こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

114話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 決戦の日②
以前に聞いていた情報どおり、エルミール軍はバウンド城の前で攻城戦を繰り広げていた。
十万人を超える大軍のおかげで、バウンド城の前線は崩れかけていた。
そのため、相手が人間なのか、化け物なのかも見分けがつかない――
エルシスはくわえていた細い笛を口から外した。
互いの姿が見える距離まで接近すると、突如現れたイデンベレ軍にエルミーレ軍は明らかに動揺した様子を見せた。
その中央にはまさに総司令官がいた。
黒い頭巾をかぶっていたため髪の色はよく見えなかったが、その人物であることは明白だった。
彼の隣にはエルミーレの紋章が入った旗を持った旗手がいた。
これは戦場において敵軍と味方軍を識別するための印である。
エルミーレの総司令官は部下を守ろうと人々を制止しようとしていたが、騒ぎはそれほど大きくはならなかったようだ。
エルシスは、状況が計画通りに進んでいることに胸が高鳴るのを感じた。
――だが、ひとつ妙なことがあった。
動揺してざわついていたかのように見えた軍勢が、急に陣形を変えて動き始めたのだ。
「……?」
一体何が起きたのだろうか。
エルシスは鋭い視線で相手の行動を見守っていた。
総司令官が有能なおかげで即座に混乱を収めたのか?
それとも情報が漏れていたのか?
彼は頭の中で素早く様々な仮説をめぐらせた。
しかしそれでも、彼は依然として自信に満ちていた。
今さら陣営を変えようと、エルミール軍にできることは何もないように見えた。
どう見ても、イデンベレ軍の中に閉じ込められた形だからだ。
こうして互いに牽制し合っている最中にも、イデンベレが奪ったバウンド城では、水城のための攻城戦が行われていた。
普通の水城は、通常の城よりも攻略が難しいことは明らかだ。
バウンド城にいるイデンベレ軍は、高い城壁の下に石を転がして落とし、火のついた木の枝を投げつけてきた。
その猛攻に対し、エルミーレ軍はなすすべもなかった。
このままではエルミーレ軍は敗北してしまうだろう――
そう考えたエルシスが突撃しようとしたその時、突然、彼らの視線をかすめる「何か」が現れた。
いや、「誰か」と言ったほうが正しいだろうか?
その上には誰かが乗っているように見えたのだ。
エルシスの目に映ったそれは、今まで見たこともない不思議な生き物だった。
だが、それは不気味でも不吉でもなかった。
その「鳥」はむしろ神聖な存在に見えた。
イデンベレにおいて、黄金色は非常に貴重な色とされている。
それはイデンベレの国教のセレナ女神の瞳の色だったからだ。
エルシスの目の前に現れたのは、まさにその黄金を身にまとったかのような美しい鳥だった。
ふわふわの羽根一枚一枚が、まるで純金を削り出して作ったかのように、まばゆく輝いていた。
『……マリーに持っていったら喜びそうだな。』
彼は無意識にそう考えた。
国で最も聖女と呼ばれている彼の妹マリアンヌには、あのように美しい鳥がきっとよく似合うだろう。
もちろん、それは彼がこの戦争で勝利した場合の話だ。
彼がその鳥に気を取られている間に、空中で人を乗せて飛んでいたその鳥は、いつの間にか地上に降り立っていた。
その鳥から降りたのは、一組の男女。
軽やかな足取りで降りてきたその二人は、よく似た服装をしていた。
視力の良いエルシスには、一目でそれが誰なのかわかった。
長い白金髪を腰まで垂らした男は、古代の服装を身にまとっていた。
今では誰も着ないほど古い様式の服だったが、まるで生まれた時からそれを着ていたかのように、その服は彼に見事に似合っていた。
そして、その隣にいる女性は――
『ああ、そういうことか。』
エルシスは納得した。
白いベールを被った彼女は、ベールとほとんど見分けがつかない銀色の髪をしていた。
彼女が身にまとっていたのは、男と同じように優雅で、太陽神の紋章が描かれた神官の衣だった。
少し離れていたため、顔までははっきり見えなかったが、エルシスは彼女の目の色が青いに違いないと、容易に想像することができた。
彼女こそが、エルミーレ帝国唯一の聖女、『アイシャ・ド・エルミーレ』だった。
実際に会うのは初めて。
『でも、どうしてここに?』
すぐに彼は疑いを抱いた。
彼女が精霊を扱い、治癒能力があることはすでに知っていた。
しかしエルミールは、わずか十数歳ほどの少女を戦場の前線に送り込まなければならないほど軍事力が不足しているのか?
