こんにちは、ピッコです。
「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

48話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 裏切り者
二日目。
予想通り、正午を少し過ぎた頃にロゴンが急ぎ足で公爵邸を出た。
ロゴンについて聞くと、彼はほとんどの時間を業務に費やしているとのことだ。
もちろん仕事が多いのも事実だが、故郷がないため休暇をもらっても特に行く場所がないのだという。
また、外出も公爵の予定に同行する場合を除いてはほとんどないとも言っていた。
公爵邸に張りついて仕事ばかりしているというイメージが強いため、他の人々にも密偵として怪しまれるような状況ではなかった。
「……でも、ロゴンってなぜですか、お嬢様?」
そんなロゴンが急に外出したという知らせを聞いたタラが、疑わしそうな表情で私に尋ねてきた。
私は平然と弁解した。
「ううん、ただ。ロゴンとも仲良くなりたくて。」
「はあっ!そんな人間と仲良くなっちゃダメですよ、お嬢様。」
私の言葉に、タラは真顔で止めにかかった。
疑いのまなざしだった。
家政婦の話によると、ロゴンは少し変わったところはあるが、公爵邸の中では比較的評判が良かった。
社交面では模範的な人物のようだった。
私はくすっと笑って聞き返した。
「なんで?」
「他の人の前ではニコニコしてるくせに、ひとりになるとぶつぶつ毒づいて暴言を吐いてるんですって!」
タラはひそひそ声で、偶然見かけた話を教えてくれた。
職員たちの典型的な特徴を知ったところで、それほど有益な情報でもなかった。
「目つきまでキツいし……とにかく、ああいう風に表ではいい顔をしてる人間が本当に嫌いなんです。」
「ふふっ。実は私も嫌い!」
「まあ、本当ですか? やっぱり我らがお嬢様は一を聞いて十を知る天才ですね……」
馴れ馴れしく距離を詰めていたタラが、突然涙目になって叫んだ。
「なんてこと!私ってばどうかしてたわ!お嬢様に早く知らせようとして、コナにおつかいを任せてそのまま飛び出してきちゃったんですよ!」
彼女は急いで出ていくと言って、あたふたと部屋を出て行った。
私にとっては幸運だった。
「1時間。」
公爵邸から神殿までは馬車で約20分。
イスマイルが操ったマグヌスと会って、さして意味のない会話をして戻ってくるまでを考えると、ロゴンが戻ってくるまで少なくとも1時間はある。
運がよければ、その会話が長引く可能性だってある。
とはいえ、私は最悪の事態に備えることにした。
つまり、私にもそれほど多くの時間はないということだ。
タラが出ていった直後、私も急いで部屋を出た。
ロゴンの部屋は公爵の執務室を過ぎた邸宅の最も奥まった場所にあった。
1階は静かだった。
昼食の時間と重なったことに加え、警備上の理由から執務室側の北棟には使用人たちもあまり立ち寄らないためだ。
そのおかげで、私は誰にも気づかれずロゴンの部屋までたどり着くことができた。
カチャリ。
もちろん彼の部屋のドアは施錠されていた。
私は慌てず落ち着いて、ポケットから鍵束を取り出した。
執事長のアンダーソンだけが持っている1階使用人部屋用のマスターキーだった。
これをどうやって手に入れたかというと……。
「ゴン……ゴンドリ。お前は盗賊モードまでできるのか?」
「ふぅ……」
昨夜の深い明け方、コムコムドリとの会話を思い出した私は、無意識に小さくため息をついた。
クマ型人形の奇妙な執着心を代価にマスターキーを簡単に手に入れたのだから、悪くない取引だった。
『本当に悪くないのか……?』
くだらないことを考えながら、鍵穴にマスターキーを差し込んだ私は、やがて力強く回した。
ガチャリ。
錠が外れる重々しい音とともにロックが解けた。
マスターキーを外してドアノブを回すと、間もなく、ギイイイ……と侵入者の訪問を告げる扉が開いた。
「……なんだ、何もないじゃない。」
緊張していた気持ちがあっけなくほどけ、ロゴンの部屋の中は素っ気なかった。
1人用のクローゼットとベッド、真っ白な本棚と、書類が山のように積まれたデスク。
