こんにちは、ピッコです。
「もう一度、光の中へ」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

116話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 決戦の日④
『こんな顔だったのか。』
突き刺さる剣の痛みにもかかわらず、エルシスは特に感慨もなく思った。
思っていたより若い顔だったことに、少しだけプライドが傷ついたが、それだけだ。
「俺を殺せ。」
敵軍の総司令官に捕らえられた以上、今のエルシスに残された選択肢は死しかなかった。
いや、そこに何かしらの拷問が加われば、終わりなき自白と苦痛が続くこともあり得た。
もちろんエルシスは、そうした趣向の持ち主ではなかったので、淡々と自らの死を口にした。
するとイシスは鼻先で笑った。
視力を取り戻したイシスがどんな思いで自分を見ていたのか、エルシスには今やもうよく分からなかった。
「もちろん、俺はお前を殺すさ。」
「それじゃあ何をぼんやりしてるんだ?」
「死ぬ前にお前が会うべき人が一人いるんだ。」
エルシスは本当に、イシスの意図がわからなかった。
もちろん敵軍の総司令官を殺さずに捕らえることもたまにはあった。
たいていは敵国に身代金を要求するためだ。
だが、エルシスは軍がイシスを身代金のために連れて行くとは思えなかった。
『会うべき人だと……?』
エルシスは痛む腹部を押さえながら彼の後をついていった。
出血を止めてくれたのは幸いだったが、今は両手がしっかりと縛られて引っ張られていた。
こんな姿で皇帝の弟だと名乗ったところで、他人には鼻で笑われるだけだろう。
とはいえ、今は命綱がしっかりと結ばれているようだった。
だが、それが何の関係があるというのか。
エルミールの名前すら知らぬ魔法使いが密かに繰り出した魔法により、すでにエルシスの部隊はほぼ全滅していた。
言うことなしの完璧なエルミールの勝利だった。
今回の戦闘で勢いを得て勝利を収めようとしたイデンベレにとっては、もはや嘲笑の対象でしかなかっただろう。
さらにバウンド城にいた兵たちまでもが、ほぼ捕らえられるか命を落とした。
そのおかげで総司令官を筆頭に、エルミール軍は草原を越えてバウンド城へと堂々と入城している最中だった。
大敗したイデンベレとは対照的に、大勝利を収めたエルミール側の士気は天井知らずに高まっていた。
人々はエルミールの国旗を振り、あらゆる場所で歓声と笑い声が鳴り止まなかった。
イシスの背後には、エルシスだけでなく他にも多くのエルミール兵士たちがいた。
彼らの視線が痛くて、エルシスは頭をうつむけたくなるほどだった。
『生かして捕らえた理由はこれか?』
敵軍の総司令官を捕らえたことを宣伝して士気をさらに高めようという意図なのか?
だが、初戦での決戦で既にイデンベルは大半の兵士を失っていた。
勝てると思って戦力を投入したために、その損失はさらに大きくなった。
今残っているのは、ほとんど寄せ集めにもならない残党ばかりだ。
予想するに、やつらもそう長くはもたないだろう。
すぐに全滅するに違いない。
胸がひりつくような痛みだった。
エルシスはわずかに寂しげに笑った。
そのときだった。
「お兄様!!」
向こう側から少女の高い声が聞こえた。
その声を聞いたイシスが足を止めて首をめぐらせた。
エルシスもまた、思わず顔を向けた。
そのとき、彼らの前方に一人の少女が駆け寄ってきた。
『さっき見かけた……』
エルシスは彼女をじっと見つめた。
そして、その名前がはっきりと……。
「アイシャ!」
そのときイシスが嬉しそうに彼女の名前を呼んだ。
それを見たエルシスは、表情には出さなかったが内心ではかなり驚いていた。
『あんなふうに笑えるんだ?』
つい先ほどまで冷たく、無表情だったイシスの顔に、明るい笑顔が広がっていたからだ。
まるで冬の野に花が咲いたような、劇的な変化だった。
「どこかケガはありませんか?」
「もちろん。」
その優しい声を聞いて、エルシスはようやく気づいた。
