こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

113話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 真実の鐘
一方、エレンシアはどこへ行けばよいのかわからず、大きな木の間をかき分けながら走っていた。
入口付近にいたが、会長室の中がどうなっているのか把握できなかった。
「魔塔主がフィローメルを自分の娘だと認めるなんて!ありえない!」
頭の中が混乱して考えがまとまらなかった。
「早く離れないと。」
その一心で彼女は体を動かした。
あの場所にいても良いことは何もなかった。
「サシャが全部失敗してしまったらどうしよう?」
とにかく、自分は捕まらなければならない。
今回の件はどうせシャシャ・ムリエルが独断で仕組んだことだから……。
「きゃっ!」
誰かが彼女の肩を強くつかんで振り向かせた。
エレンシアはお尻を突き出した。
「そんなに慌ててどこに行くんだ?」
皇帝だった。
「分別をわきまえろと言ったのに、どうしてお前がここにいる?」
娘を見下ろす彼の目には、一片のぬくもりもなかった。
「私の言うことを聞いても、軽んじて受け止めるんだな。最初からそうだった。」
「違います!どうしてもお父様の誕生日をお祝いしたい気持ちがあって、つい……。」
ユースティスは苦笑しながら言った。
「その“お父さん”って言うの、もうやめろ。」
「……お父さん?」
「私の娘じゃないのに。」
その言葉に、エレンシアの心臓が止まりそうになった。
「何を言ってるんですか!私じゃなかったら、誰が娘なんですか!フィローメルですか?私が偽物だって?」
「なぜフィローメルがそんなことを言ったと思う?」
エレンシアは口を閉じた。
あまりにも動揺して、言わなくてもいいことまで言ってしまった。
「……あの、あの子は私を嫌ってるから。」
「フィローメルを嫌っているのはお前だろう。そしてお前が私の娘ではないと言い出したのもお前の口からだ。」
「私がいつそんなことを!」
「……どうせ皇帝は本当のエレンシアを知らないくせに。」
聞き慣れない言葉にエレンシアは眉をひそめた。
皇帝は冷たい口調で続けた。
「皇帝と初めて会った時から、この体の中には私が入っていた。」
彼女は息をすることさえ忘れるほど衝撃を受けた。
自分が言った言葉だった。確かにフィローメルを探しに行ったとき、そんなことを言っていた。
エレンシアは反論した。
「お父さん、それはフィローメルの嘘です。私は本当に……。」
「ちゃんと私の耳で聞いたんだ。録音席に録音された君の声だった。」
「録音席だなんて、宮殿では許されない窓口の……。」
そういえば、フィローメルの親しい者は魔塔主だった。
そして彼らは今日初めて会ったように振る舞っていたが、実際には親しげだった。
前から繋がりのあった仲だったのに、自分は騙されていたのだ。
本能的に魔塔主の介入を悟ったエレンシアは、ぴたりと理解した。
「録音席での証拠は捏造です!私をはめようとしているんです!」
「……じゃあ録音石の件はともかく、乳母はなぜ死んだ?」
一瞬、彼女の瞳が揺れた。
「わ、私が乳母を殺しただなんて。乳母は事故で……。」
「遺体を調べた捜査官たちが言うには、君の説明通りなら絶対に出ない傷だそうだ。」
「……。」
「明らかに他殺の痕跡だった。」
彼女は言い逃れを探し、必死に頭を巡らせた。
「実際に乳母を殺したのは彼女だったんです。でも泣きながら見ていないふりをしてほしいと懇願して……。」
「一人は誰?調査の結果、当時西宮で働いていた使用人たちは全員、二人以上で組んでいた。『エミリー』という一人だけを除いて。」
深く考える間もなく、エレンシアは反論した。
「そうです!エミリーだったんです!」
「彼女は四人で部屋に集まっていた。」
考えれば考えるほど、深く沈んでいくような気分だった。
彼女は罠にかかってしまった。
これでは自分が乳母を殺したと認めるしかなかった。
「……そうです。乳母は私のせいで死にました。でも、冷酷に殺そうとしたわけじゃありません。乳母がひどいことを言ったので、カッとなって……。」
ユースティスは深いため息をついた。
「お前の弁明を聞くのももう疲れた。」
エレンシアはユースティスの足元にすがりついた。
「私が本当に悪かったです!こうして謝ります。でも私はお父様の娘です、本当です!」
「二つだけ聞く。」
皇帝がチャンスを与えるかのように、彼女は冷たく答えた。
「はい!何でも聞いてください!」
「お前は親の誕生日を大事に思うのか。」
「もちろんです!今日だってこうしてお父様の誕生祝いに行こうと……。」
「それならカトリーヌの誕生日はいつだ?」
「……え?」
「十数年も一緒に暮らした母親の誕生日を知らないわけがない。」
エレンシアはカトリンに関する記憶を必死で探った。