部屋のドアをそっと閉めたまま中に入った私は、ふと本棚の隣の壁を占めている大きな絵を見つけた。
滅多に見ることのない絵の一つだった。
悪魔たちを打ち倒す女神と天使たちの姿を描いた想像画。
神聖国家であるエレアでは、「聖戦」といえば大きく二つに分かれる。
数百年前の人間たちが起こした本当の宗教戦争と、神話の中の天使と悪魔の戦争。
後者は、胎児や悪魔、悪霊たちがうごめく地上に降臨した女神がそれらを打ち砕き、人間を救ったという、どの宗教にもあるようなよくあるありがちな話だ。
『信心深い信徒であることを見せたかったの?』
細かく描かれた絵に見入っていた私は、無意識のうちに視線を巡らせていて、思わず息を呑んだ。
「……っ!」
絵の隣、本棚の一角に並べられていたのは、ずらりと並んだガラス瓶だった。
『……狂ってる!あれで化け物って言われてた理由が分かったわ。』
ガラス瓶の中にはコウモリ、ネズミ、トカゲなどの動物が標本として入っていた。
それ以外にも動物のものと思われる脳や、眼球のような器官も見えた。
「……うっ!」
前世のトラウマのせいなのか、それとも本当に気持ち悪いからかは分からないが、見続けているうちに吐き気が込み上げてきた。
『第二皇子もそうだけど……悪い奴ってみんなこんなもの集めるのが趣味なの?』
しかしそのおかげで確信が得られた。
ロゴンは神殿の信者だ。
敏感に研ぎ澄まされた直感がそう告げていた。
私はガラス瓶から視線を逸らし、すぐに窓の方へと歩み寄って錠を外し開けた。
山風とともにさわやかな空気が流れ込んできて、むかつく気分を和らげてくれた。
窓は開けていたときに備えていた私の準備の一つだった。
準備を終えた私はそのまま机の前へと向かった。
机の近くには自分の背丈ほどもある書類の山がいくつも積まれていた。
不運にもロゴンは信者としてしっかり根を下ろし、公爵の仕事までも妨害しようとしているようだった。
『……果たしてこの中から何かを見つけられるのだろうか?』
私は大きく息を吐き出して、やつの机の上を探し始めた。
実際、大したものを見つけに来たわけではなかった。
私にはロゴンが信者であるという確証が必要だった。
そのためには、まずやつの空間を確認する必要があると判断したのだ。
マスターキーを盗んだときのようにクマドリにやらせることも考えたが、今回は自分で動くことにした。
『XXモード』で命令を出すのはなかなか面倒なことでもあったし、もし見つかった場合、クマドリがそのままロゴンを殺してしまいかねないと思ったからでもあった。
『……まだこいつらの正体が何なのか、……もしこいつらが誰かも分からないのに、そのまま殺してしまうわけにはいかない。』
だから、公爵に何かがあった時に確認できるような小さな証拠一つでも見つけることを祈るしかなかった。
机の上にはもちろん、5段の書類棚も一つ一つ開けて確認したが、明確に怪しいものはなかった。
最後の棚には金庫が一つ入っていたが、当然のようにしっかりと施錠されていた。
「はぁ……」
私はこみ上げてくる失望に大きくため息をついた。
実際、こうなることを予想していなかったわけではない。
5年以上も公爵邸でやってきたこの男が、自分が信者だとする証拠をうっかり放置しているはずがない。
それでも、まだ時間は30分以上残っていたため、とりあえず続けて調べることにした。
『次は……クローゼット。』
私はここまで来たついでに、他の場所も軽く調べることにした。
私は素早く机の下にしゃがんでいた体を起こした。
その時だった。
トッ、トッ。
遠くからかすかに足音が聞こえた。
人の気配を確認するために私はそっと扉を少しだけ閉めておいた。
『まさか戻ってくるはずはないのに……通りすがりの人?』
しかし、近づいてくる足音は止まらなかった。
ロゴンの部屋は屋敷の中でも最も奥まった場所にある。
つまり、ここまで来る人は部屋の主か、あるいは彼に用のある者だけだ。
トッ、トッ。
次第に近づく足音が、とうとう扉のすぐ前で止まった。
凍りついたまま扉を見つめていた私は、すぐに体をすくめて机の下に身を潜めた。
そしてその瞬間——カチャッ!
