こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
137話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 白い鳥⑩
密かに準備が進められてきた継承式は、もう目と鼻の先に迫っていた。
予定されていた半年間がきっちりと整えられ、完成された宮殿は、各国から訪れた貴賓たちと、彼らが持ち寄った貴重な宝物で、これまでになく華やいでいた。
その中でも、最も人々の視線を集めたのは、次期皇帝となるイシス兄様の姿だった。
兄様は私と両親に、式典用の礼服を纏った姿を事前に見せてくれていた。
彼のためだけに特別に仕立てられた礼服と剣は、目を見張るほど美しかった。
宮廷専属デザイナーが、初めて兄様の礼服姿を見たとき、何分も感嘆の拍手を送ったというのも誇張ではない。
私も両親も、兄様の姿に胸を熱くせずにはいられなかった。
「記念硬貨に兄様の姿を刻んだら、みんな欲しくてたまらなくなるでしょうね。」
私がそう言うと、兄は少し照れくさそうに笑った。
もう二十代後半になった彼だったが、私の褒め言葉を素直に喜ぶ姿は、幼い頃のままだった。
「イシス、お前が私たちにもたらしてくれたものは、まさに神の祝福としか思えないな。」
父も穏やかに笑みを浮かべて言った。母も感慨深げにうなずく。
応接室にいたのは、私と両親だけではなかった。
長年兄のそばで仕えてきた年配の侍従長も同席していた。
父の言葉を聞いたその侍従長は、満面の笑みでこう言った。
「まったく、イシス殿下は光の神から我が帝国に授けられた最大の恩恵にございます。」
その言葉に、喜んでいた私は思わず言葉を詰まらせた。
不意に、ルン様の話題が出たのだ。
侍従長はそれで終わらず——
「皇女殿下、今回の継承式にもルミナス様はいらっしゃいますよね?」
その顔には期待がはっきりと浮かんでいた。
私は小さく拳を握った。
「継承式がとても楽しみですね。」
母は明るく微笑んだ。
母もまた、ルン様が来られると当然のように信じているようだった。
本来なら、兄上の継承式にはルン様も出席されるはずだ。
ルン様は私の婚約者であり、帝国の守護神という名目で宮殿に滞在していた。
彼は私と共にいくつもの重要な会議に出席し、そのおかげで帝国の地位は大きく向上した。
今回来る多くの使節たちも、ルン様の存在を楽しみにしているに違いない。
「……」
今は家族にルン様のことを話すべき時ではない気がした。
警備の件もあり、彼らに私のことで余計な心配をかけたくなかったのだ。
嫌じゃなかったから、私はただ笑顔でごまかした。
それでも否定できない真実が、じわじわと近づいてくるのを頭の片隅で感じていた。
ルン様と別れなければならない時が来る、ということを。
皇宮では、即位式の一週間前から各国の貴賓を招いた宴が開かれていた。
夜ごと、数千本の蝋燭とシャンデリアの明かりが皇宮を照らし、夢のように美しい旋律が響き渡った。
その初日の宴で、私は久しぶりに懐かしい友人の姿を見ることができた。
今は侯爵夫人となった、リオテンの令嬢アルミだ。
彼女は夏らしい青いドレスを身にまとい、まるで飛び跳ねるように私のもとへ駆け寄ってきた。
節句よりも、私に会えたことの方がずっと嬉しかったようだ。
「アイシャ様!」
彼女は私を見るなり勢いよく抱きしめてきた。
新鮮な草の香りと果実の香りがふわりと漂う。
私は微笑みながら挨拶した。
「新婦のもとに挨拶に来てくださって、ありがとうございます。」
「まあ、当然のことですよ。もちろん来ますとも!」
そう言ったミナは、ほっとしたように大きく息を吐いた。
「ああ、かつて皇太子殿下を熱心にお慕いしていた者として、再びお目にかかれるなんて胸が高鳴ります。」
私はその言葉に思わず笑ってしまった。
当時、彼女が兄上に好意を持っていたのは確かだ。
それでも、そんな過去の出来事はもう笑い話になっているようだ。
ミナも笑みを浮かべながら言った。
「そういえば、皇女様にぜひお渡ししたいものがあったんです。リオテン公国に置いて行かれた物がありましたよね?大切な物なので、エルミレに行くときに私が直接持って行こうと思っていたんです!」
私は不思議に思い、首をかしげた。
