こんにちは、ピッコです。
「シンデレラを大切に育てました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
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175話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ケイシー侯爵家③
ケイシーは、バンス家との間には特に親しい関係はなかった。
もしあったとしても、それはダグラスがリリーに求婚したという噂話程度のことだろう。
だが、現時点で侯爵夫人がバンス家の人々を招待した理由が自分にあるかどうかはリリーにはわからなかった。
「まあ、そうね」
「社交界の会話だったのですか?」
リリーの問いに、ミルドレッドはくすっと笑いながら紅茶をすすった。
社交界の会話だ。
リリーは肩をすくめ、顔をしかめた。
それは彼女が最も嫌うことだ。
本音を隠しながら、にこにこ笑って言葉を交わす社交の場。
しかし、彼女もそれが必要だということを少しは理解していた。
「お母さん」
ノートを指先でいじりながら、リリーはミルドレッドに呼びかけた。
ミルドレッドは自分を見つめるリリーをじっと見返した。
リリーの顔を見て、今年の初めに比べてずいぶん変わったことに気が付いた。
確かに今年の初めまでリリーの顔は瞳の色を除けばアイリスとそっくりだった。
しかし今、二人は少し違う方向に変化していた。
どちらも相変わらず頑固そうな表情をしていたが、その頑固さがアイリスは責任感と義務感から来ているのに対し、リリーは情熱と自由を求めるもの。
同じ家から育ったのに、どうしてこんなにも違うのだろうか。
ミルドレッドはぼんやりとリリーの顔を見つめて感心した。
その間にリリーがもじもじしながら尋ねた。
「侯爵夫人は私がケイシー卿のプロポーズを受け入れることを望んでいるんでしょう?」
「大きく見ればそうでしょうね。」
ミルドレッドは肩をすくめながらそう答えた。
侯爵夫人は、リリーが自分との結婚を受け入れてくれさえすれば文句のないダグラスと結婚することを望んでいるのだ。
彼女が素晴らしい後爵夫人になる可能性は高い。
ジェネーヴが利己的で権威主義的な人物だからというわけではない。
それは全ての人に共通することである。
誰もが、自分の息子と結婚する女性が家族の名誉にふさわしい行動をすることを期待するものだ。
ミルドレッドはジェネーヴを悪い人だと思わなかった。
そのような期待に応えることが得意で、それを喜ぶ人もいる。
アイリスのように。
リリーがケイシー後爵夫人の地位を望むのなら、ミルドレッドはどれほどでも彼女を応援し、ジェネーヴと親しくすることができるだろう。
しかし、リリーはケイシー侯爵夫人ではなく、リリー自身として生きたいと考えており、画家になりたいと思っている。
「私がただケイシー卿のプロポーズを受け入れるべきだと思いますか?」
何の前置きもないリリーの質問に、ミルドレッドの目が大きく見開かれた。
彼女はリリーの向かい側に椅子を引き寄せて座り、尋ねた。
「ケイシー卿と結婚したくなったの?」
「それは違うんです……」
違う?
ミルドレッドは戸惑った表情を浮かべた。
彼女の前で悩みに満ちた顔をしたリリーが、独り言のように話し出した。
「正直に言うと、ケイシー侯爵なら何も不足するものはないと思います。こんなに裕福で、ケイシー卿も私を気に入ってくれているって言うし。」
間違った言葉ではない。
ミルドレッドは何も言わず、何の表情も見せなかった。
ただひたすら偏見なくリリーの話に耳を傾けていた。
「でも、私は画家になりたいんです。それが理由で、裕福で気品ある家に住む男性を断るなんて、自分でもおかしいと思います。」
徐々にリリーの顔が曇り始めた。
実際、裕福で気品ある家の背後には「ハンサム」というレッテルもついているけれど、彼女は母親の前でそのことを口にすることはできなかった。
ひょっとすると、母親がダグラスの顔立ちが良すぎて、彼女がそのことで迷っていると思うかもしれないから。
「それもちょっとはあるわ。私は外見の基準が高いから。」
リリーはそう心の中で弁解しながらも、微笑みを浮かべた。
もしミルドレッドがその考えを知ったら、彼女は「すべての女性はハンサムな男性が好きなのよ」と笑ったに違いない。
「私って、欲張りすぎですかね?」
結局、リリーの口から彼女の迷いが溢れ出ると、ミルドレッドは安堵の息をついた。
