こんにちは、ピッコです。
「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

111話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 魔法
南部バラジット公爵領。
ナディアにとって、そこは故郷のような場所だった。
実のところ、彼女が幼少期の大半を過ごしたのは首都だったかもしれないが、公爵領で過ごした間は母親が一緒にいた。
母と娘が互いに支え合いながら暮らしていた幼い頃。
今では記憶すら曖昧な昔のことを思い出しながら、ナディアは公爵城の別棟を歩いた。
後ろについてきた侍女リサが尋ねる。
「本棟でお過ごしにならないんですか? こちらは来客用に使われていて、ちょっと寂れて掃除も行き届いてないそうですよ。」
「ここは私が子どもの頃に過ごした場所なの。侍女と一緒に本棟に足を踏み入れたら、公爵夫人にひどく叱られたのよ。」
「……あ……」
するとリサの顔に戸惑ったような表情が浮かぶ。
ナディアは穏やかで明るい表情を浮かべながら尋ねた。
「それより、私が掃除しておけと言った部屋はどう?片付いた?」
「はい、しばらくお客様を迎えていなかったからか、少し散らかっていました。とりあえず寝泊まりできる程度には整えておきました。」
「そう、お母様の部屋だったけど、それを客室に改装したのね。今行ってみよう。」
「今ですか? 部屋を暖めている最中なので、まだ少し寒いかと……。宴会場で少しお過ごしになってからお移りになるのはどうでしょう?」
公爵城の大広間では、勝利のパーティーが盛大に開かれていた。
北部軍がバラジット公爵領の中心部に足を踏み入れたことを記念する象徴的な日だったのだ。
皆が一つになって楽しむその席に、ナディアは不参加を宣言した。
表向きの理由は疲れているから、ということだった。
しかし彼女をよく知る者であれば、誰もが「一人でいたい」と察することができただろう。
「ちょっと考えたいことがあるの。パーティーを楽しみたいなら、あなたは大広間に行っていいわ。私は一人で静かに考えたいの。」
「奥様をお一人で歩き回らせたと知ったら、旦那様がお叱りになるかもしれません。とりあえず、主寝室をご用意しますね。」
リサはそう言いながら、しんみりと先を歩いた。
数年ぶりに戻ってきた母の部屋は、記憶に残っていたものとは全く違う様子だった。
インテリアから家具の種類、配置に至るまで、かつての痕跡を見つけることはできなかった。
『予想していたことだけど……』
寂しげに微笑みながら部屋を見渡していたとき、彼女の視線を引きつけるものがあった。
「ん?」
ベッドの上に何やら大きな塊が置かれていた。いや、あれは塊ではなく……。
「ノア?」
「クスッ?」
ナディアよりも先に来て、寝床に横たわっていたノアだった。
ぐっすり眠っていたノアがナディアの気配を感じて目を覚ました。
「どこに行ったのかと思ったら、ここにいらっしゃったのですね。奥様、お連れしましょうか?」
「いいえ、ソファで横になればいいわ。あなたも早く休みなさい。」
「はい、ゆっくりお休みください。何か必要なことがあればお呼びください。」
リサが出ていく音と共に、ノアが体を起こした。
すると羽をぱたぱたさせながら、かすかに鳴き始めた。
ナディアはほほ笑みながら、卓上の果物を手に取った。
「見えなかったのに、ここにいたの?ごはんは食べた?」
「キィ!」
「お腹すいてるなら、おやつでも食べる?これはマンゴーっていう果物で、南部にしか生えないの。ウィンターフェルじゃ手に入らないでしょ?」
彼女は体を起こして、立ち上がったノアに向かってマンゴーを投げた。
正確に果物を受け取ったノアは、すぐに果肉をかじって飲み込んだ。
「キィッ。」
部屋は次第に暖かくなり、布団はふかふかで、生まれて初めて食べる果物は甘くておいしかった。
身体も心も心地よく、楽しそうな様子だった。
不意打ちはこういうときに効果的なものだ。
ナディアがすばやく口を開いた。
「カラドブルグ。」
「……」
返事はなかった。
しかしはっきりと分かった。
果物を頬張っていた口が、一瞬止まったのだ。
「カラドブルグ。」
「……」
「ノア、知らないふりはやめて。あなた、それが何か分かってるでしょ?」
羽の上に赤黒い血のような染みがついているように見えるのは気のせいだろうか?
