夫を味方にする方法【１６７話】ネタバレ

「なんでみんな早く来ないの！」

一人でしゃがみ込んで夢中になって花冠を作るのかと思ったら、やはりうまくいかなかったせいか、それとも嫌気がさしたせいか、わっと駄々をこねるレアだった。

「公子妃があなたの習慣を台無しにしたに違いない。礼儀をわきまえろ！」

「大丈夫です、卿。それより少し遅れているようですね」

上品に飾られたティーテーブルの方を眺めるエレニアは、純粋に周辺の風景との対比のせいか、それともアイバンの目に豆のさやがさしたせいか、今日に限って妙に可愛らしい。

したがって、アイバンは同僚のやつらが死ぬ間、こっそり妹の言い訳でサボりに出てきて良かったと思った。

妹という族もたまには役に立つものだ。

「皇后と話が長くなるようですね。ですが、公女」

「え？」

「あの人、普段ここによく出入りしますか？」

「ゴンパロニエレのことですか？いいえ、あの時の宴会以来初めてのご訪問です」

「そうなのですか？」

それはちょっと意外だったが、アイバンは依然として適当な目つきだった。

ルードベキアもよさそうだし、みんな意外と気さくで愉快だ批評するので特に嫌う理由はなかったが、あいつが公女の周辺でうろうろするのは、酷く不安なためだ。

噂があまりにも乱雑なので、それも当然のことだろう。

アイバンの表情をちらっと見たエレニアが彼の視線に沿って、華やかな温室庭園の向こう側を眺める。

ぎこちなく登場し、今までぐずぐずしていたが、徐々に緊張をほぐしていくような昔の幼なじみと、彼女と並んで立って噴水台を見物しながら仲良くいろいろな会話を交わす南部の騎士を。

「あの二人がいつあんなに親しくなったかは分かりませんね。親和力つは生まれつきのようです、ゴンパロニエとしては」

アイバンは、エンツォとフレイヤがいつの間にか気兼ねなく話す仲になったのか、関心がない。

邪魔したい気持ちもなかった。

あえてエレニアに不遜な醜悪を投げなければ、誰に会って何をしても構わない。

「そうみたいですね。あ、さっき私に何か話し合うことがあるとおっしゃいませんでしたか？」

「ああ、ええ・・・その話なんですが、実はルビと関係があるんです」

「なんてこった、また何が起こったんですか？まさかあのゴンパロニエが・・・」

「いいえ、違います。落ち着いてください。あの方は関係ありません。それにもうずいぶん前のことです」

「申し訳ありません。ですが、ずいぶん前のことですって？」

「皆さんご存じの騒ぎです。ただ、フリが私に明らかにしたことがあるので、その部分について兄さんや他の誰かに明らかにする前に、まずアイバン卿と相談したくて・・・」

「表情を見ると、あいつがまた狂いそうなことが明らかですね。一体どうしたんですか？」

人間性の悪い友逹のおかげで、一日でも頭が痛くない日がないという事実よりは、愛するレディーから選ばれたという喜びが先立ったアイバンが素早く尋ねた。

まさにその時だった。

「アーリエンお姫様！」

口を尖らせながら、花冠なのか花をまとった塊なのか分からない作品をいじっていたレアが、にっこり笑って叫んだ。

そのため、温室の庭園に集まっていた皆が、王女のいる入口の方を振り返ることになる。

「・・・殿下？」

ひょろひょろ近づいてきて、その場に立ち止まってじっとしているアーリエンは、一目で見てもどこか尋常ではなかった。

来る途中、何か恐ろしいことでもされたように真っ白な顔に、サシの木のようにぶるぶる震えている。

涙がにじんだ大きな青緑色の瞳に計り知れない恐怖の光がちらついた。

皆一瞬凍りついた中で一番先に動いたのはアイバンだった。

アイバンはすぐに近づき、王女の前に片方の膝を当てて座った後、真剣な表情で向かい合う。

「殿下、大丈夫ですか？」

「・・・」

「公子妃はどこにいますか？」

「・・・」

エレニアはアーリエンを庭まで連れてきた．護衛の方を振り返る。

護衛騎士が困惑した表情で首を横に振った。

つまり、到着した時からこの状態だったという意味だ。

突然のひやりとした不安感に彼女は慌ててアイバンのそばに近づく。

「殿下、一体何があったのですか？」

「・・・」

アーリエンはまだ返事をしていなかった。

思いがけない妨害に、ただぼんやりと彼らを交互に見ていたエンツォとフレイヤも、そろそろ緊張した顔になって近づいてきた。

「何が起こったのですか？」

「大丈夫ですから、どうぞお話しください。ルビはどこにいますか？」

「お姫様、どうしたんですか？なんで泣いてるんですか？」

殺到する質問にただ涙ぐんでいたアーリエンが久しぶりに唇を震わせる。

たどたどしく震える細い声が流れ出た。

「お、お母様が・・・」

「妃殿下が？」

「お、お母様が、こ、公子妃を・・・う、うあああん！」

これは一体何を言っているんだ？

エレニアとアイバンの覗線がぼんやりと絡み合う瞬間、まさにその瞬間に事が起こった。

「卿？卿、急にどうしたんですか？」

アイバンは卿という音に反射的にフレイヤの方を振り返つ。

そうするうちにフレイヤが丸くなった目で呼んでいる人がゴンパロニエレだという事実に気づくことになった。

そしてゴンパロニエレは・・・。

急にどうしてあんな風に見えるんだろう？

あっという間にアーリエンよりも青ざめたようだ。

それに目は急にどうしてあんなに変に開く？

赤く充血することができず、まるで血の涙でも溜まるような・・・。

「エンツォ卿・・・キャアアアアア！」

フレイヤの裂けるような悲鳴が響くと同時にアイバンが飛びかかる。

彼が激しくよろめくエンツォの肩をつかんで反らした時、フレイヤのドレスの前の部分はすでに真っ赤に染まっていた。

そして、それは彼女の血ではなかった。

悲嗚がまた嗚った。

今度はアイバンを除いた庭の皆が発する悲嗚だ。

アイバンも悲鳴を上げなかっただけで、驚きは同じ。

それほど恐ろしい場面だったためだ。

急いで駆けつけた護衛騎士がレアとアーリエンを抱きしめながら隠した時は、すでに手遅れだった。

その惨愴たる光景を二人の幼い少女たちまではっきりと目で見てしまった。

「キャアアアアアッ！」

「ゴンパロニエレ！」

血が四方に飛び散る。

ロマーニャの若い総司令官が流す血だった。

彼の目から、鼻から、口から、耳から・・・。

人に存在する全穴から血が噴水のようにどくどく流れ出ていた。

到底両目を信じられない身の毛がよだつような姿だ。

まるで呪いでも受けたような残酷で恐ろしい形。

それと同時に身震いするほと可哀想だった。

「卿、エンツォ卿！しっかりしてください！エンツォ卿！」

エンツォの血に濡れたまま無駄な叫びを繰り返すフレヤの姿は、惨愴たる状況で言葉では言い表せない悲劇的な雰囲気を醸し出していた。

そのまま床にもろく崩れ落ちたエンツォが彼女の胸の中に倒れる。

クリーム色のドレスの裾が真っ赤に染まっていく。

裂けるような泣き声が響き渡った。

アーリエンの泣き声だった。