こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
今回は56話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
56話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- お忍びで
「殿下、本当にこんなことをしてもいいのでしょうか?」
ラシードは余裕のある表情で答えた。
「そうだ。何が問題だというんだ?」
そうだとも、そうでしょうとも。
あなたはこの世で恐れるものなど何もない皇太子なのだから!
(でも私はただの一介の侍女だ。このような形で突如として宮殿を飛び出すことなんて許されるはずがない!)
シアナは現在、ラシードとともに馬車に乗り宮殿の外へと向かっている最中だった。
侍女が夜に宮殿を出ることは禁じられていない。
しかし、それには複雑な手続きを経て正式な外出許可証を得なければならなかった。
(それに今は中級侍女になるための教育を受けている最中なのに。)
もし無断で外出したことが知られたら、中級侍女への昇格が取り消される可能性もある。
それでも、シアナはラシードとともに馬車に乗らざるを得なかった。
ラシードが望んだ対価がこれだから。
【僕とデートして。】
デートだなんて。
なんて恐ろしい言葉だろう。
この世で最も恐ろしい言葉を耳にしたかのように、無防備な印象を与えたシアナに向かい、ラシードは言葉を変えた。
【今日は宮殿を出る用事があるんだ。一緒に来てくれると嬉しいな。】
【・・・どうしてですか?】
眉をひそめながら尋ねるシアナに、ラシードは迷うことなく言った。
【一人で行くのが怖いんだ。】
(はあ・・・私も納得できない返事よね)
しかしシアナは「分かりました」と言い、黙って頷いた。
何にせよ、彼から助けを受けたのは事実なのだから。
代価を支払わなければならなかった。
こうして二人は馬車に乗って皇宮を出ることにな。
不安そうなシアナを見つめながら、ラシードは言った。
「心配しないで。今日の外出が問題になることなんて絶対にないから。」
そんなことは絶対に起こらないと自信たっぷりの声だ。
シアナはそんなラシードを見つめながら考える。
(そうか、陛下は少し向こう見ずではあるけど、間違った判断をする方ではないわね。)
若い侍女が皇宮を抜け出したことを隠すのは、彼にとっては息を吸うよりも容易いことだろう。
そう考えると、少し気が楽になつ。
シアナは「ふう」と息をつき、椅子に体を預けた。
しばらくして馬車が停まった場所は、なんと王都の外だった。
馬車の窓から見える街の光景に、シアナの目が丸くなった。
「いったい、なぜここに来たんですか?」
「今日、この街で花火大会があるそうだ。」
「・・・まさか、そのためだけにここまで来たんですか?」
信じられないという表情で見つめるシアナに、ラシードは笑みを浮かべる。
「俺は小さくて可愛いものも好きだし、きらきらして綺麗なものも好きだからな。」
「・・・そうなんですね。」
なんとも疑わしいが、そういうことにしておこう。
実際、彼の意図や答えはそれほど重要ではなかったのだ。
シアナは、朝購入した食料品の代金を支払うために同行していただけだから。
「お降りください。」
外から御者の声が聞こえてきた。
ラシードが先に馬車から降りようと体を起こしたところ、シアナがそれを引き止めた。
「ちょっと待ってください。まさか、その格好で行かれるつもりですか?」
「それがどうしたの?」
シアナは冷たい表情でラシードを見つめると、首に巻いていたスカーフをほどいた。
そして、ラシードの前に歩み寄り、スカーフで彼の顔をぐるぐると包んだ。
「・・・?」
一瞬で顔をスカーフに覆われたラシードは、「これは何だ?」というような目を大きく見開いた。
シアナがスカーフをもう一巻きして言った。
「殿下はあまりにも目立ちますから。」
銀色の髪と紫色の瞳を持つ美しい皇太子だ。
帝国に広く知れ渡る名前を持つ彼を、街中で気づかれることは多かった。
単純に人々が群がるのを心配しているわけではなかった。
シアナは眉をひそめ、真剣な表情で言った。
「こんなに人が多い場所で暗殺者に狙われたらどうするんですか。」
あり得る話だった。
ラシードは持つ権力と同じくらい敵も多い男だ。
さらに、現在皇帝の座に最も近い位置にいる皇太子。
(皇位を巡って争う他の皇族たちが何をしでかすか分からないじゃない。)
シアナは深呼吸して、視線を上げた。
彼女が巻いたスカーフのおかげで、目だけが見える状態で出てきたラシードが、じっと自分を見つめていた。
「・・・!」
その瞬間、シアナは自分がラシードと非常に近い関係にあることを自覚したのだった。
離れようとしたその瞬間、ラシードがスカーフの端を掴んでいたシアナの両手を取る。