さっきの私のように鍵を開ける音が聞こえた。
鍵を開ける音にドキドキしていた私は、ただ息を潜めるしかなかった。
『……なんで戻ってきたの?』
遅すぎた後悔が押し寄せた。
こうなるなら、最初から窓の方に走っていればよかったのだ。
馬車が出ていったのを確認してから動いたため、ロゴンがすでに戻っているとは思わなかった。
『何か忘れ物でもあったのか?でも、馬車を引き返してまで戻ってくるのは簡単じゃないはず……。』
緊張のせいで、首筋に冷や汗がつーっと流れ落ちた。
唇を噛みしめながら動揺する私。
「キーッ」という音と共に、とうとう扉が開かれた。
扉を完全に閉めなかったせいで、部屋の主も今頃、誰かが部屋に侵入していると気づいたに違いない。
『大丈夫。』
私はどきどきする胸を押さえ、心を落ち着かせた。
これくらいなら大した問題にはならないはずだ。
他人の部屋にこっそり入って探っていたことを思えば——少しおかしな話だけれど。
『私は見た目は5歳の子ども。』
自分を納得させるように、見た目が5歳であるという事実にすがった。
普通、5歳の子どもが他人の部屋にこっそり侵入して何かを探るなんて想像もつかない。
『窓が開いてたから中をのぞいたって言い張ればいいのよ。』
他人の部屋にこっそり入るのは確かに良くないことだけど、それだけで罪になるわけじゃない。
公爵の私的空間を除けば、この屋敷の中で私が入れない場所なんてなかったのだから。
もちろん、ロゴンは疑うに違いない。
でも、私が証拠を見つけるためにその部屋に入ったことを、彼が確証として持つことはできないはず。
それに、彼とは違って私は本当に完全犯罪が可能だった。
5歳の子どもに転生したという、信じがたい事実を見抜けるはずもないのだから。
『子どもの演技はもう自信ある。』
そうやって最悪の状況を想定しながら息をひそめていたその時。
コツ、コツ。
誰かがドアを開けて入り、ゆっくりと机の方へ歩いてきた。
だんだん近づく気配に、私は新たに出ようとする悲鳴を必死に飲み込んだ。
ドク、ドク、ドク。
心臓の音が耳元で太鼓のように鳴り響く気がした。
コツ、コツ。
机を回り込んで近づいてくる足音の主が、とうとう私の目の前に立ち止まった。
そして――
「髪の毛。」
「……。」
「ちゃんと隠れられてないよ、ベルジェ。」
ため息とともに机の下からぴょこんと顔を出したその人は、なんと。
「……えっ、エドウィン?」
思いがけない人物の登場に、私はぽかんと口を開けた。
「ちょ、なんで……ここに来たの?!」
「それ、私のセリフなんだけど。」
驚いて小さな声を出した私に、エドウィンがびくりと反応した。
「君こそ、ここでこそこそ何してるんだよ?」
「た、タラランかくれんぼ……。窓が開いてたから……。」
私は部屋の主に見つかったときのために用意していた言い訳を必死に並べた。
すると、エドウィンが目を見開いた。
「かくれんぼなんか、こんなところでしてどうするんだよ。ここがどこか分かってる?」
「え、どこ?」
「ロゴンの部屋だよ。どんな場所かも分からないで、危ないってば……!」
語気を強めていたエドウィンは、すぐに口をつぐんだ。
怒っているように見えたが、その金色の瞳に宿る感情は、驚きと心配だった。
『でも……幽霊でもなく、誰かの部屋でうずくまってるだけだった。』
エドウィンの気持ちを十分に理解した私は、小さな声で謝った。
「……ごめん。」
「謝れってことじゃないだろ。こんな危ないことを、なんでしてるんだよ。」
「家の中なのに、何が危ないの。しかもロゴンは公爵様の部下でしょ……。」
「部下とか関係ない。隠れてるのを見られたら、何をされるか……はぁ。」
私の言い訳にぶつぶつ文句を言っていたエドウィンが、ため息をつきながら腰を下ろした。