「名前、知ってるんでしょ?私の予想ではこれは……」
「キ、キルル。」
「高い確率であなたの名前よ。違う?タクミがあなたのこと、そう呼んでたじゃない。」
「ぼ、僕は知らないよ。」
知らないはずがない。
このあやしいトカゲめ……。
話しぶりからして、それが100%関係があるのは間違いなかった。
「それじゃあ、なぜタクミ卿は私を連れて行く途中で“カラドブルグ”という名前を呼んだのかしら?」
「そ、それは……それは本人に聞いてみないといけないんじゃない? あの男、まだ生きてるでしょ?」
そう言いながら、そわそわと足を引いていく様子が、逃げるタイミングをうかがっているのが明らかだった。
ナディアはノアが逃げないように背後からしっかりと腕を掴んで再び問い詰めた。
「正直に言って。私たち、お互い仲間じゃない?こうやって秘密を隠すなんて、礼儀に反するでしょ。」
「きゃあっ!」
哀れな泣き声が漏れたが、ナディアの手つきは容赦なかった。
「いいわ。無理に口を割りたくないなら、取引をしましょう。あなたが私にペットのように可愛く振る舞う理由があるはずでしょ?どうしてそうなったのか素直に話してくれたら、あなたの要求も聞いてあげるわ。」
「………」
その瞬間、パタパタしていたノアの翼がピタリと止まった。
半分は引っかかったようね。彼女はさらに柔らかな声でささやいた。
「お互いにウィンウィン(win-win)でしょ? 私は急ぎの問題を解決して、君は私から欲しいものを手に入れるってわけね。」
「うーん……」
悩んでいるように、尻尾の先がぴくぴくと動き出す。
ナディアの提案がかなり魅力的に響いたようだ。
しばらくの沈黙の後、ノア……いや、カラドブルグはついに提案を受け入れた。
「いいよ。代わりに、私が欲しいものをしっかり聞いてよ。」
「何が欲しいの?」
「説明すればわかると思うから、とにかく聞いて。君にとってそこまで難しいことでもないはずだから。どこから話せばいいのか……そうだね、まず私を探してきたのはあの人間の方だった。」
カルラドブルグは古い記憶を順に整理するかのように、しばらく目を閉じた。
「どうやって突き止めたのかは分からないけど、私が封印されていることを知っていたって?」
「封印?」
「それは何百年も前の話なのに、今さら話す必要ある?それにあなたが気になっていることとは関係ないことでしょ。」
「いいわ、それはそうだとして。タクミがあなたを探してきて、それから?」
「自分が私の封印を解いてあげる代わりに、願いをひとつ叶えてくれって。」
「……彼が君に望んだ願いは、“時間を戻してくれ”ってことだったのね。」
「うん、そうだよ。賢いね。それに加えて、君に“過去の記憶を保ったままにしてくれ”っていう条件も付けてた。」
タクミが以前に話していた言葉を思い出した。
超自然的な力が存在するかもしれないという一縷の望みにすがって、長い年月をかけて時間を巻き戻す方法を探し回っていたという話だった……。
彼がどれほどの時間を費やしたのかは分からない。
しかし、それを実際に確認する術はなかった。
探し出してきたとはいえ、とても世の常識では不可能だったろうという点には納得せざるを得なかった。
「つまり魔法……みたいなもの?おとぎ話に出てくるような?」
「似てる。」
「そんなのが実在するなんて……」
時間を巻き戻せる力がこの小さな容器にあるなんて信じられなかった。
驚きでいっぱいのナディアの視線はカルラドブルグに向けられた。
口に果汁か何かをくわえている小さな爬虫類にそんな力が……。
『本当に信じられない。』
ただ話がうまいだけのちょっと変わったモンスターだと思ってた。
どんでん返しなら、まさにどんでん返しだ。
「なんでそんな目で見るの?」
「……いや、まったく予想もしてなかった力があるっていうか、驚いたと言うべきか……。ていうか、それほどの力があるなら、なんで今まで使わなかったの?私が南部軍に捕まってたときとか、モンスターと共に城を守らなきゃいけなかったときとか、魔法で助けてくれることもできたはずでしょ?」
今までカルラドブルグが見せた特別な力といえば、意思疎通能力と人の話をうまく引き出す能力だけだった。
時間を巻き戻せるほどの大きな力があったのなら、危機が訪れるたびに、ただ見ていただけだっていうの?
