メイドになったお姫様

メイドになったお姫様【100話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【メイドになったお姫様】まとめ こんにちは、ピッコです。 「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

100話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • あの日から

キャロラインは青ざめた顔でソファに座っていた。

それは、皇宮に行った弟キルアンがまだ戻ってきていないためだ。

キャロラインは長い指先を握りしめながら、足を震わせていた。

『どうしよう。何としてでも行かせるのを阻止しなければ!』

少し前にシアナが二人を訪ねた後、キルアンはシアナの現状を知るために調査を始めた。

そして間もなく驚くべき事実を突き止めた。

シアナ王女が現在、皇宮の侍女としているという事実を。

それも他ならぬ皇太子の力によって。

そのことを知ったキルアンは声を荒げた。

「皇太子、このクソ野郎!よくも公主を閉じ込めて侍女にしてやがるのか?!」

キャロラインは怒り狂うキルアニを落ち着かせようと、ありとあらゆる手を尽くしたが、今回は通じなかった。

キルアニは自分の足首をつかんで止めようとするキャロラインを振り払って、強引に皇宮へ向かって行ってしまった。

『今からでも連れ戻してこれるだろうか?』

だが、キャロラインはどれだけ弟を愛していても、一緒に死ぬような考えはなかった。

それほどキャロラインは、キルアンの命に大きな不安を抱いていた。

キルアンが憎しみに燃える目で向かった相手は、他でもない皇太子ラシードだった。

それでも、どれほど見たくない相手であったとしても、弟は弟だ。

『今からでもキルアンを救いに行こう。』

ソファから飛び起きてドアを開けたキャロラインは、目を大きく見開いた。

ドアの前にキルアンが立っていたからだ。

キャロラインは驚いた顔でキルアンをじっと見つめたが、すぐに叫び声を上げた。

「まさか幽霊になっちゃったの?」

「……」

「ぎゃあ!だから行くなって言ったでしょ、このバカ!」

キャロラインは泣きそうになりながら、拳でキルアンの胸を何度も叩いた。

すると、拳に感じる感触があまりにもはっきりと実感できるものだと気づいた。

これは幽霊では感じられないような感触だった。

キャロラインはキルアンの顔をじっと見つめながら言った。

「……死んでないの?」

「何を言ってるんだ。」

キルアンはあきれた顔でひどいことを言いながら、キャロラインを通り過ぎて部屋の中へ入っていった。

ソファに座り、テーブルに置かれた水をがぶ飲みするキルアンを見ながら、キャロラインは信じられないといった表情で言った。

「怒りで真っ赤になった顔で飛び出していって、皇太子に向かって『公主様を返せ、このクソ野郎』なんて言ったら首が飛ぶと思ったのに……どうやってこんな無傷で帰ってきたの?」

それが冗談なのか本気なのか分からないことを言いながら、キャロラインを見つめてキルアンが言った。

「それでも人間として最低限の良心は持っていたようだよ。俺がシアナ公主について話したら、声も出せなかった。」

人間として最低限の良心、声も出せなかったこと――それが何であれ、キャロラインは“血の皇太子”という異名を持つ男との関連を考えると、眉をひそめるしかなかった。

『何にせよ、キルアンが無事に戻ったのは事実だ。』

キャロラインは渋い顔をしながらもキルアンの言葉をある程度受け入れ、尋ねた。

「それで、これからどうするつもり?」

「準備が整い次第、シアナ様をすぐに迎えに行く。そして話をしていただくんだ。公主様をひどく縛りつけていた皇太子が、もう心を入れ替えて宮殿を離れてもいいと言ったことを。」

「それから?」

「それからって、当然じゃないか。公主様を迎え入れて最高に快適な生活をしていただくんだ。」

キャロラインは大きく息をついた。

「母様がその件について納得してくださるといいんだけど。」

ミスティック商団の団主であり、二人の母であるレドラクは、冷徹に利益だけで動く女性だ。

ただ、利益にならないようなことでも、シアナ公主を息子たちが迎え入れると言えば、お母様が決して許さないだろう。

しかし、キルアンの表情は平然としていた。

「問題ないさ。お母様が何を言おうと、全部受け入れるようにするから。」

「……」

「貴族たちが大騒ぎする貴族アカデミーに入学することだろうが、パーティーに出かけて顔も見たくない貴族たちに愛想を振りまくことだろうが、何だって犬のように言うことを聞くよ。そうすればお母様も、そのくらいは自分の好きなようにしてもいいと許してくれるだろう。」