彼がさっき言っていた「もっとも大切な人」とは、まさに彼の妹のようだ。
『妹をこれほどまでに惜しむなんて。』
エルシスはそう思いながら、ゆっくりと少女の姿を観察した。
先ほどは距離があって人相をはっきりと確認できなかったが、近くで見るとようやくわかった。
少女はまるで銀鈴花のようにどこか清らかでありながらも神秘的な印象を与えていた。
単なる外見を超えて、何か他の人とは違う雰囲気を放っていた。
彼女が着ている白い服は初めて見る種類のもので、あちこちに金糸で太陽の模様が刺繍されており、聖女のために特別に用意された服のようだった。
特に最も印象的だったのは、彼女の瞳だった。
彼女の青い瞳は、雲ひとつない秋の空のように澄んでいて清らかだった。
そしてその瞳が自分に向けられた瞬間、エルシスは理由もわからず息を呑んだ。
彼女――アイシャもまた、息をのんだように彼を見つめた。
それは、エルシスも同じだった。
正体不明の緊張感に、エルシスは言葉を失っていた。
アイシャは何かを言いたげに、何度か口を開きかけた。
そして、ついに彼女が口を開いたとき、エルシスは思わずその言葉に返事をしそうになった。
「……お兄ちゃん。」
その瞬間、衝撃が走った。
幼い頃に聞いたあの声と、アイシャの声が重なったのはなぜだったのか?
だが、その声には決定的な違いがあった。
アイシャはエルミール語で彼を「お兄ちゃん」と呼んだ。
すると彼女の兄であるイシスが、彼女のもとへと歩み寄った。
イシスが優しく笑っているのが見えた。
「そうだよ、アイシャ。」
「……とても大変でしたか?」
彼女は美しく笑って見えた。
「でも……。」
一見、その笑顔にはどこか切なさも含まれているようだった。
「これで敵国の総司令官を捕らえたのだから、これ以上イデンベルの人々が無謀にエルミールの権威に挑戦することはできないでしょう。」
その時アイシャはじっとエルシスを見つめた。
まるで自分の言葉を理解していると確信しているかのように、彼女は言葉を続けた。
「もしかして、自ら命を絶とうと考えたことはありませんか?」
「……。」
思った以上に突拍子もない質問に、エルシスは言葉を失ってしまった。
アイシャは静かに説明を続けた。
「うちの軍の総司令官があなたを有効活用しようとしてるんですよ。ここであなたに死なれると困るんです。だから一応聞いてみたんです。」
「なるほど。」
エルシスは苦笑を浮かべた。
「そんな考えはないって言っておこう。君の言う通り、俺が利用されているとしても、大事なのは生き延びることじゃないか?」
みじめでも、生き延びなければ意味がない。
エルシスは皮肉気に続けた。
「もし今すぐ死ぬつもりがないなら、この傷を少し治療してもらえないか?このままだと死にそうだ。」
しかし、目の前の少女にはあまり通じていない作戦のようだった。
アイシャは冷たい表情で彼を見ていた。
「運が良かったですね。」
その時、彼女は真剣な顔で言った。
「自殺しようとしたら、どんな手段を使ってでも止めようとしたんです。」
なぜだろうか?
その後ろでイシスが少し困ったような表情を浮かべているのが見えた。
理由は分からないが、イシスが自分を殺さなかったのは、まさにこの少女に会わせるためだったのかもしれない……。
エルシスは複雑な思いにとらわれた。
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その後、エルシスは城の地下牢に閉じ込められた。
通常、いくら敵国の者であっても、王族であればその血筋の貴さから、それなりに丁重に扱われるのが法である。
『戦場に慈悲はないということか。』
エルシスは苦笑した。
もう3日目。
光も何も差し込まない場所で、3日間昼夜の区別もなく閉じ込められていたということだ。
最初はよかった。
エルミールの連中の軽蔑に満ちた視線を浴びながら、白いご飯を食べるよりは、一人でいるほうが楽だと考えていたからだ。
だが問題は、イシスが彼に対して食事はおろか、水さえも満足に与えなかったことだった。
何て言っていたか……「ぬるい水以外は何も与えるな」だったか?
