってください!」
「勇者キリオンにこっそり会いたいのですが、段取りをつけていただけますか?」
輝いていた笑顔は一瞬にして固まった。
フィローメルは何度もナサールをなだめた後、ようやくキリオンに会いに行くことができた。
「…ずっと前、あなたの婚約者だった頃から、こういう時は来ないかと思ったけど、やっぱり来たんですね。」
「えっ?」
「お父様が元皇帝陛下だったから特別だっただけで、もともと至高の存在というのは様々な異性を引き寄せるものなんですから……。」
「何を考えているんですか?そんなことじゃありません!」
彼の誤解を解こうと本当に慌てた。
『私が浮気者に見える?自分と付き合ってどれくらい経ったっていうのに、もう他の人を探してるなんて。』
少し呆れたが、不器用ながらも必死なその姿がかえって可愛く見えた。中毒である。
どうにかフィローメルがきちんと説明すると、ナサールはすぐに安心して、彼女の頼みを聞き入れた。
現在二人はエイブリデン家の馬車に乗ってエスカル伯爵家へ移動中だった。
表向きキリオンに会うのはナサールだ。
エレンシアの目を避けるためだった。
「ナサールはキリオンと親しい方なんですか?」
フィローメルの問いにナサールは苦笑した。
「顔見知り程度ですが、親しいとまでは言えません。私は私で忙しく、エスカル家は勇者になるため、幼い頃から修練してきましたから。」
キリオン・エスカル。
上級モンスター、ケルベロスを倒した男。
彼は現時代の人物の中で、最も「勇士」と呼ばれる称号に近い人物だった。
自分ではなく、周囲の羨望を集める「真の勇士」であることは間違いなかった。
ナサールほどではないけれど、皇女の側近としては適任な相手だ。
さらにキリオンは、エレンシアとデビュタントで初めて踊った相手であり、その後もさまざまな場面で皇女のエスコートを務めてきた。
人々は二人が結ばれるのは時間の問題だと噂していた。
「でも……」
神の書にはこう記されている。
「真の勇士のみが、別の世界から来た侵入者を追い払うことができる。」
偽のエレンシアを追い払うことができるのは、キリオンだけだと。
ルグィーンは橋を渡る前に占いなんて信用できないと言って、ただエレンシアを始末しようと提案した。
フィローメルは反対した。
予言が勇者を強調しているのには明確な意味があるはずだ。
『そして身体は本当にエレンシアのものなのか……』
本物のエレンシアには会ったこともなかったが、フィローメルはなぜか彼女に親近感を抱いていた。
生まれてから両親も知らずに生き、身体まで奪われた子供。
そんな子供を死に追いやるべきなのか?
ましてや皇帝の存在まで関わっている。
たとえ真実を知ったとしても、彼が娘の身体を死に追いやることを望むはずがなかった。
もしかしたら、勇者にはエレンシアの体に宿った魂を取り除く方法があるのかもしれない。
それを確認するために、一度はキリオンに会わなければならないと思った。