キャロラインは言葉を失った。

今キルアンが言ったことは全て、彼が首に刃を突きつけられてもやりたくないと拒否してきたものだったからだ。

キャロラインは少し驚いた顔で言った。

「あなたがシアナ公主に夢中なのは知ってたけど、まさかこれほどだとは思わなかった。」

正直に言うと、キャロラインには理解できなかった。

シアナがキャロラインの目には月に届く星のような特別な存在ではなく、ごく普通の女性にしか見えなかったからだ。

世の中には彼女よりも高貴な身分を持つ者や、はるかに美しい外見を持つ者も多かった。

しかし、それはキャロラインの考えに過ぎなかった。

キルアンにとってシアナは、この世でただ一人の特別な公主様だった。

初めて出会ったその日から。

 



 

キルアンが7歳、キャロラインが10歳だった年、二人は母親とともに馬車に乗ってどこかへ向かっていた。

最高級のシャツにきちんとしたナビネクタイを着けた幼い息子と、レースが飾られた華やかなドレスを着た娘に向かい、ミスティック商団の団主であるレドラクが言った。

「今向かっているアシルロード王国の王妃様は、我々ミスティック商団を毎月訪れてくださる特別な顧客なのよ。私に子どもがいると聞いて、王妃様が一度連れてきてほしいとおっしゃったのよ。王子様と公主様も同じくらいの年齢だから、一緒に遊べるといいって。」

レドラクは王妃の提案を受け入れた。

商団の高価な品々をためらいなく購入してくれる王妃のご機嫌を取るためでもあり、二人の子どもたちが後にミスティック商団の利益を考えるきっかけとして、徐々に宮殿の雰囲気に慣れさせる良い機会だと考えたからだ。

