こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

103話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 戦場へ③
ルディオンは雲の上を飛んでいたため、私は一日中、何も見ることができなかった。
目の前に広がるのは、果てしなく広がる空だけ。
せめてもの救いは、そんな私の話し相手になってくれるアルセンがいたことだった。
彼は時々、私の様子を尋ねながら会話を続けてくれた。
彼は私とやり取りを交わしながら、時折、少し考え込むような表情を見せた。
少し不思議に思った。公爵ともなれば、一日中忙しく過ごしているはずだ。
それなのに、私とこうして気軽に話していてもいいのだろうかと、少し気が引けた。
「忙しくないの?」
私が尋ねると、彼はのんびりとした口調で答えた。
「……忙しくはないな。」
「でも、公爵が一日中何もせず遊んでいたら、周囲の人が不思議に思うんじゃない?」
「……まあ、そう思う者もいるかもな。だが、休暇を取ったと思うだけじゃないか?」
「……」
本人がそう言うのなら、私が何か言う理由もない。
それでも、彼が私のことを気にかけてくれているのはわかったので、少し嬉しかった。
「それよりも……」
「……?」
「本当に大丈夫なのか?私が話したことではあるけれど、まさか本当に戦場へ向かうとは思わなかった。」
「これが一番効率的な方法だと思っただけ。」
私は少し寂しさを感じながら答えた。
アルセンもそうだったが、私もまた誰よりもイデンベレへの復讐を強く望んでいた。
「……そうか。」
彼は私の気持ちを察したのか、それ以上何も聞かなかった。
夜になると、ルディオンは少しずつ高度を下げ、ゆっくりと飛行した。
私はマントを包み込みながらルディオンの鱗に寄り添った。彼が光の精霊だからか、その部分は暖かかった。
その後、私はうとうとと眠りに落ちたようだった。
目を開けた時にはすでに戦場の近くに到着していた。
遠くの草原にはエルミールの陣営が見える。
私は公の場に降り立つ前に、あらかじめ準備しておいたエルミールの外套を羽織るつもりだった。
だが、その必要がないことはすぐに理解できた。
数人は、私のルディオンを見てすでに私を察していた。
私がルディオンの背から降りると、人々の反応がざわめきへと変わった。
「皇女殿下!?」
人々は一様に信じられないという表情だ。
私が神託を受けて戦場へ向かうことになったという話は、まだ首都の片隅にすら広まっていなかったのだろう。
驚きに満ちた彼らの顔を見て、私は思わず微笑んでしまった。
今日は戦闘のない日だったのか、幸いにも伯父上は野営地にいたようだった。
その知らせを聞くや否や、他の兵士たちとともに急いで駆けつけてきた。
「アイシャ!」
私はお兄様の顔を見上げた。
皇帝の動きが急だったとはいえ、ともかくお兄様に再び会えたのは本当に嬉しかった。
彼は少し疲れているように見えたが、痛がっている様子も傷もなかった。
本当に良かった。
安心した気持ちで私は微笑むと、お兄様は信じられないというように私を見つめた。
「まさか、これは幻覚か魔法ではないのか?」
「いいえ、お兄様。」
お兄様が何か言う前に、私は急いで言葉を続けた。
「お話があります。ここでは少し話しにくいと思います。」
そこでようやく祖父は私たちを見つめる目に正気を取り戻したようだ。
混乱から少し抜け出した彼は、私を彼の幕舎へと連れて行った。
総司令官の幕舎だからか、彼の幕舎は思ったよりも広く快適だった。
お兄様は私が座るなり、再び鋭い目で私を見つめた。
「私に言うことがあるのか?それに、どうしてここに……」
「お兄様、これを読んでください。」
私は彼の言葉を遮り、懐から文書を取り出した。
それを見た途端、お兄様の表情は一変した。
皇帝の直筆と神殿の印が押された文書だった。
つまり、ただ事ではないとすぐに察したのだろう。
平凡な話なら、私がここまで来るはずがなかったのだから。
「これを読めば、すべてが分かります。」
しばらく私を見つめていた伯父上は、やがて文書を受け取り、ゆっくりと開いた。
そして慎重に読み進めると、最後まで読み終えたときには、彼の眼差しが大きく揺らいでいた。
「……神殿からの神託が下ったのか?」
私は喉を鳴らした。
「はい。私を戦場に送るようにと言われました。」
イシスお兄様はしばらく何も言わなかった。
彼の頭の中で考えが複雑に絡み合っているようだった。
「それを父上と母上が受け入れられたのか?」
