こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

93話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 謎の美女④
数時間前
皇帝の代わりに黄金の椅子に座るラシードは、目を伏せていた。
長い銀髪の隙間からわずかに見える紫色の瞳は、容易に近づけない荘厳な雰囲気を醸し出していた。
その姿を見た侍従たちは、顔を少し赤らめながらも緊張で固まっていた。
「皇太子殿下は一体何をお考えなのでしょうか。この時期にあのように厳しい表情をされているなんて。」
「その通りです。まもなく宮殿に到着されるお客様をどのようにお迎えするべきかをお考えになっているのでしょう。」
「楽しみです。」
しかし、それはラシードが求めていた答えではなかった。
ラシードが考えていたのは、「シアナが自分に渡そうとしているプレゼントは何だろう」ということだった。
「『私が好きそうなプレゼント』と言っていたな。」
それが唯一のヒントではあったが、ラシードにとっては大した助けにはならなかった。
滑稽にも、そのヒントから思い浮かぶ答えは「シアナ」という名前しかなかったからだ。
「でも、そんなことはあり得ないだろう。」
ラシードは意外(?)にも現実をしっかり把握していた。
では、どんなプレゼントがあり得るだろうか。
白いフェレットのようなリボンか、リスが好むおやつか、それとも小鳥用のおもちゃだろうか。
考え込んでいると、扉の外から侍従の声が聞こえてきた。
「殿下、ミスティック商団の代表が到着いたしました。」
考えを遮る声に、ラシードが微かに眉をひそめた。
ラシードの隣にいた護衛騎士ソルがその表情を機敏に察し、急いで言った。
「殿下、ミスティック商団は希少な魔力石を製作・販売する場所です。特別な物品を調達する商団として、皇帝陛下も特に大切にされている場所です。」
面倒なことには首を突っ込まないように、適切に対応するようにとの意味だった。
ラシードは小さくため息をついた。
面倒だが、今はラシードが皇帝の代理である以上、少なくとも帰還した皇帝が怒り出すような事態にはならないようにしなければならない。
しばらくして、執務室に二人の男性が入室した。
鮮やかなオレンジ色の髪を持つキャロラインとキーファンだった。
キャロラインは皇座に座るラシードを見上げ、目を輝かせた。
「噂には聞いていたけど、本当にすごくハンサムだね。」
隣にいたキートも目を輝かせた。
『なんであんなに妖艶な男性がいるんだろう?』
それぞれ異なる感想を抱いた男性たちはラシードの方へ歩み寄った。
キャロラインがまず両手でスカートの端を持ち上げて腰を下げた。
「高貴なる皇太子殿下、ミスティック商団主の娘、キャロラインと申します。ダガール薔薇の宴に出席するため帝国を訪れました。このように殿下から温かいお迎えをいただけること、大変光栄でございます。」
くだらない。
遠くからわざわざ足を運んだ割に、言葉ばかりの礼儀正しい挨拶を述べる彼女の態度に、ラシードは無表情なまま視線を逸らした。
キャロラインはラシードを見た10秒以内に、自分の思いを確信した。
『やっぱり、これほど見事に整った容姿を持つ人はそういないわね。』
しかし、キャロラインはその気持ちを顔に出さなかった。
彼女がここまで来たのは、男性の好意を得るためではなく、帝国皇室との関係を深めるため。
キャロラインは営業用の微笑みを浮かべながら、隣にいる弟の脇腹を軽くつついた。
『早く挨拶しなさいよ。何してるの?』
だが、姉の思いとは裏腹に、キーランは冷たい目つきでラシードをじっと見つめていた。
『あいつがシアナ公主の祖国であるアシルンド王国を滅ぼした男か。』
その事実自体に大きな感情はなかった。
ラシードでなくても、アシルンド王国はいつ崩壊してもおかしくないほどに荒れ果てていたからだ。
しかし……
