こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

113話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 決戦の日
時は流れ、ついにその日がやってきた。
今日は珍しく空が晴れていた。雲一つなく澄みきった空に、まるで春が近づいているかのような暖かな日差しが差し込んでいた。
戦を始めるにはもったいないほどの良い天気。
私はしばし空を見上げた後、兄の天幕の中へと入っていった。
そこには出陣の準備をしているイシスお兄様がいた。
彼は私とルーン様に向かって明るく微笑んだ。
「アイシャ!それに、精霊王様もおいでになったのですね!」
ルーン様を正式に召喚してから、彼はほとんどの時間を私と一緒に過ごしていた。
私が眠っているときや、個人的な時間が必要なときを除いて、ずっと一緒にいたのだ。
皇宮でなら少し大げさかもしれないが、今のように戦場にいる状況では、彼が常にそばで私を守ってくれることが、むしろありがたく感じられた。
私はイシスお兄様に挨拶した。
「おはようございます。」
イシスお兄様の隣で甲冑を持っていた侍従も、私に丁寧に挨拶してくれた。
私はテーブルに置かれていたイシスお兄様の黒い剣を手に取る。
それは侍従からではなく、イシスお兄様に直接渡すためだった。
「緊張していませんか?」
大きな戦闘を前にしているのに、不思議とイシスお兄様の顔はすがすがしかった。
そのためか、イシスお兄様は笑ってこう言った。
「勝利の女神がそばにいるのに、緊張なんてすると思うか?」
「……お兄様ったら。」
その言葉に、私は少し気恥ずかしくなってしまった。
一瞬だけ笑った兄は、天幕の使用人を下がらせ、じっと私を見つめてきた。
明らかに私に伝えたいことがあるという目だ。
彼が口を開く前に、私は先に言った。
「先に言わないでください。」
「……でも、アイシャ。」
兄は切実な声で私の名前を呼んだ。
私を説得したいという気持ちが伝わってきた。
それもそのはず、今回の戦では、私も兄と共に最前線に立つと決めていたからだ。
イシス兄様は私を止めようとしたけれど、私には引くつもりはなかった。
私は今回の戦いにすべてを懸けていた。
もう後ろに引っ込んでいたくなかった。
私のそばにはルーン様がいらっしゃる。
いくらイシスお兄様が私を止めようとしても、私の意思をくつがえすことはできない。
私の真っ直ぐな視線に、イシスお兄様はあきらめたようだった。
「……わかった。」
それでもその目には、名残惜しさがほんのりとにじんでいた。
私はイシスお兄様を安心させるために笑ってみせた。
「心配しないで。きっとうまくいくから。」
するとイシスお兄様は仕方なさそうに微笑んだ。
私が彼に防具を渡すと、彼は最後に頭にかぶりながら、ルーン様に言った。
「よろしくお願いします。」
ルーン様は短くうなずいた。
私はイシスお兄様を心配そうに見つめた。
彼もまた私を心配していた。
それは私も同じだ。
イシスお兄様は敵軍の総司令官と一騎討ちをすることになっていたのだ。
それは、イシス兄様とともに前線に立つと私が決めたからだった。
敵軍の総司令官を殺すか捕らえることができれば、どんな方法よりも早く戦争を終わらせることができる。
今回の戦闘で城を奪還できれば、これ以上不安になることもない。
しかし総司令官を相手にする以上、味方側でも兄が直接出て行くしかなかった。
『イシス兄様を信じていないわけじゃない。きっと勝利して戻ってくるはずだけど……心配になるのは仕方ない。』
私は兄が持っていた剣を見つめた。
そこには、以前に私が兄の出征日に贈った青いリボンが結ばれていた。
戦場では目立ってしまうため使いにくかっただろうに。
それなのにリボンは、ほこりも傷もつかないまま、きれいに結ばれていた。
私がそれを見つめていたのに気づいたのか、イシスお兄様が私に声をかけた。
「戦争が終わったら、一緒に家に帰ろう。」
私は顎を引いてうなずいた。もうそれほど昔のことでもないのに、皇宮がどうしようもなく恋しく感じられた。
私たちは幕舎の外に出た。
目が痛くなるほど青い空が私たちを迎えていた。いよいよ出発のときだった。
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イデンベレの唯一の大公にして、現皇帝の直下にいる弟、皇室の貴い血筋にして、この戦争の総司令官を任された者。
彼を表す言葉は数多くあった。しかしその中で彼を最もよく表した言葉は、おそらく「剣の天才」であろう。
エルミーレ帝国が騎士の国として名を馳せ、ライバルのイデンベルが魔法の帝国として知られているなかで、エルシスは幼い頃から剣に心を奪われていた。
剣が手に馴染むあの感覚。
そしてそれを振るうときに感じる自由さ。
エルシスは本当に剣が好きだった。
世間では彼が剣に取り憑かれているから結婚しないのでは、とまで言われるほどだ。
それほどまでに、彼は優れた敵と出会うことを何より楽しみにしていた。
もともと好戦的な性格ということもあるが、年を重ねるにつれ、彼と対等に戦える人物と出会えなかったせいで、その欲求はますます膨らんでいった。
