こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
今回は57話をまとめました。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
57話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 初めての
店には人が多かったが、特に気にする必要はなかった。
店の中に入ったラシードが店主に金貨一枚を差し出して言ったからだ。
「花火が一番よく見える場所に席を頼む。」
店主はすぐに状況を察した。
スカーフで顔を隠し、顔が見えないにも関わらず、この怪しげな男が今夜の客の中で最も裕福な人物であることを!
「承知しました。」
店主は即座に席を用意した。
2階のテラス席。
空が目の前に見える場所だ。
(ふむ。やはり権力は素晴らしい。)
シアナは心の中でそう呟きながら椅子に座る。
向かい側にはラシードが席についた。
間もなくビールが運ばれてきた。
「これは帝国で最も爽やかでコクのある味を誇るビールでございます!」
店主は得意げにビールをアピールしながら立ち去っていく。
ドキドキと胸が高鳴る。
シアナは少し緊張した面持ちで、自分の前に置かれたビールを見つめた。
その様子を見て、ラシードが尋ねる。
「本当に飲むつもり?」
「はい。飲まないなら、ここまで来る意味がありませんから。」
シアナは木製のグラスを手に取った。
中に入っているビールが揺れた。
「では、いただきます。」
シアナはラシードに礼儀正しく挨拶をしてから、ビールのグラスを持ち上げる。
ゴクリ。
シアナの喉を通ってビールの一口が流れ込んだ。
グラスを置いたシアナが、渋い表情で叫んだ。
「嘘つき! こんなのが美味しいなんてどうかしてる!」
生まれて初めてアルコールを飲んで、思わず苦い顔をするシアナの様子を見て、ラシードは笑い声を上げた。
やっぱり、君にはまだ早いな。——そんな表情だった。
「店長さん、ここにもう一杯。」
「はい。」
店長は弾んだ声で答えながら、ビールのグラスをシアナの前に運んできた。
シアナはにこにこと笑いながら、ビールを少しずつ口に運んだ。
その様子を見て、ラシードが言った。
「・・・よく飲むな。」
「そうですね。最初の一口は奇妙でしたが、こうして飲み続けると美味しいですね。」
シアナは不思議そうに言いながら、ビールをもう一口飲み干した。
ラシードが言った。
「美味しいものは、好きなだけ食べたり飲んだりするのが一番だ。でも、酔っ払う可能性もあるぞ。」
「ええ。まだ全然平気ですよ。」
シアナの顔は少し赤くなり、心臓が少しドキドキしていた。
コクン、と喉を鳴らしたが大丈夫だった。
全く問題なし。
シアナは自分だけ満足そうな顔でビールを少しずつ飲んだ。
「殿下はどうして飲まないんですか?」
ラシードは目を細めて笑った。
意外にもラシードはお酒を好むタイプではなかった。
「君が酔って倒れるようなら世話しないといけないからな。」
優しい言葉に、シアナは眉間にシワを寄せる。
ラシードの言葉には、からかいの意図もおどけた感じもなかった。
ただ純粋な配慮だった。
それがシアナにはどうにも奇妙だった。
シアナは真剣な表情で尋ねる。
「殿下、気になることがあります。」
「何?」
「どうしてこんなに私に優しくしてくださるんですか?」
意外な質問を聞いたラシードが目を大きく見開いた。
「前にも言ったと思うけど。君が可愛いからだ。」
「・・・!」
シアナの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
しかし、彼女は動じなかった。
「ただその理由だけで、一介の侍女に優しくしてくださるんですか?」
「ただその理由だけだなんて。可愛いというのは大きな価値がある。どんな敵意も、悪意も消え去って、ただ良くしてあげたいという気持ちだけが残るんだ。」
「・・・」
穏やかな笑顔を浮かべる彼を見て、シアナは気づいた。
この人は本気なのだ、と。
彼は私を飼っている動物と同じようなランクで見ている。
(あの瞳でブルブルブルブルと一生懸命動く、あの自惚れた奴らのことだわ)
少しわだかまりを感じたが、実際にはそれほど嫌ではなかった。
シアナは腕を伸ばしてラシードの両頬に手を置いた。
彼女は新鮮な光をたたえた瞳でラシードを見つめて言った。
「殿下、私は動物ではありませんよ?」
「・・・」
「どんな動物が殿下にこんなことをしますか?」
「・・・!」
ラシードの目がさらに大きく見開かれた。
シアナが両手に力を込めてラシードの頬をギュッとつかんだからだ。
ラシードは顔に肉が多い方ではなかったが、肌には弾力があった。
まるで柔らかい小麦粉の反応のように頬が膨らんだラシードを見つめ、シアナはクスクス笑う。
「まあ、殿下も可愛くなりましたね。」
「・・・」
「私とそっくりです。」
ラシードは気の抜けた顔でシアナをじっと見つめ、言った。
「酔っ払ったのか?」
もちろんシアナはその言葉を否定する。
「違いますよ。しっかりしてます。本当です。」
そう言いながらも、シアナはラシードの頬をつかんだ手を離さなかった。
彼の顔をじっくり見つめ、まるで納得がいかないように言った。
「これだけ頬が引き延ばされても、やっぱりイケメンですね。」
「・・・」
シアナは非常に平凡な人間だ。
美男美女を見れば無意識に目を奪われる、そんな普通の人間。
だからこそだろう。
これほどラシードを見るたびに、こんな不思議な感情が生まれるのは。
シアナはそれが気に入らなかった。
皇太子になる男が穏やかに笑いながらいる姿を見ていると、何とも言えない気持ちになった。
純粋な侍女をからかいながら言った。
「お仕返しです。」
「・・・!」
ラシードは以前とは比べものにならないほど大きく目を見開いた。
それはシアナの顔が彼の間近に迫ったためだった。
チュッ。
シアナの唇がラシードの驚いた唇に触れる。
「・・・」
ラシードはそのまま固まってしまった。
シアナはその様子を見て、くすくすと笑った。
「どうですか? 戸惑いますよね? どうしていいかわからないでしょう? 皇太子が私を見つめるたび、私はずっとそんな気分でした。だから、これは復讐なんです。」
その言葉と同時に、シアナの頭上でパン!と華やかな花火が炸裂した。