こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

130話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 白い鳥③
それとは別に、翌日父に私を呼ばれた。
『何の用だろう?』
気になって行ってみると、父は私を見るなりこう言った。
「……兄の継承式の準備の責任者になってくれないか?」
私は目をぱちぱちさせた。
父はグラスを傾けながら言った。
「そうだ。誰よりもイシスをよく知っているのはお前だからな。」
「それは、そうですね。」
それに兄の継承式の準備だなんて、私もとても興味があった。
「引き受けてくれるか?」
私は少し迷ったあと、グラスを手に取った。
「未熟ですが、最善を尽くしてみます。」
「謙虚だな。お前が幼い頃から王宮の大小さまざまな行事を任されてきたのは、皆が知っていることだ。」
「…でも、父上。ちょっと気になることがあります。」
「何だね?」
「父上が皇位を兄上に譲るのは、思っていたよりずっと早い気がしました。何か特別なご事情でもあるのですか?」
私は父の姿を見つめた。
年齢はすでに高齢に差しかかっていたが、今もなお健康そのものに見えた。
それでも、どこかに異変があるのではないか、もしかして私の知らない理由があるのではないか、という思いが胸をよぎった。
私は知らず知らずのうちに不安で胸がいっぱいになっていた。
父は私の言葉を聞くと、ただ微笑んだ。
「何人かの者たちもそう言っていたな。私がまるで第一線から退かなければならない理由でもあるかのように。」
「……もしかして政務を続けられないようなご事情でもおありなのですか?」
「そんなことはない。体も健康で、頭もまだ十分に働く。」
それなら、どうして?
兄の皇位継承はとても喜ばしいことで、祝うべきことのはずだ。
だが——常に皇帝として、万人の父として、私の唯一の父として、しっかりと私のそばを守ってくれていた父が今、退位を宣言したことで、心が複雑になるのは避けられなかった。
まるで父がどこか遠くへ行ってしまいそうで不安になったのだ。
私は自分のドレスの裾をぎゅっと握りしめた。
父は私の不安に気づいたようだ。
「おいで、こちらへ。」
「………」
父が手招きした。
私は素直に彼の隣に立った。
近くで見ると、皇帝の玉座というものが思っていた以上にずっと重く感じられた。
父が被っている冠すらもそうだ。
父はこの重みをずっと担ってきたのだろうか。
私は知らぬ間にじっと父を見つめていた。
「お前も…」
父は穏やかな声で私を呼んだ。
「いつの間にかこんなに大きくなったのだな。小さいころは手で触れたら壊れてしまいそうだったのに。」
「………」
私の頭を撫でるその手は、昔見たよりもずっと年老いて見えた。
それに私は思わず泣きそうになった。
こんな姿は見たくなかった。
父はいつも私にとって一番強い存在だったのだ。
父が続けた。
「お前の言う通り、私はまだ健康だ。だが、私なりの考えがある。お前もイシスを見て、何か感じなかったか?」
私は兄の姿を思い浮かべた。
イデンベレで堂々と総官の役割を見事に果たしている兄は、言葉にできないほど輝いていた。
父が去るのは嫌だった。
だが、兄がその座を継ぐなら、兄ならばきっとうまくやっていけるとうすうす悟っていた。
私の顔を見た父は、私のすべての考えを読み取ったようだった。
父は穏やかに笑って言った。
「輝くイシスの姿を見ていると、あの子に自分の席を譲ってやりたかったんだ。私が元気なうちにやった方が、ずっとうまくいくだろう。私が老いて寝台の上から遺言を残すようなことになるまで、イシスを皇太子に据えておきたくはなかった。」
私は黙って父の言葉に耳を傾けていた。
「彼は、私が成し遂げた以上に帝国を発展させられるだろう。」
「………」
「だから、お前もイシスを信じて、アイリスの代わりに彼の道をそばで見守ってやってほしい。」
「……お父様。」
私は思わず口をつぐんだ。
「そんなふうに言わないでください。まるで…もうすぐいなくなる人のような…消えてしまう人のような… 私には、まだお父様もお母様も必要なんです。いつまでもそばにいてください。」
「アイシャ、それは難しいことだろう。」
「……お父様とお母様が病気になったら、私が治療して差し上げます。私は精霊王の召喚士ですから。どんな病気でもすぐに治してみせます。」
そうだ、死んだ人を生き返らせることはできないけれど……。
それ以外なら、どんな病でも治せるだろう。
しかし父はただ静かに頷くだけだった。
「それでも、残念ながら人はいつか去らなければならない時が来るものだ。」
「………」
「アイシャ、お前にイシスがいて、イシスにお前がいて本当に幸運だ。互いに支え合って生きていけるだろう。」
私は襟元を握りしめた。
いつかは誰もが旅立つ時が来る。
父の言う通りだ。
「……私のせいで、お前をあまりにも悲しませてしまったようだな。」
父は心配そうに、私の表情を見つめていた。
私は何も言わずに席を立った。
「……もう部屋に戻ってもよろしいですか?」
「……ああ、アイシャ。戻って休みなさい。」
私はふらふらと皇帝の居所を後にした。
後ろからついてくる侍女たちが、何かあったのかと慎重に尋ねてきたが、私はその問いに答える気力もなかった。
今日は、空がいつも以上に澄みわたり、陽の光がまぶしく差し込んでいた。