「私がリオテンに置いてきた物があるのですか?」
「はい。今すぐでもお渡ししたいのですが、もしご都合が悪ければ、私の部屋に置いてありますので……明日……」
「……ということです!」
彼女の言葉が続く途中で、誰かが声を張り上げたせいで、自然とその言葉は遮られてしまった。
私とミナはそちらの方へ視線を向けた。
誰がそんなに強く声を上げたのか気になったからだ。
そこには、見慣れない貴族が数人いた。
おそらくこの国の使節団なのだろう。
服装からして、どう見ても遠い砂漠の国からやって来た使節のようだった。
宴が始まってまだ一時間も経たないうちに、彼らの顔はすでに赤らんでいた。
一人の使節が笑みを浮かべて声を上げた。
「もちろん、エルミールは神の加護を受けているに違いありません!」
酒に酔っていたせいか、その口調は少しもためらいがなく、声も大きかった。
「もちろん私は……偉大なるエルミール神の御姿を拝んだことはありませんが、ははは!」
「一度お会いしてみたいものです。今日はお越しにならないのですか?」
「噂では、目がくらむほど美しいと聞きましたが、はははは……!」
私は思わず顔をしかめた。
まるでルン様をあたかも嘲笑してもいいかのように話す、その態度は一体何なのか。
人々は次第にその使節たちを避け始めたが、彼らはそれに気づく様子もなかった。
使節たちの話は途切れる気配もない。
「もし私がエルミレ神にお会いできたなら、一族の栄光となるでしょう。まあ……会えるものなら、ですが。」
ひとりの使節がニヤニヤと笑いながら言った。
するとその隣にいた使節が、まるで大層な冗談を聞いたかのように笑い声を上げた。
「ははは、おっしゃる通り!」
私の胸の内に静かな怒りがこみ上げてきた。
ルン様の存在を信じ難いと思うことは理解できる。
私たちの帝国とはほぼ地球の反対側にある国から来たのなら、それをただの大げさな噂だと思うこともあるだろう。
しかし、それを私の目の前で嘲るとは……許せなかった。
私は毅然とした表情で彼らを見据えた。
彼らのもとへ歩み寄った。
ミナが心配そうな顔でこちらを見上げたが、私はたとえ実務官としての立場があっても、彼らが誤った道に進まないよう諭すべきだと思っていた。
しかし、その前に私の兄上が現れた。
「楽しそうだな。」
いつの間に来ていたのだろう。
インパの向こうから兄上がゆったりと歩いてきた。
私は目を大きく見開いた。
(……兄上。)
イシス兄上は微笑んでいた。
誰もが息をのむほど優雅で、気品に満ちた立ち姿だった。
「あ、いや。皇太子殿下……。」
使節たちも兄上を見て、ようやく少し慌てた様子を見せた。
兄上は彼らを静かに見回しながら、にこやかに口を開いた。
「彼らは神を信じないのか?」
使節たちは困惑した表情を浮かべ、どう答えるべきか視線を逸らす様子がこちらからも見て取れた。
そのとき、兄上は微笑みながら言った。
「構わない、話してみよ。この国の使節たちがどう考えているのか興味がある。」
私は兄上が怒っていることを察した。
それは彼のエメラルド色の瞳が冷たい光を宿していたからだ。
だがそれを察せたのは、私が彼と長く共に過ごしてきたからだった。
兄上を初めて見るなり、酒に酔い始めた異国の使節たちは、ただ目を瞬かせるばかりだった。
兄上は穏やかに笑っていたが、結局、酒と場の空気が使節たちの気を緩ませたようだった。
代表らしき人物が口を開いた。
「それは……正直、信じ難い話でして……」
「……」
彼は苦笑しながら言った。
「何しろ、我々のような砂漠の民は、目に見えるものしか信じられませんので。」
「そうか。」
「はい。」
彼は少し寂しげな視線を向けた。
「……たった一度でもお目にかかれるなら信じます。もし我々にも、あの偉大なるエルミル神をお迎えする栄光をお与えいただけませんか?」
私はその言葉を聞き、唇をきゅっと引き結んだ。
この場には砂漠王国からの使節だけでなく、大陸各地から訪れた貴賓たちで溢れていた。
もともとルン殿について興味を抱いていた彼らは、今や好奇心に満ちた目で兄上の言葉を待っていた。
そのとき、ある外国の貴族が会話に加わった。
「その通りです。我々も一度でもお会いできれば、家門の誉れと考えていたところです。」
すると、まるで待っていたかのように他の貴族たちも同調し始めた。
