こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

122話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 夜明け
そしてついに、マリアンヌとルーン様の戦いが始まった。
金属がぶつかり合うような音と共に、閃光が走り、血しぶきも舞った。
一方でコウモリたちと戦っていたルディオンは、次第に力尽きていく様子だった。
それを見て、私はこの魔物を呼び出したことを後悔し始めた。
ルミナス様とルディオンを何度も召喚できるとはいえ、二人は今、激しい戦闘を繰り広げていた。
前回の戦いの疲労が完全には癒えていない可能性もあった。
『……どれくらい耐えられるだろうか?』
目の前が霞んだ。
そのときだった。
かすかな視界の中で、マリアンヌが徐々に後退しているのが見えた。
いくら彼女が強い力を持っていても、それはあくまで人間としての範囲内だった。
ルーン様に敵うはずがなかった。
私は希望の光を感じた。
マリアンヌの顔には余裕がなかった。
ルーン様の攻撃が彼女をさらに追い詰めていた。
そして次の瞬間、彼女はついにルーン様の強大な力に耐えきれなかった。
彼女の手が激しく震え、短剣を闇の中へと落とした。
短剣の防御膜が消えると、光の矢が彼女の肩を鋭く突き刺した。
「……くっ!!」
もう彼女を守ってくれていたものは何も残っていなかった。
イシスお兄様もベヒモスを処理している最中で、アルセンを襲っていた吸血コウモリたちもすでに倒されていた。
そして、アルセンを庇っていたルディオンも……ルディオンも?
「……っ!!!」
私は声も出せず、その場でしゃがみ込んでしまった。
血を吐きそうになるのをどうにか堪えた。
顔が真っ青に染まっていた。
「アイシャ!」
誰かが私の名前を呼んだが、頭が真っ白で誰の声なのか分からなかった。
マリアンヌの高らかな笑い声が塔の中に響き渡った。
彼女は片手で肩を押さえながら、肩からは血が滴り落ちていた。
喜びを隠そうとせず、満面の笑みを浮かべていた。
熱気を帯びた赤い瞳がきらめいた。
『……逆召喚。』
彼女は短剣を落としたわけではなかった。
むしろ、はじめから手放したのだろう。
闇の中に消えた短剣は、彼女の魔力に従って敵の心臓を貫いた。
そう、ルディオンの心臓をだ。
『……胃が気持ち悪い。』
私はついに血を吐いてしまった。
ルディオンは空中で光の粉となって消えた。
気を失わないように必死に耐えたが、無駄だった。
ルーン様の顔にも疲労がにじんでいた。
ルディオンが逆召喚された衝撃で私が魔力を維持できなくなると、それもまた霊界へと逆召喚されてしまったのだ。
「苦しいの? お姉ちゃん?」
マリアンヌだった。
彼女は笑みを浮かべながら血まみれの肩を押さえていた。
「どこが痛いの?それとも、つらいの?」
私はどうにか目の前の彼女を睨みつけた。
マリアンヌはその顔をのぞき込むようにして、さらに笑った。
「どうしてそんな顔をしてるの? もしかして私に失望したの?」
「……。」
「だって、お姉ちゃんがあの時私を突き放したとき、私はこうなるしかなかったんだよ。わかる?」
マリアンヌは、そんな私の姿があまりにも楽しくて、我慢できない様子だった。
「そう、その姿が見たかったの。」
「……うぅ………」
「お姉ちゃんが生まれ変わってくれたおかげで、お姉ちゃんが死ぬ姿を二度も見られるなんて。とっても嬉しい。まるで私へのプレゼントみたい。」
彼女は誰に止められることもなく、私の前へと歩み寄ってきた。
冷静なその声は、心から喜んでいるようだった。
まるで彼女が、ずっと昔、監獄で私の姿を見て大声で笑っていたあの時のように。
彼女は目を細めて笑いながら言った。
「さあ、もう一度死ぬ時間よ。」
彼女の手には黒い短剣がきらめいていた。
さっきルディオンを突き刺した、あの凶器だった。
私は逃げることができなかった。
逆召喚の衝撃により、混乱をなんとか抑えていた私は、正気を保つことすら難しかった。
私は、私に向かってくる短剣をただ見つめるしかなかった。
空中高く舞い上がったその短剣は、一直線に私を狙って降ってきた。
その動きはとても冷酷だった。
『……私はまた死ぬことになるのだろうか?』
今回も人間の手によって。
彼女は、私がただ運が良かっただけだと言った。
その言葉は間違っていなかった。私は確かに運が良かった。
この世にはさまざまな人がいるけれど、私はその中でも「尊い皇女」として二度も生まれ、裏切られたり虐待されたりすることもなかった。
素晴らしい家族も、友人も、大切な人々もいた。
誰かが私をねたみ、うらやましがったとしても、それがたとえ妹だったとしても、その気持ちをまったく理解できないわけではなかった。
私だって他の兄弟姉妹たちをうらやましく思ったことがなかったわけじゃない。
だけど、だからといって彼女にそれらすべてを奪う権利があるの?
