こんにちは、ピッコです。
「邪魔者に転生してしまいました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

40話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 曖昧な駆け引き②
『……セジャ―ル・エスタロドだったんだな。』
皇太子の宮から出てようやく、私は彼の名前を思い出した。
前世では正直、興味がなかったから、皇太子の名前なんて記憶にもなかった。
「まだ目が痛む?」
そのときだった。
前方から聞こえてきた声に思わず足が止まった。
数歩先で立ち止まっているエドウィンの姿が見えた。
ただ考えているだけかと思ったら、歩みすら止まっていたようだ。
『この人の赤ちゃんみたいな体、声変わりもまだなのに!』
「ダメっ!」
そう叫んで、私はあわてて彼のもとへ駆け寄った。
するとエドウィンはまた歩き出した。
私は無言の彼の気配を見守っていた。
なぜか、イスマイルと別れた後に歩いた神殿の道を思い出した。
『あの時も、“お兄ちゃん”って呼んで怒ってたな……』
呆れたように、皇太子も全く空気を読まずにその言葉を口にしていたのだ。
ぼんやりしていた私は、隣を歩くエドウィンを見上げて尋ねた。
「……怒ってるの?」
「いや。」
「ちぇっ。いつも怒ってないって言うんだから。」
私のぶつぶつに、エドウィンが足を止めてこちらを振り返った。
「怒ってるんじゃなくて、嫉妬だって言っただろ。」
「嫉妬?」
今回は本当に予想外の言葉だった。
前回は受賞の感想のせいだったけど、今回はいったい何に嫉妬してるっていうの?
『また“お兄ちゃん”って呼んだせい?このお兄ちゃん、面倒くさすぎ!』
私は深くため息をつきながら、彼が私に「するな」と言った注意事項を並べてみせた。
「嫉妬することないじゃん?今日は“高貴なお方”として会っただけだし、“お兄ちゃん”って呼んでもないし、笑いかけたりもしてないよ!だ、だから……」
「わかったから、こっちおいで。」
私の言葉をさえぎったエドウィンが、腰のポーチから何かを取り出した。
空色のハンカチだった。
パッと!ハンカチを広げたエドウィンは、何の前触れもなく私の両まぶたをわしっと押さえつけ、そのままゴシゴシと拭き始めた。
「うぅ……痛い!」
「少し我慢して。」
幸い片方だけを拭き終えると、彼はもう一方のまぶたには手をつけずに言った。
「目、大きく開けて。」
「ふっ!」
私はその言葉に反射的に目を大きく開いた。
「目にゴミが入った」っていう言い訳が効いたのだろうか。
しばらく私の目をのぞきこんでいたエドウィンは、やがて押さえていたまぶたを手放した。
「なんだ、大したことないな。」
「ひぃん。」
ほんのり熱を感じる柔らかなまぶたをそっと触れていた私は、その場所が皇太子に触れられていたことを、ようやく思い出した。
自分の手が拭かれたのが唇だと気づいた。
「なんで拭くの?!」
いら立ち気味の私の問いに、エドウィンは平然と答えた。
「他人が触れたところだから。汚いだろ。」
「汚い……?ああ、殿下なのに汚いって……」
私は誰かに聞かれていないかと辺りを気にした。
でもエドウィンは少しも気にする様子もなく、堂々と言い放った。
「知らないやつに触らせるな。」
「なにそれ……いつも何でも禁止ばっかりじゃん。」
「じゃあ、触られたいってのか?じゃあ、もしその野郎が突然豹変して悪いことしようとしたらどうする?」
エドウィンは真剣な顔つきで私をじっと見つめた。
まただ。またあの怒りっぽい目だ。
まるで厳しすぎるお父さんみたいな目つき。
私は思わず叫んだ。
「誰が私のほっぺを触るってのよ……あなたが一番触ってるくせに!」
感情的になって、思わず反論しそうになった私だったが、なぜかエドウィンの表情がふっと優しくほどけた。
「僕は大丈夫だよ。」
「どうして?」
「だって、僕たちは他人じゃないから。」
「……!」
返ってきたその言葉に、私は思わず言葉を失った。
特別な言葉じゃないのに、なぜか胸がドキンと鳴った。
『……そうだね。私たちは他人じゃなくて、家族だった。』
今はまだ公爵家の支援を受けている孤児にすぎないけれど、前世のエドウィンはこう言っていた。
公爵が正式に私を養女として迎えようとしていたと。
『じゃあ……エドウィンと私は兄妹になるってこと?』
だけど、なぜだろう。
そうなるのが当然のように思い直した途端、さっきまで感じていた胸の高鳴りがうそのように静まってしまった。
そして代わりに、チクリと鈍い痛みと不快感が押し寄せてきた。
『義妹って嫌だ。』
いや、嫌いを通り越して、ゾッとするほどだった。
エドウィンの義妹だなんて!
