こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

112話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 勝利の女神②
「……はあ、でもそのためには少なくとも十万人の兵士を制圧できるほどの力が必要です。」
軍人の言葉に、ルーン様はあっさりと答えた。
「私が先陣に立つ。」
「……っ!!!」
しかし、その中に込められた意味は決して軽くなかった。
人々は互いの顔を見合わせた。
「……まさか、精霊王様が……?!」
ようやく彼らは、目の前にいる存在が誰なのかをはっきりと悟ったようだった。
確かに精霊王を召喚したとはいえ、精霊についてよく知らない彼らにとって、精霊王の力がどれほどのものなのかを想像するのは難しかった。
しかし、ルーン様は十万にも及ぶ軍勢の前においても、眉ひとつ動かさなかった。
それは兵たちにとっては、これ以上ないほどの希望となる。
「せ、精霊王さま……!!!」
そして、それは私にとっても同じだった。
私は、生涯初めて自分の背後に立つルーン様の存在を感じた。
もう私たちにはルーン様がいる。
十万の大軍でも、百万の軍勢でも恐れるに足らない。
通常、地震や津波のような自然災害は人間が対抗するにはあまりに困難だ。
自然そのものであるルーン様の力を無視できる存在など、この世にいるはずがない。
私は思わず顔が明るくなったのを感じた。
ルーン様が私の後ろにいる──それだけで心の中に希望が満ちてくるようだった。
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会議が終わったときだった。私が自分の幕舎に戻ろうとする前に、イシスお兄様が私を呼び止めた。
「……アイシャ。少し二人で話せるかな?」
私はルーン様を振り返った。
すると彼は私より先に幕舎の外へ出て行った。
おそらく二人で気楽に話せるようにという配慮だろう。
幕舎にいた他の人たちも皆出て行き、私とイシスお兄様の二人きりになった。
「どうかされましたか?」
「アイシャ。」
彼は少し戸惑っていた。
どう言葉にすべきか迷っているようだった。
「君に聞きたいことがあるんだ。」
彼がそんな風にじっとしているのがよく理解できず、私は首をかしげた。
「……お前はイデンベルの皇族たちをどうしたい?」
イシスお兄様の穏やかなエメラルドグリーンの瞳が私をじっと見つめていた。
「お前も分かっていると思うが、今回の作戦では確実に私と敵国の総司令官……つまりエルシス大公とぶつかることになるだろう。」
「………」
「彼が総司令官である以上、私が彼と戦えば、どちらか一方は必ず死ぬか大けがを負うしかない。」
私は思わず拳を握りしめた。
「……私は。」
イシスお兄様は私の返事を静かに待っていた。
「……私にとってお兄様は、ただ一人の存在です。」
私はイシスお兄様をまっすぐ見つめながら言った。
「それに、私のお兄様が何よりも傷つかないことを願っています。」
イシスお兄様の言う通りだ。
もし復讐をするなら、イデンベルの王族たちを真っ先に処理しなければならない。
あそこに入り込むまでの間、彼らに情けを見せることはできなかったし、特に敵国の皇帝であるラキアスは決して生かしておけない相手だ。
どうあってもこじれてしまった事実。
これ以上は引き返せず、断ち切るしかない。
私の固い決意を察したのか、イシスお兄様はそれ以上何も聞かず、ただ私にナプキンを差し出した。
「そうか、わかった。」
「……。」
「もう戻って休みなさい。」
振り返ってあげたい気持ちもあったし、一方ではためらうことなく、彼らを遠くに追いやってしまいたいという思いもあった。
でも、何より私の頭を締め付けたのは「恐れ」だった。
私は結局、足を止めた。いつの間にか空は暗くなっていて、あたりは驚くほど静かだった。
私はまるで独り言のようにつぶやいた。
「ルーン様……。」
「どうした?」
「……私は、怖いんです。」
それはイシスお兄様にも言えなかった本心。
アルセンは言っていた。
マリアンヌが私の死を計画していたと。
彼女がどんな方法を使ったのかはわからないけど、アルセンの言葉が間違っているとは思えなかった。
彼はその件を徹底的に調べていたし、私に対しても強い関心を持っていたからだ。
私が怖かったのは別の理由だった。
「……彼らにも、もしかしたら事情があったのかもしれない。」
だから彼らを理解してしまうかもしれない。
私は彼らを許したくはなかった。
今でも彼らにされた痛みは昨晩のことのように生々しく、彼らにも事情があったのかもしれないなどとは、想像すらしたくなかった。
だからこれはジレンマだった。
真実を明らかにしたい一方で、向き合いたくない気持ちもあった。
「……私はどうすればいいのでしょう。」
イシスお兄様がエルシスを殺し、私たちの軍がイデンベルまで進軍して王宮を占領するなら、その後は……?
たとえ嫌でも、私は彼らの前に立たねばならない。
それをずっと願ってきた場面なのに、今はなぜかただただ恐ろしく感じられた。
もしかすると、もうすぐ手が届くほど近づいているからこそ、なおさらそう思ったのかもしれない。
私は体を動かした。冬の風が肌を刺すように冷たく吹きつけてきた
そのときだった。
「君の気持ちは分かった。」
彼がゆっくりと私に近づいてきた。私は彼を見上げた。
彼はいつも通り、落ち着いた表情を浮かべていた。
「許さなくてもいい。」
「……っ!!」
その言葉に、私は胸が締めつけられるような気持ちになった。
彼は続けた。
「理解することと許すことは違う。彼らを理解できたからといって、無理に許す必要はない。」
「………」
私は唇を噛み締めた。涙をこらえるためだった。
「ただ……」
彼が私の前に立った。身をかがめて、私の目と目を合わせた。
「君がどんな選択をしようとも、僕は君を守る。」
「………」
私はまるで魔法にかかったかのように、彼の言葉を聞いていた。
私を見つめる彼の目はとても温かく、言葉も優しかった。
泣くつもりはなかったのに、私は鼻をすんとすすって言った。
「……ルーン様は優しすぎます。」
「君にだけだよ。」
「私にだけ、ですか?」
「ああ。」
彼が顎をくいっと上げると、私はまた鼻をすんとすすってしまい、思わず笑ってしまった。
「……ありがとうございます。」
私のくぐもった声にもかかわらず、ルーン様はその言葉の意味を理解したようだった。
かすかに微笑んでいたのだから。
——そうだ、彼の言うとおりだ。
選ぶのは完全に私自身。
でも、その選択を支えてくれる人がいるからこそ、私は恐れを手放すことができたのだ。
私がどんな選択をしても、いつもそばにいてくれる存在。
彼がいるだけで、心のどこかがほっとあたたかくなるのを感じた。
冬の空を見上げてみた。
さっきまではただ暗いだけだと思っていた空に、星や月が浮かんでいた。
きらめく星たちは、まるで私たち二人を見守っているようだった。
決戦の日はもう、そう遠くはない。