宮殿へ戻る途中、私はその場に立ち尽くしたまま、しばらく空を見上げていた。
「目がしみるのは、空を見たから。」
涙がこぼれそうになるのを必死にこらえ、私はそうつぶやいた。
『……お兄様。』
イシスお兄様の顔が思い浮かんだ。
父の言葉通り、お兄様は誰よりも立派な皇帝になれる人だ。
『互いに支え合って生きていこうって言ってた。』
私は襟元から手を離し、自分の手をぎゅっと握りしめた。
私には家族の誰にも言えない秘密があった。
その事実はときどき私の心臓を鋭く突き刺すようだった。
『……でも、私はあとどれくらい生きられるのだろうか。』
あの日、精霊王を召喚したとき、私は自分の寿命が10年も残っていないことを感じた。
そうすると私は18歳だから、うまくいってもあと6〜7年しか残っていないということだ。
よくはわからないけれど、最近小さな病にかかることが多くなったのも自分の寿命と関係しているのではないかと思った。
体の生命力が徐々に弱まってきているからだ。
「ごめんなさい。」
私は家族や他の人たちに、心の中で静かに謝った。
過去の復讐を果たすために、私は自分の未来を代償として差し出さなければならなかった。
でも、その代わりに私は本当に復讐を果たし、アリサとしての過去に終止符を打つことができた。
そして、かつての家族たちと少しでも和解することができた。
そしてルーン様に、再び出会うこともできた。
だけど、そのすべての決断が、私を愛してくれていた人たちにとっては自己中心的なものだったということを、私は理解していた。
耐えようとしたけれど、また涙があふれそうになった。
隣にいた侍女が、そっと私にハンカチを差し出した。両手も丁寧に拭ってくれた。
「アイシャ様。何か悲しいことでもありましたか?」
レナだった。
彼女は優しい声で私をなだめるように話しかけた。
私は何も言えず、ハンカチで目元をぬぐった。
「宮に戻って少しお休みになりますか?料理人に命じて、皇女様のお好きなレモンタルトもご用意します。」
彼女の心遣いがありがたかった。
少し考えた私は、彼女にこう言った。
「……ううん、大丈夫。」
彼女が心配そうに私を見つめた。
私は視線を少し落として、彼女に言った。
「その、これまでに行われた皇帝の即位式に関する宮中の資料を探してくれる?式の進行とか、どんなふうに宮殿を飾ったのか……そういうの全部。」
「はい、かしこまりました。アイシャ様。」
どうやら父の言葉通り、私はお兄様の皇帝即位式の総責任者を務めることになったようだ。
これから先、王妃としての役目であれば、責任を持って立派にやり遂げなければならない。
侍女たちは私の言葉を聞いて、王室の倉庫へと向かった。
その姿を見送りながら、私は再び皇女宮へと足を運んだ。
『友達が本当にお兄様にふさわしい人を紹介してくれたらいいのに。お兄様の隣に立つ人がどんな人かも気になるし。』
私は無理に笑みを浮かべた。
でも、心のどこかでひっそりとした悲しみがこみ上げてくるのは避けられなかった。
一日一日が休む暇もなく過ぎていった。
継承式の総責任者を任された私は、とにかく忙しくて、まばたきをする暇もないほどだった。
あれに気を遣えばこっちが問題になり、こっちを気にすればまた別の問題が起きる。
まるで毎日が押し寄せるようだった。
この瞬間、私はほとんど気絶しそうな気分だった。
「私はできる。私はやれる……。」
デザイナーと会って、皇室の礼服をどう作るかを話し合いながら、しばらく調整を続けた私は、ついに疲れて応接室のソファに倒れ込んでしまった。
普段から「皇女の気品がある」と言ってくれていた侍女長でさえも、私を気の毒そうな目で見ていたのだから、すべてを物語っていた。
そんなとき、私のそばに若い侍女の一人が近づいてきた。
「皇女殿下。殿下にぜひともお会いしたいという方がいらっしゃいますが……」
「何?また何かあるの?」
私はうんざりしたように言った。
書類作業も大変だが、人と会って応対することはそれ以上に大きな精神力と気力を使うのだった。
「今日の予定には、もう会う人いないよね?そうでしょ、レナ?」
「はい、おっしゃるとおりです。」
私は優しくその侍女を見上げた。
するとその子は少し戸惑いながらも口を開いた。
「えっと……訪問商人だそうです。以前、皇女様がいくつかの宝物を探しておられるという噂を聞き、それを頼りに訪ねてきたそうです。」
「訪問商人か……」
私は記憶をたどってみた。
確かに私は継承式の準備を進めるなかで、兄上に贈れるような物がないかと、商人たちの出入りを自由に許可していたのだった。
その訪問商人も、そうした噂を聞いて私の宮を訪ねてきたというわけだ。
私は少し考えてから扉の取っ手に手をかけた。
疲れてはいたが、それでも一度品物を見てみるのも悪くはないと思った。
もしかしたら本当に素晴らしい品物があるかもしれないからだ。
「通すように。」
「はい、殿下。」
若い侍女は小走りで応接室の扉を開けて、訪問商人を通した。
しかしその姿を見た瞬間、私は自分の判断を後悔せざるを得なかった。
当然のことだが……。
『……詐欺師っぽい?』
目の前に立っているその訪問商人の姿を見て、私ははっきりと思った。
彼は派手な色合いの絹で飾られたネックレスとブレスレットを身につけており、陽の光が強くもないのに、この暑い日に重たいマントで体をすっぽりと包んでいた。
顔はフードに隠れており、かろうじて口元だけが見えた。
あれでどうやって前を見て歩いて来たのだろう?
