メイドになったお姫様

メイドになったお姫様【112話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【メイドになったお姫様】まとめ こんにちは、ピッコです。 「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

112話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 得られなかった温もり

無事に皇太子宮へ戻ったシアナは、しばらく悩んだ末にラシードへ口を開いた。

「本日、皇后陛下に拝謁してまいりました。」

大きく目を見開いたラシードは、思っていた以上に強い反応を示した。

「母上が……なぜ君に会いたいと?まさか、何か不吉な言葉でも掛けられたのか……?」

シアナは慌てて首を振った。

「いいえ、決してそのようなことはございません。ただ……殿下のお茶係を任されていると伺い、茶の味がどのようなものかとお尋ねになられただけで。皇后陛下にお茶をお注ぎしたら、微笑まれて召し上がって……」

「それだけか?」

「それから、皇太子殿下をしっかりお支えするように、と仰せでした。」

「……」

無表情を浮かべたラシードを見つめながら、シアナは目を細めて微笑んだ。

「人々がなぜあれほど皇后陛下を敬うのか、わかりました。本当に気品あるお方ですね。」

「……そうだな。」

気のない返事をしたラシードは、髪をかき上げて椅子に腰を下ろした。

その姿を見つめていたシアナが、ためらいがちに尋ねた。

「殿下……もしかして皇后陛下とはあまり仲がよろしくないのですか?」

ラシードの瞳が揺れた。

シアナの言う通り、皇后は慈愛に満ちた気高い人物だった。

だからこそ、彼女の言葉が彼の心を重くするとは、シアナは思ってもみなかった。

だから、こんな質問をしたのは初めてだった。

「……どうしてそんなことを?」

怪訝そうに問うラシードに、シアナは正直に答えた。

「殿下が皇后陛下をお相手にしている時、どうにも居心地が悪そうに見えましたので。」

今この瞬間もそうだった。

ラシードは、シアナが皇后に会ったと聞いただけで、極端に敏感に反応していた。

まるで、母がシアナに何を仕掛けるか分からないとでもいうように。

シアナはふと考えた。

人々が思うほど、ラシードと皇后の関係は堅固なものではないのかもしれない、と。

しばし沈黙の後、ラシードは答えた。

「母上と仲が悪いわけじゃない。母上は……時に厳しいが、根本的に子を悪く思っているわけではない。むしろ、大切にしてくださっている。けれど……」

こんなことを言っていいのか迷うように視線をそらしたラシードが、静かに言葉を続けた。

「俺は……母上の愛情を心から感じたことがない。」

思いもよらぬ告白に、シアナは目を大きく見開いた。

ラシードは沈んだ表情で続けた。

「幼い頃は何もおかしいとは思わなかった。母上はいつも優しかったから。」

ラシードに厳しい言葉をかけることもなく、穏やかに語りかけてくれる。

怒鳴ったこともない。

まるで絵のように美しい母の姿。

それなのに幼いラシードは、母の愛に満たされることがなかった。

一体なぜだ?

何が足りなかったのだろう?

