影の皇妃【１３１話】ネタバレ

「今まで通り、身だしなみを正して皇太子妃に相応しい資質を備えるようにしてください」

「それでは社交界の評判はどうしましょうか？マダムは、今からすぐにでも活動しなければならないと言いますが・・・」

マダム・ド・プランローズについて言及し、もう一度リアブリックの反応を探る。

「評判は大事です。ですが社交界というのは必然的に人々の話題になるだけですので、急いで活動する必要はないと思います」

「・・・」

「ですから、これまで通りにしてください。質問はもういいでしょう？」

語彙は丁寧だったが、その中に載せられた口調はかなり強圧的だった。

ただ言われた通りにしろという印象。

「はい、リブ。もう大丈夫です」

「そうでなくても、その話が出たついでにもう一つ話しましょう。最近外出が多くて帰りが遅いようですが、なるべく控えてください。品行に傷がつくのではないかと心配になりますので」

（あまりにも私を拘束し過ぎている。なぜ？）

元の歴史と比べると、エレナに与えられた自由はあまりにも限られていた。

対外的な活動は禁止したまま、大公家内に監禁するも同然な対応。

「そのつもりでした。品行には気を使います、リブ」

「では出て行ってください。処理する仕事が多くて、これ以上時間を割くことが難しいので」

ソファを立ち上がり、机に向かうリアブリックを後にしてエレナも静かに執務室を出た。

ドアの外で待機していたメイを連れて寝室に向かう間、エレナの頭の中は複雑だった。

寝室に到着したエレナは紅茶を飲んで、しばらく頭を落ち着かせることに。

あまりにも一つのことだけに没頭すると、視野が狭くなるものだ。

このような時は一歩後退して、他の視点で考えてみるのも悪くない。

しかし、考えを変えたにもかかわらず、エレナが望む結論を導き出すことは容易ではなかった。

与えられた状況と手がかりが、あまりにも少ないから。

コンコン。

その時、ノックの音が聞こえた。

「お嬢様、あの子ですね」

「お入りなさい」

アンが寝室に入ってきたとき、彼女は何となく上気していた。

「どうしたの、アン？」

「あのう、お話ししたいことがあります」

アンはそう言って、メイの方をちらっと見る。

エレナは彼女の視線を逃さずに機敏に対応した。

「メイ、アンと折り入って話があるから出て行ってちょうだい」

「はい、お嬢様」

メイは名残惜しいフリをして寝室を出る。

既にエレナがアンを利用していることを知っているからこそ、このようなやり方で退出する必要があったのだ。

「ふん」

アンは彼女の演技に騙されていることも知らずに、ニコニコ笑いながらエレナに向かって話した。

「お嬢様、さっき私が調べてお話すると言った話、覚えていますか？」

「もちろんよ。あなたがハッキリ分かれば話してくれると言ったじゃない」

エレナは静かに紅茶を飲みながら答える。

しかし、彼女の目つきはいつにも増して異彩を帯びていた。

「ええ、そうなのです。それを私は突き止めました！」

「そうなの？」

「倉庫番のジャックから聞いた話です。彼の情報だと、最近出どころの分からない物が別館の地下室に地道に積み込まれているそうです」

「出どころの分からないもの？」

エレナは耳を澄まして興味を示した。

見過ごすには怪しさが感じられたから。

「はい、真夜中に密かに持ち込んで来るので、何が積まれているのかも分からないのですが」

「興味深いわね。続けて」

「ジャックがとても気になって品物を見ようとしたのですが、箱が密封されていて見れなかったそうです」

夜明けに乗じて密封された箱を持ち込むということは、外部的に公開をはばかることである可能性が高い。

「貴族の集まりに参加する貴族に与える贈り物ではなくて？」

「それはないと思います。貴族の方々へのプレゼントとして準備するのは、燭台だと聞いておりますから」

「そう？」

（この子は思っていたよりも有能ね）

ずっとアンを丸め込めながら補償をしてきた甲斐があった。

（だからといって、あなたを完全に信じないけれど）

アンはただの利用相手でしかない。

エレナは、過去の過ちを踏襲するほど愚かではなかった。

「箱の中身が気になるわね」

「そうですよね？私もそれをジャックに言ったら、彼が一言言ったんですよ」

「何を言ったの？」

「密封された箱は開けられなかったけれど、布で包んで入ってきた物は、家具のようです」

「家具？」

エレナは反射的に質問する。

本当に思いがけない物だったから。

「はい、家具です。ジャックは倉庫番を引き受ける前まで木工所で働いていたんです。彼の話だと、木の香りは、最高級の黒壇の木で制作されているそうです」

「黒壇の木なら、これらと同じ材質ね」

視線は寝室の中、黒壇で作られたロココ様式の家具に向かう。

名匠が凝って作った家具で、よほどの貴族でなければ想像もできないほど高価なものだ。

（誰のものかしら？）

貴族たちに渡すプレゼントなら、真夜中に密かに仕入れる理由もない。

（だからといって私のものではないでしょうし・・・。一体誰に渡すもの？）