そしてその目を優しく揺らして尋ねた。
「僕のことを心配してくれているの?」
「・・・!」
顔が真っ赤になって爆発しそうだった。
シアナは慌てて赤く染まった顔を下げ、ラシードが掴んでいる手を振り払って言った。
「私は皇宮の侍女です。皇太子殿下の安全を守るのは当然の務めです。」
真面目な表情で答えたつもりだったが、ラシードの顔に浮かんだ微笑みは消えなかった。
シアナは彼の微笑みから目をそらすように視線を逸らす。
街の光景は華やかだった。
曲がりくねった道。
その両脇に並ぶ木々と華やかに装飾された建物が目を引いた。
木々の間に吊るされた小さな灯りがきらきらと輝いていた。
その下にはさまざまな商品を売る店がずらりと並んでいる。
店で売られているものは実に多彩だった。
色鮮やかな花、輝く指輪、甘い香りの果物・・・。
そして、それらの商品と同じくらい多くの人々が目を輝かせながら通りを行き交っていた。
「わあ・・・。」
シアナは口をぽかんと開けた。
シアナはこれまでのほとんどの時間を宮殿で過ごしていた。
公女だった頃も、侍女になった後も。
宮殿の外に出て、このように活気あふれる街を歩くのは初めてのことだった。
「本当に人が多いですね。街もすごく綺麗だし、面白そうなものがたくさんありますね。」
顔にスカーフを巻いているラシードが微笑みながら、シアナをじっと見つめる。
「平民たちが楽しむ祭りなんて、ただの飾り物を並べるだけの王室の行事よりもよっぽど良いですね。」
シアナはふとラシードを見た。
スカーフの間から見えるラシードの目は、普段よりも輝いているように見えた。
まるで子供のように。
「・・・殿下もこんな場所に来られることがあるのですか?」
「幼い頃は宮殿でしか過ごさず、大きくなってからは戦場を駆け回っていただけだから。」
シアナはラシードが13歳の時から戦場に赴いていたという話を思い出す。
そして、長い戦争を終えて帝国に戻ったのは数ヶ月前のことだ。
(今まで殿下と私は、空と地ほども、いや、太陽と大地に刻まれた小さな傷跡ほども違う存在だと思っていたけれど・・・)
だが、共通点があった。
それは、どちらも王族に縛られ、自由に生きることができなかったという点だ。
それはシアナの心を妙にざわつかせる。
この奇妙な感情に目を細めるシアナに向かって、ラシードが言った。
「花火大会が始まるまで時間があるな。その間、何か食べようか?」
「殿下が代金をお支払いになるのですか?」
シアナの言葉にラシードは笑みを浮かべた。
「もちろんだよ。私が連れてきたんだからな。食べたいものはある?」
シアナは他人に負担をかけるような頼みごとはしない性格だ。
しかし、こうして相手が先に提案してくる場合、断ることも難しい。
そこで、シアナは商人の目のような鋭い視線で通りに並ぶ店を見渡した。
粉砂糖がたっぷりかかったドーナツ、色鮮やかな果物と肉を刺した串。
店の前には見ているだけでよだれが出そうな食べ物がずらりと並んでいた。
(アリス公女が見たら、とても喜んだだろう)
しかし、シアナはアリスではなかった。
普通の女性らしく甘いものが好きな方ではあるが・・・今日くらいは特別なものを食べたかった。
シアナは目を輝かせながら、あちらにある店を手で指さした。
「あれがいいです。」
「・・・。」
ラシードは目を大きく見開いた。
驚いたことに、シアナが指したのはビールを売る店だった。
「あれは果物と砂糖で作ったジュースじゃないよ。アルコールだ。」
まるで子供に説明するように言うラシードを見つめ、シアナはじっと目を凝らした。
「殿下、私は18歳です。それくらいは知っています。」
帝国でも、シアナの故郷でも、18歳は十分な成人だった。
ラシードももちろん知っている。
それでもシアナが酒を飲むなんて意外だった。
あんなに控えめな子が。
ラシードは複雑な表情で尋ねた。
「酒は好きなのか?」
実際、好きとも言い切れない。
シアナはちゃんとした酒を飲んだことがなかったからだ。
公女だった頃は酒が禁じられていた。
侍女になってからは酒を手に入れることができなかった。
だが、酒への憧れはある。
「侍女たちが話しているのを聞いたんです。忙しい一日を過ごした後に飲む一杯がどんなに素晴らしいものだとか。疲れたことが全部吹き飛ぶそうで。今日は私もビール一杯がどうしても飲みたいんです。」
シアナは少し期待を込めた表情で目を輝かせる。
ラシードはそんなシアナをじっと見つめていた。
「・・・」
ビールは平民たちが飲む酒だった。
それも、皇太子に酒を買ってほしいと頼む侍女が飲む酒だなんて。
やはり気が引けて、シアナは目を伏せた。
「・・・だめですか?」
光よりも早く返事が返ってきた。
「そんなわけないだろう。」
シアナが望むことであれば、ラシードは何でも許すつもりでいた。
それが何であろうと。