私は彼が持ってきた箱を見つめた。
それは十分に怪しげで、しかも彼はひどく怪しい外見をしていた。
さらに、彼は傷跡のように見える水晶の細工を持っていたのだ。
『生きてきて見た中で、こんなに怪しい人は初めてかもしれない。』
背後の護衛騎士が緊張しているのが伝わってきた。
私は内心でため息をついた。
どう見てもまともな品物を売るようには思えないが、若い侍女が念のために連れてきたようだった。
『ここまで皇宮の出入りを許されたことだけでも大したものだ。』
普通ならこの程度に怪しければ門前払いされて終わるものだ。
どうやってここまで入り込んだのか、その謎が気になって仕方がない。
とはいえ、せっかく現れた以上は、少なくともその品物は見てみるべきだろう。
「では、品物を見せてもらおうか?」
私は彼が持ってきた箱をじっと見つめた。
その中には貴金属や他の品物が入っているようだった。
しかしその商人という男は箱を開けもせず、ただニヤリと笑っているではないか。
すると彼は突然こう言った。
「尊貴にして気高い皇女殿下!」
「……え?」
私は目をぱちくりさせた。
「かの天空に輝く星よりもまばゆく、この世のどんな花よりも香しい皇女殿下は、まさしくエルミールの宝、世界の誇りでございます!この私が生きている間に皇女殿下をこの目で拝めるとは、このジャヒード、人生最大の光栄にございます!この栄光は私が生きている間はもちろん、私の子孫の代まで語り継がれることでしょう。ああ、尊貴なる皇女殿下、そしてこのエルミールの太陽であられる皇帝陛下、そしてこの地を守っておられる神々に感謝の意を捧げます!」
「………」
私は呆気にとられてしまった。
呼吸さえできないほどで、彼の話し方のせいで息が詰まりそうだった。
そばにいた侍女たちも怪しんで、お互いの顔をちらちらと見合わせていた。
しばらく言葉を失っていた私は、ようやく慎重に口を開いた。
「……そう、ありがとう。名前はジャヒドラと言うのね?」
「はい。私のような者は、世界の果てから果てまで旅しながら、あらゆる場所の貴重な品々を買い取り、売り渡す商人です。ここに来ることができたのも、尊く気高い皇女様が、私の持つこの宝物のような品々をお探しだと聞いたからです。おそらく、物にも心と目があるならば、この聡明で優雅な皇女様の手にこそふさわしいと、自ら願ったのでしょう。」
栄光に感極まり、涙を流してもおかしくはないだろう。
だんだん疲れてきそうな予感がした。
私は頭を押さえながら、もう一度言った。
「……わかった。じゃあ、その世界の果てから持ってきたという貴重な品を見せてくれる?」
「その前にもう少しだけ、あのイチゴの花よりも美しく、朝の日差しに輝く露よりもさらに気高い皇女殿下のご威容を、あと少しだけ称えさせていただければ……」
「見せろって言ってるの。」
もともと物を売るために商人たちが大げさな話術を使うことは知っていたが、この男ほど口数が多い人は初めてだった。
『なにこのおしゃべり?さっき彼がどうやってここまで来たのか気になってたけど……きっと他の侍女や騎士たちは、これ以上話を聞きたくなくて彼をよこしてきたんだわ。』
私が戸惑いの表情を浮かべると、商人はまた薄く笑みを浮かべた。
それも、雑に巻かれたマントのせいでかろうじて見えた口元からの表情に過ぎなかったが、なんとも不気味で不思議な印象を受けた。
「ふふ、皇女殿下。この品々をご覧いただければ分かるでしょう。本当に、本当に貴重な品々なのです。王国の王女や王妃が欲しがるような宝物を選びに選び抜いたものです。」
「そう……」
もちろんそうでしょう。
私はとつぜん現れたこの商人をじっと見つめた。
私の前でそのようなことを言う人など滅多にいなかった。
とはいえ、皆それらしいことをもっともらしく口にするものの、実際に本当に素晴らしい品を差し出す人間など、ほとんど見たことがなかったのだ。
しかし商人は、物に自信があるのか、私の冷たい態度にもひるまなかった。
彼は少し声を低くして、意味ありげに私に尋ねた。
「もしかして、神秘的な大陸、東方に行ったことはありますか?」