「神託は神託です。神の意志を人が拒むことはできないものです。」
お兄様はしばし口を引き結んだまま、言葉を失っていた。
「いくらなんでも、お前はまだこんなに幼いのに……!」
「私にとっては幸運でした。」
私は落ち着いて言葉を続けた。
「お兄様に、別にお伝えしなければならないこともあるんです。」
私は懐に大切にしまっておいた紙を取り出し、お兄様に手渡した。
それは、アルセンから聞いた軍の機密がそのまま記されているものだ。
お兄様は無言のまま紙をじっと見つめた後、硬い表情で口を開いた。
「……これは、どうやって……」
「お兄様。」
私は少し戸惑いながらも、静かに口を開いた。
「イデンベレには信頼できる協力者がいます。軍の重要な情報をもたらしてくれた者です。その情報の確かさは保証できます。」
「お前がイデンベレに知人を?だが、そんなはずは……」
無言のまま伯父上を見つめると、彼はようやく何かに気づいたようだった。
「……まさか……」
私はゆっくりと頷いた。
「私の前世に関わる人物です。彼と私は、イデンベレに復讐するために手を組みました。」
「……アイシャ……」
私はアルセンが私にくれた通信球について詳しく説明した。
それを使って連絡を取り合うことができたのだと話した。
「情報が正しいか疑わしいなら、私の精霊を先に送って偵察することもできます。いくら優れた魔法使いでも、精霊の気配は簡単には感じ取れませんから。」
「……神託?どうしてこんなに都合よく神託が下ったんだ?」
「……その件については、まだ詳しく申し上げることはできません。」
そうなると、ハイネン様のことだけでなく、ルーン様の正体についても明かさなければならない。
「ただ、その神託が偽りではないことだけはお伝えできます。」
「……アイシャ。」
彼の表情は非常に複雑だった。
言葉を失ったまま、彼は幕舎の隅にある水差しのもとへ行き、水を一口飲んだ。
そしてしばらくの沈黙の後、ようやく口を開いた。
「来てくれてありがとう。情報を伝えるために、こんな遠くまで飛んで来るなんて、本当に大変だっただろう。」
「……そんなことはありません。」
「おかげで、軍は有利な拠点を確保できるだろう。イデンベレ軍の戦略が分かった以上、それに合わせた対策を立てなければならないな。」
お兄様の言葉は落ち着いており、理性的だった。
彼の感謝の言葉を聞くうちに、私の緊張も少しずつ解けていくのを感じた。
どんな理由があれ、彼が私のことを案じてくれていることは変わりなかった。
だからこそ、私がここまで来たことに対して彼が怒ったり、悲しんだりしないかと不安だったのだ。
「……しかし。」
しかし、お兄様の言葉はまだ終わっていなかった。
お兄様は淡々とした表情で私に言った。
「明日の朝には再び皇宮へ戻るように。」
「……!!」
私は目を大きく見開いた。
お兄様はそれ以上何も言わず、冷静な表情を崩さなかった。
「お、お兄様?」
「戻るのに一日しかかからなかったのは幸いだったな。ここに泊まれ。幕舎を用意させるから、明日に備えて今日はしっかり休め。」
「……お兄様!」
「アイシャ。私は決して退かないつもりだ。」
彼の強い態度に、私は思わず立ち上がった。
「私も退くつもりはありません。もう引き返せません。」
お兄様は顔をしかめた。
「何度も言っただろう、アイシャ。ここは危険だ。一日に何十人、何百人と命を落とすのが戦場だ。まさか戦うつもりなのか?」
「必要であれば、そうします。」
「アイシャ!」
「神託はすでに下りました。」
私ははっきりとそう言い切った。
「もう、後戻りはできません。神々が私に、幕舎で寝泊まりでもしろと言って神託を下したわけではないですよね。」
お兄様は私を説得しようとした。
しかし、私は彼の言葉を聞かず、幕舎を抜け出した。
背後で彼の声が聞こえたが、あえて知らないふりをした。
『……帰れと?』
私は拳をぎゅっと握った。
お兄様の気持ちは分かっているが、これ以上引き下がるつもりはなかった。
たとえ名目上の神託でも、好きでも嫌いでも、ここに留まり神託に言われた通り「勝利の女神」になるしかない。
『……ハイネン様はこれまで計画していたのだろうか?』
私は心の中で考えた。
単に私がお兄様に情報を伝えるだけでなく、戦場で活躍するように神託を下したことには何か理由があるはずだと。
ハイネン様のことを考えると同時に、ルーン様の顔が浮かんだ。
ルーン様。
お兄様の幕舎を離れ、私は無心で歩き続けた。
彼は私の決意を理解してくれただろうか?
それとも、私が危険に晒されることを案じて、皇宮へ戻れと説得しようとしていただろうか。