『やめて……』
今回の人生では、彼のために静かにヒロインに譲ろうと決心していた。
その決意が湧き上がると、”家族”という言葉の響きに胸が締めつけられ、心が揺らいだ。
私は、まるで小説の中のヒーローのように整ったエドウィンの顔を見上げながら考えた。
『今回の人生では、ディアナと優しい日々を……何事もなく見守ることができるかな?』
前の人生ではそれができなかった。
だから彼らが一緒にいる場面を見ると、場所などおかまいなしに割り込んで妨害した。
ディアナにはエドウィンと二人きりにならないようにと、脅すようにため息まじりに釘を刺し、嫌がらせもした。
あげくの果てには嫉妬で目がくらみ、彼女を殺そうとしたことすらあったのではなかったか。
「これをどうにかしてバレルロッテ侯爵の家に置いてきなさい。そうすれば、すべてが君の望みどおりに進むだろう。」
「……!」
その瞬間、アドルフ・ガラゴスに毒を盛られたときの記憶がよみがえった。
その後、どうすることもできなかった公爵家、王宮の監獄に閉じ込められた私を救うために死んだエドウィン……。
そこまで一気に思い出したとき、氷水をかぶったかのように正気が戻ってきた。
『あんな結末を経ても、また欲望にとらわれてしまうなんて……。』
私は爪が食い込むほど強く拳を握りしめ、エドウィンを見つめていた視線を素早く逸らした。
「どうしたの、顔が……?」
いつもは返事をする私が急に黙り込んだのが不思議だったのか、エドウィンが口を開いた。
「他人じゃないって言うの、嫌だった?」
「…あ、違う!」
慌てて取り繕った私は、ぎこちなく笑って叫んだ。
「……すごく好きだよ、エドウィン!」
君が黙っていてくれるのなら。
私の気持ちなんて、少しも重要じゃなかった。
重要なのは、原作どおりにエドウィンと公爵家が無事であること、それだけ。
私の無理な笑顔のせいなのか、エドウィンがやっといつものような落ち着いた表情で私を見つめてきた。
「じゃあ、これから誰かが君の体に触れようとしたら、どうすればいい?」
「うう……触れさせないようにする。」
「よくできました。」
「じゃあ、それで“ターラ”は?」
「女の子は許してあげる。」
「それはどういう理屈よ……」
私の不満げな言葉に、彼はふっと笑みを浮かべた。
私にとって、それはとても愛おしくて大切な笑顔だった。
二度と失いたくなかった、絶対に。
私はハンカチをもう一度つかんでポケットに押し込み、手を伸ばしてエドウィンに差し出した。
「ちょうだい!私が洗って返すから!」
「いいよ。君が鼻をかんだやつなんて返されても困るし。」
「うっ……」
私はムッとした表情で口をつぐんだ。
別に返さないつもりだったわけじゃない。
ターラがこまめに洗ってくれたりもしてたのに!
『お礼の品も一緒に返そうと思ってたのに……』
内心では返すつもりでいたけど、まだプレゼントを買えていなかった。
『でも皇太子から建物をもらったら、金銭的に余裕ができるはず!』
さっそくメインストリートに走っていって、いちばん高価なものを買ってあげよう。
公爵様、覚悟して、支出ですよ!
