こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

101話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- あの日から②
その後、キルアンはシアナを必死に探し求めた。
彼女が死んだはずはないという切実な希望を胸に抱きながら。
そしてついにシアナを見つけた。
信じられないことに、シアナはアシルロンド王国を滅ぼした帝国の皇太子がいる皇宮にいた。
それも奴隷同然の侍女として。
キルアンは怒りに満ちた表情で壁を殴りつけた。
『命からがら城を抜け出したと聞いていたのに、今では奴隷のように扱われているなんて。』
キルアンはシアナが気がかりでたまらなかった。
そこで命を賭して皇太子に会いに行き、自分の言いたいことをすべて言い、納得のいく結果を得た。
皇太子は「シアナが望むことをすべて叶えてあげよう」と言った。
宮殿から戻ったキルアンはすぐに計画を立てた。
「まずはシアナ姫を迎え、状況を説明しよう。皇太子が送り出す準備が整ったことを知れば、すぐに宮殿を出てくるだろう。その後、最高級のホテルにお迎えし、有能な侍女を5人つけて差し上げよう。」
シアナは姫である。
彼女は誰かに仕える存在ではなく、人々から仕えられるべき存在だ。
「少なくとも1ヶ月間は一切手を動かさなくてもいいよう、楽に休ませてあげよう。」
小さく若い姫が一時期、侍女として苦役を強いられていたことを思うと、キルアンは心が痛んだ。
「そうやって休ませた後、気が向いたらショッピングに連れて行くんだ。」
キルアンを探し出したシアナは、擦り切れた麻布で作られた服を身にまとっていた。
新しい王妃にどれだけ侮辱されても、毅然としていたシアナの姿を知っていたキルアンには、この様子が一層心を締め付けるものだった。
「最高級のドレスを身にまとい、輝くアクセサリーを付ければ、とても美しく見えるでしょう。バラの花の祭典の時も、あんなに美しかったのだから。」
他にどんなことをして差し上げれば喜んでもらえるだろうか。
キルアンは真剣な表情で、シアナにしてあげたいことを次々と思い浮かべていた。
そんな時、予期せぬ客人がやってきた。
それはシアナだった。
シアナは以前訪れた時のように、飾り気のない質素な服装で、大きなフードを羽織っていた。
予想外の訪問に、キルアンの顔は喜びで明るくなった。
「ようこそ、お姫様。まずはお座りください。」
丁寧に席を譲るキルアンを見て、シアナはフードを下げながら微笑んだ。
「キルアン、少し前に皇宮に行ったと聞いたわね。皇太子に知らせを伝えたんですって?」
その言葉で、キルアンはシアナがなぜ自分を訪ねてきたのか、ようやく理解した。
キルアンは力強く顎を引き締めて話し始めた。
「はい、そうです。以前、公主様が私を訪ねて来られた後、いろいろと調査を行いました。そして、その結果、皇太子が公主様に対してどれほど非道な行いをしたかを知ることができました。」
「……」
「それで、皇太子を直接訪ねて言いました。これ以上、公主様を苦しめるのはやめてほしいと。皇太子も了承すると言っていました。」
キルアンは声に力を込めながら続けた。
「だから、公主様、もうこれ以上、皇太子の目を気にする必要はありません。公主様がしたいと思うことを、そのままなさってください。」
キルアンは確信を持っていた。
皇太子がいる限り、シアナが敵国の皇宮で侍女として過ごしているはずがない、と。
しかし、それはキルアンの思い込みにすぎなかった。
キルアンを真正面から見つめるシアナは、静かながらも確固たる口調で言った。
「キルアン、私はあなたが考えるように、今の生活が嫌だとは思っていません。」
「……え?」
「公主だった頃は知らなかったけど、私は汗をかいて体を動かすのが好きなんだ。」
それだけではなかった。
花瓶に飾られた花のようにただ座って笑うことしかできなかった以前とは異なり、侍女としてのシアナは多くのことを変えることができた。
磨けば服が綺麗になり、種を植えれば庭に華やかな花が咲いた。
小麦粉を混ぜると甘いクッキーが焼け、掃除をすれば部屋に清潔な香りが漂った。
変化の中で最も印象的だったのは、現在の小さな公主だった。
以前の彼女はいつも不機嫌そうな顔をし、冷たい目つきをしていたが、今では鮮やかなドレスを着て太陽のように明るく笑っていた。
その姿を思い浮かべながら、シアナは続けた。
「私は、公主として過ごしていた頃よりも今の方がもっと幸せよ。」
そんなこと、ありえない。
キルアンの顔は驚愕で固まった。
キルアンは抗議するように言葉を発した。
「そんなはずがありません。どうして公主様だった方が侍女の生活に満足するなんてことができるんですか。それは錯覚していらっしゃるだけです!」
「………。」