ただ彼女が運が悪かったというだけで?
『いいえ、そんなことはない。』
私は強く唇をかみしめた。
確かに運はあったかもしれないけれど、人生の中での選択はすべて私のものだった。
いつも楽しかったり幸せだったわけではない。
悲しいことも、つらく苦しいこともあった。
ただ運が良かったというだけで、私の人生すべてを語ることなんてできない。
私は両目をしっかりと見開いて、彼女の姿を見つめた。
どんなことがあっても目を逸らすつもりはなかった。
『生きてきたそのすべてが、私の人生なんだ。』
たとえ彼女が私を刺して、私の人生を終わらせたとしても、それが私の最後の瞬間なら、私はこれまで私は自分の人生を正面から見つめたことがなかった。
けれど今こそ、それをまっすぐに見つめよう。
私の意志は確固たるものだった。
どういうわけか、私の目に映ったマリアンヌの瞳がかすかに揺れていた。
そしてその瞬間だった。
私の目の前に青い髪がなびいた。
かつて一度だけ見たことのある、美しい海の色だった。
その美しい色が、血の赤に染まっていた。
防ぐ間もなかった。
私は目を大きく見開いた。
私の目の前にはラキアスがいた。
彼は私の代わりに、マリアンヌの短剣に刺されていた。
「……あ」
私は言葉を失った。
そしてそれは、マリアンヌも同じだった。
「……ラ、ラキアスお兄様……?」
彼女の顔が初めて青ざめた。
彼女は自分が突き刺した短剣を握りしめたまま、どうすればいいのかわからないようだった。
血は少しずつ腹部ににじみ出て、広がっていた。
鋭い剣に貫かれたラキアスは、まるで激痛に耐えているかのように冷や汗を流していた。
おそらく、死を覚悟して振るった一撃だったため、その短剣には強い力がこもっていた。
貫通や深い傷であることは一目でわかった。
『……治療しなければ死ぬかもしれない。』
私は彼を見つめながら、自分の思いに驚かされた。
彼は私があれほどまでに復讐したかった人物だ。
沈黙の中で、イシスお兄様とアルセンが戦う音だけが響いていた。
マリアンヌが手を震わせている中、ラキアスがゆっくりと口を開いた。
「……あなたの考えは、すべて間違っていた。」
「……っ!!!」
マリアンヌの両目が大きく見開かれた。
「あなたは他人の家族を奪い、他人の居場所を横取りすれば、自分も愛されると思ったかもしれないが……」
「……お兄様……」
「私が愛していたのは、決して君のような醜い人間ではなかった。」
ラキアスの声は、血をぽたぽたと流しながらも静かだった。
彼は続けた。
「ようやく気づいたよ。私が本当に愛していたのは……」
「……あ……」
私は呆然としながらラキアスの顔を見つめていた。
「私の妹、アリサだ。」
池に石を投げ込んだように、彼の言葉は私の中に波紋を広げた。
逆召喚の後遺症なのか、それとも別の理由からか。
私の体は震えていた。
「私の愛情はすべて、あの子のためのものだった。」
その言葉には揺るぎない確信がこもっていた。
まるで宣言のようだった。
「だから、お前が受けたものは全て作られた嘘にすぎない。」
マリアンヌは後ずさりした。
「……あ。」
彼女は身を震わせていた。
「……あ………」
マリアンヌの顔が青ざめていた。
「あなたまで……私にそんなこと言っちゃだめ……」
「どうして?」
「私は……私はあなたが一番大切だったのに。」
マリアンヌは狂ったように叫んだ。
彼女は以前からラキアスに執着してきた。
無関心な皇帝すら得られなかった彼女は、母親の代わりにラキアスの中に親の面影を見出そうとしたのかもしれない。
セネロ皇帝が彼女を寵愛した後も、マリアンヌはラキアスに抱いた最初の執着を捨てることができなかったようだ。
しかしラキアスは冷笑しながら彼女を見つめていた。
「君を哀れに思うよ。結局、自分のものではない『殻』をまとうしかなかった愚かな君を。」
「……黙って!!!」
その言葉が引き金だったのか。
震えるマリアンヌは、ラキアスの体に再び剣を突き刺した。
一度、二度……血が噴き出した。
すでに倒れていたラキアスは、もはや抵抗できなかった。