本当に冷酷な総司令官様だった。
そうしてエルシスは、1日1回支給されるぬるい水以外、3日間何も口にできなかった。
止血しかしていない腹部の痛みはどんどんひどくなっていった。
せめて傷口が膿まずに済めばいいが……。
『……ふう。』
エルシスは静かにため息をついた。
喉が渇いたり、腹が減ったり、あるいは体が痛かったり。
そういったことは、どれだけでも我慢できると思っていた。
どうせ長くはもたず、敵軍に処刑されると思っていたから、そんな感覚を味わうことなど、死に比べれば大したことではなかった。
だが、本当に苦しかったのは精神だった。
光の入らない場所で三日間も閉じ込められていると、次第に精神が変になっていくのを感じることができた。
だが、自分の精神力が強い上に、これまで長年にわたって肉体鍛錬を繰り返してきた剣士だったため、どうにか正気を保つことができていた。
もし一般人がこのような仕打ちを受けていたら、確実に精神がおかしくなっていただろう。
『だが。』
エルシスは遠くから聞こえる足音を聞いた。
自分に水を支給しに来る看守の足音だった。
彼は暗闇の中でその看守の姿をうかがった。
『このまま死ぬわけにはいかない……。』
ゆっくりと地下牢の配膳口が開いた。
その隙間から看守の手が差し込まれ、ぬるい水を注ぎ入れた。
エルシスはその器を手放さず、看守の手を素早くつかんだ。
「キャッ!!!」
その予想外の行動に、看守は驚いて水をこぼしてしまった。
だがエルシスは構わなかった。
どうせ飲めたものではないぬるい水だ。
そんなものを自分に送ってきたのは、ただの警告にすぎない。
「司令官はどこにいる?」
「や、放せ!!」
「答えたほうがいいと思うけど?そうしないと死ぬぞ。」
エルシスが看守の手をつかんだ力はものすごかった。
まるで人間ではなく怪物の怪力のようだった。
穴の開いた通気口は、腕がかろうじて通るほどの小ささだったが、それでもエルシスはこのまま看守を殺すことが可能だった。
『まず腕を折って、つながっている首をつかんで……。』
あまりにも簡単に、まるで枝を折るように看守を殺せそうだった。
エルシスのその態度に、看守は自分の状況を把握したようだった。
「助けてください!!!!ここに!!!!囚人が!!!!!!」
エルシスの手を振りほどこうと足掻きながら、地下牢の壁の方へ叫んだ。
エルシスはため息をついた。
誰かが来てこの場を見たら面倒なことになるだろう。
『今すぐにでも殺してしまおうか?』
そう考えた彼がすぐに看守の首を絞めようとしたときだった。
落ち着いた声が聞こえた。
「その手を放しなさい。」
「……!!!」
エルシスはかなり驚いてしまった。
その声が聞き覚えのある人物のものだったからだ。
『いつここに来たんだ?』
看守の呼び声を聞いて来たにしては、その動きがあまりにも素早すぎた。
おそらく彼女は最初から牢を見回るつもりだったのだろう。
『状況は最悪だな。』
エルミールの皇女である彼女がこの光景を見て、ただ黙って通り過ぎるとは思えなかった。
「……アイシャ皇女。」
アイシャはためらいながら言った。
「その手を放してください。」
『……』
すでに聞いてしまった以上、どうしようもなかった。
エルシスは看守の手を放した。
すると、混乱した看守が彼から遠ざかっていくのを感じた。
この地下牢の扉は、下には配膳用の小窓があり、上には看守が囚人を監視できるように穴が開いている構造だ。
アイシャはその穴から彼を覗き込んでいた。
彼女のそばには、いつの間にか淡い光が漂っていた。
どれほど久しぶりに見る光だろうか。
魔法かと思ったが、彼女をじっと見つめたエルシスは自分の考えを撤回した。
彼女のそばで妖精のようなものが自ら光を放っていたからだ。
こんな魔法は見たことがない。
エルシスは好奇心から尋ねた。
「それ、何?」
答えてくれないかもしれないと思ったが、意外にもアイシャは素直に答えた。
「精霊。」
『ああ。』
そういえば、エルミールの皇女が精霊使いであるというのは、すでに大陸全体で有名な話だった。