『あいつが王国を滅茶苦茶にした挙げ句、公主が行方不明になったじゃないか。』
その点が腹立たしかった。
『理性的に皇太子を敬わないと』と自分に言い聞かせながらも、怒りを抑えるのに苦労していた。
何を考えているのか忘れるほどに。
「こいつ、正気か!」
目で皇太子を罵倒する弟を見て、キャロラインは驚愕した。
あれほど気をつけろと言ったのに、この馬鹿は自分の言葉をすっかり忘れてしまったようだ。
壇上にいる皇太子がキーランの背後に漂う視線について言及する前に、キャロラインが素早く言葉を発した。
「お許しくださいませ、殿下!」
「………」
「実は、弟が長い間、心に秘めていた想い人が行方不明になりまして。そのため、最近は正気ではないのです。」
だが、この適切な弁解にもかかわらず、ラシードはキーランが放つ視線についてまったく気にしていないようだった。
ラシードの頭の中には、シアナが準備したプレゼントが何なのかを考えることしかなかったからだ。
焦りを感じたソルがラシードに視線を向けた。
『いくら皇帝の代理でも、最低限の会話くらいはするべきでしょう!』
なんて面倒くさい。
ラシードはため息をつきながら、大勢に向けて一言だけ投げかけた。
「正気を失うほどの美人だったのか?」
キーランは反発するような目つきで答えた。
「ええ。その方は、穏やかで柔らかな顔立ちに、純粋な目の輝きを持っています。まるでミルクのように滑らかで、愛らしい方です。」
誰もが惹かれるようなキーランの言葉は、ラシードを反応させるきっかけとなった。
ラシードは口角を上げて微笑むと、少しからかうように言った。
「趣味が随分と高尚なんだな。」
「……?!」
弟の正気を失ったような発言に顔色を失っていたキャロラインは、さらに際どい発言をするラシードを冷ややかな表情で見つめた。
そんなキャロラインを挟んで、キーランが毅然とした表情でこう言った。
「血に飢えたどこぞの悪党のせいで失ってしまったんですよ。捨てるとしても、必ず探し出してみせます。二度とその手を離しませんから。」
ラシードは目を伏せながら言った。
「その人の願いが叶うよう祈るとしよう。」
まぁ、どうでもいい。
キーランが不愉快そうな顔で眉をひそめた。
二人の間にいたキャロラインは、ため息をつきながらうんざりした表情を浮かべた。
『何なの、この変な人たちは。』
広間を出た途端、キャロラインはキーランの背中を勢いよく叩いた。
「ちょっと、本気で死にたいの?皇太子殿下の前で正気を失ったような発言はやめなさいって言ったでしょ!」
キーランは姉の鋭い手の動きを避けながら、眉をひそめた。
「ええ、分かってますよ。」
キーランは皇太子に悪口を言うことも、無礼な態度を取ることもなかった。
「私は皇太子に無礼を働くのも、(必要最低限の)礼儀を守るのも嫌よ。」
キャロラインは疲れたように息をつきながらそう呟いた。
その声と冷淡な態度は礼儀を欠いているとしか言えなかった。
『あの皇太子も彼と同じでどうしようもない変人だわ。』
そうでなければ、彼があのミスティック商団主の息子だということ自体が嘘だと思いたいほどだった。
キャロラインは深い溜息をつき、キーランをじっと見つめた。
「バラの宴が終わったら、即座に私の目の前から消えてちょうだい。シアナでもシアノリでも、誰のところでもいいから行って、私を煩わせないで。」
姉の冷たい威圧感に、キーランは鼻で笑いながら肩をすくめた。
「心配しないで。元々そのつもりだから。」
「バラの宴に参加したら、商団主の母親が抱えている問題も片付くはずだ。」
その後、キーランは商団に戻ることなく、本格的にシアナを探すつもりだった。
彼は首にかけた懐中時計を開き、シアナの肖像画を見つめた。
「シアナ公主様、公主様がどこにいようと必ずお探しします。だから、もう少しだけお待ちください。」
切なそうな顔でシアナを想うキーランは、夢にも知るよしがなかった。
一歩離れた場所で、シアナが穏やかな面持ちで自分のそばを通り過ぎていたことを。