リリーはそんなことを考えないだろうと思っていたのに。
けれど、リリーにも目も耳もある。
そう考えることも当然だ。
もちろん、ダグラスが自分と比べてかなりの上位ランクだということはわかっている。
そんな男性が自分を好いているのだ。
画家になりたいという理由で申し出を断っていることを世間の人々が知ったら、彼女が少し高望みしているとか、贅沢だとか言われるだろうということも、彼女は分かっていた。
もしかしたら、両方の側面があるのかもしれない。
・
・
・
「リリー、お母さんの話を聞いて。」
ミルドレッドの言葉にリリーが顔を上げた。
ミルドレッドは窓辺に肘をついて問いかけた。
「今、城からあなたに王妃候補になるチャンスが与えられると言われたらどうする?」
「私ですか? リアンとですか? 嫌です!」
「どうして? リアンは王子で、裕福で高貴な家柄なのよ。断るのはあまりにも贅沢な行動じゃない?」
どういうことか分からなかった。
リリーはミルドレッドの顔を見つめて、少し間を置いて言った。
「でも、リアンが私を好きだってわけじゃないじゃないですか。」
ダグラスは彼女のことが好きだ。
しかし、リアンを断ることとダグラスを断ることは状況が異なる。
ミルドレッドは、そんなリリーの言葉に耳を傾けた。
そして、静かに問いかけた。
「あなたが好きな男性がいるとして、その男性があなたを断ったら、それは贅沢だと言えるの?」
「それは……。」
違うかもしれない、たぶん。
再びリリーの表情が曇ると、ミルドレッドはため息をついた。
リリーがケイシー侯爵家を大事に思っていることは理解できた。
それは当然だ。
しかし、大事に思うからといってダグラスと結婚するのは反対だ。
結婚は大事に思うからするものではない。
自分が財産よりも劣っているからといって、それで利益を得ようとするものでもないのだから。
「リリー、もしあなたがケイシー卿のことを好きで結婚したいと思うなら、それは良いことよ。ケイシー侯爵夫人という立場を欲して結婚するのだとしても、それもまた良いことだわ。」
「本当に?」
ミルドレッドの言葉に、リリーは驚いた表情を浮かべた。
ダグラスを愛しているのではなく、ケイシー侯爵夫人という地位が欲しいだけで結婚してもいいのかと?
リリーの反応にミルドレッドは穏やかに笑った。
その反応はアイリスと全く同じだった。
彼女は髪をかき上げながら言った。
「ケイシー侯爵夫人ってすごい地位よね。このような裕福な家系を管理するというのは、権利であると同時に多くの義務を伴うわ。場合によっては、有名な画家になることよりも優れた侯爵夫人になる方が難しいかもしれない。画家はただ絵を描けばいい。でも侯爵夫人というのはそれ以上に大変な役割なのよ。」
だからといって楽だというわけではない。
ミルドレッドは、絵を描くことが何を意味するのか正確には分からないが、絵が思うように描けない時もあるだろうし、思い通りに手が動かない時もあるかもしれないと考えた。
努力を重ねて描いた絵が売れないこともあるだろう。
そのため生活が苦しくなることもあり得る。
一方で、貴族の家庭の夫人という立場は、多くの雑務をこなす必要がある。
家名を継ぐために夫の子を産み、家に付随する領地からの税収を家庭経済に役立てることが求められる。
社交の季節には首都に赴き、パーティーや音楽会を開いて周囲の貴族夫人たちとの関係を築き維持しなければならない。
そして家で働く使用人たちに余計な心配を抱かせないよう、毅然とした態度で接する必要がある。
また、夫の兄弟や自分の兄弟との間で財政的な問題が発生した際には、それをうまく収めることも含まれる。
困っている人がいれば適切に助け、社交界で噂にならないように奉仕活動も行わなければならない。
それだけではない。
家門が所有する邸宅をきちんと管理し、冬に来客が訪れる可能性があれば、食料を備蓄しておく必要がある。
また、家門の品格にふさわしく、定期的に邸宅を修繕したり家具を交換したりすることにも注意を払わなければならない。
子どもたちの教育レベルがどの程度進んでいるかを確認し、子どもたちを指導する教師や使用人たちの間で起きる争いを適切に解決することも求められる。
これだけでも無数にある。
ある貴族の夫人が著した「素晴らしい貴族夫人の務め」という本は、むしろ600ページにも及ぶほどだ。
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