そもそも彼は、そんな無茶をするような人ではなかった。
マリアンヌの刃にその体はボロボロになってしまった。
「……は、は、はぁっ……!」
しかし、その後の彼女は逆に自分自身に怯えているようだった。
彼女は後ずさりしながら燭台にぶつかり、そのまま崩れ落ちてしまった。
騒音とともに、びくびくとした不安や混乱が彼女の体に一気に押し寄せた。
彼女は狂ったように不安がっていた。
彼女を処理するには、今が最大の好機だった。
だが、私は思わずラキアスの顔を見つめてしまった。
彼の呼吸は浅くなり、今にも止まりそうだった。
「最後かもしれない」と思ってしまったのだ。
意識しないうちに、私の体は少しずつ震えていた。
ラキアスの体からは、あまりにも多くの血が流れていた。
そのとき、目が合った。
「……あ。」
私は凍りついたように息を呑んだ。
その青い瞳が私を見つめていた。
「アイシャ」として、彼とこんなふうに真正面から目を合わせるのは初めてだった。
彼の唇はわずかに動いていた。
何かを伝えたいような、そんな感じだった。
その言葉を聞きたかった。
けれど同時に、何を言われるか怖くて耳を塞ぎたかった。
しかし彼の唇は、ゆっくりと開かれた。
「……ア、リサ。」
彼の声はかすれていた。
私は思わず驚いて言葉を失った。
その声があまりにも弱々しかったせいだ。
「まさか……今はアイシャなのか……。」
その声は無力で、もの悲しく聞こえた。
私は口を開けかけて、結局閉じてしまった。何も言えなかった。
私たちはただ、暗闇の中でお互いを見つめ合っているだけだった。
その瞬間はまるで永遠のようだった。
いや、永遠でなくてもいい。
私たちに、もう少しだけ時間が許されるなら。
ラキアスがかすれた声で言った。
「すまなかった。」
「………」
私は呆然と口を開けたままだった。
「すまない」――そのたった一言で、すべての言葉が喉につかえてしまった。
「すまない」なんて。
どうしてその言葉が、こんなにも胸に刺さるのだろう。
私は唇をかみしめた。
「……ラキ、アス……」
もう少しだけ、彼の言葉を近くで聞いていたかった。
私は膝を引きずるようにして、彼に少しずつ近づいていった。
けれど、その言葉が最後だった。
「……あ。」
私は大きく息を呑んだ。
ちょうどその一言を終えた彼は、目をそっと閉じていた。
「……ラキアス……。」
私は呆然としていた。
何度も口をぱくぱくと開閉させた。
言いたいことがあったのに。
口に出したくて、唇が震えていた。
私は震える声で彼を呼んだ。
「……お兄ちゃん。」
けれど、彼の青い瞳が再び開くことはなかった。
彼の体を揺すってでも、確認したかった。
「おいっ!」
そのとき、イシスお兄様が私の方へ慌てて駆け寄ってきた。
魔族はいつの間にか黒い血を流しながら死んでいた。
アルセンが拘束していたマリアンヌを魔法で拘束しているのが見えた。
彼女はまるで狂ったようにうわごとを繰り返していた。
「私のせいじゃない。私のせいじゃない。私のせいじゃ……。」
アルセンは冷静だった。
彼は彼女をきっちりと気絶させたのだった。
私の元に駆け寄ったイシスお兄様は、私の体をそっと調べた。
「どこか怪我してないか?お願いだから、何でも言ってくれ。」
私は震える目でイシスお兄様を見上げた。
彼も少しは怪我をしているようだったが、幸い深刻な傷ではないようだった。
私はかすかに微笑んで言った。
「私は大丈夫です。」
すると彼の顔に安堵の表情が広がった。
「でも……」
私は手でラキアスを覆った。
「……死んだ、んですか?」
どうしても自分で確かめる勇気が出なかった。
イシスお兄様の顔がピクリと強ばった。
私を見つめていたイシスお兄様の視線が、ラキアスへと向かった。
ラキアスはぴくりとも動かなかった。
イシスお兄様の顔から、私は彼の言いたいことを読み取った。
「そうなんですね。」
私は頭を下げた。
イシスお兄様の顔には言葉では言い表せない表情が浮かんでいた。
時計塔の窓の向こうの空が、徐々に明るく白んできていた。
夜明けが近づいているのだった。