レドラクは厳しい声で言葉を続けた。

「王子様と公主様に会ったら、ちゃんと仲良くするのよ。未来の大切なお客様になる方々だから。」

幼いころから縮こまっていたキャロラインは、「はい!」と力強く答えた。

キャロラインは少し期待に胸を膨らませていた。

噂に聞いていた公主様と王子様に初めて会える瞬間だったからだ。

それに対し、隣に座るキルアンの表情は、ただ不満げなものだった。

『王子や公主なんて、見ても仕方ない。貴族たちは本当に面倒だ。これ以上ひどいことはないだろう。』

しかし、その考えは間違いだった。

キルアンが予想していたよりも、王子と公主の状況は深刻だった。

わずか7歳のアシルロンド王国の王位継承者であり唯一の王子には、礼儀の精神がまったくなかった。

キャロラインが王子と公主と親しくなるために持参した人形を、何も言わず奪い取った王子は、その人形の腹を木製のナイフで何度も突き刺し始めた。

「クヘヘヘ。」

お腹から飛び出た人形の中身を見て笑い出す幼い少年の姿は、異様で恐ろしいものだった。

幸運だったのは、その王子がキャロラインとキルアンには特に興味を示さなかったことだ。

「そ、それでは私たちはこれで……。」

キャロラインは青ざめた顔でキルアンの襟を掴み、隣の部屋へと急いだ。

そこは公主の部屋だった。

ようやく、王子と公主が別々の部屋にいる理由が分かった。

『王子があの様子なら、公主様は違うだろう。』

キャロラインは希望を抱いた。

幸いなことに、王子より1歳年下の公主は普通だった。

ただし、「普通」といっても、普通の基準を少し下回る程度だった。

「あなたが人形で、私が主人よ。人形は主人の言うことをよく聞かなきゃいけないでしょ?」

キャロラインが返答する間もなく、公主はキャロラインに飛びかかり、彼女の長い髪を力任せに掴み始めた。

「痛っ!」

キャロラインの悲鳴に驚いたキルアンが、公主に向かって叫んだ。

「一体何をしているんだ!」

その瞬間、一部始終を見守っていた侍従たちが慌てて駆け寄り、正座した。

「公主様に向かってそのようなことを言うとは、何事でございますか。」

恐ろしい表情をした大人たちがキルアンを振り返った。

普通の子どもであれば泣き出してもおかしくない状況だったが、キルアンは猫のように鋭い目つきで、目を細めながら言った。

「皆さんも見たでしょう。公主様が姉さんを苦しめたんです。」

その言葉に、侍従たちの表情はさらに硬直した。

王妃が大切にしている商団主の子どもたちとはいえ、彼らの目にはただの平民に過ぎなかった。

「どうやらこの方には宮廷での教育が必要なようですね。」

彼らがキルアンに近づこうとした瞬間、キャロラインが割って入った。

「どうかお許しください。弟はまだ幼く、何も知らないのです!」

「……」

侍従たちは一瞬動きを止めたが、キャロラインが雰囲気を和らげるように明るく微笑んだ。

「そうだ、お母様から公主様に差し上げるようにとプレゼントを預かってきたんだった……。」

キャロラインは大きな声で話しながら、鞄から様々な玩具を取り出し始めた。

それらは小さな魔石が入っており、音が鳴ったり動いたりする不思議な玩具だった。

珍しい玩具に侍従たちも目を丸くし、さっきまで眉をひそめていた公主も「わあ!」と目を輝かせた。

その場の雰囲気を利用して、キャロラインはキルアンにそっと耳打ちした。

「無駄に大事にしないで、ここは私に任せて。」

キルアンは怒りが爆発しそうだった。

公主気取りで姉を苦しめていたあの小娘の尻を思い切り叩いて、彼女を脅すように目を光らせていた侍従たちにも何か言いたかった。

しかし、キャロラインが作り上げた穏やかな雰囲気を台無しにするわけにはいかなかった。

キルアンにもそれなりに分別はあった。

「最悪だ。」

キルアンは子どもらしからぬひどい言葉を吐き捨てながら、部屋を出た。

建物の外に出ても、キルアンの怒りは収まらなかった。

『王子も公主もどうしようもない!』

母が「王子や公主と親しくしなさい」と言った言葉は、頭の中からすでに消え去っていた。

キルアンには、あんな性悪で面倒な小娘たちと仲良くするなんて考えられなかった。

そのため、キルアンは静かにこっそり歩き出した。

初めて来た城で道は分からなかったが、あの忌々しい連中の目に触れない場所に行かなければならないと思ったのだ。

そうしてしばらくすると、キルアンは満足できる場所を見つけた。

そこは、誰も近寄らない庭園の一角で、手入れがされておらず草木が生い茂っていた荒れ果てた場所。

これまで見た華やかな庭園と比べると、手入れが全く行き届いていない場所で、見るべきところもなかったが、キルアンはこの場所が気に入った。

『ここで時間を潰して、頃合いを見て戻ろう。』

キルアンは人目を完全に避けようと思い、大きなバードナムの木の後ろへ歩いて行った。

「……!」

キルアンは目を大きく見開いた。

そこには、木の下で一人の少女がしゃがみ込んでいたからだ。

丸い顔に大きな瞳を持つあどけない顔立ちの少女が、真っ赤に腫れた目で泣いていた。

キルアンは声も出せず、その場に立ち尽くした。

キルアンはもともと子どものような振る舞いを嫌う性格だった(自分も子どもなのに)。

特に女の子の泣き声が嫌いで、その光景を見た瞬間さらに嫌悪感を抱いた。

『くそ、厄介なものを見ちまったな。』

見なかったふりをして立ち去りたかったが、そうするわけにはいかなかった。

母から厳しく教えられたおかげで、他のことはさておき、女性が泣いているときは慰めてあげるべきだという認識がしっかりと刻み込まれていたからだ。

『姉さんが持たせてくれたハンカチでも渡しておこう。』

キルアンはポケットを探り、ハンカチを取り出した。

「……!」

突然差し出された手に驚いた少女は、目を丸くしてから小さな手でハンカチを受け取った。

そして、ハンカチで顔を押さえながら再び泣き始めた。

小さな肩を震わせて。

キルアンは無言で泣くことがこんなに悲しいものだと、その日初めて知った。

 



 

