こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

102話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 明らかな変化
「遠く離れた東の国のお茶葉とは、やはり香りが独特ですね。」
アナが茶を注ぎながら言った。
ぼんやりとシアナを見ていたラシードが「うん」と答え、喉を鳴らした。
そのうち、ラシードの茶碗には淡い緑色の茶がいっぱいに注がれた。
湯気がもうもうと立ち上る茶には目もくれず、ただ自分を見つめているラシードを見返し、シアナは鋭く目を細めた。
「お茶を召し上がらないで、何をなさっているのですか?」
「君があまりにも美しいから。」
「……。」
その瞬間、ルビー宮殿は静まり返った。
シアナはもちろん、彼女の隣に立っていたニニとナナ、さらにラシードの背後にいた護衛騎士ソルまで顔が固まった。
ガンッ!
ラシードの向かいに座っていたアリスは、堪えきれない表情でテーブルを叩きながら叫んだ。
「兄上、すぐに私の宮殿から出て行って!」
「……。」
「聞こえなかったの? 今すぐ私の宮殿から消えて!」
皇太子に対して言うにはあまりにも無礼な言葉だったが、ラシードは平然と答えた。
視線は依然としてシアナに向けたまま。
「だめだ。ここを出てしまえば、シアナを守れなくなる。」
「……!」
今度の衝撃は並大抵ではなかった。
ルビー宮にいた人々は地震が起きて建物が揺れるような衝撃を受けた。
つい先ほどまで勇ましく叫んでいたアリスでさえ、言葉を失ってしまうほどだ。
そんな中、混乱の場でも意識を保っていたただ一人の人物――シアナは、トマトよりも真っ赤に染まった顔でラシードをにらみつけた。
『どうしてこんなことをなさるんですか!本気で私を困らせるおつもりなんですか?!』
必死に険しい目つきを向けたものの、目が合ったラシードは幸せそうに微笑んだ。
その頬がほんのり赤く染まるほどに。
「……!」
その瞬間、シアナは確信した。
ついにラシードが完全に道を踏み外してしまったのだと。
アリスがどんなに罵り、声を荒げても、頑なに席を守っていたラシードは、ついに腰を上げた。
皇帝の代理として果たさねばならない務めがあったからだ。
ラシードはわずかに名残惜しげな顔をして、シアナを見つめながら言った。
「また来る。」
困惑した表情を浮かべたシアナが返事をするより早く、アリスが割り込んできた。
アリスはまるで鬼のように険しい顔で怒鳴った。
「また来るですって?!二度と来ないで!絶対に門は開けないから!」
ラシードはアリスの言葉を無視することはなかった。
しかし、身をかがめてアリスと目を合わせ、落ち着いた声で言った。
「それは困るよ、アリス。私の従者たちが門前で待たされては大変だからね。」
「な、なにっ?!」
呆然と口を開けたままのアリスの頭を軽く撫でながら、ラシードはにこやかに笑って言った。
「次に来るときは、レプランの職人が作ったチーズケーキと、クルミをたっぷり入れたパイを持って来てくれ。」
ラシードと共に気配が消えた後、ようやく我に返ったアリスは叫んだ。
「もう!本当にどうしてあんなことするのよ!」
ガンッ!
アリスはシロップをなみなみと注いだ葡萄ジュースをテーブルに置きながら言った。
「最悪の事態が来ちゃったみたい。」
アリスの隣に座っていたニニとナナも、深刻な顔で喉を鳴らした。
アリスは歯ぎしりしながら続けた。
「兄上がシアナに夢中なのはもう明らかよ。」
今回もニニとナナは深刻な顔でごくりと喉を鳴らした。
反論の余地もないという様子だった。
それもそのはず、この数日のラシードの行動は、誰が見ても意図が明白だったからだ。
たまにしか顔を出さなかったルビー宮に、一日に二度も三度も訪れるようになり、その視線は常にシアナだけを追っていた。
頬を少し赤らめながら、ニニが言った。
「殿下は皇太子さまではなく、ひまわりだったんですね。」
ナナも同じように顔を赤くしてごくりと喉を鳴らした。
「ただのひまわりじゃなくて、太陽に向かって咲く立派でハンサムなひまわり。」
二人の侍女の言葉を聞き、アリスは内心煮えたぎるような怒りを覚えた。
「ふざけたひまわりめ!二度と太陽なんか拝めないように引きちぎってやる!」
そのとき、三人に向かって小さな声が聞こえてきた。
「申し訳ありませんが、姫様。皇太子殿下と私は何の関係もございません。」
これまで世にも気まずそうな顔で三人の会話を聞いていたのはシアナだった。
アリスが勢いよく喉を鳴らし、シアナを見据えて言った。
「そうよ。今は何の関係もないでしょう、今は!」
「……。」
「でもね、そうやってずっと目を合わせて、手を取って、口づけまでして、我を忘れたように夢中になるなんて、それが男女の仲じゃなくて何だっていうの!」
シアナは本当に呆れ果ててしまった。
まだ十歳そこそこの年齢で、まるで何度も人生を経験したかのように、こんな突飛なことを言うなんて――まさに公主様らしい。
アリスは「ふんっ」と鼻を鳴らし、目を細めて続けた。