しかし、そもそもゲームの中の脇役キャラクターの誕生日まで覚えているはずもなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください。知っているんですが、すぐには思い出せなくて……。」
「どの季節かだけでも言ってみろ。」
まず、冬ではないはずだ。
冬はカトリンと過ごしたが、誕生日については一切聞いたことがなかった。
曖昧な記憶で、春の可能性も低く、残る季節は夏か秋だが……。
「……夏です。」
最後の選択はただ運に任せるしかなかった。
だが、残念ながらその運は彼女の味方ではなかった。
「冬だ。お前がおかしくなる前までは、毎年一緒に冬に誕生日を祝っていたそうだな。」
皇帝は体をかがめ、エレンシアと視線を合わせた。
「どうして偽物に騙されていたのか認めたくなかった。正直、本当の私の娘は体さえ奪われた始末なのに。」
サファイアの瞳に火花が散った。
「私の娘を返せ。」
殺気が全身を覆い尽くすような感覚に、エレンシアは息を呑んだ。
ユースティスは彼女の腕を強くつかんで引き寄せた。
「どんな手を使ってでも、その体から出て行きたいと思わせてやる。」
まるで取るに足らない存在を見るような視線に、エレンシアはぞくりと身震いした。
ウィーンという鋭い警告音が、エレンシアの頭の中で響き渡った。
『このまま連れて行かれるだけは避けなきゃ……!』
皇帝は「自分の娘の体が傷つかない限り、彼女にはいかなる自由も与えないつもりだ」と考えていた。
人間以下の扱いを受けるのは嫌だった。
死ぬほうがましだった。
「さ……」
そして、彼女が逃げられる道はただ一つしかなかった。
エレンシアは何度も繰り返し呟いていた、あの馴染み深い言葉を。
「ショップ入場。」
パァアアアア!
きらびやかな桃色の光が彼女の体を包んだ。
皇帝が異変を感じて彼女を引き寄せようとしたが、むなしい努力だった。
エレンシアは華やかなショップの前で目を開けた。
何度も周囲を見回した後、ようやく胸をなで下ろした。心から安堵した。
「プレイヤー様、ショップへようこそ。」
マスコットのようなキツネの警戒した仕草が、エレンシアの視界に映った。
エレンシアは呼吸を整えながら、力なく呟いた。
「これからどうすればいいの?」
ここも決して安全な場所ではない。
商店街で自分のことを知っている人は、少なくとももう一人はいる。
それに、フィローメルを抜きにしても、この場所に千年万年いられるはずがない。
「だからといって今、商店街の外に出たら、皇帝に捕まってしまう。」
少しの間、考えた後、エレンシアはインベントリウィンドウを開いた。
すると彼女の手にスクロールが一枚現れた。
「できるだけ節約したかったけど、仕方ない……。」
移動魔法スクロール。
行きたい場所を頭に思い浮かべてちぎると、どこへでも移動させてくれる魔法アイテム。
非常事態に備えて以前星光ショップで在庫をまとめ買いしておいた。
「うぅ……。」
エレンシアの口元から惜しむようなため息が漏れた。
本来なら紅炎の指輪を使えばスクロールを消費せずとも移動魔法を唱えられた。
しかし最近は体調が悪いためか、彼女の神聖力はまったく反応しなかった。
『こうなると分かっていたなら、指輪に前もって神聖力を充填しておくんだった……いや、後悔は後にしよう。』
「今はとりあえず安全な場所に避難して、その後のことは追って考えよう。」
しかし、エレンシアがスクロールを使おうとしたその瞬間、
「プレイヤー様、商店街へお越しくださりありがとうございます!」と、先ほどのウサギのような姿の店員と変わらない声が聞こえた。
「きゃっ!」
エレンシアが後ろを振り返る暇もなく、誰かが彼女を押し倒した。
エレンシアは自分の上に覆いかぶさった人影を見上げた。
「フィローメル……!」
フィローメルは舞踏会場を出て、皇帝とエレンシアがいそうな場所を探して歩き回った。
すると、少し離れた場所でちらちらと輝く桃色の光が見えた。
星光ショップに入場する時に現れる光。
エレンシアがショップに入ったという合図だった。
フィローメルは懐から石の彫刻を取り出した。
星屑岩の耳飾りを削って作った彫刻だ。
女神は以前こう言った。
「プレイヤー様、またお越しください。ゲームシステムをご利用いただければ、どこからでも商店街に入場できます。」
しかし、何度試しても彼女は特定の岩の近くにいるときにしか商店街へ移動できなかった。
その理由について考えていたフィローメルは、自分が正式な「プレイヤー」ではないという結論に至った。
ウサギもまた、自分と初めて会ったとき、バグかプレイヤーか一瞬迷っていたことを思い出した。
『プレイヤーかどうか分からない存在。』
そう思うと、その時感じた疑念が全て解けた。
不安定な存在のように現れては消える好感度も同じだった。
星屑岩の石を通さないと入れない星光ショップ。