それがはっきりとわかったのは、七歳の時だった。

「ある貴族が息子を連れて宮殿に来ていて……その子の頭を優しく撫でていたんだ。」

「……。」

「それから頬を撫で、額に口づけをして、“愛している”と仰ってくださったんだ。」

その瞬間、ラシードは頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

「母上は……一度たりとも、私にそんなことをしてくださったことがない。」

愛情表現がまったくなかったわけではない。

皇后も時折、ラシードを抱きしめたり手を取ったりすることはあった。

だがそれは、必ず人々の目がある場でだけのことだった。

二人きりの時に、皇后がそんな仕草を見せたことは一度もなかった。

ラシードは悩んだ。

『母上は人に触れることをお嫌いなのだろうか?……それとも、私が何か間違ってしまったのだろうか?』

そう考えた末に、彼は一度勇気を出してみようと決意した。

皇后のもとへ歩み寄り、両腕を広げて彼女を抱きしめようとしたのだ。

皇后はこわばった表情でラシードを見つめた。

「……あの時、母上の顔を今でも覚えている。」

まるで蜂にでも刺されたかのように、ひどく怯えた顔だった。

もっとも、母はすぐに表情を取り繕って言った。

――『何も言わずに近づいてきたから驚いただけよ、ラシード。』

変わらず上品で穏やかな顔だったが、ラシードの胸は激しく鼓動した。

混乱、恐れ……そして胸を締めつけるような哀しみ。

その日初めて、ラシードは「母は自分を愛していないのかもしれない」と思うようになった。

「今にして思えば、気にするほどのことでもないんだ。母が俺を殴ったわけでも、罵ったわけでもない。ただ……」

「……。」

「それでも母上の前では、どうにも落ち着かないんだ。大人になった今でも。」

自分でも未熟な感情だとわかっていて、ラシードは苦笑した。

しかし、その時のシアナの表情はどこかおかしかった。

ラシードは大きく目を見開き、問いかけた。

「どうした?まるで泣きそうな顔をして……。」

「違います。私はそんなことで泣くほど心の弱い人間ではありません。」

「それでも、目が……。」

ラシードの言葉に、シアナは反論する代わりに両腕を伸ばし、彼をしっかりと抱きしめた。

それは、かつてラシードが皇后に求めて得られなかった温もりそのものだった。

ラシードは大きく目を見開いた。

「……これは一体、どういう状況だ?」

「なんだか……急に寒くなった気がして。」

「……。」

ラシードの部屋は、常に最適な温度に保たれていた。

元来ラシードは体温が低く、シアナは体温が高い方だった。

今もそうだ。

シアナの方がずっと暖かかった。

それでもラシードは、シアナの言葉を疑おうとはしなかった。

彼女にとって、絶望している自分を温めてくれるのはかけがえのない機会だったから。

シアナの体温がラシードの冷たい身体を隅々まで優しく温めてくれる気がした。

――「好きだよ、シアナ。」

ラシードは、愛しい彼女に本当は伝えたかった言葉を胸に飲み込み、微笑んだ。

不思議なことだった。

母のことを思い浮かべれば、いつも胸の奥が息苦しくなったのに、今はまるでそんなことはなかった。

それは、まるで魔法のような彼女の力だった。

シアナがラシードから離れたのは、しばらく経ってからだった。

「主が落ち込まれている時に慰めるのも、優れた侍女の役目ですから。」

――そんな言い訳めいた言葉を残し、シアナは逃げ出すようにラシードの部屋を後にした。

幸い、ラシードは彼女を引き止めなかった。

部屋へ戻ったシアナは、ベッドに倒れ込むと枕を叩きながら心の中で叫んだ。

『馬鹿、馬鹿、シアナ!』

これまでラシードがどんな誘惑を仕掛けてきても冷静にかわしてきたのに、ただ少し弱った姿を見せられただけで抱きしめてしまうなんて。

『こんなことでは、本当に皇后陛下に“お前と殿下の関係は何だ”と問われても、何も答えられなくなってしまうじゃない!』

シアナは羞恥に顔を覆い、目をぎゅっと閉じた。

しかし、しばらくしてから目を開いた時、ふと思い至る。

「でも……本当に、あれで終わりなの?」

どう考えても、今日の皇后の態度はあまりにも穏やかすぎた。

シアナに対して、わずかな悪感情すら抱いていないように見えた。

「殿下のお話を聞く限りでは、皇后陛下は人々が思うほど息子に強い関心をお持ちではないようですね。」

だから息子の周囲に侍女が何人かまとわりついても、気にも留めないのではないか?

シアナは細めた目で言葉を発した。

「そんなはずはありません。」

息子への愛情や感情を正確に知ることはできないが、それでも彼女は皇后だった。

皇后は、息子に近づく女性に無関心でいるはずがない。

なぜなら、ラシードがどんな女性と付き合うかによって、皇太子としての道にも影響が及ぶからだ。

当然、権力のある女性であればあるほど、多くの助けを得られるだろうし……。

「ただの侍女にすぎない私など、皇太子の道を妨げる存在でしかありません。」

シアナは冷徹に、自分の立場を評価していた。

そして、それは彼女の予想通りだった。

しばらくして、皇后はラシードの前に一人の女性を連れてきた。

 



 