だからこそエルシスは、たとえこれが生死をかけた戦場であったとしても、敵の総司令官との一騎打ちに大いに期待していたのだ。
『名前はイシスだったか?』
エルミール唯一の皇子であり皇太子。
彼はかなり剣術が得意だと聞いていた。
幼い頃には山で熊を捕まえて妹にその肉を贈り、少し年を重ねると帝国の内地で剣士たちを次々と打ち負かしたという話もあった。
その話をすべて信じるわけではないが、かなり期待しても良さそうだとエルシスは思った。
出陣の準備をすべて終えた彼は、ゆったりと幕舎の青い天幕をくぐって外へ出た。
おそらく今日の決戦によって、これからの戦争の流れが大きく変わるだろう。
これまでイデンベレ軍はバウンド城を占領した以外には大きな戦果を挙げられなかった。
エルミールとイデンベレの軍はほぼ互角の戦力ではあったが、実力に大きな差がなかったことが原因だった。
しかし今日は違う。
エルミール軍の背後を突く作戦を立てていたのだ。
…この作戦が成功裏に終われば、そしてエルシスが敵軍の総司令官を討ち取ることさえできれば、この戦争の勝敗は決まったも同然だろう。
「ふむ。」
エルシスは顎に手をやって空を仰いだ。
白い鳥が飛んでいた。
空はどこまでも青く澄んでいた。
「今日は天候まで完璧だな。」
そう彼が呟くと、すぐ隣に控えていた副官が素早く寄ってきて報告を始めた。
「仰せの通り、本日の天候は非常に良好です。風も穏やかで、火矢を用いた作戦に向いているかと存じます。そして午後には……」
その報告を聞きながら、彼は軍隊の集まる前方へと歩みを進めた。
エルミーレ軍にはわからないかもしれないが、バウンド城を率いている軍はイデンベレ軍全体の3分の1にも満たなかった。
敵の目をしっかり欺いたため、その事実が知られているとは思わなかった。
今、彼の幕舎にいる兵士たちの中で、特に彼が誇らしく思っているのが、まさに「魔法使い軍団」だった。
彼らはイデンベレが魂の力を最大限に引き出して育て上げた戦力でもあった。
一人ひとりがまさに人間兵器と言える存在だ。
エルシスは羨望のまなざしでその魔法使い軍団を見つめた。
彼は卓越した剣士ではあったが、だからといって魔法使いの威力を軽く見たことはなかった。
それは、彼が魔法の帝国イデンベレの皇子であったことも関係している。
イデンベレの魔法使いといえば、世界中のどこへ行っても尊敬を受ける。
それほどに、最高の実力を持っているからだ。
城を陥落させた者たちは今日、エルシスの手足となり、見事に敵を討ち払うだろう。
これが彼らの作戦だった。
エルミーレ軍がバウンド城を奪還しようと攻城戦を展開している間に、イデンベレ軍が彼らの背後から包囲を仕掛ける。
その後、魔法部隊が前に出て、包囲されたエルミーレ軍に対して強力な魔法を放ち、一気に壊滅させるという算段だ。
エルミーレがエルシスの思惑通りに動いてくれさえすれば、この作戦は完璧に成功する。
そしてエルシスはこの計画を微塵も疑わなかった。
彼は軍勢の前に立った。
気力に満ちた彼らは、ただエルシスの命令を待つばかりだ。エルシスは大声で叫んだ。
「イデンベレの兵たちよ!」
「はい、総司令官殿!」
兵士たちの力強い声が広がって響いた。
エルシスは静かに笑う。
「決戦の日が来た。まさに今日、卑劣なエルミールのやつらを殲滅する日だ。準備はできたか?!」
「はい、総司令官殿!」
今にも出陣しそうな掛け声には、エルシスとイデンベレに向けられた忠誠心が満ちていた。
「ならば、やつらを一気に蹴散らしてしまおう!これ以上、この地に“エルミール”という名を持つ者が生き残ることなど許されない!」
エルシスは真っ先に馬に乗って駆け出した。
彼の兵士たちがその後に続いた。
瞬く間に馬たちが駆け出すと、冬の乾いた地面から巻き上がった灰色の砂ぼこりが、空高く舞い上がり始めた。
だが兜をかぶったエルシスは、その砂ぼこりにあまり関心を持たなかった。
ただ、エルミールを征服するという考えで、頭がいっぱいだっただけだ。
『汚らわしいエルミーレめ。』
彼は心の中でそうつぶやいた。
実のところ、エルシスがエルミーレに対して個人的な恨みを抱いているわけではなかった。
また、今回の戦争で総司令官に任命されたのにも特別な理由があったわけではない。
エルシスは、ただ兄であるラキアス皇帝がこの戦争を望んでいるから、それに従っただけ。
ラキアスは戦果を挙げ、自らの正統性を誇示するためにこの戦争を利用していることを、彼はよく理解していた。
ただ一つ、彼がこの戦争で強く望んでいることがあるとすれば――それは、この果てしなく広がる草原を馬で駆け抜けることだった。
強い者たちと剣を交えるのも、また好きだった。
そうするたびに、彼はますます自由を感じていたのだ。
もちろん……。
理由はわからないが、たまにエルシスを苦しめる出来事が一つだけあった。
それは世界の終わりまで馬を駆けて全速力で突進し、死ぬ寸前まで剣を振り回しても、心の奥深くに残る奇妙な虚しさは消えなかった。
なぜなのか、何が原因なのか、エルシスには分からなかった。
胸は、まるで大切な人を失ったように空虚だったが、思い当たるような相手は誰もいなかった。
彼はただ苦しかっただけで、そのたびに馬を走らせ、前へと突き進むだけだった。
まさに今のように。