スルン——彼の身長に合わせて作られた黒い剣が、鞘から引き抜かれた。
剣を抜くエドウィンの姿に、私はびくっと身体をこわばらせた。
「僕、幽霊じゃないよ!本物のベルジェだよ!」
だから切らないでという意味で言ったのに。
「何言ってんだ。」
エドウィンが目を細めてにらんだかと思うと、すぐに私の顔をまじまじと見つめた。
ハンカチを剣でざくざく切った。
その後、彼は裂けた服の端をリボンのようにきれいに結び、私に差し出した。
「ほら。」
「……。」
「今後、隠れるときは髪を結んでおきなよ。全部机の外に出てたら何の意味もないじゃん。」
彼が差し出したものをぼんやり見下ろした。
彼が切って作った布切れは、見事な髪飾りのような形をしていた。
公爵とエドウィンからの贈り物のおかげで、ヘアアクセサリーや装飾品はドレスルームに山のようにあった。
それを知りながらも、彼はこの一瞬のためにためらわずに私のハンカチを切ったのだ。
それを見た瞬間、胸の奥がちくりとし、同時に不思議な気持ちが込み上げてきた。
「そ、そんなにしなくてもいいのに……。」
「背中向けて。このままタラに見つかったら大変だ。」
「い、いや!」
妙に説得力のある彼の言葉に、私は自分が本当にかくれんぼ中でないことも忘れて、素直に後ろを向いた。
少し前にリボンをきれいに結んだように、エドウィンは滑らかでさらさらした髪をやさしくまとめて、一瞬でひとつに結び上げた。
『エドウィンって、どこで髪の結び方を習ったのかな?』
そんな状況でも、バカみたいに胸がどきどきしてしまう。
だから私は「もう大丈夫」と言ったエドウィンの言葉に従って再び後ろを向いても、まともに彼と目を合わせられなかった。
「……でも、エドウィンはなんでここにいるの?」
ひんやりとした襟元の空気を感じながら、私は小さな声で尋ねた。
「今日って剣術の授業がある日じゃない?」
そう言われて思い出した疑問がふと浮かんだ。
スベルのせいで一時中断していた彼の剣術訓練は少し前から再開された。
以前とは異なり、今回はカリオスの騎士団長が直接指導する本格的な授業だと聞いていた。
腰に差した剣もそうだし、彼が着ている服装も屋外訓練用なのは明らかだった。
『ロゴンの部屋には本当に何のために来たの?しかもマスタキーまで持って?』
屋敷のマスタキーは私が持っているのに、エドウィンが持ってきたものはこの屋敷の主である公爵の物か、あるいは複製された鍵に違いなかった。
そう考えるほどに募っていく疑念に視線を下げた瞬間——
「僕は……」
困惑したように沈んだエドウィンの顔が目に入った。
しばらく口ごもっていた彼が、やっと答えた。
「……ちょっと探し物があって来たんだ。」
「何を?」
「あるんだ、そういうのが。」
「ちぇっ。」
教えてくれない彼の態度に、私はいら立ちで頬がふくらんだ。
『私にはあれこれ小言を言うくせに。肝心の本人のことは何も教えてくれないなんて、ひどいじゃない。』
探るような目でエドウィンを見たが、彼にはあまり通じなかった。
むしろドアの方に背を向けて、私を追い出そうとしているみたいだ。
「もう出てって。部屋の持ち主が戻ってくる前に。」
「エドウィンは?」
「僕は探すものがあるから。」
「一緒に探しちゃダメ?」
「ダメだよ。」
「なんで!私だって手伝えるかもしれないのに!」
私は押し出されないように力を込めて足を踏ん張った。
『ここに入るために、どれだけ準備して頑張ったと思ってるのよ……!』
特に収穫がなくても、エドウィンがなぜここに来たのかだけでも知って出ていかないと気が済まなかった。
押し出そうとするエドウィンに、私はしがみつくように叫んだ。
「なんで、なんでよ! 私が手伝ってあげるってば!」
「言ったところで、わかるのか?」
「そんなふうにベルゼを無視ばっかりして……」
「……」