一体どれほどの時間が過ぎただろうか。

やっと泣き止んだ少女は、ハンカチを顔から外してキルアンを見上げた。

さっきまで泣いていた丸い瞳には、透き通る涙が溜まっていた。

『可愛い。』

キルアンは自分を見上げるその顔を見て、思わずそんな考えを抱いた。

少女は鼻をすすりながら言った。

「ハンカチ貸してくれてありがとう。」

「いや、別に。」

「でもこれ、また使わなきゃいけないのに、汚れちゃったね。どうしよう?」

「返さなくていいよ。家にはこんなハンカチ、100枚くらいあるから。」

キルアンの言葉に、少女はクスクスと笑った。

「やっぱりお金持ちは違うね。」

「……僕のこと知ってるの?」

「シニョが教えてくれたの。今日、宮殿にミスティック商団の団長さんとその息子と娘が来るって。」

幼い声で楽しそうに話す少女を見て、キルアンは少し気持ちが和らいだ。

きっと私と同じくらいの年齢に見えるけれど、話し方がとても子どもっぽくはなかった。

彼女が着ているドレスや装飾品も、宮殿で働く幼い侍女たちとは一線を画している。

キルアンは目を細めながら尋ねた。

「君、誰?」

その言葉に少女は「まあ」と驚いた顔をして、大きな瞳をさらに丸くした。

「ハンカチまで借りたのに、まだ自己紹介もしていなかったなんて。恥ずかしいわ。」

少女はしゃがんでいた体をゆっくりと起こした。

背筋をしっかり伸ばした少女は、赤ん坊よりは成長していたが、まだまだ小さかった。

しかし、彼女が子どもに見えたのはそこまでだった。

少女は片手でスカートの裾を軽く持ち上げ、優雅なお辞儀をした。

明るいエメラルド色の瞳でキルアンを見上げ、控えめに唇を動かした。

「私の名前はシアナ・アシルロンド・フォン・シリテです。」

「アシルロンド王国の第一王女だ。」

涙の跡が残る幼い顔立ち。

宝石がちりばめられたドレスは彼女の小柄な体には重そうに見える。

しかし、それらと不釣り合いなくらい、彼女の優雅な動作にキルアンは言葉にできない感情を覚えた。

その日、キルアンは母親にシアナ王女について尋ねた。

「アシルロンド王国の第一王女。でも、現王妃の実子ではないから、正当な扱いを受けていないんだって。」

「王が自分の娘にそんな低い地位を許すんですか?」

「王妃と良い関係を築いている一方で、実の娘にはほとんど関心がないそうよ。それに、王妃が王女を抑え込む方法も、大声で怒ったり手を上げるようなことではなく、さらに放置するという形だからね。」

「……それってどういう意味ですか?」

「王妃様は王女様を子ども相手にここまでしなければならないのかと思うほど厳しい教育を施しているそうです。そして、学んだことをきちんとやり遂げられなければ、容赦なく叱責を受けるのだとか。」