少し気まずそうに口を開いた彼女に、勇気を振り絞るように答えた。
「…ああ、それがこれから話す内容の核心なんだけど……」
「?」
「そんな力、もうないよ。封印が解けたときにリセットされちゃったの。最初に私を見つけたときも、その状態だったでしょ?」
この時点でナディアは、彼が真実を教えてくれる代わりに何を求めているのか、ある程度察することができた。
「しばらくはこの体で生きなきゃいけないから、ちょっと気をつかってよ。私を守って、ここに滞在させて。それが私の条件よ。」
「………」
「私から聞きたかった真実を知ったじゃない。もうこれ以上、隠す理由はないでしょ?」
「しばらくって、それはどれくらいのこと?」
「とりあえず、自分の体を守れるくらいには回復しなきゃいけないけど、それが……短く見積もっても30年?」
「30年?!」
短く見積もっても30年ということは、
それ以上かかる可能性もあるということだった。
驚いたナディアに、ノアが呆れたように言った。
「君ならそうしてくれると思ったよ。その一族の人たちは、君の言うことなら30年どころか、300年だって滞在させてくれそうだし?」
「じゃあ、あのとき私にぶつかったのも……」
「感じたんだ。この女性がこの家門の序列1位なんだなって。ここに長く滞在するなら、ちゃんと顔を立てなきゃいけないってね。」
「………」
口先だけの人かと思っていたけど、案外察しが早いんだな。
とにかく約束した以上、無理だとは言えない立場だった。
それにカラドブルクはもともと自由気ままに暮らすタイプで、30年間ペットを飼うと思えばいい。
ナディアはため息をつきながらも、彼の要求を受け入れるしかなかった。
「わかった。あなたが先にウィンターフェルに害を及ぼさない限り、ウィンターフェル側があなたを追い出したり害を与えることはないわ。」
「キルルッ!」
ナディアから許可を得たノアは満足そうに長く鳴いた。
そのとき、しっぽをくるくる回していたカラドボルグがふと思い出したように言った。
「ところで、あの人間さ。俺の本当の名前を覚えているってことは、彼も結局欲しかったものを手に入れられなかったってことかしら?」
「……?」
ナディアの眉間がわずかにひそめられた。
龍の言葉を聞いたときにかすかに感じていた違和感が蘇ってきたのだ。
『タクミ卿は最初、過去の出来事を思い出せなかった。』
けれど、彼はいつからか記憶を取り戻した。
なぜ?彼が龍の封印を解いた張本人だったから?
「もう少し説明してくれない?」
「どのこと? あの人間がなぜ昔のことを知っているのかって?」
何かを説明しようとしたドラゴン(カラドボルグ)がふと止まり、彼女を見上げた。
かぼちゃ色の瞳が「おもしろい」と言わんばかりに輝いた。
「おお、そういえば、お前は魔法の原理について知らないんだな。気になってるみたいだし、教えてやるよ。」