セジャールの協力者になる方向で気持ちが傾いていたことに気づかないまま、私は止まっていた足を再び動かした。
用事を終えたエドウィンも無言でついてきた。
だから私は、彼の頑なな気持ちももう解けたのだと思っていた。
「ところで、公爵様は?」
そういえば、もう1時間も経つのに公爵が現れなかった。
私は辺りを見回してからエドウィンに聞いた。
「エドウィンはどうしてここに来たの?」
「父上に急用ができて、お前を迎えに行けとロゴンを通じて連絡があったんだ。」
「なるほど!」
忙しい中でも私のことを忘れず、気遣ってくれた公爵様の優しさに、ほんのりと胸の奥が温かくなった。
『しかもあの妙な保護者の任命状まで新しく送ってくれるなんて……』
気恥ずかしく、照れくさい気持ちでどうしていいかわからずにいたそのとき――
「……でも、皇太子と友達になるって言ったの?」
すれ違いざまにエドウィンがぽつりと尋ねた。
私は肩をすくめながら彼を振り返った。
幸いエドウィンの表情は穏やかで、本当にただ気になって聞いただけのようだった。
「うーん、まあ……ただの言葉のあやだよ。」
「言葉のあや?」
「うん!私がどうして皇太子様と友達になれるのよ。」
事実だった。
「友達」というのは皇太子が私との取引を包むように言った言葉にすぎなかった。
そしてその言葉に私の気持ちも少し揺れたのだ。
『男主人公と友達だなんて。』
あとでディアナを支持して私を攻撃してくるかもしれない人とどうやって友達でいられるというのか。
「まあ、そうだね。」
私の返答に、エドウィンはまるで満足そうにふっと笑みを浮かべながら、襟を整えた。
私は少しだけ寂しくなった。
『なんだよ。私は平民の小娘だから、セジャールと友達になることすら許されないってこと?』
だがその直後、エドウィンの言葉に私は大きな勘違いをしていたことに気づいた。
「ベルジェ、君は知らないかもしれないけど、セジャールはちょっと生まれつき執着が激しい性格なんだ。」
「……え?」
「悪ふざけに見えるけど、本気なんだ。宮廷の小間使いの子が数年前の出来事でもいまだにビクビクしてるくらいだから……」
「……」
「とにかく親しくなったら面倒だから、知っておいたほうがいいってこと……」
「ちょ、ちょっと!口!口を閉じろ!」
あっけに取られていた私にエドウィンが矢継ぎ早にまくし立てていたその時、私は思わず飛び上がるほど驚いて、彼の言葉を遮った。
『せめて背が高ければ、あの口をふさげたのに!』
あっけにとられたことに、エドウィンは私より少し遅れて反応した。
彼の口を手でふさごうと何度かバタバタした私は、思わず息を切らしながら焦って叫んだ。
「ちょ、ここ皇宮だよ!誰かに聞かれたらどうするの!」
「だから、僕にヤキモチ妬かせないでよ。」
エドウィンは、特に取り繕うこともなく肩をすくめて言った。
そしてさっき皇太子が私の頬に触れたのを見ていた時のように目を大きく見開いて言った。
「僕も自分が何をしでかすかわからないから。」
「な、何を……」
「ん?副公爵様?」
その時だった。
まるでタイミングを見計らったように、誰かがエドウィンに声をかけてきた。
私は驚いて素早く首を回してみた。
すると——
「久しぶりだな!でも隣にいるのは……」
こっちに近づいてくる第二皇子とディアナが目に入った。
「こいつが?カリオスから新しく支援を受けたっていう、あの……」
「……」
「偽の聖女候補。」
驚くようなことではなかった。
前世で何度も聞いた言葉なので、傷つくどころか、もう慣れていた。
しかし――
鮮やかで明るい赤髪だったセジャールとは異なり、灰色に近い髪色。
鈍くて暗い緑色の瞳がぶつかった瞬間、根深い嫌悪感と恐怖が一気に足元からこみ上げ、全身を支配した。
「こんにちは。」
近づいてきた第二皇子の冷たい顔に、私は息を飲み、指先が震え始めた。
キリアン・エスタロド。
陰湿な策略でセジャールを追い落とし、ついには権力を握り、自ら命を絶った男。
気が狂うほど気になっていたが、前世ではとうとう聞けなかった――
なぜあんなにも執拗に私を苦しめたのか。