「もうあんたとは遊ばない! ハンテジャとイスマイルとだけ遊ぶんだから!」
私の突拍子もない一言に、私を持ち上げようとしていたエドウィンの動きがピタリと止まった。
「私は昨日、イスマイルに“お兄ちゃん”って呼ばないって、あんたのために言い争ったのに……」
「……」
「もう“お兄ちゃん”って呼んでやるから!」
私はそう言って彼を見つめながらも、唇をかみしめて乾いた喉を潤していた。
『お兄ちゃんアレルギー』の彼を揺さぶるために放った言葉だったけれど、本当に効くかはわからなかった。
緊張しながら彼の反応を待っていたそのとき、なぜかエドウィンが沈んだ目で私をじっと見つめ返してきた。
「……本当なの?」
「うん?」
「昨日、イスマイルとケンカしたって話。」
彼の返答に、私は戸惑った。
しかし幸いにも、彼は私をロゴンの部屋から追い出そうとはしなかったようだ。
『……ごめん、イスマイル。』
今もなお、私のために全力で力を尽くしている婚約候補に対して、私は心の中で謝りながら、気まずく頭をかいた。
「う、うん……」
するとエドウィンは苦笑いしながら、冷たい視線で私を見つめてきた。
「そういうことはちゃんと言わないと。行くって言葉もなしに、帰ってきてからも何してたか報告もしないで。」
「……」
「心配してる人がいるなんて、考えもしないのか?」
「コムコム(小動物の名前)と一緒に行くってメモ、置いたでしょ……」
私が小声で反論すると、彼はふっと軽くため息をついた。
「古代語で書かれた文章。」
「こ、古代語……?」
「うん。私が探してるの。それ、知らないの?」
「え?」
私が知らないだろうと決めつけるエドウィンの言葉に、思わずむっとして言い返した。
「私だって知ってるわ、古代語!」
「お前が古代語をどうやって知ったんだ。」
「神典で見たの。一緒に探せるよ!」
私の反論に、エドウィンは少し驚いたような表情を見せた。
でも私を追い出す気はなかったのか、少しだけ好奇心をのぞかせながらこう言った。
「……ないかもしれないけど、あっち側もぐるっと探してみて。邪魔だけはしないで。」
「うん!」
部屋に残る許可をもらえただけでなく、机とちょうど反対側のベッドを覆うように立つ彼の姿に、私は少し安心したように息を吐いた。
『はぁ。やっぱりお兄ちゃんって極端。』
ベッドの下やクローゼットの中まで見て回るつもりだったのは、単に運が良かっただけだった。
エドウィンは少し前の私のように、ロゴンの机と本棚をひっくり返し始めた。
『でも、どうして古代語を探してるんだろう?』
彼の行動はどうにも怪しくて気になったが、まずは後回しにしておいた。
エドウィンと部屋を探しているうちに、すでに10分が経過していたからだ。
残り時間はあと25分。
私は急いでベッドのほうへ向かい、引き出しとベッドの下を確認した。
何もなかった。
続けて、引き出しの隣にあるクローゼットの扉を開けた。
中には数人分の毛布といくつかの質素な服だけだった。
毛布の間に手を入れて確かめたあと、掛かっている服のポケットの中まで一つ一つ探った。
結論は――空っぽだった。
神典とつながっていたという証拠はおろか、エドウィンが探している古代語の文章でも、紙切れ一枚すら見つからなかった。
『残っているのはガラス瓶の中の宝石と本棚だけだな……』
込み上げてくる失望感に、私はため息をつきながらクローゼットの扉を閉めて振り返った。
宝石は開ける方法をもっとよく考えなければならず、本棚の方は……
『うっ』
きらきらしたものが入ったガラス瓶のせいで近づくのも嫌だった。
ガラス瓶は取り扱いに注意が必要だったし、本棚側は時間がかかるので手をつけるのが厄介だった。
差し込まれた本を一つ一つ調べなければならなかったし、もしかすると公爵の執務室のように、本棚の裏に秘密の空間がある可能性もあった。