精霊使いだとは思わず、真剣に考えてもみなかったが、何もかもが錯綜している中で牢屋に閉じ込められていたせいで、頭がうまく回っていなかったのだろう。
エルシスは心の中で自分に呆れていた。
アイシャはそんな彼をずっと見つめていた。
その瞳があまりにも真剣だったため、エルシスは冗談を交えて尋ねた。
「みすぼらしい姿を見に来たのか?」
アイシャが静かに表情をしかめるのが見えた。
「口はまだ達者なんですね。」
「食べ物がないから、口だけはよく休ませてもらったから。」
「まだ気力があるようなので、もう少し飢えても大丈夫そうですね。」
「病人なんだから、少しくらいは食べ物を与えたらどう?」
エルシスは気の毒なふりくらいはしようとしたが、彼女が全く同情していないことに気づいて黙り込んだ。
「脱出を試みたりもしたのに、今さら病人のふりなんかしないでください。」
「ふん。」
「それに、あなた、看守を殺そうとしましたよね?」
すべて正論だったので、エルシスには反論する言葉がなかった。
ただ肩をすくめるしかなかった。
言葉を失った彼は、ゆっくりとエルミールの皇女を観察した。
彼女は見た目にはとても繊細でか弱く見えた。
まるで少しでも力を加えればぽきっと折れてしまいそうなバラの茎のように、彼女を傷つけるのはとても簡単に思えた。
しかし彼女には、妙な雰囲気があった。
折られても引き裂かれても、決して挫けることなく再び立ち上がるような感覚だ。
それはイシスやエルシスが持つ強さとは少し異なる印象だったが、だからといって誰もが持てるようなものではない類のものだった。
底の底まで絶望を経験し、そして再び這い上がってきた者だけが持つことのできるまなざし。
エルシスはそのようなまなざしをほんのわずかに見たことがあった。
そして、普通そのような目を持つ者たちは、この世に何かしら偉大な痕跡を残していく場合がほとんどだった。
『上級精霊術師だと言ってたか?』
まだ十六にも満たない年齢で、そこまで優れた能力を持つことができたのも、もしかするとその強さのおかげかもしれない。
エルシスはそう思った。
ともかく、エルシスは残念に思った。
アイシャが適当に剣を与えて追い出せる程度の十五歳の幼い少女であれば、むしろ追い出すのは簡単だっただろう。
しかし彼女のように強い眼差しを持つ人物は、エルシスでさえ扱いが難しかった。
エルシスは代わりに、アイシャに情報を引き出そうと心を決めた。
「君のお兄さんはどう考えているのかな?」
彼女の兄の話が出ると、確かにアイシャの眼差しが変わった。
「彼はイデンベレを征服するつもりなの?」
「……」
「私も一応は立派な剣士だと自負していたけど、彼の実力は驚くほどだった。次は槍を使う姿も見てみたいな。」
続きがあるとすれば、の話だが。
彼の言葉が可笑しかったのか、それとも返答に困ったのか、アイシャがふいに笑い声をもらすのが見えた。
エルシスは彼女の顔をじっと見つめた。
彼女は彼の前でずっと冷ややかに笑っているだけだった。
「どうするつもりかと聞きました?」
一瞬考えにふけっていたエルシスは、彼女の言葉を遅れて理解した。
アイシャは笑みを浮かべたまま、彼をじっと見つめていた。
「ただ、借りを返すだけです。」
「………」
「ただし……」
彼女は判決を下す女神のように宣言した。
その口元には冷ややかな微笑みが浮かんでいた。
「受けた分の数倍で返すのが、常識でしょう?」
「……そうか。」
いずれにしてもイデンベレは、もはやその名を保つのは難しいだろう。
エルシスは苦笑した。
アイシャは体をひるがえした。
もう行くつもりのようだ。
「再び看守を殺そうとしたり、脱走しようとして騒ぎを起こしたりして私の忍耐力を試さないでください。三度目はありません。」
そう言い残してアイシャは徐々に監獄から離れていった。
ひとり残されたエルシスは呆然とした。
「脱走の試みは今回が初めてだったのに。最初のは何のことだ?」
だが、彼女はなぜ自分に会いに来たのだろう。
来て、特別な話をしたわけでもなかった。
イシスもそうだったが、アイシャというあの皇女も本当に理解できない、とエルシスは思った。