君が愛していたディアナは、結局何事もなく無事に聖女となったのに、なぜ私をそこまで執拗に苦しめたのか。
公爵家はなぜ口をつぐんでいたのか。
なぜギオルコはエドウィンを殺したのか。
なぜ。
一体なぜ……。
「偽の聖女候補って言われて怒ったの?おお、目つきが尋常じゃないね。」
私たちの前に立ち止まった第二皇子が、私を見てにやりと笑った。
まるで悪魔のようだった前世とは違い、やや可愛げのある幼い姿だった。
皇太子より3歳年下で、今はたぶん8歳くらい。
だが、幼い年齢にも関わらず、その瞳には邪悪さと興味深さが入り混じった光がはっきりと浮かんでいた。
体が震えたが、彼に弱みを見せたくなかった。
私は無理に顎を上げて、前世でこの子と対峙した時のように気を張って立ち向かおうとした。
「お気をつけください。」
誰かの背中が視界を遮った。
当然のようにエドウィンだった。
私の前に立って第二皇子の視線を遮った彼が、苛立たしげに応じた。
「偽の聖女候補だと?じゃあカリオスが偽物を後援してるってことになりますね?」
「俺が言ったわけじゃない。どこかで聞いただけだ。」
第二皇子は少し口をとがらせた。
エドウィンに隠れて彼の姿はよく見えなかったが、楽しげに口元が歪んだ表情ははっきりと想像できた。
「でも、挨拶はしないのか?」
「……」
「ここで挨拶したのは俺だけか?俺が一番身分が低いってこと?」
続けざまに彼は堂々と不快さを隠さずに挨拶を強要した。
無視して通り過ぎたかったが、相手は皇族だった。
身をかばっていたエドウィンが小さくため息をついて、私を軽く押し出した。
「第二皇子にご挨拶いたします。それでは、私たちは急いでおりますので――」
「何かあったのか?」
「こんにちは、小公爵様……!」
私を連れてすぐにその場を立ち去ろうとしていたエドウィンの足取りが、か細い声によって止まった。
聞き覚えのあるその声に、私は思わず耳をそばだてた。
『そうだ、ディアナ。彼女もいた。』
第二皇子の圧倒的な存在感に気を取られて忘れていた少女に気づき、私は内心で眉をひそめた。
『なぜふたりが一緒にいるの?』
原作では、第二皇子とディアナが初めて出会うのはボランティア活動の日。
だが、偶然にも皇太子が同行したおかげで、その日は第二皇子は来なかった。
だから、ふたりの出会いはもっと遅れるはずだったのに……。
――そんな矛盾への戸惑いと、生理的な嫌悪感にも似た不快感が一気にこみ上げてきた。
私はエドウィンの背中を前に押し出していた手を引っ込め、一歩前に出たエドウィンの背後から、そっと頭を出して視線を交わした。
そこにいたのは、幻想的な紫がかった瞳をした少年だった――
「こんにちは、ベルチェ。」
「……う、うん。こんにちは。」
ディアナに挨拶した私は、続けて第二皇子にも形式的にお辞儀をした。
くだらないことでカリオスと揉めるきっかけを作りたくなかったからだ。
「こんにちは、第二皇子殿下。」
「俺は平民とは話したくないんだけど。」
しかし返ってきた答えに、私の気分は一気に悪くなった。
『自分から話しかけておいて、私のことは話したくないって何よ?』
とはいえ知りたいことがあった私は、じっと我慢してディアナに尋ねた。
「ここにはどうして来たの、ディアナ?」
「ええと……皇后陛下が少し体調を崩されたそうなので、癒しに来たの。」
ディアナはにこやかに笑いながら皇宮に来た理由を語った。
神殿で最後に会ったときとは違い、どこか少しあやしげに見えたディアナの表情だった。
「それと、帰り道に皇太子殿下に一度会っていこうと思って!前に見たとき、かなり傷ついているように見えたから、心配で……」
尋ねてもいないのに、皇太子の宮殿を訪れた理由まで事細かに語ってくれた。
どうやらボランティア活動の日、皇太子が治療を受けている途中で中断して帰ったという言葉が気になっていたようだ。
後に原作でもそれを理由に混乱が起こったのは明らかだった。
『まあ、どうやって出会ったかはともかく。』
羨ましがっているようにも聞こえるが、私はそれを否定しなかった。
私の介入によって、もし男主人公たちがディアナと出会えなくなるとしたら――それは少し心配だった。