宴会場は次第にその空気に包まれていき、私はただ落ち着かなくなるばかりだった。
『……ルン様はお会いにならないはずだ。』
彼は私との契約解消を望んでいる。
だから今日はもちろん、これから残りの宴会の間も、使節たちは決してルン様に会うことはできないだろう。
そして彼らはきっと、その事実をそのまま受け流さない。
どうにかしてエルミーレの立場を少しでも揺るがすために、ルン様の存在を疑い、兄上の評価を探ろうとするはずだ。
だが、その未来が見えていながらも、私にはどうすることもできなかった。
何も言えることはなかった。場の空気は徐々に張り詰めていった。
そのとき、兄上が口を開いた。
「面白いことを言うな。」
まるで本当に興味深い話を聞いたかのように、兄上の口元には微笑が浮かんでいた。
『……兄上?』
私は瞬きをした。イシス兄上はゆっくりと続けた。
「そして意外でもある。我々の考えとは違うということが。」
「そ、それはどういう意味で……」
「エルミール帝国では、誰一人として神の存在を疑わない。たとえ姿が見えなくとも、あらゆるものに神の恩寵が宿っていると皆が知っているからだ。」
それは事実だった。
実際、今この場でも、エルミールの貴族たちは使節団をまじまじと見つめていた。
異国から来たというだけで、自分たちの信仰をあからさまに侮辱されたのだから、怒らない方が不自然だ。
宴会場が急に静まり返った。兄上が口を開いた。
「目に見えぬものは信じられぬ、だと?光の神を奉じるこの私の前で、その神を侮辱するつもりか?」
「そ、そういう意味ではない!」
「それに、その神と契約しているのは私の妹アイシャだ。彼女がこの場にいるというのに、なんという無礼だ。」
兄上の言葉に、人々の反応はさらに熱を帯びた。
その中でも特に、私とルン様が戦場に出たときに共にいた人々の目の色は尋常ではなかった。
彼らは自分の目で奇跡を目撃した者たちだ。
だからこそ、すぐにでも使節たちを叩き出そうとする気配を隠さない顔つきだった。
慌てて弁明した。
「い、いえ、違います。ただお目にかかりたかっただけなのです!栄誉あることだと思いまして……!」
「ほんの一瞬でも拝謁したかっただけです!」
「もし本当にいらっしゃるのなら、お見せいただけないでしょうか!」
もはや必死だった。
他国の国教を軽んじることは外交問題にも発展しかねないためか、必死に自分たちの非ではないと言い張っているようだった。
だが、その態度にかえってイシス兄上は本気で怒ったようだった。
彼の口元から微笑が消える。私は身がすくむ思いがした。
一方で、不安もよぎった。
ルン様との契約を本当に解消してしまったら、今後また同じような事態が起きないとは限らないのだ。
もしかすると、エルミーレにとって不利な噂に巻き込まれるかもしれない。神の祝福が失われたなどと……。
『……どうすればいい……?』
私はそっと唇を噛んだ。そのときだった。
宴会場の入り口の方から、人々の歓声とざわめきが一斉に響き渡った。
私は何事かを確かめようと首を巡らせた。
そしてその瞬間、あまりにも懐かしく、恋い焦がれた声が耳に届いた。
「呼んだか。」
ルン様だった。
彼はちょうど、精界から戻ってきたばかりのようだった。
人々の声なき驚嘆が、波のように会場全体へと広がっていった。
気品あふれる衣装と、腰まで届く白銀の髪、そして美しい金色の瞳までも。
圧倒的な存在感を放つその姿を見つめていると、彼こそがこの世にただ一人の、尊き光の精霊王であることを改めて思い知らされた。
この場にいる誰一人として、その神聖さを否定できる者はいないだろう。
彼が一歩進むたび、会場には自然と道ができた。人々が恭しく道を開けたからだ。
ある者は膝をつき、ある者は祈るように両手を組んだ。
敬意を示したのはイシス兄上も同じだった。
「ルミナス様。」
この場で最も高い地位を持つ彼が、自ら膝をつき、頭を垂れた。
他の者たちも黙ってはいられない。私を含め、会場の全員がイシス兄上に倣った。
ルン様は、人々が敬意を示す様子を実に自然に受け止めていた。
それもそのはず、彼は万物を司る精霊王なのだから。
厳粛な空気の中、ルン様は神官たちに向かって言った。
「私に会いたかったのか。」
「ひ、ひぃっ……!」
神官たちは恐れおののき、頭を上げることすらできなかった。