「私は絶対に許さない!どうにかして兄上をルビー宮に来させないようにしてみせるわ。それが無理なら、シアナ、あなたを兄上の目に触れない場所に隠してしまうんだから。」
冗談のようでいて真剣そのもののアリスの言葉に、シアナは無理やり平然とした顔で笑ってみせた。
だが胸の内では、ドキドキと心臓が大きな音を立てていた。
シアナは馬鹿ではなかった。
バラの花宴以来、ラシードが自分を見る眼差しは、小さな動物を愛でるような感情ではなくなっていた。
なぜだろうか。
――シアナ。
柔らかく揺れるその瞳の奥には、以前にはなかったときめきが隠されていた。
まるで初めて恋に落ちた少年のように。
……本当に困ったことこの上なかった。
「皇太后様がお呼びですって?」
シアナは目を丸くした。
皇太后の側近の侍女が喉を鳴らして言った。
「姫様には内緒で、密かにお茶を所望でございます。」
何事かと不安に思い、シアナはすぐに皇太后の宮殿へと向かった。
シアナが皇太后に会うのは久しぶりだった。
というのも、アリスがシアナに個人的な時間を与えたいと考え、皇太后のもとへ行く際にはニニとナナだけを連れて行かせていたからだ。
シアナは皇太后の前で身をかがめた。
「尊き皇太后様にお目にかかります。」
「……顔を上げなさい。」
皇太后の声に従い顔を上げたシアナは、思わず目を見開いた。
――アリス公主から、最近皇太后様のご機嫌が少し優れないと耳にしてはいたけれど……。
最後に見たときよりも皇太后はずっとやつれていた。
それでもなお、厳かな表情と高貴な威厳は健在だった。
皇太后が口を開いた。
「久しぶりだな。」
「はい。」
シアナは短く答え、皇太后の次の言葉を待った。
幸いにも、皇太后は遠回しなことはせず、すぐに本題に入った。
「最近、ラシードがルビー宮にしょっちゅう通っているそうだな?」
シアナの頭に、ガンと響くような衝撃が走った。
「……そのようでございます。」
「そうか。」
シアナの胸がどくどくと鳴り始めた。
皇太后がこれから何を言うのか、容易に想像できたからだ。
皇太后が口を開いた。
「以前は、ラシードがルビー宮に行っていると聞けば嬉しかった。アリスを可愛がってのことだと思っていたからな。」
「……。」
「だが、この数日見てきたラシードの様子は、単にそれだけではないようだ。いくら妹が可愛いといっても、一日に何度も通ってくるはずがない。」
皇太后の鋭いまなざしがシアナに向けられた。
「まさかラシードがアリスではなく……おまえを見るためにルビー宮へ通っているのではないか?」
シアナは思わず視線を落とした。
シアナが何か言う前に、皇太后が続けた。
「否定する必要も、肯定する必要もない。私は答えを求めているのではないからな。」
「……。」
「重要なのは、私の目にそう映るということだ。幸い、ラシードはまだ公には明らかにしていないから、その事実を知る者は多くはない。だが、宮中には数多の目と耳がある。いずれ噂になるだろう。」
「……。」
「そうなると、私と同じような誤解をする者もますます増えるだろう。」
皇太后は目を伏せながら言った。
「そうなれば厄介なことになる。おまえにとっても、アリスにとってもな。」
皇太后は、実のところラシードが侍女に心を寄せようが、夢中になろうが、関心はなかった。
ラシードに特別な情を抱いているわけではないからだ。
だが、それがアリスに悪い影響を与えるのならば、大きな問題だった。
皇太后は厳しい眼差しでシアナを見つめながら言った。
「おまえはアリスが最も大切にしている侍女だ。そのうえ身のこなしも優雅で利発。だからこそ、これからも長くアリスのそばにいてほしい。そのためには、根も葉もない噂が立たぬよう、自らを律して行動しなければならぬ。」
皇太后の言葉は明白だった。
――アリスのためにも、よく考えて行動せよと。
シアナは、胸の奥に甘苦しく落ちる重みを感じていた。
夢から覚めたような気分だった。
ルビー宮へ戻る道すがら。
シアナは目を伏せて考えに沈んでいた。
皇太后は、ラシードがシアナと何らかの関係を持っているのではないかと疑い、冷ややかに問い詰めてきた。
……そしてシアナは、決してそんな関係ではないと強く否定することができなかった。
『ある程度は事実だから。』
シアナは唇を噛みしめた。
実際、シアナ自身も感じていた。
ラシードと自分の関係が、ただの皇太子と侍女の域を越えてしまったことを。
けれどシアナは、自分に言い聞かせるように思った。
『殿下と親しいやり取りをすることはあっても、軽率に身を任せるわけではない。』
ほんの少しだけ。
心の温もりを分け合うくらいなら、許されるのではないか――そう思っていた。
けれど、それがいかに浅はかで身勝手な考えだったことか。
シアナはただの一介の侍女であり、ラシードはこの国で唯一の皇太子。
二人の間にかすかに流れる小さなときめきくらいなら、曖昧にやり過ごせることかもしれない。
しかし、それ以上になってはいけない。
小さな好意が明確な情となり、その情が他者の目に触れた瞬間――平穏な日々は儚く消えてしまうだろう。
シアナの人生も。
そして、シアナに最も近しいアリスの人生までも。
……シアナは、決してそんなことを望んではいなかった。