「……。」

「どうあれ、王女様を教育するという名目がある以上、陛下も何もおっしゃらないのです。だから……。」

レドラは幼い息子の顎を指で軽く押しながら話を続けた。

「うっかりシアナ王女様に会ったとしても、必要以上に親しくするな。距離を保って関わりを避けなさい。それ以上親しくして得られるものは何もないのだから。」

しかし、すでに遅かった。

キルアンはすでにシアナと会っていたのだ。

察しの良いキルアンは、母にその話を打ち明けることはなかった。

代わりに、キルアンはレドラが宮殿に行くたびについて行くようになった。

レドラは、キルアンが宮殿に着くと、王子や王女と遊ぶことなくすぐに姿を消すのを知っていた。

王妃が気に入らないと思ったのか、キャロラインも、未熟な王子や冴えない王女と付き合うくらいならキルアンがいない方がはるかに良いと考えていたからだ。

「まあ、せいぜい一度でも我慢して、物分かりの悪い子供のように宮殿をうろつき回ればいいさ。」

だが、その頃、キルアンは鬱蒼とした庭の隅でシアナに会っていた。

母に隠れて持ってきた玩具を手に。

「王女様、これを受け取ってください。」

キルアンはいつの間にかシアナに敬語で話していた。

シアナが自分より2歳年上だったからだけではない。

王女というシアナの身分に対して敬意を払っていたのだ。

シアナは目を輝かせながら、キルアンが渡した贈り物を手に取った。

今日キルアンが持参した玩具は、銀で作られた蝶で、空中に投げると羽ばたく仕掛けになっていた。

「わあ、本当に綺麗。まるで本物の蝶みたい。」

シアナは蝶を見ながら手を叩いて笑う。

「ありがとう、キルアン。」

自分に向かって明るく笑うシアナを見つめながら、キルアンは複雑な表情を浮かべた。

キルアンは今やシアナについて多くのことを知っている。

ここは、シアナが誰にも邪魔されたくない時や隠れたい時にやってくる秘密の場所。

初めて会った日にシアナが泣いていた理由も知っていた。

[「お母様がミスティック相談所の主と会う間、アシルロンド王家の歴代の家系図を覚えろと言われたけれど、どんなに頑張っても覚えられなくて、悔しくて涙が出たの。」]

そう言いながら、シアナは目元をぬぐいながら微笑んだ。

まるで幼い行動を恥じるような態度だった。

しかしキルアンは、シアナが語らなかった背景を理解していた。

やるべきことをきちんとこなせないと、王妃からの厳しい叱責が怖くて、シアナは泣いていたのだ。

誰にも見つからない場所に隠れて。

そのことを考えると、キルアンは胸が痛み息が詰まる思いだった。

何としても幼い姫を慰めたいと思った。

幸せそうに笑いながら蝶の玩具を撫でるシアナに向かって、キルアンは語りかけた。

「姫様、世の中にはすごいものがたくさんありますよ。」

「分かってるわ。キルアンが教えてくれたじゃない。」

キルアンは、ミスティック相談所にある不思議な物品についてシアナに話して聞かせていた。

映像を映し出す装置や、声を保存する道具など。

「人が空を飛べるようにしてくれるという魔力石が一番興味深いわ。私にもそんなものがあればいいのに。」

きらきらと目を輝かせるシアナを見つめながら、キルアンが尋ねた。

「……宮殿を出たいですか?」

シアナは答えず、寂しげな笑みを浮かべた。

彼女が心から望んでいても、それが簡単には叶わない願いだと分かっていたからだ。

おそらく、シアナがこの窮屈な場所を出ることは、彼女を確実に不幸にする婚約者が決まった後でしか許されないだろう。

それが新しい王妃の望みだったのだ。

そんな希望のない未来を思い浮かべ、シアナの顔には陰りが差した。

それを見たキルアンは、シアナの前で膝をつき、彼女をじっと見つめた。

キルアンの突然の行動にシアナは驚いて目を大きく見開いた。

「シアナ公主様、少しだけ待っていてください。いつか必ず私が公主様をここから連れ出します。」

シアナは突然そんな言葉をかけられ、なぜそんなことを言うのか尋ねることもなく、無邪気な発言だと批判することもなかった。

ただ微笑むだけだった。

そんな言葉を言ってくれてありがとうというような微笑みだ。

このとき、シアナは六歳、キルアンは十四歳だった。

その後、キルアンはしばらくアシルロンド王国へ行く機会を持てなかった。

それはミスティック商団があちこちを巡る中、アシルロンド王国の反対側へ向かうことになったためだった。

その間、キルアンは母親に少しでも認めてもらえるよう努力を重ねた。

少しでも力をつければ、いつか必ずシアナを地獄のような城から救い出すという決意を持っていた。

しかし2年後、キルアンは衝撃的な知らせを聞くこととなる。

「……何ですって?」

「アシルロンド王国が帝国軍の侵略により滅亡しました。敗北の責任を追及され、王を含む全ての王族が処刑されたとのことです。」

キルアンは頭の中が真っ白になった。

それでもやっとのことで唇を動かし、尋ねた。

「し、シアナ公主様は?!」

「シアナ公主の遺体は発見されていませんが、高い確率で混乱の中で命を落とされたと推測されています。」

キルアンは、巨大な岩が背中を押しつぶすような衝撃を受けた。

【いつもありがとう、キルアン。】

最後に見たとき、自分に微笑んでくれた小さな公主様の顔が思い浮かんだ。

その微笑みは、あまりにも幼いものであった。

 



 

 

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