こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

68話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 犯人は誰?⑨
月明かりさえ届かない暗い夜、グレイス皇女は静かに厨房に忍び込んだ。
夕食をほとんど食べなかったせいで、お腹が空きすぎていたのだ。
「棚のスカーフに食べ物を詰めて、さっさと部屋に戻ろう。」
侍女たちが入ってくるはずのない夜更けの時間帯なら、心置きなく食べることができると思った。
しかし、天井にずらりと吊るされたソーセージを見た瞬間、周到だった計画はすべて吹き飛んだ。
グレイス皇女は夢中になった顔でソーセージに手を伸ばした。
唾を飲み込みながら。
長いソーセージを一本手に取って口の中に押し込み、さらにもう一本を喉に押し込んだ。
異常な行動だった。
侍女たちが見守る食事の時間では、何も食べられないのに、誰にも見られていない今、食欲を抑えられなかった。
とにかく、何かを食べなければならなかった。
その時だった。
「この盗み食いの泥棒め!」
しゃがれた声が響き渡り、巨大な影がグレイスを取り囲んだ。
「宮殿の食べ物をこそこそ盗み食いするなんてとんでもない!お腹が空いたなら、ちゃんと言いなさい!そしたら侍女たちや公主様もこれを理解してくださるでしょう……」
グレイスは驚きのあまり、ソーセージを持ったまま固まってしまった。
そして相手も同じように驚いていた。
「こ、こ、グレイス公主様ですか?!」
チュチュが驚愕の顔で叫んだ。
その瞬間、グレイス皇女は完全にパニック状態だった。
宮殿の食べ物を盗み食いし始めたのは最近のこと。
今までは誰にも気付かれなかった。
なのに、こんな風にばっちり見つかってしまうなんて。
とても耐え難いことだった。
『どうしよう。どうすればいいの……。』
グレイスは泣きたい気持ちになった。
しかし、泣いたところで問題が解決するわけではなかった。
どうにかして、目の前に立って目を丸くしているこの大きな侍女の口を塞がなければならなかった。
グレイス皇女は目に力を込めて言った。
「今日見たことを絶対に他の人に言ってはダメ。少しでも口を滑らせたら、後悔させてあげるわ。」
冷たい脅迫だった。
だが、手には油まみれのソーセージを持ち、口元には油が付いており、全く威厳が感じられない状況だった。
そんな中、絶望的な表情を浮かべながら体を回そうとしたその時だった。
「ちょっと、待ってください、公主様!」
グレイスは口をつぐんだ。
なんと、侍女の一人が皇女を呼び止めるではないか。
『こんな恥を見られたからって、私が笑われる?それとも好機とばかりに私の弱みを握ろうってつもり?もしそうなら、許さないから!』
片手にソーセージを持ったまま、グレイス皇女は騎士のように毅然と身を回した。
そんな彼女の手にチュチュが押し付けたのは、しっとりとしたパンだった。
「そのソーセージはそのまま食べるとしょっぱいですよ。パンに挟んで食べるともっと美味しいです!」
「……」
「酸っぱいものがお好きなら、マスタードをかけて召し上がるのもおすすめですよ。食事中に驚かせてしまいすみません。どうぞ美味しくお召し上がりください!」
深く一礼しているチュチュは、キッチンからさっさと去っていった。
取り残されたグレイスは信じられない表情で目をぱちくりさせた。
『何よ、これで終わり?』
食事をこっそり盗み食いしたと聞いたからには、鋭い視線で睨みつけられるか、嫌な笑みを浮かべながら「大丈夫よ」とでも言われると思っていた。
しかし、チュチュが見せた態度はどれにも当てはまらなかった。
チュチュはまるで何でもないかのように、グレイスを扱った。
その事実が信じられなかった。
「……」
グレイスはぼんやりと立っていたが、手を動かした。
しっとりとしたパンの間にソーセージを挟み、その上にマスタードソースをかけた。
そしてそれを大きな口で一口かじった。
口をもごもごと動かしたグレイスは、言葉を絞り出すように呟いた。
「美味しい。」
チュチュの言葉は本当だった。
パンにソーセージを挟んで食べる味は格別だった。
さっきまでグレイスを苛んでいた居心地の悪い感情が、一気に消え去るようだった。
その後、チュチュは約束を守った。
チュチュはその日見たことについて一切口外しなかった。