「公主様、そんなことはおやめになり、すぐにでも宮殿を出てください。私がしっかりお世話しますので、快適にお過ごしいただければ、本当の幸福が何なのかお分かりになるはずです。」
キルアンはシアナのために自分が計画したことを伝えようとしていた。
最高級ホテルのスイートルーム、5人の侍女、きらびやかなドレスと宝石。
しかし、キルアンがその話をする前に、シアナが口を開いた。
「キルアン、私をどうしたいと思ってるの?」
「……!」
低く落ち着いたシアナの声に、キルアンは大きく目を見開いた。
シアナは冷静な瞳でキルアンを見つめ、続けて言葉を紡いだ。
「私はただの幻影でしかなかった公主で、今はただ働く侍女に過ぎないわ。でも、それはあなたが私をどうにかしようとする理由にはならないの。」
「……。」
「最後に言わせて。もう私に気を使わないで。」
以前のような穏やかな頼みではなく、はっきりとした命令だった。
それは揺るぎない指示だった。
強い視線で自分を見つめるシアナの姿に、キルアンは一言も言い返せなかった。
二人の間には、重苦しい沈黙が流れた。
先に口を開いたのはキルアンだった。
「……私が間違っていました、公主様。」
「……。」
「公主様のおっしゃる通りにいたします。」
苦しげな表情でそう語るキルアンに、シアナは何も言い返さなかった。
ただその瞳を伏せて、キルアンを見つめるだけだった。
それは誇り高く厳かな公主の表情だった。
シアナが立ち去った後、場所を外していたキャロラインが部屋に戻ってきた。
主人を探す小鳥のようにしきりに動いていたキルアンは、うなだれた顔で座り込んでいた。
「何、その顔?シアナ公主に一発殴られた?」
冗談交じりに投げかけた言葉だったが、キルアンはぼそりと答えた。
「似たようなものだ。」
「はぁ?」
その結末を見るべきだったが、という惜しそうな表情をするキャロラインに、キルアンがため息混じりに言った。
「公主様は私の提案を拒否された。王宮の侍女としてこのまま過ごされるつもりらしい。」
「世間知らずっていうか、気でも狂ったのか?」
しかし、キャロラインはその言葉を口にした直後、目を細めてため息をついた。
「まあ、全く理解できないわけじゃないけど。」
「………」
キャロラインはアシルロンド王国で何度か見かけたシアナの姿を思い浮かべた。
その当時見たシアナの顔は、逃げ場のない鳥かごに閉じ込められた鳥のように憂いを帯びていた。
しかし、この場で見たシアナは以前よりもはるかに生き生きとしていた。
『公主だった頃より、ずっと自由で美しく見える。』
それでもキルアンはその変化に気づいているのかどうか分からなかった。
それが歯がゆくて、キャロラインは指でキルアンの額を軽く弾きながら言った。
「何を勘違いしてるんだか。シアナ公主は、あの残酷な王妃の虐待にも耐え抜いて品位を失わなかった人なのよ。それに、今の状況を見なさいよ。アシルロンド王族が全員殺された中でただ一人生き残ったじゃない。」
「だからどうしたって言うんだ、」と答えようとしたキルアンを制して、キャロラインが言った。
「とんでもない方なのよ。」
「……!」
「母も私に教えてくれた。あの公主様は、どんなに周りが狂っていようと、子供のような甘えた態度を取るような人じゃないって。だからあなた、これからは公主様に余計な気遣いはしないで、あなた自身の生活をきちんとしなさい。分かった?」
姉の言葉に、キルアンの顔が赤く染まった。
「僕がいつ気遣いすぎたって言うんだ!」
「公主様のことはもういいって言ってるのに、いつまでもウジウジしてるのはどういうこと?」
「おろおろしてるんじゃなくて、心配してるんでしょ?」
「それは君の考えだ。」
「……」
キルアンは苛立ちを帯びた目でキャロラインを見たが、それ以上何も言わなかった。
その夜、キルアンは決心した。
これ以上シアナに心を乱されることなく、首都を去ると。
キルアンが首都を発つ朝、シアナがホテルの前に現れた。
キルアンは目を大きく見開いた。
「公主様!」
シアナが目を細めて微笑んだ。
「きちんと話したつもりだったけど、別れの挨拶はちゃんとしたくて来たの。」
「あ……」
「元気で、キルアン。いつも健康でいて。」
「……」
シアナをただ見つめていたキルアンは、顔を上げたくても上げられず、シアナの前で跪いた。
驚いた顔をしたシアナを見上げながら、キルアンが言った。
「侍女として生きようとする公主様の意思を尊重します。しかし、それとは別に、私にとって公主様は大切でかけがえのない存在です。」
「……」
「いつか私の力が必要なときが来たら、お声をかけてください。公主様の力になります。」
「……うん、そうするわ。」
短く答えたシアナは、目を細めて微笑んだ。
「ありがとう、キルアン。」
それは、かつて見たことのないほど穏やかな微笑みだった。
隣でその様子を見ていたキャロラインが目を伏せ、何も言えず顔をしかめた。