まったく予想していなかった事態だったのだろう。
彼らがしばらく口をつぐむと、ルン様は問いかけた。
「私を疑ったことに、責任を取れるのか。」
その言葉とともに、会場を包む緊張が一層高まった。
ルン様からすれば、自らの神聖さを疑われるなど許しがたい。
その場で即座に彼らを断罪してもおかしくはなかった。
そのことを理解していたからこそ、誰も軽々しく口を開くことができなかった。
そんな中、唯一口を開いたのはイシス兄上だった。
彼は恭しく頭を垂れ、ルン様に問いかけた。
「ルミナス様。」
「申せ。」
「側近たちが無礼を働いたのは、ルミナス様お一人だけではございません。あなたを信仰する信徒たち、そしてこの帝国全体に対してでもあります。もしお許しいただけるのであれば、この帝国を代表して私が彼らに処罰を下してもよろしいでしょうか。」
私は内心、ひやひやしながらそのやり取りを見守っていた。
長年ルン様を見てきた私は、彼がそこまで怒っていないことは察していた。
だが、イシス兄上がうっかり不用意なことを口にして、その心情を逆撫でしてしまわないか心配だった。
幸いにも、ルン様は短く答えた。
「許す。」
イシス兄様が立ち上がり、冷ややかな視線で神官たちを見下ろした。
「その言葉には責任を取ってもらおう。」
「……あ、陛下!!」
「彼らを今すぐ、この国から永久追放する。あわせて、これから百年間、エルミールは砂漠王国の神官が出席するいかなる会談や集会にも参加しないものとする。」
神官たちの目が大きく見開かれた。
砂漠王国はその国の特性上、農業ができず、食糧の多くを他国に依存していた。
中でも我が帝国から輸入する穀物の量は莫大であった。
そんな彼らを交渉の場から排除するというのは、社会的な死刑宣告に等しい。
「わ、我々が間違っておりました!」
「陛下!」
しかし、兄上はまったく目を瞬かせることもなく、家臣たちに命じて側近団を退かせると、周囲を見渡した。
「まだ何か言いたい者はいるか?」
周りの者たちは皆、視線を逸らした。
反論できる者などいるはずもない。
私は、ルン様がこの場に姿を現して以来、ずっと彼を見つめていた。
そして、彼が私を避ける理由をようやく理解し、初めて会った時のことを思い出していた。
ルン様は、私が見つめていると知っていながらも、決してこちらを見返すことはなかった。
「ありがとうございます、ルミナス様。」
代わりに感謝の意を示したのは、イシス兄上だった。
ルン様は兄上に向かって、ただこう告げただけだった。
「もうすぐお前の継承式だな。」
「はい、その通りです。」
「その日、私が訪れて祝福を授けよう。」
ルン様の突然の発言に、人々のざわめきが一層大きくなった。
『……か、神の祝福だと……』
『まさか……』
ルン様が継承式の日に兄上へ祝福を授けるという意味は計り知れない。
大陸各地から集まった神官たちの前で、その光景を見せ、イシス兄上が神の承認を受けるということなのだから。
その場面を目にすれば、もはや誰もルン様の存在や、エルミールが祝福された帝国であることを疑う者はいなくなるだろう。
「……はい、ルミナス様。」
そう答えるイシス兄上の声も、わずかに震えていた。
言うべきことをすべて終えると、ルン様は現れたときと同じように、急に広間の外へと姿を消した。
人々は彼を引き止めたり言葉をかけたりすることもできず、ただ道を開けて見送るしかなかった。
彼がそこにいたのはほんの短い間だったが、彼がもたらした波紋は計り知れなかった。
私は拳をぎゅっと握りしめた。
たとえ精霊王であっても、こんなにも絶妙なタイミングで現れるなど、そうあることではない。
もし彼がずっと人間界に耳を傾けていなかったなら――。
精霊界にいながらも、人間界の様子を見守ることはできるのだ。
その事実がふと脳裏によみがえる。
『……私を見守っていたというの?』
確かめる術はない。
ざわめきが少し収まると、会議は再開された。
ミナが私の隣で、そっと問いかけてくる。
「アイシャ王女様。」
「……あ、はい。」
「それで……もしよければ、明日私の部屋に来ていただけますか?」
ミナの澄んだ紫色の瞳に、私の姿が映っていた。
彼は言った。
「先ほども申し上げましたが、お渡ししたいものがあります。」
私は首をかしげた。