『そんな風には見えなかったけど。』
もし本当に人手が足りなくて彼女を送り込んだのなら、エルシスはこの軍隊を一笑に付していたかもしれない。
その時だった。
ふと彼女がフードを下ろし、エルシスを見つめた。
『………』
エルシスは理由もなく胸が高鳴るのを感じた。
『なぜだ?』
彼はじっくりと考えた。
おそらくあの皇女もまた聖女だから、もしかしたら、彼女の姿に自分の妹を重ねてしまったのかもしれない。
彼はふと、彼女の顔を間近で見てみたいと思った。
エルシスは、愛する妹のことを思えば、たとえ敵国の聖女であっても傷つけたくはなかった。
だが、戦場で出会ってしまったのは運が悪かった。
公と私の区別は、はっきりとつけねばならない。
思いを振り切った彼は、すぐに隣にいた一人の弓兵に命じた。
火矢を放って敵軍に撃ち込めというのだ。
その火矢が狙う場所は、エルミーレ騎士が持つ旗印、つまりエルミーレの国旗だった。
その国旗を炎上させ、彼らを混乱に陥れる作戦だ。
その作戦は、かなり成功したように見えた。
雲ひとつない空、風も穏やかで、火矢はまっすぐ遠くへ飛んでいった。
だが、旗に届く前に、その火矢は突然、空中で二つに裂けて落ちてしまった。
エルシスは目を見開いた。
敵の総司令官が目をぱちくりする間にその矢を切り払ってしまったのだ。
エルシスだけがその動きを見抜いたのであって、他の者たちはその動きすら察知できなかった。
『法術を使うタイプか。』
面白い。
彼とその敵は互いに探るように睨み合っていた。
これ以上の駆け引きはなさそうだった。
エルシスは剣を収めた。
すると兵士たちが歓声を上げながらエルミルに向かって走り出した。
その中でもエルシスとイシスは互いに相手を狙う視線を外さなかった。
チャキンチャキン、剣がぶつかる音が響いた。
それまで余裕のあったエルシスも、その音を合図に少し警戒を強めた。
戦略通りに進んではいなかったが、全面戦闘になったとしても大きな損害はないはずだった。
だが、予想外の変数が現れたのは、まさにその瞬間だった。
イシスは彼女に気を取られ、しばらく注意を怠っていた。
すると、今まで鳥のそばでまったく動かなかった男が、片手をすっと持ち上げたのだ。
その動きは一見、とても自然だった。
……しかし、何かがおかしかった。
どこがどう、とは言えない。
エルシスがその異様さを察知したのは、もはや本能に近い感覚だった。
『……なんだ?』
はっきりとは分からなかったが、その男のわずかな手の動きだけで、空気の流れが止まったように感じた。
まるで誰かの合図を待っていたかのようだった。
『……ただの思い過ごし、か?』
その動きの意味が、もうすぐ明らかになろうとしていた。
「……な、なんてことだ……」
隣にいた魔法使いが震えながらつぶやいた。
今回の戦争で何度も彼を見てきたが、これほどまでに動揺した姿は初めてだった。
「なんだ?」
不審に思ったエルシスが彼に近づこうとした瞬間、魔法使いはその場にひざまずいた。
同時にエルシスも異変を察知した。
少しずつ周囲が暗くなっていた。
「なにっ?!」
不審に思って兜を上げてみると、空では太陽が徐々に姿を消していた。
さっきまで確かに雲一つない快晴の空だったのだ。
曇っているわけでもなかった。
『……日食か?』
エルシスは内心で驚きを隠せなかった。
日食だと?こんな時に?