『自分が窃盗の濡れ衣を着せられる瞬間までは……』
グレイス皇女は複雑な目でチュチュを見つめた。
人々はグレイスを美しい容貌と勇気を兼ね備えた人物として語っていた。
優雅な品格を備えた理想的な公女だと考えられていた。
しかし、そうではなかった。
彼女には秘密があった。
実は、誰よりも食べることが好きだということ。
そして……。
「ごめんなさい、チュチュ。私はとても卑怯だった。」
チュチュの後ろに立っていたシアナは目を大きく見開いた。
一瞬、聞き間違えたかと思った。
今まで小鳥のようにか細かった皇女の声が、虎のように低く響き渡ったからだ。
『しかも皇女が、下級侍女に「ごめんなさい」だなんて。』
見たこともない光景だった。
チュチュも驚いた目でグレイス皇女を見つめた後、恥ずかしそうに微笑んだ。
「大丈夫ですよ、公女様。」
「そんな風に言われても、大丈夫って何が大丈夫なのよ!」
グレイス皇女は、涙が出そうな顔で唇を噛みしめた。
その時、シアナはチュチュがまるで馬鹿みたいにグレイス皇女を好きな理由を理解した。
『ただの品のある方でも、美しいお姫様だからでもなかったんだな。』
一見清楚に見えたグレイス皇女は、実に正直な人だった。
チュチュはそういう人たちが大好きだった。
・
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シアナとグレイス皇女は向かい合って座っていた。
チュチュはグレイス皇女のそばに立っていた。
二人にお茶を注ぐためだ。
『なんてことだ、私が公女様にお茶を注ぐなんて!』
お茶を注ぐのは普通、最も身分の低い侍女がする役目だった。
それは確かに光栄な出来事だ。
チュチュは、自分のような小さな侍女がこんなに名誉ある仕事を任されたことに大喜びしていた。
手が震えるほど緊張しながら、チュチュはお茶を注ぎ始めた。
そんなチュチュを見たグレイス皇女は微笑みながら言った。
「お茶を注ぐ姿が、まるで蜂蜜の一滴一滴が垂れるのを恐れる小さな熊みたいだね。」
「そ、そんな……申し訳ありません。緊張しすぎて……」
チュチュは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
だが、すぐに彼女の顔には笑顔が戻った。
それは、グレイス皇女が一口お茶を飲んでから口角を少し上げたからだ。
『甘い。』
実は、グレイス皇女はお茶を飲む時に蜂蜜やシロップを少量だけ加える習慣があった。
甘いものは心を穏やかにしてくれるが、それだけカロリーを気にして控えるようにしていたからだ。
『やっぱり蜂蜜を入れると美味しいな。』
ほっとした様子で、グレイス皇女は緩んだ表情でお茶をもう一口すすった。
しかし、その後すぐに顔を曇らせ、ティーカップをテーブルに置いた。
『これ以上飲んではいけない。』
もしこれ以上飲んだら、太るかもしれない。
いや、もう遅いのではないか?
『すでに二口も飲んでしまったじゃないか。』
その瞬間、甘いお茶を飲んだ幸福感が一気に恐怖に変わってしまった。
胃が急に不快感を覚え、吐き気が込み上げてきそうだった。
そんなグレイス皇女に向かってシアナが声をかけた。
「皇女様、大丈夫です。」
「……。」
「たった二口分のお茶です。それぐらいの量では、皇女様の体に何の影響もありませんよ。」
シアナの言葉には、人を優しく説得する力があった。
グレイス皇女はため息をつき、大きく息を吸い込んだ。
揺れ動いていた心が、少しずつ安定し始めるのを感じた。
グレイス皇女の顔に浮かんだ一瞬の安堵は、彼女の内心を物語っていた。
『良かった。』
侍女たちの前で、厄介な場面が展開する事態は回避されたのだ。
グレイス皇女は気づいていなかったが、彼女を見守るシアナの目には、どこか親しみと共感の色が宿っていた。
そして、それはチュチュの目にも。
シアナは慎重に尋ねた。
「皇女様、いつ頃からそのような状態になられたのか、お聞かせいただけますか?」
これは、食事を摂った後で吐き出してしまうことについての質問だった。
それは不意を突く質問だった。
普段であれば、グレイス皇女はそのような質問には決して応じなかっただろう。
それでも、グレイス皇女は口を開く決意をした。
それほど彼女は必死だった。
グレイス皇女は、自身の物語を語り始める。