理由はわからないが、フィローメルは半分だけプレイヤーのようなものだ。
『じゃあエレンシアは?』
エレンシアが自分と違って完全なプレイヤーなら、どこからでもショップに入場できるはずだ。
実際、エミリーの報告によれば、彼女は特別でもない洗面所で知恵の秘薬を持ち出してきたという。
『私もそんなことできるのかな?』
エレンシアと対峙しているうちに急にショップに入らなければならないことが起きるかもしれない。
そのたびに星屑岩の石がある場所まで行くのは効率が悪かった。
こうしてフィローメルはルグィーンの助けを借りて、星のような岩であれこれ実験をしてみた。
すると、岩の一部を削り取った小さな破片も、岩と同じ効果を持つことがわかった。
フィローメルは石片を持ちながら口を開こうとして、ふと手を止めた。
「もしかして、これも……。」
そうつぶやいて、彼女は腹の中から赤い液体の入った小瓶を取り出し、飲んだ。
「フィ……。」
「フィローメル様。」
隣にいたルグィーンとナサールが同時にフィローメルの名前を呼んだ。
二人とも心配そうな表情をしていた。
そして、その後をついてきた三兄弟もまた、同じように……。
星光ショップには彼女しか入れない。
つまり、これからは他人の助けなしに自分ひとりでやらなければならないということだ。
フィローメルは石の彫刻をぎゅっと握りしめ、周りの人々に笑顔を見せた。
それは彼らを安心させるための微笑だった。
「少しだけ待っていてください。すぐに終わらせて戻りますから。」
そして桃色の光が彼女の体を包み込んだ。
星光ショップの前。
「ううっ、これ見て!」
「じっとしてて!」
後ろの二人はお互いに力比べをしている最中だった。
エレンシアは自分の両腕を掴んでいるフィローメルの手を引き離そうと必死だった。
最初は簡単に引き離せると思った。
以前、彼女はフィローメルを無理やり皇帝の前に連れて行ったことがあった。
そのとき感じたフィローメルの力は、自分と大差ないものだった。
しかし今は、力を振り絞ってもフィロメールをびくともしない。
『うっ、なんでこんなに強いの?何かの力の薬でも飲んだの?』
力の秘薬は勇者の力を増強してくれる商品だ。
フィローメルが本当に力の秘薬を飲んでいたなら、エレンシアの体が少し力強いからといって敵うはずがなかった。
『スクロールを取らなきゃ!』
彼女は少し前の衝撃で床に落ちた移動魔法スクロールを目で探した。
『腕が使えれば……!』
エレンシアが口を開けてフィローメルの腕を噛もうとした瞬間だった。
パパパパパッ!
「きゃああっ!」
強烈なスパークが弾け、刺すような痛みが全身を駆け抜けた。
フィローメルの体にかけられた自動保護魔法が発動したのだった。
エレンシアの意識が混乱する間に、フィローメルは片手でエレンシアの両腕を押さえつけることに成功した。
そしてもう片方の手で、腹の中から金の封印のついた小瓶を取り出した。
真実を知りたいという欲望は、この瞬間、最高潮に達した。
真実の瞳を見たエレンシアは叫んだ。
「だめ!見ないで!」
誰かが自分の記憶を覗き見るような感覚は、息が止まるほど不快だった。
秘密にしておきたい部分まで刃のように切り裂かれる気分だった。
フィローメルは真実の瞳を高く掲げた。
「だめ!」
エレンシアはわずかな神聖力を絞り出して無理やり防御膜を張った。
しかし薄っぺらな防御膜は、フィルロメルが腕を軽く振り下ろしただけで割れてしまった。
もう神聖力は出てこなかった。
「なんでこんなことに!」
泣き叫ぶエレンシアに向かってフィローメルが言った。
「あなた、ミドルネイムに取り憑かれて叫びながら乳母を殺したでしょう。」
「な、何?」
エレンシアの表情が揺らいだ。
ミドルネイム――その単語を聞いた途端、心の奥底から浮かんでくる記憶があった。
『お父さん、乳母は私が責任を取ります!だから乳母にもう一度だけチャンスをください!』
乳母を利用しようとする誘惑に駆られ、皇帝に嘆願したとき、皇帝はまったく取り合う気配がなかったため、彼女は「ミドルネイム」を賭けた。
ゲーム内でエレンシアがそのようにして自分の意思を主張する姿が、かなり印象に残ったのだ。
その後、「ミドルネイム」を賭けた状態で一度敗北するとペナルティが課される、という話をプラン・ベクチャクから聞いた。
『なるほど、そんな厄介な設定もあったのか』と、エレンシアはその話を右から左に聞き流していた。
それまでは本気で乳母をよく世話していたつもりだった。
また、あのくらいの叫び声を少し上げたところで、自分には何の害もないと思っていた。
なぜなら、エレンシアは神に愛されているとゲーム内でもしきりに言及されていたのだから。
大丈夫だと思っていたのに。
「自業自得だ。」
フィローメルは容赦なくエレンシアの頭を杖で叩き下ろした。
杖から放たれる光に、二人の意識は飲み込まれた。