日食とは、国の術士が入念に調査しなければ辛うじて予測できる現象。
もしエルシスがもう少しだけ冷酷な神であったなら、神が人間の姿に心を奪われ、光を与えることなどなかったのではないか……と、ふと思った。
だが、さらに奇妙なことが起こった。
儀式が進むにつれ、目の前にかかった幕のように周囲が徐々に暗くなっていったのだ。
しかも、イデンベレの兵士たちは混乱し、剣を振るうことさえ忘れていたというのに、なぜかエルミーレ軍の兵たちだけは冷静だった。
まるで……この瞬間をずっと待っていたかのように。
『わかった。これは儀式じゃない』
エルシスは混沌の中で答えを見出した。
単なる儀式であれば、周囲が夜のように暗く変わることにそこまでの意味はなかったはず。
だが、今はまるで視力をすべて奪われたかのように、視界全体が暗黒に包まれていた。
これは決して普通の現象ではなかった。
「目がっ!!」
「何も見えない!!!!!」
動揺したイデンベレ軍の兵士たちの声が響いた。
戦場の真っただ中だというのに不安に駆られ、恐怖から剣を取り落とす者までいた。
エルシスはその光景に歯ぎしりした。
「全軍、動揺するな!」
彼は兵士たちの士気を奮い立たせるため、大声で叫んだ。
「これは敵の術に過ぎない。恐れるな、再び剣を取れ!!」
だが、エルシス自身も分かっていた。
五感の中でも特に視覚は最も重要な感覚だということを。
敵が見えないのにどうやって戦えというのか。
もともと視力がなかったというのならともかく、今まで見えていたものの大半が突然見えなくなった兵士たちに、これまでどおり戦えというのは無理な話だった。
エルシスのように感覚を極限まで鍛えた者だけが特別な例にすぎなかった。
しかも……。
エルシスは耳を澄ました。
こちら側とは違って、エルミーレ軍には明らかに「目が見えている」様子があった。
「不届きなイデンベレ軍を打ち払え!」
「聖女様に対して卑劣な策略を企てたイデンベレのやつらめ!」
「神が貴様らを裁かれるであろう!」
イデンベレ軍に向けて、エルミーレ軍の兵士たちが次々と声を張り上げた。
その叫びに合わせて、エルシスも再び叫んだ。
「怯むな!剣を取って戦え!今、目が見えないのは敵の術にすぎない!!」
確かにエルミールが見せた魔法は驚異的だった。
これほどの大軍の目を一瞬にして覆い隠すことができる魔法が存在するとは。
魔法帝国の皇子としてありとあらゆる魔法を見てきたエルシスにとっても、生まれて初めて聞く魔法だった。
だがエルシスはその技術を過大評価しなかった。
『長くは続かないだろう。』
これだけ多くの大軍の視界を遮るほどの魔法が、長く続くはずがない。
長くても数分程度だろうか?
彼はむしろ目を閉じた。
目を閉じて闇の中で集中していると、逆に他の感覚がより鋭くなるような気がした。
『自分はただ最善を尽くすだけだ。』
彼は何も見なかった。
ただ、目を閉じてすべてを感じ取ろうとしていた。
乗っている馬の首筋をやさしく撫でてやった。
幸いにも馬は闇の中で混乱することはなかったが、主の沈黙する気配を感じて不安げな様子だった。
「大丈夫、心配しないで。」
その言葉とともに、共に過ごしてきた時間がすでに十年以上になっていた。
彼はその言葉を惜しみなく口にした。
生まれた瞬間から共にしてきた馬だから、その馬のすべてを従者たちは知っていた。
どうすればこの馬が言葉に従って動き、敵の攻撃を回避できるのかも理解していた。
馬を走らせていたのはチャルナだった。
その瞬間、エルシスは気づいた。
すぐ目の前に敵がいることを。
エルシスは驚くほど素早い動きで身をかわした。
うまく走らせてくれたおかげか、馬はさっきよりもずっと滑らかに動いた。
ヒュッ!
空中で鋭く切り裂く音が聞こえた。
イシスの剣が風を斬る音。
素早く避けたが、かなり危険な一撃だった。
彼が偉大な剣士だというのは、ただの噂ではなかったようだ。
剣も扱え、槍も扱えると聞いていたが、今日は相手をするために剣を持ってきたらしい。
だが、それを大げさに示すことはなかった。
エルシスは目を閉じ、余裕のある口調で彼の名を尋ねた。
「イシス・ド・エルミールか?」
彼の前に立つ敵軍の総司令官は、堂々とした声でその問いに答えた。
「そうだ。」
その声には隠しきれない敵意が込められていた。
「お前を殺しに来た、エルミールの皇太子だ。」
エルシスは、この戦いが決して簡単には終わらないことを直感した。