「さあ、出発しよう。」
キルアンは未練がましい顔で馬車に乗り込んだ。
やがてキルアンとキャロラインが乗った馬車が遠ざかり始めた。
シアナはその場に立ったまま、彼らの姿をしばらく見送っていた。
遠くに去っていく馬車が見えなくなるまで。
「いつまでここに立っているつもりですか?」
「そうですね。」
思わず返事をしてしまったシアナは、ぎこちなく答え、ラシードに問い返した。
シアナにかける言葉が他に思いつかなかったためだ。
「ところで、どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「そうですね。」
ラシードは少し前のシアナと同じ返事をした。
「今の、冗談で聞いたわけじゃないんですけど?」
ラシードはシアナの目つきに肩をすくめながら言った。
「ただちょっと、散歩中だったんだ。」
「皇太子殿下が王宮からかなり離れたホテルの前まで散歩に来たと?しかもこんな朝早くに?」
「……」
明らかに怪しい言葉を並べる視線を避けるラシードを見つめ、シアナは小さく息をついた。
シアナは自分の首にかけていたショールを取り、ラシードの顔にそっと掛けてあげた。
「外出する時には顔を隠すようにと言ったでしょう。」
この時間はまだそれほど経っていなかったが、道を行き交う人々がちらちらとラシードを見ていた。
ほとんどは驚くほど美しい男性を目にした純粋な好奇心だっただろうが、もしかするとその中には皇太子だと気づいて悪い考えを抱く者もいたかもしれない。
「そんな奴がいるとしても、関係ないさ……。」
ラシードは毅然としていた。
そしてちょうど十歩ほど離れた場所で、護衛の騎士ソルが静かに立っていた。
まるで行き交う人のように。
数人の暗殺者が現れても眉一つ動かさずに片付けられるほどの腕前であった。
それでも、シアナが自分を心配してくれるのが嬉しかったのか、ラシードはおとなしくシアナが掛けてくれたショールで顔を覆った。
少しの隙間から目だけを覗かせたラシードが尋ねた。
「あいつはもう行ったのか?」
シアナは「あいつ」が誰なのかすぐに察して頷いた。
「ええ。」
「意外とあっさり行くんだな。てっきり、お前が行きたくないと言ったら無理やり連れて行こうとするかと思ったが。」
そのことが気になったラシードは、こんな早朝に備えをしていた。
「そんなことないですよ。キルアンは自己流で行動することもありますが、私の言葉にはいつも耳を傾けてくれるんです。」
疑念を抱かせる言葉に、ラシードの目が鋭く細められた。
「一体、あの男とどんな関係なんだ?」
公主(お姫様)と公主を守る神の関係とは到底思えないような微妙なニュアンスが含まれていた。
シアナは「うーん」と考えた後、微笑みを浮かべて答えた。
「秘密の空間を共有した友人、という感じでしょうか?」
「……。」
二人の間に一瞬の静寂が流れた。
しばらくして、シアナが慌てた表情でラシードの腕を掴んだ。
「ダメです、殿下!」
「……何が?」
「私には分かりません。でも、とにかく今、殿下の顔に人として絶対に浮かべてはいけない考えが表れているように見えました。」
どうしてそれを悟ったのか。
ラシードはキルアンを素直に送り出したことを後悔していた。
『何も知らずに探しに行って勝手に出しゃばったというのは嘘だが、シアナのために動いたことだし、大目に見てやるべきだ。それにしても、余計なことを考えた自分が嫌になる。』
やりたいようにやればいいさ。
ラシードの険しくなった視線を見たシアナが再びぎょっとした。
「ダメですってば、お願いです、止まってください!」
「……止まれば何かしてくれるのか?」
ラシードのつっけんどんな言葉に、シアナは息をのんだ。
『今この状況で私に何ができるというの?』
すぐにでも止めるために「殿下、どうぞお好きなように」と言いたかったが、ぐっとこらえた。
どうにかしても、その言葉だけは絶対に口にしてはいけない気がした。
だからシアナは少し考えた後、ためらいながらも足を一歩前に進めた。
そして腕を伸ばし、ラシードの頭の上に手を置いた。
「……!」
目を大きく見開くラシードを見て、シアナは言った。
「褒めて差し上げます。」
「……」
「これでは足りませんか?アリス公主様にもこんな風にされると、とても喜ばれると……」
「いい。」
「……」
「私も好きだ。だから私にも続けてくれ、褒めて。」
ラシードはそう言いながら軽く膝を曲げた。
その姿にシアナは思わず笑みを浮かべてしまった。
『大きな犬が私に撫でてもらおうと頭を差し出しているみたい。』
シアナはくすぐるようにラシードの頭を撫でた。
手のひらに触れる柔らかな銀色の髪が心地よかった。
風が吹いた。
さらり。
風の中に深いバラの香りが漂った。
ドキドキ。
その瞬間聞こえた心臓の音は、果たして誰のものだろうか。