「尊き皇太子殿下にご挨拶申し上げます。殿下、ずっとずっとお会いしたく存じておりました。」

緩やかな波のように揺れる紫色の髪。

堂々とした顔立ち。

柔らかな肩のラインと、豊かな胸元を強調する華やかなドレス。

肉感的な魅力を放つ美しい女性は、南部を支配するアンゲルス公爵家の末娘、ヴェロニカであった。

しかし、その彼女の前に立ったラシードの表情は、一層険しさを帯びていた。

ラシードは軽く会釈しつつも、彼女の横に立つ皇后へと視線を向けた。

「お母さまが私と一緒にお茶を飲みたいとおっしゃったので参りましたが、他のお客様がいらっしゃるとは知りませんでした。」

「ベロニカ公女が都に来たと聞いたから呼んだのだ。久しぶりに三人で和やかな時間を過ごそうと思ってな。」

ラシードはあまり気が進まなかった。

もともと他人と交わることを好まないうえに、相手がベロニカ公女だったからだ。

ベロニカは皇后が可愛がる貴族の娘の一人で、ラシードと顔を合わせるたびに好意を隠しきれない様子を見せていた。

だがラシードはいつもその気持ちを抑え込んだ。

軽率に振る舞えば皇后を困らせることになると分かっていたからだ。

多少ぎこちない関係であっても、ラシードは皇后への敬意からその程度の礼儀を守る気持ちは持ち合わせていた。

ラシードが椅子に座るのを確認した皇后は、目を和らげながらベロニカを見つめた。

「久しぶりに公女が淹れたお茶をいただきたいね。一杯、注いでくれるか?」

「もちろんですわ!」

元気よく答えたものの、ヴェロニカのお茶の淹れ方は、決して見事とは言えなかった。

一目で、まだ所作がぎこちなく、しっかり礼儀を学んだとは言い難いのがわかった。

それでも皇后は、愛おしそうに温かい眼差しを向けてヴェロニカを見つめた。

一口お茶を含んだ皇后は、柔らかな笑みを浮かべる。

「悪くない味だ。」

その言葉に、ヴェロニカの顔は喜びでぱっと明るくなった。

彼女はグラスを置き、そっとラシードに視線を向ける。

だがラシードは、感情を読み取らせない表情で、ただ揺れるお茶の表面を見つめているだけで、一切反応を示さなかった。

見かねた皇后が口を開く。

「さあ、飲んでごらん、ラシード。」

母の催促に抗えず、ラシードは茶杯を手に取った。

その姿を見たベロニカは、思わず小さな吐息を漏らした。

視線を伏せ、茶杯を持つラシードの姿があまりにも息をのむほど美しかったからだ。

しかし一口含んだラシードは眉をひそめた。

「もうこれ以上は飲めませんね。」

ベロニカが慌てた表情で身を乗り出した。

「なぜですか?!」

ラシードはまるで当然のように答えた。

「美味しくないから。」

「……!」

茶を淹れた相手の前でその味をけなすとは――いくら皇太子といえども無礼極まりない行為だった。

ベロニカの顔はたちまち真っ赤に染まった。

そして狼狽したのは皇后も同じだった。

「ラシード!」

皇后が鋭い声で名を呼んだが、ラシードは静かに立ち上がり、言った。

「失礼いたします、母上。最近とても優れたお茶をいただく機会がありまして、他の茶ではもう口に合わなくなってしまったのです。」

「それは一体……」

「母上が退屈されるだろうと伺って参りましたが、こうして共に語らえる方がおいでですので、私はこれで失礼いたします。」

皇后に形式的な挨拶を終えると、ラシードは視線を横へと向け、ヴェロニカを見た。

しかし、その顔は感情を抑えた冷ややかなもので、彼女に対して深々と礼をしたのは、それが最後だった。

それで終わりだった。

「殿下!」

「ラシード!」

皇后とヴェロニカが同時に呼び止めたが、ラシードは振り返ることなく歩み去った。

ラシードは長い脚で大股に歩き、応接室を出て行ってしまった。

ラシードが出ていった方を呆然と見つめていた皇后は、ようやく気を取り直した。

突拍子もないラシードの行動に驚かされるのは、一度や二度ではなかったからだ。

実のところ皇后は、ラシードが訪れる時間に合わせて、ベロニカ令嬢を招いていた。

先ほど恥をかかされた令嬢に、何とか理解を求めなければならなかったのだ。

しかし、ベロニカを目にした皇后は言葉を失った。

つい先ほどまで泣きそうな顔をしていたベロニカが、今は堂々としたまなざしを湛えていたからだ。

「まあ……会わない間に、ずいぶん見違えたわね。」

皇后は作り笑いを浮かべた。

『久しぶりに会っても、この子は変わらないのね。』

――アングルス公爵家の庶子、ベロニカ。若く美しい彼女には、ただひとつ欠点があった。

普通の人々とは少し精神世界が異なる、つまり知能がやや足りないのではと思われる点だった。

彼女は気が利かず、場の空気を読むことができなかった。

そのためアンゲルス公爵は、彼女を都から遠く離れた領地に置いて育てたのだ。

むやみに外に出れば、世間の笑いものになるのは目に見えていたからである。

だからこそ皇后はヴェロニカを選んだ。

『名門の末娘を皇太子妃にすれば、公爵は大きな恩を感じるに違いない。』

それだけのことだった。

ヴェロニカには、他の貴族令嬢によく見られる権力欲がなかった。

それどころか、子どものように単純で扱いやすかった。

『ラシードには、まさにぴったりの相手だわ。』

皇后の唇がかすかに持ち上がった。

頬を赤らめたままのヴェロニカを前に皇后が問いかけた。

「ベロニカ令嬢は、やはりまだラシードに好意を抱いているようね。」

ベロニカは少しもためらわず答えた。

「はい、皇后陛下。私は殿下が本当に好きです。どうしようもないほどに。」

自分の気持ちをはっきり表すのは優雅さに欠けると考える、普通の貴族令嬢たちとは明らかに違う反応だった。

皇后はその姿に面白さを覚え、口を開いた。

「では、もう一度席を設けてあげましょうか?」

ベロニカの顔が一気に明るく輝いた。

「本当ですか?!」

「ええ。私はあなたを大事に思っているのだから。」

「ありがとうございます!やはり私の味方は皇后陛下だけです!」

感激したベロニカは、両手で顔を押さえた。

 



 

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