『……今日はこの辺で切り上げて帰ろうかな』
その間に神典と使者が何かやらかさないかと心配にはなったが、公爵邸に住んでいる以上、またチャンスはあるだろう。
無理して急いだところでうまくいかないのが世の常なのだから。
そうして未練を断ち切るように出ようとしていた私は、ふと立ち止まった。
まるで引き寄せられるように、本棚の横の壁に掛けられていた大きな絵が目に入ったのだ。
それは、エレア女神と悪魔たちの戦争を描いた絵。
すでにロゴンの部屋に入ったとき一度確認したものだった。
しかし改めてその絵を見たとき、妙な違和感を覚えた。
私はゆっくりと歩み寄って、その絵の前に立った。
普通、聖戦を描いた絵には、上部に神と天使が、そしてその足元には悪魔が描かれているものだ。
神が勝利したことを示すためである。
だが、私の目の前の絵は完全に逆だった。
赤黒い空には悪魔がびっしりと並び、地上には空に向かって槍を構える女神が描かれていた……。
『槍の先、折れてる……?』
さらによく見ると、女神の足元に横たわっているのは悪魔ではなく、死んだ天使たちの死体だった。
それで終わりではなかった。
女神の周囲を囲んでいた天使たちは、剣の先を一様に下に向けていた。
まるで戦う意志を失ったかのように。
あるいは、逆さまの十字架のように。
聖女候補として、私は女神を疑ったことはなかった。
しかしこれは……まるで……
『ぞっとするような神聖な冒涜じゃないか。』
聖戦で悪魔に敗れた女神の姿だなんて。
神聖国家であるエレアには、到底あってはならない絵だった。
ぞくっと、寒気が全身を包んだ。
絵の中の奇妙な要素を一つひとつ見つけるたびに、違和感を越えて冷たさが脳を刺した。
「……ねえ、エドウィン。」
私は震える声でエドウィンを呼んだ。
ちょうど机をひっくり返して何かを探していた彼は、私を一瞥することもなく、無愛想に答えた。
「なに。」
「ねえ、あるよね。この絵、ちょっと……おかしい気がする。」
「何が?」
「絵が……絵がすごく怖い……」
ついに嗚咽が漏れたあとで、私はぐっと喉を詰まらせた。
「どうしたって?」
「女神様が……悪魔に負けてるように見えるんだけど……」
「はあ……?」
私の震える声から何かただならぬ気配を感じ取ったのか、エドウィンが急いで机のそばへやってきた。
彼が横に立っただけで、全身にまとわりついていた寒気が少し和らいだ気がした。
神聖冒涜の要素を見つけて凍りついていた私とは違い、エドウィンは何事もないように絵を眺めた。
「これは……」
少しして、彼は眉をしかめながら絵の端をなぞった。
「……紙が二重に重ねられてる。」
「え、二重?」
鋭い観察に驚いている間に、エドウィンはためらうことなく指先で絵の表面をゴシゴシとこすった。
ビリッ――少しもたたぬうちにキャンバスがためらいもなく破けた。
「ちょ、エドウィン!そんなことしていいの……?」
慌てて止めようとした私は、思わず言葉を飲み込んでしまった。
エドウィンの言った通り、キャンバスは二重に重ねられていた。
破れた絵の下から、うっすらと貼られたもう一枚の紙が現れた。
その上にはかすかに文字が書かれていた。
それを確認したエドウィンは、さらに迷うことなく絵を破き始めた。
私もまた、引き込まれるように彼を手伝った。
ビリッ!ビリビリ!ビリ――!
途中、椅子まで引き寄せて、ついに大きなキャンバスをすべて破り終えたとき――私たちの前に、ついに絵の下に隠されていた内容が姿を現した。
<イラーを信じ、仕える者たちは欺きと背信により、重い罰を受けるだろう。否定し、怒り、慈悲を求める者たちよ地獄の奥深くで『ウィリス』の名を叫び真実の啓示のために祈るのだ。>
エドウィンが探していた、古文書だった。










